お風呂回
わたしと伊知地先輩はひとりちゃんとリョウ先輩に断りを入れてから、もう1度浴場に来た
サッと身体を流してから、髪をまとめて露天風呂へ移る
露天風呂は見た目だけは温泉のようにしてるけど、そういう効能とかは無い普通の湯
でも、雰囲気だけでも気分は違う
桶で湯を掛けてから身体を浸ける
はぁ、と思わず吐息が漏れる
さっき入ったばかりだけど、汗を書いた後に入ると疲れが抜けていくみたい
肩に湯を掛けつつ空を見上げる
周りは敷井で囲われて景色も何も無いけど、今日は抜けるような青空が見えるから、それだけでも良い気分
くつろいでいると伊知地先輩が隣に来た
「喜多ちゃん隣いい?」
「もちろん、どうぞ」
先輩は隣で浸かるとふう〜、と息を吐いた
わたしは思わず「ふふ」と笑ってしまう
「どしたの?」
先輩は声を出してしまったわたしを怪訝な目で見る
「すみません。わたしもさっき思わず声が出ちゃって」
ああ〜、と納得する先輩
「気持ちいいと、なんとなく声出ちゃうよね。ちょっと年寄り臭いんだけどさ」
「はい、ホント思わず」
2人で笑う
そういえば、伊知地先輩は髪型を変えると随分雰囲気が変わるのよね
今はお団子状に結い上げてる
普段は長い髪を垂らしているからか、可愛らしさが強い
もともと童顔気味なのと、感情表現が豊富で身体を使ってリアクションをとってくれる小柄な先輩は、失礼かもしれないけど可愛い
それが髪を上げるとスッキリするせいか、年上のお姉さんらしさがグッと強くなる
もちろん先輩なのだから、年上のお姉さんなんだけど
普段朗らかに笑顔の事が多い先輩は、今は少し色っぽい
そう言えば、わたしは少し気になっていた事を、2人きりだし聞いてみることにした
「先輩」
「なぁに〜?」
先輩は目を瞑ってぼんやりしている
「恋人とか作らないんですか?」
「…え?何ホントに…」
先輩は目を開くと、ちょっと眉をひそめて視線を合わせて聞き返してきた
「恋バナは基本です!」
恋バナは女子高生の基本です!
基本を抑えずしてなんとしますか!
わたしはちょっと前のめりになりながら、語気を強める
「それで、どうなんですか?」
「あ〜、前にも言ったような気がするけど、今はバンドの事とかあるから、恋愛は考えられないかなぁ」
「そうですか。でも、先輩告白はされた事ありますよね?」
「え?なんでさ?」
先輩は少し面倒くさそうに聞く
「だって、先輩いつも朗らかで気配りもできて優しいじゃないですか!男子がほっとかないですよね!」
「も〜、そんな褒め殺ししても何も出ないよ〜」
「事実しか言ってません」
え〜、と言いながら照れる先輩
可愛い
「で、どうなんですか?告白された事ありますよね!?」
「…うぅ、言わなきゃ駄目?」
「ダメです。聞きたいです」
唸りながら天を仰ぐ先輩は、溜息を吐くと渋々という感じで口を開いた
湯に浸かってるせいもあるけど、顔は赤い
「…された事は…あるよ…」
やっぱり!
「断ったけど…」
ですよね
今、付き合ってないし
「まあ。さっき言った理由もあるし、仮にお付き合いしても、今は絶対時間取れないから相手にも悪いし」
あー、相手の事を考えて断ってるんだ
自分に使う時間が勿体ないって思ってるのね
わたしとしては、そんな事ないと思うけど
「先輩って本当に優しいですね」
「いや、なんでさ?」
ジト目になる先輩
「そういう喜多ちゃんはどうなの?喜多ちゃんの方こそ、男子ほっとかないでしょ」
「そうですね。確かに告白された事は何回かありますよ?」
「自身満々だよ、この子」
「事実ですし」
うん、これよこれ
恋バナが出来てる
ひとりちゃんやリョウ先輩が居ると、あまりこういう展開にならない
ひとりちゃんはだいたいフリーズしちゃうし、リョウ先輩は面倒そうに流してしまう
それに対して、伊知地先輩はちゃんと女子高生の反応してくれる
本当は4人で恋バナしたいんだけどなぁ
「それで…喜多ちゃんは何で付き合ってないの?断ってるんでしょ?あ、それとも実は彼いるの?」
「いませんよ。みんな断っちゃってますし」
「ふ〜ん。それまた何で?」
「1番はピンと来ないっていうのが大きいですね」
「好みじゃなかったって事?」
「まあ、そうですね。それに友達との時間が大事でしたし、今はバンドも始めて忙しいのもありますし」
「そっかぁ。でも意外かも、喜多ちゃん恋バナ好きだし、1回くらい付き合ってるかと思ってた」
「無いんですよねぇ、本当にピンと来なくて」
「相手からすれば壁は厚いかぁ」
先輩は両腕を伸ばし首を回して身体をほぐす
そう、本当に誰もピンと来なかった
先輩や後輩、それに同級生から「好きです」と言われた
嬉しくなかった、とは言わない
わたしだって思春期の女の子なんだから、戸惑いはあっても嬉しかった
でも、全部断っちゃった
だからって訳じゃないけど、リョウ先輩に始めて会った時に、わたしはドキッとした
ピンと来てしまったから
たぶん、その時に感じた気持ちは、今も変わってないと思う
ただ、それが恋愛的なものかは分からない
それに、今わたしにとって大事な気持ちはリョウ先輩だけじゃなくて、ひとりちゃんや伊知地先輩にも向けられてる
この結束バンドのみんなに
「先輩は、恋愛まったく興味無いんですか?」
「いや、そんな事はないけど…。わたしだって女子高生だし?友達とかにも聞かれたりはするし」
「暇が出来ればしてみたい、と?」
「ま…まぁ、そうかも?でも、今は受験なんかもあるから…」
視線を彷徨わせながら答える先輩
「喜多ちゃんは?結局、恋人は欲しいの?」
「そうですね…」
ちょっと考える
「…いたら素敵かな、とは思いますね」
「…そうなんだ」
「前は…カフェとかショッピングに出かけて、一緒に写真撮ったり、わたしに似合う物選んでもらったり、そういうのも良いなって思ってました」
「今は?」
少しだけ勇気を出す
「…バンドが大事です」
「…そっか」
先輩はそれ以上、何も言わなかった
でも、満足気に微笑んでいた
少しして、わたし達は湯船から上がると脱衣所に向かう
ちょっと長湯し過ぎたかも…