フラッシュバッカーを聞いて衝動的に書いたので、いろいろ不備があるかと思いますがご勘弁を
はぁ〜
わたし、喜多郁代は声にならないため息をつきながら、歌詞ノートを見つめた
このノートはひとりちゃんの物だ
ひとりちゃんが書き上げた詩が何ページにも渡って書き連ねられてる
初めの頃は期限が決められた中で必死に頭を悩ませながら書いていたけど、今は時間がある時に書き溜めているみたい
每日コツコツと積み上げていく勤勉さとも生真面目さともいえるひとりちゃんの性質は、彼女の美徳だと思う
本人は気付いていないと思うけど
そんな彼女の大事なノートを、私が持っているのは、リョウ先輩が先日作り上げた新曲の歌詞を読み込む為
「郁代、この歌詞見といて」
そう言って渡されたノートの中の1つの歌の題名に、丸がされていた
題名は
「フラッシュバッカー」
わたしは、この歌を歌い上げなければならない
結束バンドのボーカルとして
でも、今わたしは悩んでる
この歌を、この詩を、わたしはどのように歌えばいいんだろう?
リョウ先輩が作り上げた曲はとても良くて、わたしはデモ音源を聞いたときに胸の奥がジーンと震えたのを覚えている
演奏はわたし達が更に磨き上げる事で、より良くなる事は分かってる
でも、リョウ先輩が仮で歌った曲は、とても良かった
もちろん、ひとりちゃんの歌詞も
今回のデモ音源でリョウ先輩は抑揚を抑え、感情を込めずに歌ってた
それでも綺麗な声は十二分に魅力的で、わたしもこんな風に歌おうと思った
ところが
「郁代、わたしは今回、あえて自分の感覚を入れずに歌った。これは、この曲の正しい歌い方という訳じゃなくて、ただのモデル。この曲は郁代がどう歌うか、抑揚や感情を込める部分も自分で考えて歌ってほしい。郁代が思うなら、わたしの音階も無視して構わない。だから、1から自分で考えてみて」
先輩にこんな事を言われてしまった
別に私だって、いつも先輩におんぶにだっこで歌ってるわけじゃない
先輩の仮歌を元に、試行錯誤して、練習の時に調整して、リョウ先輩や伊知地先輩からアドバイスを貰って、ひとりちゃんに歌詞の意味や書いたときの心情を聞いたりしながら仕上げていた
でも、今回はリョウ先輩から直々に、1から自分で考えるようにと仰せつかってしまった
リョウ先輩としては恐らく、わたしの感性によって歌い上げられる事に意味があると考えているんでしょうね
理由までは推し量れないけど
「喜多ちゃん!」
思惑にはまり込んでいたわたしに優しく元気な声がかけられる
「コーヒー入ったよ。なかなか悩んでるね~」
「ありがとうございます、伊知地先輩」
わたしは温かいコーヒーの入ったマグカップを受け取りながら、お礼を口にした
少しの砂糖とミルクの入ったコーヒーに口を付ける
温かい
実はわたし達が今居るのは慣れ親しんだスターリーじゃないの
地元からそれなりに離れた高原、キャンプ場に来てる
空は晴れ、涼やかな風が吹き、所々に流れる雲が、緑の上に影を落とし流れる
大きめの木を目印にキャンプ道具をまとめて、少し離れた所にテントを2つ設置
伊知地先輩はテントを設営した後、すぐにカセットコンロを使ってお湯を沸かし、全員分のコーヒーを入れていた
全員というのは、もちろん結束バンドメンバー全員の事
ひとりちゃんとリョウ先輩も一緒
わたしが悩んでいるのを見かねたのか、リョウ先輩案でメンバー全員でキャンプに行こうという話になった
先輩からこういう提案がされるのは珍しいわね
少なくとも、普段なら練習中や練習後にアドバイスを貰うくらいが普通なんだけど、今回はわたしが思ったよりも苦戦してたから息抜きも兼ねて、という事なんだと思う
まあ、ひとりちゃんを説得するのに1番苦労したのは言うまでもないけど
わたしは隣でコーヒーをすすりだした伊知地先輩を見る
いつもなら伊知地先輩が率先して場を切り盛りするけど、今回はリョウ先輩の方が張り切っているみたい
ひとりちゃんに薪を持ってこさせて、木を組むと火を着けている
それにしても薪の組み方はアレでいいのかしら?
なんだか小さなキャンプファイヤーが出来上がっているけど
「伊知地先輩、あれ良いんですか?」
「まあ、良いんじゃないかな?火は着いたし。あたしも焚き火のやり方はちゃんと知らないからね〜。それに消えちゃっても、料理が出来る準備はちゃんとして来てるから安心して」
「さすがですね!でも、ちょっと危なくないですか?アレ」
ちょっとづつ火が大きくなってる気がするけど…
あっ、リョウ先輩が厳ついマスクを着けて消化器を用意し始めた
ひとりちゃんは少し離れた所で固まってるわね…
「もー、何してんだか…。さっき「ちゃんと調べた、任せて」ーなんて言ってたクセに」
伊知地先輩は大きなため息を付くと、持っていたカップをわたしに預けて腰を上げた
「こらー!リョウ何やってるの!」
「違ッ!虹夏、これはぼっちが…」
「え…エ!?」
「絶対ウソでしょ…」
パタパタと焚き火に駆け寄った伊知地先輩は、いつものようなやり取りを始める
伊知地先輩が行けば安心ね
わたしはせっかく淹れてもらったコーヒーに口を付けながら、高原の緑に視線を移す
9月に入った高原は都心から離れてる事もあってか少し風が冷たい
わたし達が結束バンドを始めてから、2度目の秋が来ていた