喜多郁代がフラッシュバッカーを歌うまでの物語   作:ハチスナ

8 / 10



予定通り全10話で終わりそうです

やりたかった事の半分は、この話の後半に詰め込みました






朝が眩しい

銭湯を後にしたわたし達は、少し周辺を散策しながらもキャンプ場に戻った 

 

今日も早めに夕食の支度に取り掛かる

今晩のメニューは伊知地先輩特製カレーだ

何回かご馳走になった事があるけど、伊知地家のカレーはとても美味しい

 

わたしは昨日と同じように水の調達をしてきた

今日はひとりちゃんと代わりリョウ先輩が一緒に来てくれたんだけど、昨日のひとりちゃんと同じように途中でバテて1度休憩、のちミッションコンプリート

 

ひとりちゃんは今日は飯ごうを見てる

ひとりちゃんに火の番が出来るか?という疑問はあるけど、伊知地先輩が一緒にいるなら大丈夫でしょう、たぶん、きっと…

 

伊知地先輩は、もちろん今日も料理長だ

 

手早く準備をし、素材の下ごしらえを終え順番に鍋へ入れていく

こちらは焚き火での調理ではなく、カセットコンロでの調理なので慣れたもの

先輩の手順に淀みは無い

 

畳んであった机や椅子を広げ、準備してしばらくのち、カレーは滞りなく完成

 

日の傾き始めた中で夕食は始まり、日が沈みきる前に食べ終わった

伊知地先輩の腕が惜しみ無く振るわれたカレーはとても美味しかった

 

昨日の様に夕食の片付けをさっと済ませ、くつろぎタイム

 

日は沈み、光は今はもう遠くの稜線を縁取るだけ

月が登り、星の瞬きが増えてゆく

一等星から順に輝きは増し、暗い空を彩っていく

 

ひとりちゃんは昨日と同じ様にギター練習を始めた

ただ、昨日とは違いテントの外で

わたしが勧めたんだけど、さすがに皆の横だと緊張するようで、テント前でランタン型ライトの淡い光を頼りに弾いている

わたし達からは少し離れてる位置

わたし達はわたし達で焚き火に当たりながら、他愛も無い話に花を咲かせる

 

「あー、もう明日には帰るんだね〜」

 

「楽しかったですね、キャンプ!」

 

「料理がわりと大変だったけどね」

 

「たいへん美味しゅうございました」

 

「ならばよろしい」

 

「また、作って。虹歌」

 

「リョウはいつも勝手にウチ来るじゃん」

 

「それはそう」

 

「わたしも食べたいです、伊知地先輩!」

 

「喜多ちゃんはいつでもおいで〜。腕を振るうよ!」

 

「わたしとの温度差酷くない?」

 

何でもない会話

笑い声

楽しい時間

 

この出来事も思い出になる

細かい部分を忘れてしまっても、楽しかった気持ちはきっと忘れない

思い出は積み重なって厚くなっていく

楽しい思い出が、その中でたくさん増えてくれたら嬉しい

みんなにも

 

ふと気がつけば、ひとりちゃんがフラッシュバッカーのイントロを弾き始めた

 

昨日もだったけど、ひとりちゃんが練習で弾くは結束バンドの曲が多い

フラッシュバッカーに関しては新曲ということもあり、練習でも数をこなしているのかもしれない

 

ギターの音を聞きながら

雑談をしながら

夜は更けていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと目が覚めた

 

テントの中、隣にはひとりちゃんが寝息をたててる

スマホで時間を確認すると、4時半を過ぎたところ

昨日はみんな早めに横になった

今日は帰り支度もあるし、移動にもそれなりに時間がかかるからという理由で

 

わたしは、いくらなんでも早く起きすぎた、と考えているとトイレに行きたくなってしまった

トイレは管理事務所の近くにあるため、行くまで少し時間がかかる

 

わたしはなるべく音を立てないようにテントを出ると、中を振り返る

ひとりちゃんは寝返りをうち、少し呻く

でも、起きる気配はないわね

昨日も早起きしてたけど、今日ぐらいゆっくり寝てても誰も文句は言わないでしょう

 

わたしは静かに出入り口を閉めると、歩きだした

 

今日は昨日と違い、朝から気温が高い

軽く上着を羽織ってるだけだけど、肌寒さは感じない

 

まだ薄暗い中を1人で歩く

 

楽しかった昨日の事を思い出す

明日からは、またいつもの日常に戻る

学校へ行き、友達とお喋りをして、勉強をして、ひとりちゃんとギタ練をして、バイトに行って、皆とスタ練をして、家に帰ったら両親と今日あったことを話したりして…

いつもの日常へ

 

トイレを済ませ、帰路につく

 

歩いてると、少しづつ薄暗がりが白んでいく

風に流れる暗い雲にも白が混じり、日の出が近い事が分かる

昨日とは違い霧は出てない

きっと、今日も晴れね

 

わたしはふと日の出が見たくなり、そのまま帰らず見晴らしの良い所を探す

 

テントから少し離れた所で、なだらかな斜面から伸びた草原と、その先の林や森を越えて東の山々が見える場所があった

わたしはそこで佇み、朝日が登るのを待つ

 

風が少し強い

髪を無造作に弄ばれながらも、それを受け入れ、されるがままにする

 

しばらくすると山稜から光が漏れ出した

光はゆっくりと山々の輪郭を浮き上がらせていく

空では強い風で雲が千切れ流され、未だ見せない日の光で影を作り、様々な顔を見せている

光は徐々に強くなり、空に青味が増す

 

もうすぐ日の出

 

山稜を縁取る光は、まるで並々と注がれた水面のようで

山々の稜線を光が満たし

 

 

溢れた

 

 

鮮烈な光がわたしの眼を焼き、思わず目を細める

薄暗かった景色は一気に色彩の花を咲かせ、世界が色に満たされる

 

わたしは思わず口ずさんでいた

 

「フラッシュバッカー…フラッシュバッカー…。…いつも、思い出してる」

 

そう、いつも、この日の光が世界を包み、わたしが幸せな眠りから覚める時、思い出している

リョウ先輩の事を、伊知地先輩の事を…

そしてひとりちゃんの事を…

皆と出会った時の事を…

今日はいつ会えるかな、それとも会えないかな

会った時、何を話そう

今日は元気かな

いつも、毎日みんなの事を思い出して、わたしの1日は始まる

 

わたしは急に歌いたい衝動に駆られ、スマホを取り出すとデモ音源を探す

フラッシュバッカーの題が付けられたファイルを選び、スタートを押した

スマホを両手で包み胸に抱く

 

刹那の静寂

 

真っ直ぐ、日の登り始めた山々に視線を向ける

 

序奏が鳴った







次話は大変苦戦しましたが、なんとか書き切りました
添削をちまちましています


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