真・ 恋姫†無双 魏伝異聞『鄧艾』ノ章   作:雪虎

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第四話:天の御使い

「・・・・足らんな」

 

文官側はそこまで逼迫していない。専業は桂花がいるし、俺、秋蘭、栄華、柳琳と兼業で手伝える。問題は武官側だ。戦場で戦う将、と言うなら華琳、俺、春蘭、秋蘭、栄華、華侖、柳琳、迅、尤と過剰なぐらいに戦力が整っている。

 

問題は警邏を行う人材が足りないと言う事だ。

 

どうも兵士たちの間には『前線部隊で戦ってこそ一人前』『警邏部隊は臆病者か引退寸前の老兵がやるもの』と言う風潮があるらしい。

 

しかし日々城内を見回り、些細な変化に気づく『観察力』、地理を把握し賊の追跡・追込の道程を即時に導き出す『判断力』、領民に協力を得られる『交渉力』と実は警邏部隊に求められるモノは多い。それこそ、俺の考えとしては『春蘭もどき』の武力一辺倒よりも『警邏部隊で実績を上げれる人材』の方に重きを置きたいと考えている。

 

そこを邪魔するのが先にあげた警邏部隊を軽視する風潮である。

 

確かに時の英雄が織り成す鮮烈な英雄譚に心惹かれるのは分かる。だが俺にとっては国士無双韓信よりも宰相蕭何の方が何十倍、何百倍もの価値がある。だからこそ、警邏部隊への志願率が低い現状には非常に頭が痛いのだ。何せ警邏部隊への配属を『左遷』扱いされてしまうぐらいだ、無理に警邏部隊に配属すれば士気の低下を招きかねない。

 

だが、何れ領地を拡大した時にこそ。そういう人材が必ず必要になってくる。育成するか、他から引っ張ってくるか、悩みどころである。

 

ーーーーーーーーー

 

「迅、お前これどう思うよ?」

「・・・・・・・・らしいっちゃらしいんすけどねぇ・・・・」

 

夜半に、俺と迅が一通の書簡をはさんで顔を突き合わせていた。

 

少し前に、華琳が所有していた曰くつきの書物が盗まれると言う事件が起きた。『南華老仙の記した書物』との事で、真偽は定かでは無いがそこに記された『術』は使い方一つで国をひっくり返すことも出来るらしい。

 

で、それを盗んだと思われる賊の足取りが掴めたので捕縛のために動く事になった。華琳と俺、迅、桂花の四人と俺と迅の部隊を引き連れて、だ。

 

その準備に追われていると、一通の書簡が届けられる。『司馬懿』の名が記された書簡、その名前には聞き覚えがある。河内の名家司馬家の麒麟児と呼ばれた次女。だがその麒麟児から書簡を送られる覚えは無い、無いのだが・・・・

 

「どう考えても『六夏』の字っすよねぇ・・・・」

 

その筆跡には見覚えがあった。

 

六夏。賊時代の俺たちの参謀、俺が勧誘したかったもう一人の幹部。

 

「『旧交を温めたく筆を取りました、兗と豫の境にてお会い致しましょう』ねぇ・・・・どこまで掴んでんだ、アイツは」

 

兗と豫の境、とは恐らく俺たちがこれから向かおうとしている街を指しているハズだ。これを河内で書き、今俺のところに届くようにした、と言う事はこちらが書物の情報を掴む前に俺たちがそっちに行く、と言う情報を掴んでいたって事だ。恐らくは、当人もとっくに向かってきてるんだろう。

 

「・・・・とっとと準備を済ませるぞ」

「!」

「あのバカにゲンコツの一つもぶつけてやらにゃ俺の気が済まん」

 

生きていたならもっと早く連絡をよこせ、との憤りもあった。だが、それでも生きていたと言う事実が俺にとっては嬉しかった。

 

ーーーーーーーーー

 

「あ、これおかわりでお願いしますねぇー」

 

待ち合わせ場所に着くと、ものすごく見覚えがあるクソガキが甘味処でめっちゃ杏仁豆腐食ってた。

 

