シーフの孫   作:迷宮の迷子

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ダンス ウィズ ソード

セイジとの仕合。

セシリアは明らかに青ざめていた。

二人共しっかりと防具をつけている。

周りに術師もいる。怪我しても治してくれると祖母は言う。

 

しかし彼女の手には真剣。しかも、嘗ての名匠の手による名剣

間違うと彼に致命傷を与えてしまう。

初めてできた友達。

初めて好きになった男の子。

まずセシリアは彼を傷つけるのを恐れた。

 

無論彼を信頼している。

一緒に訓練をし、

一緒に勉強をし、

一緒にご飯を食べ、

寄り添ってお昼寝をし、

そして自分が悲しいとき真っ先に慰めてくれる彼を。

そんな彼だからきっと今回も切り抜けてくれる。

そう信じているのだ。

 

逆にセシリアは自分を信じていない。

実力が伯仲している人達の仕合はなんども見てきた。

彼達の仕合は、そう、ダンスみたいだ。

相手の繰り出す剣を華麗に受け、軽くステップを踏み切り返す。

その相手もそれを華麗にかわし剣を打ちあう音はまるで

カルメンのカスタネットみたいだ。

 

真剣な仕合をそのように感じるセシリアもまた常人ではないのだが、

彼女は、先程も言ったように自信がない。

私の自信のない一撃が、彼のリズムを崩してしまい、

彼も予想しない斬撃をもらってしまったら。

彼女のそれは、デビュタントを控え、初めてのダンスを踊る少女のそれに近く、そしてもっと深刻だ。

 

一方セイジは、意外と落ち着いていた。

まるで先程の死を覚悟したかのような絶望は既に消えていた。

同時に彼はセシリアに視線を送った。

余裕がなく、青褪めているセシリアを。

 

『大丈夫、僕らならきっと大丈夫だよ、大好きなセシリア』

5歳とは思えない、いや、実際に精神年齢は二十歳を超えているのだが、彼は心のなかでそう、彼女に語りかけた。

 

「ほう・・」感嘆の言葉をあげたのはシャンドルだった。

とても5歳の、しかも真剣を携える者を相手にするとは思えない余裕をセイジは見せている。

「仕合というより、舞踏会のようですな。」

 

 

「セイジ・・・うん、わかった。」

セシリアもセイジの言葉を理解した。

「なんというか、私の孫とは思えないくらいおませさんですね。」

「ウス」

レイダも今や完全にイゾルデの表情だ。

むしろ小娘時代を思い出し頬を赤らめているくらいだ。

 

 

「では、これよりセシリア・クルーエルとセイジ・セーブルキャットの仕合を始める。両者中央へ」

審判はルーデウスが努めた。

 

「両者、構えて、始め!」

 

セシリアは剣を、セイジは棒を、お互いの得物にコツンと軽く音がなるように合わせた。

まるでダンスを始める合図のように。

 

『まずは、セシリアが流れを打ち出せるようにこの位置に』

セイジはあえて真正面からセシリアの右側を抜けるように棒の突きを放った。

予想通り彼女はそれを「流れ」でいなす。

すれ違いざまにセシリアがそのまま横に払う。

その剣の上を抑えるようにセイジの棒がセシリアの剣を下に払った。

カン!カン!カン!

金属同士では出ない、剣と棒が醸し出す小気味良い音。

もう、幾度となく打ち合った二人だ。

次はどう来るか、お互いわかっている。

二人はもう5分以上打ち合っていた。

 

「エリスの10歳の誕生日を思い出すな」

ルーデウスにとってこの二人の打ち合いはエリスとのダンスを彷彿とさせた。

ルーデウスがエリスにかけた魔法。剣の動きでダンスをする。

彼等の仕合もまさにそれだ。剣を使ったダンス。

 

「ごらんなさい。二人共笑っていますよ。」

イゾルテはそう微笑んだ。

 

「しかし・・・」

「そうですね、このままだとセイジは負けますね。」

シャンドルとイゾルテは呟いた。いや、イゾルテは既にレイダのそれに戻っている。

 

