シーフの孫   作:迷宮の迷子

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龍のいた世界

ケイオスブレイカーは空を進んでいる。

既に陸地を下に見なくなり久しい。

 

中央大陸から西へ進んだ、これが実際の船旅ならばまさに「大航海時代」だろう。

しかし空の旅、しかも要塞を使っての旅だ。

 

乗客も思いの外多い。

ペルギウス、オルステッドは勿論、ルーデウス一家は連絡が取れないジークと、王妃として多忙なクリス以外はほぼ来ている。

ミリスからルーシーやローランドまでもが。

実際クリスも行きたかったらしく、直前までいじけていた。

ようは戦いに行くもの、その家族を連れてきているのだ。

 

僕はアクアを抱っこしながら風景を眺めている。

隣ではセシリアがリリアを同じく抱いて同じく海を眺めていた。

胸にだかれた姉弟は既に飽きて眠っていたが。

 

やがて、目の前に薄い膜のような壁が迫る。

ラプラスは問題ないと先に、進ませた。

中央部を進む無の世界に行くより外殻を迂回するこのルートは危険はない。と。

 

七星とシルフィ、ロキシーはルーシー、ローランド、エリナリーゼとテーブルを囲みお茶をしていた。

今日はスコーンみたいだ。英国風だね。

勿論ペルギウスも同席している。

 

「境界を越えても下は海か、海界を経由しているのだな」

ペルギウスは隣でスコーンを両手に抱えるラプラスに尋ねた。

「六面と言っても、どうも同じ大きさではないようなんだ。これは各民族の生息地からしても予想できる。まあ、確信はないがね。」

 

ラプラスの言い分によると、この六面体は正六面体ではないようだ。確かに周囲は圧倒的に海、天人の住む土地が狭く険しい、そのすぐ隣が魔大陸、ここも地図の北東でしかない。

その南に大森林、それ以外は周囲は海なのだ。

ラブラスはナプキンを折り紙のように畳み僕達に説明してくれる。

フィギュアの手なのに器用だ。

「ここが人のいる世界、この世界に隣接しているのが、天界、魔界、獣界、海界。海と人の世界はこんなに大きい。」

 

ナプキンで歪な立方体が出来上がった。

正六面体というよりは四角錐に近い。

 

「龍界はね、天と地が逆なんだ。だから、この先端になる。そうでないと他の世界の山や荒れ地、森、海が龍界の空に流れ込んでしまう。」

「私達はこの海界を越えて龍界にはいるつもりだ。帰りはご要望があれば森でも荒野でも超えてみるがね。」

 

そうラプラスが話し終わる時にティーカップの紅茶が少し揺れた。隣の世界、海界に入ったようだ。

 

「しばらくは下は海しかない。しかし、どうだい?海はあるじゃないか。海人が住む事ができる海が。」

 

無論前世での放射線物質等で汚染されている可能性はある。

しかし、これが世界の終わりなのか?

ペルギウスはシルヴァリスに高度を少し下げるように命じた。

生物の存在を確認するためだ。

見た所、魚の鱗が光っている。魚はいるらしい。

続いてアルマンフィに捕獲を命じた。

 

アルマンフィは活きた状態での魚を二匹つかまててきた。

洞察のカロワンテに調査を頼んだが、魚には有害な物質が取り込まれてはいないようだ。

 

「つまりは、海人がふたたび戻るか、ここにいる生物が進化すれば、また六面世界は蘇ると?」

 

「その可能性はあるな。」ペルギウスも同意見のようだ。

少なくとも神がいなくとも、この世界は生き延びル事ができる。

 

海界に来て数日、そろそろ次の世界が見えてくるはずだ。

龍界である。

ペルギウスはスケアコートに七星の時を止めるよう命じた‥龍の世界は魔界と並び魔力が高い可能性があるからだ。

 

彼女はむくれたが、何処かで一日だけ、起きて良いと説得した。

やがてケイオスブレーカーは高度を下げたまま次の世界に入り込んでいった。

 

景色が一変した。いや、それ以前にもっと衝撃的な異変を僕達は味わうことになった。

 

地面から空に向かって落ちた。

 

正確にはこの世界は他の世界と重力が逆だった。

空のあるべき場所には山がそびえ立ち、地面のある所には空が広がっている。

ペルギウスは急遽、180度反転した。戦闘機が行う背面飛行である。

 

僕は咄嗟に「念」で周囲の人達を包んだ。セシリア、アクア、リリア共に無事だ。

リリアはびっくりして泣いたが、アクアは喜んでいる。

まあ、遊園地の絶叫系みたいなものだからね。

 

幸い他の人達もペルギウスの機転で怪我はなかった。

ケイオスブレーカーの結界の頂点が高いことも手伝ったのだが、結界、食器類は散々な事になったが、それ以外は問題なかった。

 

だが、これで確定した。龍の世界に龍の民はいないかもしれない。しかし、龍の世界は滅亡してはいなかったのだ。

 

ラプラスは目的地を示した。

「あの先に、龍の研究室があるはずだ。」

 

僕達の目的地の一つがそこにある。

 

「研究室」

かつて、ドーラの指揮の主に転移の研究をした場所。

知識を探求するペルギウスの瞳が輝いている。

 

無論、研究を行っていたのは数万年前だ。

しかも中途でヒトガミの攻撃を受けている。

参考になるものがいくつ残っているのかはわからない。

 

そこにいたと言われる年老いた龍の民の姿もない。

当然だ。この世界は死の世界ではない。

微生物やちいさな生物は生存している。

彼らの骸はそれらの糧となり骨すら残ってはいない。

 

しかし、ラプラスの目的はそれの確認ではなかった。

彼は確信し、更に奥へ進んだ。

ペルギウスとオルステッドを未来に送った祭壇を探していたのだ。

 

そして、それはあった。

祭壇はあたかも僕達が来ることを知っていて待っていたかのように、その形をとどめていた。そして、そこにはいくつかの石板が残っていた。

何故か?はわからない。そこで神玉を使い時間を操作した副作用か?

それとも事前にその書類だけは腐食されないように保護されていたのか。

理由はわからない、しかし確かに石板はそこにあった。

 

「これを使えばヒトガミの所に行けるのか?」

オルステッド様は尋ねた。しかし、ラプラスは黙って首を横にふる。

「まず、これを使うには神玉が必要です。この祭殿でできたのは、オルステッド様を転生させたこと。」

「そして、ペルギウスを未来に送った事」

「後はこの研究所でできていた事、異世界に物質を送り込む事でしょう。」

 

 

ラプラスの言葉から、僕はある事を思いついた。

 

「ラプラス、例えば、僕のいた世界で今から80年くらい前に人を送る事はできるのですか?」

 

ラプラスはしばらく考え、こう答えた。

「不可能ではない」同時に「神玉さえあれば・・・」と

 

 

とりあえず、目的は果たせた。神の死がその世界の喪失ではない事、

これは海界と龍界で証明できた。

不安を述べていたルロイも見ている。少なくとも今回旅をしていたものはヒトガミの言葉を信じることはないだろう。

 

帰り際、ある森に差し掛かった時にラプラスはオルステッド様にこう告げた。

「オルステッド様、もう、どの木がそれかはわかりませんが、ルナリア様を弔った木がこの中にあるかと思います。いや。森そのものが既にルナリア様かもしれません。」

 

オルステッドは黙ってその森を見つめていた。

 

 

シーフの孫はいかがでしたか。

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