喜多郁代がフラッシュバッカーを歌うまでの物語   作:ハチスナ

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ありがとうございます(平伏)







ひとりちゃんと歩く

焚き火事件は伊知地先輩が向かったことで難なく鎮火した

さすがの対応力ね!

かわりにリョウ先輩は火の元を取り上げられ、膝をついて項垂れていた

 

わたし達がキャンプ場に着いた時、すでにお昼は過ぎていて道具の運搬とテントの設置で、今は午後3時を回っている

お昼は来る途中で簡単に済ませていた

 

外の灯りは持ってきたライトしかないため、暗くなる前に夕飯の準備に取り掛かることになった

 

食事の用意はさすがに伊知地先輩が音頭を取り、わたし達にテキパキと指示を飛ばしている

お夕飯が無くなる事態は避けたいわね…

 

わたしはひとりちゃんと水の運搬を任された

 

テントを設置した所からしばらく離れた場所にキャンプ場の管理事務所があり、その近くに水道とトイレが設置されている

わたしとひとりちゃんは、それぞれ1つづつポリタンクを持ち、水を入れ運び始めた

 

「ひとりちゃん大丈夫?」

 

わたしは後ろをとぼとぼと着いてくるひとりちゃんに声を掛けた

 

「はっ、だ、大丈夫、です…ふっ、ふっ」

 

息も絶え絶えでポリタンクを運ぶひとりちゃん

タンクには最大で20リットル程度水が入る

もちろん満タンでは重すぎるし、そんなには使わないと思ったから減らしてる

わたしは15リットル程度、ひとりちゃんは半分の10リットルにした

普段持つことのないポリタンクは非常に持ちづらい

わたし達は両手で握り手を持ってるけど、紐か何かで担いだほうがよかったかも

 

「休憩しながら帰りましょう?」

 

「は、はいっ!すみません…」

 

「気にしないで、わたしも疲れちゃった」

 

ひとりちゃんはその場にポリタンクを置いて、膝に手を付き息を整え始めた

わたしも少し手が疲れたので、タンクを地面に置き、腕を曲げたり伸ばしたりする

 

「きっ、喜多ちゃん、う、歌の件ですが…。歌いづらい歌詞でスミマセン…」

 

ある程度息を整えたひとりちゃんがいきなり謝ってきた

わたしがまだ歌えない事を気にしてるんだろうけど、ひとりちゃんのせいじゃ決してない

 

「謝らないで、ひとりちゃん。歌えてないのは、わたしが考え過ぎてるせいなんだから。ひとりちゃんの歌詞が悪いわけじゃないわ」

 

「で、でも、今回のは少し抽象的過ぎたかなって、気がしてまして…。そ、それで気持ちを込められないのかと…」

 

抽象的…確かにそう

「フラッシュバッカー」は抽象的な詩

具体性のある描写は少なく、とりとめがないのよね

描写として具体的なのは朝日くらいかしら?

それと「フラッシュバッカー」という造語

これも抽象的な印象に拍車をかけてるかも?

 

「そうね…。抽象的とは、わたしも思ったけど、それが悪いとは思わないわ。だって歌ってそういう物じゃない?なんていうか、思いが言葉っていう形になって、それを音楽で彩るのが歌だと思うし」

 

「…そうですね」

 

「それに抽象的でも書いた人の、ひとりちゃんの想いがこもってる歌詞なら、とっても大事な物だと、わたしは思うの。だからね?中途半端には歌いなくないな、って」

 

「喜多ちゃん…。あ、ありがとうございます、わたしの歌詞をそんなに真剣に受け取ってくれて…。嬉しいです」

 

ひとりちゃんの真っ直ぐなお礼に、わたしは少し照れてしまう

視線を外すように高原の景色に目を向ける

遠くを雲が駆けてゆく

 

「だから、もう少し1人で向き合ってみるわね。リョウ先輩も、わたし自身の歌が聞きたいみたいだし」

 

「そうですか…わ、分かりました。あ、いつでも相談は受け付けていますので、歌詞で分からないことがあったら、き、聞いて下さいね」

 

「ええ!ありがとう、ひとりちゃん!」

 

わたしは笑顔で感謝を伝える

ひとりちゃんもうつむき加減でも微かに微笑んでくれた

 

「そ、そういえば喜多ちゃん」

 

「なぁに?」

 

「写真は撮らなくても、い、いいんですか?ここ、景色も良いですし…」

 

写真かぁ

イソスタ用に撮らないとかしら?

まあ、でも

 

「今はいいんじゃないかしら?後で落ち着いてからね」

 

「?そうですか?なら、いいですけど…」

 

わたしは頷いてから景色に視線を移す

 

なだらかな丘陵

広い草原

青々とした森林

その向こうに山々が連なってる

天気も良いし、深緑が輝くみたいに見える

 

確かに良い景色ね

 

ゆったり休んでいると、風が火照った身体を冷やしてくれる

 

とっ、そろそろ戻らないと

 

「ひとりちゃん、そろそろ行きましょう」

 

「あ、はっ、はい!そうですね。お二人とも待ってるでしょうし」

 

わたし達は再びポリタンクを手に取り歩き出した

 

伊知地先輩がきっと料理の準備もそろそろ終わって待ってるはずだものね!

晩御飯が楽しみだわ!

 

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