確かに今のところ二人は互角だ。

しかし、実際のところセイジはセシリアに勝った事がない。

水神流はカウンターが主と思われているが、実のところはその戦闘の場を支配する剣術だ。

少しずつ、少しずつ、セイジが選択できる手が少なくなっている。

それでも善戦できているのはシャンドルがずっと教え込んだ棒術の基本形だ。

一つの型ではなく複数の型を組み合わせ、あたかも剣舞のようにみせるその基本形は意識しなくても限りなく最善手に近い手を選んでくれる。

彼がこれを単なる型としてのみ覚えていたらもっと短期間で勝負はついていただろう。

 

加えて二人の得物の差だ。

セシリアの剣はユリアン・ハリスコの手による名剣、いや、無銘ではあるものの成長する魔剣だ。

持ち主の体格、力量、技能に合わせて成長する剣だ。

5歳の彼女の能力を最大限に引き出してくれるだろう。

対してセイジの得物は普通の練習用の棒。無論シャンドルが選んでいるから使い勝手はいいのだろう。

しかし、棒、単に木の棒だ。

いつかは剣の力に負けて折れてしまう。

その時はセイジの敗北だ。

実際にセイジの棒は少しずつささくれ立ち、少しずつ亀裂が入っている。

 

 

そしてついに決着の時が来た。

水神流の戦場把握術で徐々に選択の幅を失っていたセイジはついに真正面からセシリアの剣を受けることになる。

 

いい勝負だった、もう少し見てみたいが仕方ない。

 

周りはそう思った。セシリアの勝利だと。

 

カァァァン!

 

今までの音とは少し違う、かと言って金属同士とは言えない不思議な音。

セイジの棒は折れる事無くセシリアの剣を弾き飛ばしていた。

 

「きゃっ」

剣を弾き飛ばされセシリアはバランスを失い後ろに倒れそうになった。

セイジは余裕をもって彼女の腰に手を回し抱きかかえていた。

そう、ダンスの終わりのようにである。

そして闘い終えた得物は根本から、文字通り粉々になった。

あの剣をさばけたのが嘘のように。

 

「・・・あ、いけね、勝負あり!勝者セイジ!」

 

審判役のルーデウスすら一瞬我を忘れていた。

それくらい絵になる二人だったのだ。

 

「セイジ!すごいね!」

負けたはずのセシリアは負けた悔しさよりセイジリスペクトが激しかった。目にハートマークが浮かんでる。

「ありがと、セシリア」

 

「ちょっといいかい?」

いちゃついている二人に気も止めずルーデウスが近づいてきた。

「最後のあれ。どうやったんだい?」

他の面々も不思議でしかたない。運良くというのはなくはない。

しかし、その後文字通り粉砕されるくらい弱っていた木の棒。

とてもあの剣を捌けるとは思っても見なかった。

 

「ああ、あれですか、実は」

「棒を僕の魔力で包んだんですよ。」

棒を魔力で?

考えれば近いケースはある。

魔剣が持ち主の魔力を奪って力を増すケースだ。

魔導鎧もその類だし、その手の最凶のものは闘神鎧だ。

しかし皆魔力を奪うもので、術者が魔力を与えるケースではない。

強いて言えば岩石弾などがそれに当たる。

「僕はどうやっても魔力を放出できないんですよ。でも触れているものには魔力を与えられるみたいです。」

成る程、握っていたり触っているものを強化できるのか。

 

「最も、思いついたのは仕合の直前で、全体に魔力を通じさせられたのは、本当に最後のあの時だったんです。」

 

「すると、セイジ君は戦いながら方法を考えていたのかい?」

「はい、だって、僕が怪我したらセシリア悲しむじゃないですか。」

 

「セイジ君」

「はい?」

「君は僕以上の女たらしになるよ。」

「むぅ」セシリアが反応した。

「もう、馬鹿言わないで下さい。僕はミリス教徒になってずっとセシリアだけをお嫁さんにするんですから」

「ちょ!セイジ!もう!・・・嬉しいんですけど」

 

うーむ、幼少期特有の純粋さだろうか。

それともセイジが天然なのだろうか。

周囲は苦笑をせざるを得なかった。

 




今回は仕合回だったんですが
あっま〜いお話としてしまいました。
少しだけ、言葉の運び方だけ変更

シーフの孫はいかがでしたか。

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