喜多郁代がフラッシュバッカーを歌うまでの物語   作:ハチスナ

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後藤ひとりというキャラクターは書くのが難しいですね






明け方の お と

わたしは翌朝、微かなギターの音で目を覚ました

 

わたしとひとりちゃんは一緒のテントだったんだけど、隣の寝袋は空でひとりちゃん愛用のギターも無い

 

わたしはもそもそとテントから這い出ると、朝の薄明かりの中でロッキングチェアに腰掛けるひとりちゃんが居た

もちろんその手にはギター

アンプも繋げず弦そのままの音を奏でている

 

日が登りきっていない外は冷たく、薄く霧も出ている

そんな場所で厳かに音を奏でているひとりちゃんは、ギターを弾いている事もあり普段の自信無さげな様子は微塵もなく、長く薄い色の髪も相まって神秘的にすら見えた

前髪に隠れがちな目元の綺麗なまつ毛に縁取られた眼は、確かな意志を感じる力強い光を帯びている

 

まるでギターの音色が支配する世界で、音楽の女神が音と戯れてるみたい

思わず息を呑み、しばしその姿に釘付けになる

 

弾いている曲が終わりを迎えた

躊躇するわたしは、意を決して声を掛ける

 

「おはよう、ひとりちゃん」

 

「あっ、お、おはようございます、喜多ちゃん」

 

はたと気付いて振り返るひとりちゃんは、もういつもの雰囲気で、わたしは少し残念に思ってしまう

 

「早いのね、こんな時間から練習?っていうか寒くない?大丈夫?」

 

「あ、大丈夫です。家でも冬は暖房つけずに弾いたりしてるので」

 

「…えっ?」

 

「そ、それに冷たいと感覚が研ぎ澄まされて、普段とは違うパフォーマンスが出来たりするので。今も家では出来ない環境なので、感覚が違って楽しく弾けました」

 

「そ、そうなのね。でも身体が冷えると悪いからブランケット持ってくるわね」

 

「あ、ありがとうございます」

 

わたしはテントに戻ってブランケットを2枚取り出す

 

それにしてもひとりちゃんは突拍子も無い事をよくするけど、予想外の理由で予想外の事をしてる事が多い

わたしがひとりちゃんの考えを理解する事は、どれだけできるのかしら?

 

わたしはブランケットの片方をひとりちゃんの肩に掛けた

あらためて感謝を告げる彼女に笑顔で返す

もう1枚は自分で羽織ると、彼女の隣に椅子を置き座った

 

「そ、それよりすみません。ギターの音で起こしてしまいましたか?」

 

申し訳無さそうにそう言った彼女に

 

「そうね、聞き惚れるくらい綺麗な音で目が覚めたわ。むしろ、ありがとうかしら?」

 

わたしは感謝で返事をする

 

「そう言っていただけると…えへへ」

 

照れながらフニャフニャに笑うひとりちゃん

まったく、さっきまでの凛々しさは何処にいったのかしら?

これはこれで可愛らしいけど

 

「ひとりちゃんは、この時間に家でもギター弾いたりするの?」

 

「あ、いえ。ほとんどしません。ときどき徹夜しちゃって、弾いてることもありますけど」

 

目元に隈を作ってる事があるけど、そういう事なのね…

 

「徹夜は身体に悪いから、気を付けなくちゃダメよ?肌荒れの原因にもなるし、風邪をひきやすくなるって聞いた事もあるし」

 

「あっ、はい。お母さんにも怒られるので、基本やらないです。で、でも、ギターの調子が良かったりして、ついついやっちゃったりするんですよね」

 

へへっ、と笑っておもむろにギターを引くひとりちゃん

 

たぶん、これは治らないわね

身体は大事にしてほしい

すみません。気を付けます。と付け加えるひとりちゃん

 

でも、こうやってギターを無意識に手にする事が、彼女の腕に反映されてるんでしょうね

わたしにはここまでの事は出来ない

 

ひとりちゃんの隣でギターを聞きながら、他愛も無いお喋りする

 

 

 

 

しばらく、時間が経ち日が高くなり始めると霧が晴れていく

朝露を残した草木達も目覚めるように葉を立たせる

 

わたしとひとりちゃんは朝日の暖かさに包まれた

空は白んで、しだいに青を差していく

雲はなく、今日は晴天だわ

 

わたしは「フラッシュバッカー」の歌詞を思い出す

 

朝日が眩しい…

 

この朝日の中でいろんな事を思い出す

フラッシュバックする

 

その思い出は閃光のように一瞬で通り過ぎ、今思い出した事も過去になる

それは一瞬で消える泡のようで…

 

「おはよう、二人とも。早いね〜」

 

わたしの思惑は、そんな声で現実に引き戻された

 

「お、おはようございます」

「おはようございます!」

 

わたし達は伊知地先輩に挨拶を返す

 

「リョウ先輩は、まだですか?」

 

「うん、リョウは朝弱いからね。朝ご飯作ってから起こすよ」

 

「じゃあ先輩、わたしも手伝います」

 

「あ、じゃ、じゃあわたしも…」

 

「ありがとう、2人とも」

 

伊知地先輩の指示で、わたし達は朝食の準備を始めた

 

粛々と準備を進める

 

 

 

 

 

「喜多ちゃん、あと卵焼き焼けたら終わりだから、焼けたら別けといてくれる?あたしリョウ起こしてくるよ」

 

「分かりました」

 

わたしにフライパンを任せると、伊知地先輩はリョウ先輩を起こしにテントに戻った

ひとりちゃんはお湯を沸かした後、食パンを切ってる

 

しばらくすると、先輩が眠気眼で目を擦っているリョウ先輩を引っ張って戻って来た

寝癖がそのままだ

 

「リョウ先輩、おはようございます!」

「あ、おはようございます」

 

「…おはよう…」

 

リョウ先輩はポケポケしたまま伊知地先輩に椅子に座らされる

先に広げてあった折畳式の机には切られた食パン、卵焼き、焼いた厚切りベーコン、インスタントのコンソメスープが置かれる

わたし達もそれぞれ席に着いた

 

「それじゃあ、頂きます」

「「「頂きま〜す」」…ます」

 

早めの朝食は、早朝の澄んだ空気の中で始まった

 

簡単な朝食は、普段とは違う場所のためか結束バンドの皆と一緒のためか、いつもより美味しく感じられた

 

 

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