白黒姉妹に灰被り姉さん   作:にわとり肉

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 ここしばらく投稿の間隔が安定しなさそうです。


勝利の方程式 その3

 綿菓子のような積雲が空を泳ぐ晴れ模様の下、兵庫は宝塚市に位置するレース場――阪神レース場のパドックには、見渡すばかり人の群れができていた。

 昼の腹拵えを済ませた民衆が、残暑で蒸し返っている中待ち構えるは、これからのトゥインクル・シリーズを担う期待の新星達。

 ある意味で、G1レースのような熱意の籠った視線に見守られ、青いウマ娘達は赤い垂れ幕の向こうから姿を現す。

 

 ____続いて登場するのはこのウマ娘っ!

 

 アナウンスが煽り立てる中、また一人、垂れ幕を潜って、一人のウマ娘が白日の下に自らを晒す。

 堂々とステージのど真ん中に立ったウマ娘は、金色の瞳にグッと力を込め、マントのように付けていた赤いジャージに手をかける。

 

 ____3枠4番、ビワハヤヒデっ!!!

 

 そして、仰々しく投げ飛ばす。翻って舞うジャージの影で、白茶の癖毛を豊かに伸ばし、体操着で身を包んだ彼女――ビワハヤヒデは、口を真一文字に結び、四方八方から殺到する衆目へ、鋭く堅い視線を返した。

 

 「この中じゃ唯一入学した年にデビューか、珍しい…… 随分強気じゃないか」

 「驕りなのか本物なのか、気になるな……」

 

 観客達の好き勝手な品評に耳を傾けている中、ふと彼女は視線を滑らすと、身は動かさず、耳だけがピクリと立ち上がり、目の鋭さも消えた。

 そんな彼女の視線の先で、人々に埋もれて立っていたのは、彼女のようなひどい癖毛の銀髪を後ろで一本にしてまとめ、お揃いの赤縁メガネをかけた痩せた女。ビワハヤヒデのトレーナー――三河屋(みかわや) あぶみその人であった。

 

 「……ふふっ」

 

 その瞬間、ビワハヤヒデは不敵に、その実、呆れたように笑うのであった。

 何故なら、遠目で見てもわかるほど、あぶみの表情は傲慢にも緊張感が削がれていたからである。

 

 (……)

 

 ____また、数多の熱い視線を受けるビワハヤヒデへ、氷水を頭からかけてやるような視線を向けている者もいた。

 明るい赤銅の髪をボブカットにし、糸目で白い毛束の如き後ろ姿を眺めていたウマ娘――ピローブロックも、その内の一人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……」

 「オイ、なんだその珍しいものを見るような目は」

 

 パドックでの披露が終わり、いよいよレース直前というところである。レース場の観客席へ続く通路のど真ん中で、赤縁メガネがずれ落ちていることにも気づかない程、あぶみは目をかっ開いて驚いていた。

 そんな視線を不愉快そうにして受けているのは、()の面影を感じるうねった前髪とは対照的に、艶やかな黒い直毛を、荒縄状の紐であぶみのようにまとめ、鼻にテープを貼り付けた、黒い半袖シャツで手持ち無沙汰のウマ娘。

 

 「……寂しくなっちゃった?」

 「……はぁぁぁ」

 

 生暖かい笑顔を向けてくる愚かな姉貴分に、彼女――ナリタブライアンは、心底疲れ切った真顔で返した。

 

 

 

 ____週末の時分、親子連れに友人御一行、一人悲しく、と多種多様な観客でごった返し、逃げ場のない蒸し暑さに包まれた正面スタンドへ赴いた二人は、濁流が如き群衆を掻き分け、やっとの思いで、一番前の手すりに寄りかかるのだった。

 

 「ビワは知ってるの?」

 「さぁな……」

 

 気づいて欲しかったのか。とは言わぬが賢明であろう。たまたまあぶみを先に見つけてしまったのが、実の妹の運の尽きだったことは明白である。

 無意識に眉間に皺を寄せていた彼女を横目にしていたあぶみは、観客席から逃げるようにそよぐ芝へ視線を落とす。

 

 「親御さんは? 久しぶりに挨拶____」

 「一人できた。今日は行けないって言ってたからな」

 「えっ」

 

 ギョッとして振り返るあぶみへ、ナリタブライアンは目もくれず、

 

 「え、お前がここ来たこと……」

 「LANEは送ったぞ、さっき」

 「いや、え、帰りはどうするの」

 「アンタならどうにかできるだろ」

 

 と、まるでさも当然かのように言うのである。しかし、それもこれも、ある意味ではすべてあぶみの自業自得とも言えるものであり、しかも、彼女にとっては末の妹分が頼ってきているのだから、怒るという選択肢すら湧かないのが彼女である。

 うねった頭をかきながら、彼女は困ったように笑う。

 

 「仕方ないなぁ…… 全く寂しがりなやつだな! こいつめぇ〜」

 

 ぬっと伸びてきたあぶみの手が、ブスッとしたナリタブライアンの頭をワシワシと撫でる。しかし、表情こそ変わらないものの、彼女の耳は横に倒れ、骨ばった手を受け入れていた。

 

 「……姉貴の初戦は、この目で直接見ておきたかっただけだ」

 

 それもまた、彼女の本心であった。

 

 「ところで、祝勝会はやるんだろ?」

 「そりゃまあ……」

 「私は肉をたくさん食いたいぞ」

 「……」

 

 じっと見つめてくる末の妹分の期待の目を見て、あぶみは瞬きを禁じ得なかった。




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