「よぅ」

「あ、おひさー」

 

悪びれもせず適当な挨拶で返す、コイツの心臓は鋼か何かでできてるに違いないと思っている。

 

「・・・・ったく、あいも変わらず呑気なツラしやがって」

 

司馬懿、真名を六夏。かつての俺の参謀。特筆すべきは恐ろしいまでの判断の速さ。とにかく見極めてからの行動が早い。僅かにでも不利を感じれば後退、押せると思えば攻撃に全振りと。後から調べたらあの時、俺が無理せず逃げろ、と命令をだし、それが届いた瞬間に包囲の隙を縫うように遁走したようだった。

 

「で、今更に書簡なんぞ送りつけて、何がしたいんだ?」

「んーそうですねぇ・・・・まぁズバリ、私を曹操様に推薦していただけます?」

 

まぁ、そんな事だろうとは思った。思ったが・・・・

 

「『働いたら負け』が口癖だった気がしたんだがな」

 

『働いたら負け』がコイツの口癖。それを口にしながら、面倒事を避け、厄介事を押し付け、極力自分の負担を減らす事が正義と言わんばかりの動きをしてきたコイツが、自ら職を求めると言うのが正直信じられない。思わず、頭を打ったかと心配する程度には。

 

「あー・・・・実はですねぇ、ご存知の通り。あの日遁走して、実家に帰ったんですよ。で・・・・稼業の手伝いを程々にして食っちゃ寝してたんです。そしたらお姉ちゃんに・・・・【妹が一人減るなんて、悲しいわ】・・・・って」

 

顔を青くしながらガタガタと震え始めた六夏。ってか六夏の姉ちゃん、ぶっちゃけ怖ぇよ。司馬朗、と言えば母に失礼な振る舞いをした母の友人を論破して泣かせたって噂もあるし。

 

「まぁ、お前が優秀なのは分かってるし。良い人材はいくらいても良いもんだし」

 

何より、面倒事や厄介事から全力で逃げるためにコイツは徹底的な下準備と根回しを行う。その結果として、業務の最適化とかに繋がったりしていた訳だ。まぁ・・・・時々、サボるための準備に力入れすぎてて差し引き一緒じゃねぇかと思ったが。

 

そしておそらくだが、華琳は六夏を気に入るだろう。

 

ーーーーーーーーー

 

州境まで件の賊を追いかけ、迅と尤、桂花を率いていた華琳が戻ってきたのは夕方近くだった。しかも、おまけ付きで・・・・だ。

 

「拾ったわ」

 

犬か猫じゃねぇんだからよ。と思ったが、それを飲み込んで『拾われてきた少年少女』へと視線を移す。

 

少女の方はかなりやり手の武人だ。年若いが、そんなのは関係無い。少なくとも、それなりに場数を踏んできたであろう。

 

もう一人の少年は、装いからして不思議だった。衣服そのものはこの国でもたまに見る意匠ではあるが、素材が違う。絹でも羊毛でも、ましてやその他俺が知る素材じゃあない。その黒髪も、僅かにだがこの大陸にいる黒髪とは違う。

 

「と、言う訳なんだけど・・・・」

 

そして、二人が連れてこられるまでの経緯を聞いた。

 

意識を失い空から落ちてきた一刀、と名乗る少年。そこに居合わせた少女、徐晃がそれを受け止めた。取り敢えず生存を確認し、旅の仲間とその場を離れた徐晃だったが一刀が心配になり仲間と別れ戻ってきたところ、案の定一刀が賊に襲われてて、賊を蹴散らしていたところに華琳の命令を受けた迅と尤が乱入。

 

賊を追い払ったあと、二人に行くあてが無いと言う事で連れ帰ってきた・・・・と。

 

「約二名は徐晃を見習え」

 

とにかく徐晃、めちゃくちゃ良い娘じゃないか。袖触れ合う程度の知り合いを心配して、ずっと旅をしてきた仲間と別れて戻ってくるとか。本気で見習え、爪の垢を煎じて飲め。

 

