シーフの孫   作:迷宮の迷子

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【間話】クリスの戦い

「あぁ、もう、うんざりね。」

フィットア領ではリリア達の誕生日を祝っている頃、

ここ王都アルスで、一人の女性が溜息をついていた。

 

本来の年齢とは誰も思ってはくれない。

齢50を超えてなお「可愛い」が似合う女性、

この話では幾度と名前が出ながらも未だ話の本線には参上していない、

ルーデウスの末娘クリスティーナ・アスラは先程の茶番に辟易していた。

 

ほんの少し時を遡ろう。

国王である夫、エドワードの元にある貴族からの陳情が来た。

陳情者はフランク・エウロス・グレイラット

かのアスラ王国の七騎士、「王の斧槍」と呼ばれたオズワルド・エウロス・グレイラットの息子である。

 

親が優秀であれば子も優秀とは言えない好例であり、暗愚では無いものの、傑出した人物とは言えない、あくまで平凡な男である。

 

陳情内容は「王竜王国の飛び地領地、黒竜騎士団領との国交及び独立の支援」の要請である。

普通に考えれば明らかな内政干渉にあたり、当然王竜王国との関係は悪化する。

しかし彼が治めるウィシル領は竜の下顎を挟んで黒竜騎士団領と接している。交易が盛んな彼の領土にとっては充分に利益が見込める。

 

加えるならば、隣接する領土の軍事力が高いというのはそれだけでストレスになるものである。

 

だが、そのストレッサーが味方になれば?

あわよくば傘下に入ってくれれば。

確かに王竜王国との関係は悪化はするが、防壁として間に一つ勢力が挟まる。

 

彼にとっては一石三鳥の策であった。

 

その一歩として、彼は王妃クリスティーナと黒龍騎士団の重鎮ジークハルト・サラディン・グレイラットが兄妹であることを活用すべきと力説した。

 

王妃にしては迷惑この上ない話である。

 

無論、それがわからぬ国王ではない。

即座に却下したものの何故か彼は引かない。

 

やれ、国民の為だ、地方の活性化だ、あげくには実の父の功績まで持ち出し、せめて一度黒龍騎士団を訪ねてはどうだ。とまくしたてる。

明らかに不敬な行為だが、これでもボレアス家が衰退した今となっては三大貴族の一人である。

 

このままでは時間の無駄、いや埒があかない。

王妃よりでた折衷案は王妃自らが王龍王国首都に赴き王龍王国王夫妻(この国は本当に読みにくい)を訪問、その際に兄と再会の流れである。

 

会見場所を王都にすることで余計は反感は買わないだろう。

あくまで、黒騎士団は王龍王国の一部なのだから。

 

しかし、クリスティーナ二とっては憂鬱なことである。

何故ならジークハルトはここ数年、実母シルフィとも会っていない。

一部ではグレイラット姓を名乗らないケースも多く、既に自分達と袂を分かっている可能性もあるのだ。

 

今回の兄との会談が叶わなければ王妃の面目は潰れる。

別に彼女自身は面目など気にしない。

しかし、彼女は王太子妃時代からの人脈構築の甲斐あって、王国最大の派閥となっている。

それは人数、能力共に抜きん出ておりまさにエドワード国王の後ろ盾となっているのだ。

派閥のトップの失態は、それが他責だとしても多少のダメージが残る。

 

そこからの派閥切り崩し、これも、その派閥から漏れ落ちたブランクの狙いであった。まさに、一石四鳥である。

些か欲張り過ぎな気もしなくはないが。

 

 

おわかりだろうか、

クリスティーナが王妃に君臨しない時代、

毎回リリアがその戦にて捕らえられ殺され、

先の世界では秋人も殺された戦争は、この王竜王国との戦争を指している。

 

しかし、今回は違う。

ルーデウスの末子クリスティーナが外交の要を務められ、

可能性はわからないもののジークハルトが相手国にいる。

 

それを踏まえてヒトガミはもう一つの勢力、「鬼神帝国」で北からアスラ王国を狙う算段であったが、

これはセイジ達が意図せず未然に防いでいる。

 

その為にヒトガミが用意した「使徒」

それがこのフランク・エウロス・グレイラットなのだ。

 

ヒトガミの策は意図する意図しないを含め、

この異世界転生勢力がキーを握っているのだ。

 

その戦地、王竜王国首都にクリスティーナは向かう。

側近にベルを伴って、そして護衛を頼んだのは他でもない、

セイジとセシリアだ。

七大列強六位、護衛としても申し分ない。

加えてセシリアは女性、クリスティーナの近くに置いても差し支えない。

また、二人は「攻めより防御」のタイプ、これまた護衛には申し分ない。

 

セイジとセシリアも以前七騎士入りを断った経緯もある。

また、恩あるルーデウスさんの末娘だ。

こちらから打診したいレベルであった。

 

かくして、転移魔法陣にクリスティーナ以下4名は乗り、王龍王国に到着した。

 

さて、ここ最近の転移魔法陣の普及は目覚ましいものがある。

本当に記述する必要もなくアスラ王国から王竜王国首都に転移してきた。

王家は四人を歓待し、正式な会談は明日とするものの、本日は来賓を招いて晩餐会となる。

 

