白黒姉妹に灰被り姉さん   作:にわとり肉

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怪物の鼓動 その2

 「それにしてもまだ時間はあるんだからさっ!」

 

 馴れ馴れしいやつ。ナリタブライアンは、自分の手を引いていく目の前の少女――ヒシアマゾンにそんな印象を抱いていた。足取り軽く、人の壁を掻き分けていく彼女の手は、歳の割に大きく感じられた。

 周囲に漂う、焼きそばか何かの香ばしい香りに、目の前の少女からの香る香水混じりの匂いが鼻をくすぐる。紺色の長髪から跳ねた房が一歩進むごとに揺れるのをぼうっと眺めていたナリタブライアンに、ヒシアマゾンは話題を振る。

 

 「そういえば、アンタ名前は?」

 「……ナリタブライアン」

 「ふーん。親は一緒じゃないんだな」

 「それはアンタも同じだろ」

 「アタシはお母さんもお父さんもOKしてくれたから良いんだよっ」

 

 ……私もそんなところだ。と、ナリタブライアンは少し耳を揺らして返答する。なにしろ、ひと月前の一人旅のことで、彼女の短い人生史上でも5本の指に入るほどこってり絞られたのが相まって、学園内での自由行動を勝ち取るのに骨が折れたのである。

 それでいて、結局一人でぼうっと待ちぼうけしているだけなのだから、ナリタブライアンという少女の気質が知れるところだろう。

 だからこそ、ヒシアマゾンは彼女の目の前で足を止めたのかもしれないが。

 

 「んなぁー、あと一時間は暇潰さないと…… あ、あの射的なんてどうだい!」

 「……ん」

 

 曖昧な返事を良しと受け取ったヒシアマゾンは、嬉々として、ナリタブライアンの手をしっかり握って、お面やら手製のぬいぐるみやらが並べられた射的の屋台へ足を進める。

 その姿に、ナリタブライアンは激しい既視感を覚えていた。

 

 「なに取ろうかねえ…… ブライアンは____」

 「なぁアンタ。なんでそう私に構う」

 

 いらっしゃいませー!! と明るく出迎えた店番のウマ娘をよそに、ナリタブライアンとヒシアマゾンは向かい合う。

 突然投げかけられた疑問に、褐色の肌をした彼女は不思議そうに首を傾げ、

 

 「変なこと聞くねえアンタ。()()に構うのは普通だろ」

 「会って数分だぞ」

 「嫌かい?」

 

 少し不安そうに耳を前に傾け、見据えてくる気丈な朱色の瞳に、ナリタブライアンは思わず顔を逸らす。

 しかし、それは居心地が悪いとか、まさしく嫌だからとか、そういうわけでないのは明白である。それは、彼女の横に倒れた耳が示していた。

 

 「いや……まぁ。悪くない」

 

 絞り出すように出されたその言葉に、ヒシアマゾンは、上空で大地を見守る太陽のように笑顔を咲かせる。

 

 「じゃあアタシら友達なっ! お姉さんこれやる…… お姉さん?」

 「いや、ちょっと眩しかったの。眩しすぎたのよ」

 

 その様子を間近で見せられていた店番のウマ娘は、両手で目を押さえて小刻みに震えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「玄関付近でお母さんとはぐれて、しゃあないから一人で探検しようと? それもまた良しと? そりゃお嬢さん、随分前向きに考えるじゃないの」

 

 一方その頃。先輩のトレーナーと別れて見回りを続けていたあぶみは、校舎内のとある一角にて、一人のウマ娘と行動を共にしているのであった。行き先は正面玄関前の広場である。

 少女と出会ったのは、見回り役に押し付けられた腹いせに、どうせあそこだろうと旧理科準備室へ赴き、話し相手(アグネスタキオン)を引っ張り出してやろうとしていた矢先のことであった。人気の少ない場所を一人で歩いていたのだから、大人として声をかけないわけにはいかなかったのである。

 スラックスのポケットからココアシガレットの箱を取り出しながら、疲れた瞳を少女へ見下ろしたあぶみの口は回り続ける。

 

 「でもねえ、お母さん心配してるよ? きっと。お姉さん、そうなっちゃった時はまず迷子センターに行った方が…… あ、食べる?」

 「ありがとうございます!」

 

 栃栗毛の髪色で、前髪の隙間からおでこを覗かせる、桃の模様が入った瞳をあぶみへ向けた少女は、あぶみが差し出した一本のココアシガレットを受け取り、口へ放り込んだ。

 

 「……私はもう小学五年生なんです。そんなに心配することないんじゃないんですか?」

 「するよ〜するする。母親ってのはそういう生物なんだから、せめて許可もらってからにしなさいな…… えーと」

 「ローレル。――サクラローレルです」

 

 元気いっぱいに、しかし、どこか儚げに、少女――サクラローレルは、黒いあぶみの瞳に目を合わせて笑った。

 ぽりぽりと銀髪の下を掻いたあぶみは、

 

 「ま、一先ずはぐれたっていう玄関付近を探そうや。多分もどってきてるろうしなあ」

 

 そう言い、寂しい廊下の角を曲がると、途端に大勢の人の活気で溢れる、生徒の教室を利用したテキ屋の集う棟へ出る。

 自分の肩より少し頭の線が出ているぐらいのサクラローレルを見下ろした彼女は、徐に手を差し出し、

 

 「お手手繋ぐ?」

 

 サクラローレルは、時期ハズレの桜の花が咲き誇るかのように笑みを浮かべ、

 

 「はい! お願いします!」

 

 あぶみの細い指の手に、健康的に肉のついた手を乗せる。そして、あぶみの大人の手に包まれた手を引かれ、彼女は人混みの中に分け入っていく。

 意外と子供っぽいのね、と、あぶみは口を滑らせようとしたが、彼女はすんでのところで口を噤めたのだった。




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