キャンプの話なんか書いてますが、出不精なのでキャンプには行った事はありません!
ニワカどころかエアプです!
キャンプ道具一式はリョウ先輩のお家からお借りした
先輩は最初、自分達だけで荷物を運ぶつもりだったらしいのだけど、さすがに運び出した荷物の量に匙を投げたらしい
お父様に相談した所、快く荷物の運搬とわたし達の送迎を引き受けてくれた
仮にわたし達だけで運ぶとしたら、運べない量ではなかったけど、リョウ先輩とひとりちゃんは確実に到着次第へたり込む事になっていたと思う
わたしは多分大丈夫かな?
伊知地先輩はどうだろう?
わたし達のキャンプ予定は二泊三日
夏休みも終って、しばらくしてからの祝日を使っての決行だった
リョウ先輩のお父様も祝日からの三連休で表向きお休みのため手伝って下さった
ただ、お医者様は基本お休みの日も完全なお休みではないらしく、先輩によると無理くり時間を作って下さったらしい
本当にありがとうございます
先輩は不服そうだったけど
今度お礼に伺ったほうがいいかしら?
リョウ先輩のお宅訪問!
これは理由もあるしチャンスでは?
夕食はお肉の串焼きに、ポトフを元にした伊知地先輩オリジナルの野菜スープだった
伊知地先輩が鍋の様子を見ている横で、リョウ先輩がお肉の火加減を見ている
リョウ先輩は今にもヨダレを垂らしそうな顔でお肉を凝視してるけど、伊知地先輩に見張られて摘み食いは我慢してるみたい
焚き火は改めて火を起こしたようで、今回は伊知地先輩がネットを参照しながら適正に火を着けたらしい
焚き火の周りに肉を刺した串が立てられており、更に飯ごうも掛けられてる
すでに良い匂いが漂い、お腹が空くのを急かしてる気がする
水を届けた後わたし達は料理が出来るまでの間休憩を勧められた
わたしは「フラッシュバッカー」のデモ音源を聞きながら歌詞ノートを開いている
ひとりちゃんは持ち込んだギターをテント内で練習中
わたしは途中から、ひとりちゃんの練習音をテントの直ぐ側で聞きながら、「フラッシュバッカー」をどう歌うか考えていた
飯ごうからカタカタと炊き汁が溢れ出す
伊知地先輩は「おっとぉ」と言いながら、リョウ先輩と飯ごうを下ろすと
「二人とも、そろそろご飯だよ〜」
とわたし達に声を掛けた
わたしは練習中のひとりちゃんに声を掛け、一緒に先輩達の元に準備の手伝いに行く
空はまだ明るい
お昼が少し早かったため、お腹は空き始めてる
準備が終わる頃には丁度良い感じかしら
夕食を終え片付けを始める
お料理はもちろんとても美味しかった
伊知地先輩の料理なら間違いないわね!
食器類は水道に皆で持って行き洗い流した
夕食後は、みんなそれぞれにくつろぎはじめた
空は日が沈み夜の帳が降りて、月が登りはじめ、星が少しづつその数を増やしている
リョウ先輩と伊知地先輩は、焚き火の近くで火を見ながら静かに語り合っている
リョウ先輩は既に眠そうだ
うつらうつらとしている、可愛い
今日はやけに朝から張り切っていた為、疲れたのね
ひとりちゃんはまたギターの練習を始めた
人目に付くと緊張してしまうため、テントの中
わたしがギターを聞きたいと言ったので、アンプに繋いで煩くならない程度に音楽を奏でている
わたしは話しかける事もなく、その音色に身を委ねていた
穏やかな時間がしばらく流れ、リョウ先輩の眠気が限界に達した
伊知地先輩に促され、テントに這いずり込むと、服もそのままに寝袋に潜り込み寝息をたてはじめる
「まったくもう、リョウったら煙で髪も煤けてるだろうに、明日キシキシになってても知らないからね〜」
伊知地先輩が愚痴りながらも心配する
わたしはそんな先輩の隣に移動しながら話しかける
「伊知地先輩、まるでお母さんみたいですね」
「誰がお母さんじゃい!あんな大きな娘、産んだ記憶は御座いません!」
わたしは焚き火に当たりながら腰を下ろした
「リョウにはまいるね〜。次の日、何でもないふうに装うけど、わりと後悔してたりするんだよ?朝からテンション下ってたり…」
「先輩らしいですね~。そんなリョウ先輩も可愛いと思います!」
ははっ、と伊知地先輩は乾いた笑いで答える
「そういえばさ、喜多ちゃん、今度の新曲けっこう悩んでるよね?」
おもむろに伊知地先輩が切り出した
「ちょっと意外だったなぁ。喜多ちゃんはもっと、こう…「キターン!」って感じで前のめりに、あっさり歌っちゃうんじゃないかって思ってた」
「なんですか?キターンって…ふふ。そうですねぇ、わたしだって悩むんですよ?悩まずに生きるなんて、おバカさんみたいじゃないですか」
「ごめんごめん。喜多ちゃんだって花の女子高生だもんね〜。悩めるお年頃か」
先輩は頭を掻きながら、あははと笑う
「でも、あんまり考え込み過ぎない方が良いと思うよ?ほら、リョウの事だから、思い付きで言っただけかもしれないしさ」
その言葉にわたしは首を振る
「思い付きではあるかもしれませんけど、たぶんリョウ先輩の中では前からあった考えだと思うんです。以前、ひとりちゃんが作詞で悩んでるときに言われたらしいです。バンドはバラバラの個性が1つになって音を奏でるって」
「へぇ~、リョウがそんな事をねぇ」
「だから、わたしの個性で歌ってほしいんじゃないかって思って。わたしだけの歌い方で。それが結束バンドの曲になるんだと思うんです」
「なるほどねぇ…」
伊知地先輩はわたしの言葉を聞き終えると、少し考えるように焚き火を弄った
「…ありがとね、喜多ちゃん」
いきなりお礼を言われた
今のお悩み相談の何処にお礼を言われるような要素が?
「いきなりなんですか?お礼を言われるような事なんて何も…」
「ううん」
伊知地先輩はゆっくり首を振ると、笑顔を咲かせる
「喜多ちゃんが、そんなに悩んでくれてるのがあたし達の、結束バンドのためって分かったから嬉しくって。だから、ありがとうなんだよ」
「先輩…」
温かい言葉に、わたしは涙腺が緩むのを感じた
「わたしの方こそ、ありがとうございます。一度逃げたわたしを、もう一度受け入れてくれて…」
「もう、まだあの時の事気にしてるの?あの時にも言ったけど、喜多ちゃんが切っ掛けで、あたしはぼっちちゃんと出会えた。そして喜多ちゃんは戻って来てくれた。それだけで十分だよ」
伊知地先輩の言葉は優しく温かい
あの時逃げた事を、わたしは後悔してる
そして一生後悔し続けると思う
わたしにとって結束バンドは代え難いものになった
憧れの人の隣に立ち、優しい人に支えられ、わたし自身も支えたいと思える人に出会えた
特別じゃない「わたし」にとっての特別
それが結束バンド
そして、わたしはその特別なものを一度裏切っている
その後悔は絶対消えない
だから、わたしは結束バンドのフロントマンとして、歌い、立ち続ける
それが贖罪であり、わたしの決意だから