事件はその時に起きた。

 

遅れてジークハルト・サラディンが登城したのである。

 

 

晩餐会ではそれぞれ守護すべきものの背後につき距離はあったもののセイジとセシリアは絶えず周囲からの「殺気」、いや、「悪意」に晒されていた。

(間違いなく、この中にアスラ王国、もしくは僕達に悪意を持つものがいる。)

『セイジ、この中に、いるね。』

『うん、間違いない、ヒトガミの使徒がいる。』

 

 

 

 

 

翌日、会談自身は非常に和やかに行われた。

本来は非難を受けるような事件は起きていないし、

外交、交易にも問題はない。

特別口角泡を飛ばすような議論もないのだ。

和やかに進んで当然だ。

当然な・・・はずだった。

 

 

「陛下、畏れながら申し上げます。」

王竜王国側で会談の末席を占めていた大臣が発言の許可を求めたのだ。

 

「巷ではアスラ王国が我国の誇る「黒竜騎士団」との接触を試み、独立の支援と国交の自立を目論んでいる。と噂を聞き及んでおります。」

「そのような事はございません。」

「いや、しかし、畏れながらアスラ王国王妃殿下と黒龍騎士団のジークハルト様は異母兄妹ではございませんか。火のないところに煙は立たない。とも申しますし。」

「そのような事実は一切ございません。」

 

どうやらセイジが感じていた悪意はこの大臣近辺から上がってきていたようだ。

しかも、矛先はクリスティーナのみでなく、味方であるジークハルトにも向けられている。

 

更には

「王妃は護衛として、あろうことか、七大列強の一組、『比翼の鳥』を同行させているではありませんか、護衛にしては聊かかちすぎているかと思いますが・・・

和平の使者は槍を持たぬ、とも申しますしな。」

 

完全に濡れ義務である。

クリスティーナはアスラ王国にとってVIPだ。SPの一人や二人いて当たり前ではないか。

 

これには今まで冷静に流していたクリスティーナも反論した。

「和平とは?既に友好的な関係を数百年続けている王竜王国の大臣のお言葉とは思えません。」

既に平和条約を結んでいるような国同士で何故和平の話をしなければならないのか?それともそこの大臣は平和条約破棄したいの?と暗に皮肉を込めている。

 

「それに、セイジ達は私の槍ではございませんわ。盾にはなってくださるでしょうが。」

これも暗に挑発している。こちらから仕掛けることはしない。しかし、やる気があるみたいだから防御程度は用意してありますよ。と言っているのだ。

 

 

 

予想外の声がした。

「盾か、確かにその通りでございますな。セシリア殿はあのアスラ七騎士の一人、「王の大盾」イゾルテ・クルーエル殿の孫であられる。」

会談の席からでも、その背後を守る護衛からでもなく、一人の男が口を挟んだ。

齢60は超えているだろう。しかし、その姿は未だに衰えをしらない。

黒竜騎士団、団長 パックスJr・シーローンである。

 

 

「確かにクリスティーナ様のおっしゃる通り、盾で殴ってもせいぜい瘤が一つできるくらいのもの。アスラ王国が過去からの友好を捨ててまで剣を向ける証拠とはなりますまい。」

 

 

パックスにとって今日のいざこざは茶番でしかない。

現在も将来もアスラ王国の援助も施しも必要としない。

 

時がくれば自らの手で掴む。

時が来なければ次の世代でも構わない。

「いつか」「自分の手」で自由を掴む以外の選択肢を彼は持っていないのだ。

 

であれば、今、親友の妹に集る煩い蠅は追い払ってしまおう。

そうしなければ、その蠅は自分の所にも集りに来るのだ。

 

「いや、しかし、私は確かに・・」

 

大臣は一拍置いてから続けた。

「神よりお告げを受けております。」

 

((やっぱり))

セイジとセシリアは思わず顔を見合わせた。

 

同様にクリスティーナとジークハルトは眉を顰める。

 

それ以外の者には変化は認められない。

それは今までのやり取りを黙って聞いていた、

先々代からの忠臣「大将軍シャガール・ガルガンティス」でさえ同様である。

 

因みにこの世界で神を信仰する者は少ない、

神というものはせいぜい人を超越した存在程度の認識である。

何しろ巷では「神」はあふれかえっている、その殆どはその技を極めたものか、ラプラスのように厄災をもたらすものだ。

 

宗教らしい宗教は唯一ミリス教くらいだが、

彼らすら「お告げをしてくるものは神でなく悪魔である」という考え方を持っている。

 

故に神託等を信じる者も本来いない。唯一の例外は「ヒトガミに唆された者」だけだ。

 

「ほぅ、神とな・・」

大臣の告白に反応したのはシャガールだった。

 

「其方は、夢か世迷言で国賓に詰め寄り、我が国の忠臣に嫌疑をかけたのだな?」

神のお告げを信じるのは個人の自由だ。しかし、外交の場、相手は同等かそれ以上の相手に喧嘩を吹っ掛けるのであればそれなりの物証が必要である。

 

「他に何か証拠は?」

シャガールが続ける。

大臣は何も言わない、当然だ、物証等ない。

結果として国王の命令により件の大臣は入牢となった。

 

 

 

 

 

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