静まり返った会場が、ふと思い出したかのように騒然となった。
はち切れんばかりの歓声が、ターフの上を駆け抜けたウマ娘達へ惜しみなく届けられていく。しかし、幼いウマ娘達のほとんどは、1000mという距離ですら長く、肩で息をしたりターフに膝と手をついたり、全身で疲労困憊を表していた。
芝の上にまともに立っていられたのは、ただ二人。ナリタブライアンとヒシアマゾンだけであった。
「ぜぇ、ぜぇ……」
褐色の頬から顎に溜まった汗を拭い、悔しそうに歯を食いしばっている少女――ヒシアマゾンの目の前に立っているのは、観客席の方へ目を向け、艶やかな黒髪を、橙と白の荒縄状の髪留めでひとまとめにした、
____レースの最終局面。10人のウマ娘の集団を率いていたのは、ヒシアマゾンであった。
ナリタブライアンは、ヒシアマゾン一人に置いて行かれている後方集団の中団、六番目付近に潜んでいた。
この勝負もらった。
子供らしい自尊心と傲慢。しかし、一切手は抜かずに、ヒシアマゾンが残り400mのハロン棒を抜き去った時であった。
ヒシアマゾンは、怪物の足音を聴いた。
右頬に強烈な風圧を覚えたと思えば、彼女はあっという間にヒシアマゾンを置いて、先へ駆け抜けていったのである。
____足が震え、芝ががさりと揺れた。その音と同時に、目の前の怪物の耳が動いた。そして、ぐるりと全身を振り向かせ、怪物――ナリタブライアンとヒシアマゾンは相対した。
「……!」
愕然とした表情を隠さなかったのは、ヒシアマゾンであった。
何故ならば、なまじナリタブライアンの琥珀色の瞳の奥底を見透かしてしまったからである。
そんな、失望して諦められたような目で見られたことは、彼女の人生の中で初めての経験だったからである。
放心して立ち尽くしていたヒシアマゾンの隣を、息一つ乱していないナリタブライアンが歩いて行く。
その瞬間、ヒシアマゾンの心は激情の名の下に帰ってくるのであった。
(手を抜いていたっていうのか……!?)
言いがかりかもしれないという気はしなかった。ヒシアマゾンは人を見る目は人並み以上にあると自覚していた。だからこそ、それを自覚した時、憤り、疲れた全身に力が籠っていくのは言うまでもなかった。
しかし、みしみし音が経つほど手を握りしめ、奥歯が軋むほど噛み締めて、彼女はナリタブライアンを追いかけなかった。
弱者は敗け方すら選ばせてもらえない。
それが分からないほど、彼女は幼くなかったからである。
(……今はそうしていなよ。でも、でも……! 次にアンタに勝つのはアタシだ……!!!)
「タイマンで、勝つ……!!」
このレースが、一人の少女の運命を決定づけたのはいうまでもない____
そして、それはヒシアマゾンだけではなかった。
「……」
桃の花弁で彩られた少女の瞳にとって、ナリタブライアンの姿は眩し過ぎた。
少女の目が焼き焦がされるのは無理もなかった。
「ナリタ、ブライアン……」
少女――サクラローレルの心を掴んで離さない衝撃。頬を上気させ、まるで
強く憧れた。しかし、それで終わらないのがウマ娘の性だろう。
「私も……」
一緒に走りたい。
胸に手を当てると、彼女は自分がときめいているのを思い知った。
一話が複数に分かれてる奴、まとめて欲しい?
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して欲しい
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どっちでも
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して欲しくない