白黒姉妹に灰被り姉さん   作:にわとり肉

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怪物の鼓動 その1

 初めてのウイニングライブを、初々しくも堂々とやり遂げ、初めての公式レースを終えたビワハヤヒデ、そしてあぶみは、突然の来訪者たる末の妹――ナリタブライアンを加えた3人で、兵庫県の名産を楽しんだのち、帰路の途についたのであった。ちなみに、早めの夕食の場所を決めたのはナリタブライアンで、そこで二人の姉に世話を焼かれ続けてご満悦だったのも彼女だったりする。

 

 次の日には、校内新聞の見出しにビワハヤヒデ勝利と大きく、そして、あぶみと彼女が、まるで姉妹かのように抱き合っている様子も載り、ビワハヤヒデが友人からいじられ、周囲から生暖かい視線を送られる原因となった。

 ナリタブライアンというと、新幹線で六時間、飛行機の利用を考えるほどの距離がある阪神レース場への無断外出、帰宅の際あぶみが付き添いをしたこと、その際に寝顔を実の姉に晒されたこと、両親から烈火の如く叱られたことにより凹むことになる。

 

 新バ戦から程なく、あぶみとビワハヤヒデは次のレースを定める。10月の終わり頃に京都レース場で開催されるOP(オープン・クラス)、“もみじS(ステークス)”である。

 

 『メイクデビューでは予定にない全力を出してしまった。GIを前に、経験も慣らしも必要だろうさ』

 

 ビワハヤヒデの本命は、12月開催の、ジュニア級では数少ないGIレース――朝日杯FS(フューチュリティステークス)。彼女の言い分は正当ではあるのだが、気にしないよりマシとはいえ、あぶみはそこに新バ戦での出来事のコンプレックスが強く現れているのが気がかりであった。

 ともあれ、いざもみじSが始まると、新バ戦と同様に、掻き集めた出走ウマ娘の情報や当日のコンディションを鑑みた高度な式を展開。新バ戦からのフィードバックも相まって、ビワハヤヒデは乱れなくレースを進め、レコード勝ちという形で終わることになる。

 不安が杞憂であり、そのコンプレックスが良い方向に作用したのだ、とあぶみは半信半疑しつつも、彼女達の10月は終わる____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ____ことはなく、トレセン学園全体が一層にぎやかになるイベントが、10月末には待ち構えているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ____“聖蹄祭”

 

 春と秋の2回、トレセン学園の生徒達が企画運営して開催される、応援してくれる一般客への感謝を込めたお祭り、俗にいう“ファン感謝祭”である。春の催し物はスポーツ系に、秋は文化系に特化しており、祭りに訪れた客が参加できるイベントも数多く、当日、生徒達の手により華やかに飾り付けられたトレセン学園は、いつも以上に笑顔と暖かさに包まれる。

 

 「で、大人は警備に駆り出されるんでしょ? 選ばれちゃった役員は」

 「ぼやくなあぶみ、これもトレーナーの仕事と思ってしっかりやれ」

 「二年連続で貧乏くじなら言いたくなりますよ」

 

 一方、赤色に黄色と、美しく紅葉した並木の道を行く、いつものよれたシャツに“警備中”との腕章を巻いた、灰を被ったような髪色の女性――三河屋(みかわや) あぶみは、同じように腕章を巻いた隣のがたいの良い男――彼女の先輩に嗜められても、スラックスの両のポケットに手を突っ込んで、いじけたように顔を突き出しているのであった。

 

 「大体不審者なんていた試しがないでしょ…… それに不審者云々の判断は本職に頼んだ方がいいと思いません? なんでこういうところで予算ケチりますかね、私らはなんだかんだ素人なんですよぉ?____」

 

 普段なら咥えたままのココアシガレットをバリバリ噛み砕きながら、何本も皺のよった額を揉み、尚全く止まる気配のないあぶみのぼやきに、隣の先輩は肩身の狭い思いをして頭を掻くことしかできない。

 

 (お前は妹分のとこへいきたいだけだろ……)

 

 そう彼もぼやきたくなったが、そうなれば、自身の教え子はさらに面倒な反応をすることを知っているので、澄んだ青空にため息をつくことで溜飲を下げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いらっしゃいませー!!」

 「蹄鉄クッキー!! 如何ですかー!!」

 

 中央玄関前の噴水を囲むようにしてある広場は、特に多くの出店が待ち構え、賑わい方は尋常ではなかった。

 

 「よぉぉし!!! ターボについてこぉぉい!!!」

 「わぁぁい!!」

 

 ちびっ子探()隊とやけに達筆に描かれた看板を持って、幼いウマ娘や人の子供達を連れ、青い髪をシュシュでツインテールにしたウマ娘が、三女神像が見下ろす広場を駆け抜けていく。

 その風圧を顔に受け、前髪と口に加えた草が靡き、驚いたように目を閉じた、紫と黒で構成されたパーカーを羽織ったウマ娘――ナリタブライアンは、子供達の後塵を拝し、すぐにつまらなさそうにして時計を眺めていた。

 その時である。人の流れの中で立ち止まっていた彼女の横に立ち止まる、同じぐらいの身長の影。

 

 「オイアンタ!」

 「……」

 「うぉい!」

 「……」

 「……耳ついてんのかっ」

 「んひいっ」

 

 口に咥えた草を落として背筋をなぞられたようなくすぐったさに上擦った声を漏らし、尻尾と背筋を立てて目を見開いたナリタブライアンは、目の前に陣取った少女に白黒した目を向けた。

 ナリタブライアンの耳をグニグニ握った、浅黒い肌の少女は、呆れたように眉をハの字にし、八重歯が覗く口から大きくため息を吐く。

 

 「せっかくのお祭りで何辛気臭い顔してんだよっ!」

 「こっちの勝手だろ、あとどけ!!」

 

 目の前の少女を押し除けるように立ち上がったナリタブライアンは、元気いっぱいに仁王立ちしている少女に思い切り凄む。地元の不良達であれば、震え上がって立ちすくんでしまうような形相である。

 しかし、少女は全く怯む気配を見せずに構えていた。

 口元に手をやり、草を落としてしまったことを察したナリタブライアンは、睨みを効かせていたのを解いて、耳を垂れさせる。

 

 「私は…… 今日は()()()()()()()()。それ以外興味は____」

 

 そう言い、ナリタブライアンが少女を追い払おうとすると、

 

 「へぇ、()()()()、ね」

 

 その瞬間、少女の纏う雰囲気がピリついた。

 

 「小学6年生のウマ娘だけが参加できる模擬レースに出るんだろ? つまり……アンタも、この――ヒシアマゾン様のライバルってわけだ」

 

 少女――ヒシアマゾンの朱色に煌めく瞳に燃える炎を、金色の瞳が捉える。

 それは、これから始まる勝負の始まりを告げているようであった。




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