「約二名って誰の事ですかねぇー?」

「さぁ?私たちでは無いわね」

 

自分たちではない、と平然と言ってる華琳と六夏、お前らの事だよ。

 

と言うか、思ってた通り華琳と六夏は顔を併せ、少し話をしただけで意気投合した。むしろ俺が思っている以上に、仲が良い。

 

「しかしまぁどうしたもんか・・・・」

 

徐晃はまぁ良い。元々洛陽で騎都尉を勤めていたとの事だ。賄賂と家柄で役職が決まる、と言われている朝廷のお膝元で後ろ盾も財力もなしに官職を得ていたぐらいだから確かな実力があるんだろう。

 

問題は一刀だ。

 

俺たちの知識には無い『日本の東京』が生国。大陸から更に海の向こうらしいのだが、言葉は通じる。しかしこちらの文字は書けず、辛うじて雰囲気で何が書いてあるか分かる程度。そしてどうやら一刀の言葉を信じるなら、彼は遥か先の未来から来た人物らしい。怪しさ満点、疑いかかったものの、俺と華琳にのみ耳打ちされた『魏』と言う国号は俺と華琳の間だけで話しあっていたもの。

 

恐らくは一刀こそが占い師管路の予言した『天の御使い』だ。

 

強力な鬼札であり、また扱いを間違えれば弱点にもなり得る存在。

 

「吼狼」

 

引き入れる『益』と『損』で頭の中で揺らいでいると、いつの間にか背後に来ていた華琳が俺の肩を叩く。

 

「私は一刀を受け入れると決めたわ。『天の御使い』の肩書きは別として、異国出身の違う目線と価値観は使い方一つで大きな利益を生むわ」

「・・・・・・・・成る程」

 

『天の御使い』の肩書きに囚われれば色々と面倒事ばかり浮かぶが、それ以外に眼を向ければ確かに悪い事ばかりでもない。どこまで再現出来るかはこれからにかかってくるが、色々と技術的に他よりも先を行ける事になってくると思う。ただまぁ・・・・正直、荒事には期待出来そうにない分、適正を厳密に見てやる必要はあるかも知れんが・・・・

 

「北郷一刀、俺ら曹操軍はお前を招き入れる事にした。色々と慣れん事もあるだろうが・・・・まぁ、おいおい慣れていけば良い。陳留の男性陣は俺ら三人しかいないから困った事があれば俺か、満寵、牛金の誰かに遠慮なく頼れ」

「ありがとう・・・・・えぇっと・・・・」

 

握手を求めようとした一刀が言い淀む。あぁ・・・・徐晃の仲間と『真名』の件で揉めたらしいし、周りの連中が俺の真名しか呼んでないからな。

 

「鄧艾、真名は吼狼だ。よろしく頼む」

「良い・・・・のか?」

 

いきなり真名を呼んでも、って事だろう。

 

「構わん」

 

いきなり異国の、しかも自分の住んでいた頃より過去に来て。表にこそ出さないが不安だらけのハズだ。それでも気丈に振る舞う一刀には好感が持てる。いや、出会ったばかりだが俺は一刀を気に入っている。少しでも不安を和らげ、少しでも周りに馴染み始める一助となるなら真名ぐらい躊躇う必要も無い。

 

「じゃあ・・・・よろしく、吼狼」

「あぁ、よろしく一刀」

 

ーーーーーーーーー

 

魏史に曰く、『雷光』と『天の御使い』。

 

後に魏国の『両翼』と称される二人の出会いは、歴史の転換点だったと記されている。

 

『魏』と言う国は、覇王『曹操』と『両翼』、何れが欠けても成らなかっただろうと。




第四話でした。

想像以上に難産だったのと、この暑さで考えが全くまとまらず長々とお待たせして申し訳ありませんでした。

天の御使い(魏の種馬)一刀くんと前作に引き続いて司馬懿:六夏の登場でした。

できれば次はお盆前ぐらいには投稿したいと思います。


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