白黒姉妹に灰被り姉さん   作:にわとり肉

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獣を抑えるは皇帝(ケダモノ)の御足

 「何っ……!?!?」

 

 レースが始まった途端、観客席で推移を見守っていた、ビワハヤヒデ、ヒシアマゾン、サクラローレルに動揺が走る。

 

 「……っ!!!」

 

 それは、黒い弾丸のように前方へ飛び出し、西陽に煌めく黒髪で風を突っ切っていくナリタブライアンも同じであった。

 何故なのか。それは単純明快なこと。

 

 ____対戦相手であるシンボリルドルフ。彼女は張り詰めた構えを維持しながら、しかし一切動かず、ナリタブライアンの背中を見送っていたからである。

 

 「何やってんだあの人!?」

 「ハンデでしょ」

 

 憤って手を握りしめ吠えるヒシアマゾンの至極真っ当な疑問に答えたのは、目を細め、身を乗り出して観戦しているあぶみであった。

 

 「ありゃ20バ身か?」

 「ルドルフのやつ……」

 

 何故、真剣勝負の最中にそのような真似を、とざわめく子供達をよそに、あぶみともう一人、シンボリルドルフのトレーナーは平時のように、呆れたような声色で言葉を交わす。

 それは、ビワハヤヒデすら含めた子供達には、特に、()()()()()理解しようにもできない光景であった。

 それが表出したのか、刺すような鋭い視線を横に感じたあぶみは、疲れた顔を子供達へ向けた。

 ____そして。

 

 「そんなに目くじら立てなくても…… あのハンデがあろうと無かろうと、どちらにせよルドルフが勝つだろうし」

 

 (____そこから私に勝とうってか……!!!)

 

 ____ナリタブライアンの口元が歪む。

 

 (なら……!!)

 

 「……」

 

 紫の眼光が鋭くなり、しかし、微笑みを消さないまま、朱に染まったシンボリルドルフのバ体は躍動を始める。

 

 「私はルドルフのトレーナー…… つまりな、隣の大男の下でサブトレーナーをやってたのよ。だからルドルフのことはよく知ってる」

 

 ビワハヤヒデのそれと同じ、アンダーリムの赤い眼鏡のズレを指で正しながら、あぶみはくすんだ金色の目を瞬きする。彼女の目線の先にいるのは、いよいよ猛追を開始したシンボリルドルフである。

 

 「前に左脚をぶっ壊したり、それでドリームレースに転向したり生徒会が忙しかったりと色々あったけども、それにしてもアイツの強さは他と頭ひとつ抜けてるのよ」

 「ま、負けるって確信していながら……」

 

 衝動的に口を開いたサクラローレルであったが、()()を口にしようとした途端に、桃の花弁が美しい瞳に正気を取り戻す。

 

 “なんで止めなかったのか”

 

 それを質問するのは憚られて、口を閉ざしてしまったのである。

 

 (ブライアン……)

 

 みしみしと手摺が軋む。それを起こしているのは、ビワハヤヒデの滑らかな手のひらである。

 彼女の夕焼けに照らされた瞳では、まだ遠くの実の妹の表情を見ることはできないでいる。しかし、何故だかこんな表情をしているという確信があった。

 

 『はぁっ! はぁっ! 待ってよねーちゃーん!!!』

 

 幼い頃に、自分に惜しみなく向けてくれた表情をしているのだという確信。

 今、彼女がそれを向けているのは……

 

 (妬けるな……)

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 (強いんだな…… シンボリルドルフってのは……!!!)

 

 後ろから感じるびりびりとした闘志。そして無邪気な威圧感。それに()()()()()()()()自分自身。

 

 「本当に、強いんだな……!!!」

 

 風となって駆けるナリタブライアンが最終直線に差し掛かった時。シンボリルドルフの影は、彼女から5バ身程に迫ってきていた。迫られていながら、鼻にテープを貼った少女の表情は輝いていた。

 

 “いらないハンデを自ら課したというのなら、それを後悔させてやる”

 

 そんな気概でスピードを上げた道中。その代償で重く麻痺を始めた手脚を懸命に動かし続けるも、後方から迫る重厚な足音は勢いを強める。

 久しく忘れていた刺激。

 

 「はぁっ、ははっ……」

 

 足音がすぐ後ろに聞こえる。受けるプレッシャーも倍増し、疲弊したナリタブライアンの心身に鞭を打たせる。

 

 「……なんだ、ハァ、アンタも楽しんで、いるんじゃないか」

 

 視界の際に、一人分の影が見え隠れし始める。

 

 「あぁ。君とのレースはたのしめ()()だ」

 

 そして、皇帝(ケダモノ)は獣を追い抜かし、先頭を切り拓いていく。

 その時、ナリタブライアンの研ぎ澄まされた聴覚は、たった今自分を抜かした相手の呼吸を捉えていた。

 一部の乱れもない、深く吐き出して吸い上げる理想的な呼吸。

 比べて、彼女の呼吸は浅く速い。

 誰が見ても、ナリタブライアンは限界を迎えている。

 

 (……まだ)

 

 否。まだレースは終わっていない。

 引き離していく鹿毛の髪の毛を諦めるにはまだ早過ぎる。

 レースが終わるまで、ナリタブライアンが諦めることはない。

 

 (まだ、動くだろ……っっ!!!!)

 

 しかし、身体の限界というものはあった。

 ただ、今はそよ風である彼女の心は、間違いなく強者の心に届いていた筈である。

一話が複数に分かれてる奴、まとめて欲しい?

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