茜色に染まり、筋雲が暗くなった夕暮れの下、灯りがついた練習用コースの、先程のレースの足跡が残る芝の上、そのスタート地点に、二人のウマ娘が姿を現していた。
「お前の妹分、随分胆っ玉が強いのな」
それを、肩を並べ、外ラチ沿いの観客席の手摺に肘を乗せ、見つめる大人が二人。そのうち一人である、警備中と書かれた腕章をポケットに詰めた男――シンボリルドルフのトレーナーは、隣で腕章を手慰みにしている痩せた女性に目を向ける。
すると、女性――あぶみの赤い眼鏡越しの金色の瞳が、彼の瞳に映った。
「そりゃ、ナリタブライアンですし」
「……成程ね」
一見要領を得ない返答。しかし、彼にはその意味が手に取るようにわかった。
何故ならば、彼の担当しているウマ娘はシンボリルドルフだからである。
ふふと笑い合い、再び芝へ目を移したかと思えば、後ろでひとまとめにしている灰を被ったような色の癖っ毛の髪を揺らしたあぶみは、さらに隣を向いた。
そこに、夕日に照らされて佇んでいたのは二人のウマ娘――サクラローレルとヒシアマゾンであった。彼女達の熱い視線もまた、芝の方へ釘付けであった。
時間は大丈夫だとか、親が心配するとか、そういう言葉は今この場において無粋。それをわからないあぶみでは無かった。
____そして。微かな足音が近づいてくるのを誰もが感じた。
「わっ、あ、アンタは……」
「初めまして。確かヒシアマゾン、だったかな?」
ふと、ヒシアマゾンの動揺の声の後、聞こえてきたのは、馴染み深い理性的な声。
「早くこっちに来ればよかったのに」
何気ないあぶみの言葉。それに、王冠のような耳飾りを片耳につけた、わたのようにふわふわと重い白髪をおろした彼女――ビワハヤヒデは、口をつぐんで前を向くだけだった。
彼女が先程のレースを観ていない訳がない。そんな確信があぶみにはあった。
とするなら、実の妹が今、どんな心境で皇帝に相対しているのか。それをわからないビワハヤヒデではない筈。
ビワハヤヒデの横顔は、豊かな毛髪に阻まれて見ることができない。
(……なんだかなあ)
ため息を吐き、ポケットを弄ってココアシガレットの箱を取り出したあぶみは、箱の異様な軽さに気付き、再三ため息を吐いた。
◇◇◇
「ふふ…… こうして走るのは久しぶりでね、愉快適悦。心が躍るよ、ナリタブライアン」
屈伸、伸脚、と、ゆったり準備体操に勤しみながら、薄く微笑んで話しかけてくる、上下ともにジャージに着替えたシンボリルドルフに対し、ナリタブライアンは不遜にも鼻を鳴らした。
「ごちゃごちゃと…… さっさと始めよう」
風に翻って靡く紫と黒のパーカーを内ラチの外へ投げ捨て、半袖のTシャツにスポーツウェアの短いズボン、スパッツと、準備を整えたナリタブライアンは、夕闇に煌めく瞳を、毅然とした紫の瞳に合わせる。
最後に一伸び、と、指を絡めて夕焼け空に伸びをしたシンボリルドルフは、首を左右に振ってコキコキと鳴らし、楽しそうな微笑みをそのままにしていた。
「……ん、そうだな。そうしよう。距離は2000m、と言ったが、本当にそれで良いのかな?」
「アンタが本領を発揮できなきゃ意味がない…… それに、心配は要らない。2000なら
夕陽を背に、影の中に紫めいた金色の煌めきを湛えたナリタブライアン、不遜で傲慢な獣にして若き挑戦者。
◇◇◇
さらさらとゆらめく橙の芝の漣に脚を下ろし、二人のウマ娘が横に並んで、緊張した構えをとった。内側がナリタブライアン、外に構えるはシンボリルドルフである。
「タイミングは君に任せよう」
ボソリとつぶやかれた言葉に、ナリタブライアンの耳がピクリと動く。
自分のタイミング、つまり、自分は好きなタイミングで走り始められるという有利をあっけらかんと渡すシンボリルドルフへの苛立ちか、それとも緊張か。
ともかく、一つ息を吐いた彼女は、開け放たれた前方を睨んで、
「……位置について」
腕をだらりと垂らし、腰を高く上げて上体を下ろし、
「よーい____」
シンボリルドルフは、片腕を前に、片腕を後ろにし、一歩踏み出した姿を固めたような構えで止まり。
そして、一瞬の静寂。
「____スタートッッッ……!!!!!」
一話が複数に分かれてる奴、まとめて欲しい?
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して欲しい
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どっちでも
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して欲しくない