僕の嫌いな一番星   作:アクア幸せになれbot

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アニメ最終回記念

※原作最新話要素を含みます。


きょうだい

 

「カイト……?」

 

 腕がはたりと床に落ちた。全身から力が失われ、血溜まりに沈む体から徐々に熱が引いていく。

 

 アイは呆然と少年の名を呟いた。また気絶してしまったのだろうか。そう思い抱いた体を少し揺する。瞼は固く閉じられ、何も返ってこない。

 

 今度は強く揺すった。それに合わせて力なく体が揺れる。それでも何も反応がない。

 

「ぃや……いや……!だめっ……!」

 

 アイの心が少しずつ、しかし着実に恐怖に蝕まれていく。そんな筈はない。今はただ、少し眠ってしまっているだけだから。そう思いながらも、体から伝わる感触が、熱が、考えられうる最悪を教えている。否が応でも分かってしまう。

 

「イヤっ!カイト、ねぇ起きて……!カイト!」

 

 アイは半狂乱になって叫んだ。少年にしがみつき、泣きながら体を揺さぶり名前を呼びかける。やはり、反応は何もない。

 

「っ!アイどいてっ!!」

 

 それを見たアクアは反射的に体を滑り込ませ、胸に耳を当て、首筋、手首に指を添えた。

 

 何もなかった。あるべき筈の鼓動音も、肺の動きも、指先に伝わる筈の感覚も、何も感じられなかった。

 

「クソっ!アイ!ハンカチかタオル!傷押さえてて!」

「アクア、でも」

「いいから!!早く!!」

 

 アクアがここまで声を荒げるところをアイは初めて見た。アイが抱いてきたアクアのイメージはクールで、年齢以上に大人びていて、天才で、演技が上手で、アイドルが好きな子だった。それがこうして顔を歪めながら必死さを隠そうともしていない。

 

 今まで感じたことのない息子の気迫にたじろぎながらもアイは言われた通りにハンカチで傷口を押さえ始めた。あっという間にハンカチ全体が血で濡れる。既に夥しい量の血が出て、フローリングはもはや血の海と化している。アイはそれから目を反らし、何も考えずに、ただ弟が再び目を開くことだけを願う。

 

(お願い……やっと二人には言えたの……愛してるって気持ち、やっと分かったの……だから)

 

「このまま言えないでサヨナラなんて、そんなの嫌だよ……っ!」

 

 アイがしっかりと傷を抑え止血をしているのを確認すると、アクアは少年の鼻を摘み、口を少し開かせて深く息を吸い、そこに自身の口を合わせた。空気を送り込みきると、すぐさま両手を重ねて胸部を一定のリズムで圧迫し始めた。心臓マッサージによる心肺蘇生法だ。

 

(救急車は既に呼んだ……頼む、間に合ってくれ……!)

 

 以前(雨宮吾郎)ならば兎も角、未成熟なこの体でどこまで出来るのかアクア自身にも分からない。体重は軽くて心臓に伝える力も小さく、肺活量だって十分ではないだろう。だが、だからといって何もしないという選択肢などありはしなかった。そうでなければ──

 

「俺が……僕が、ここにいる意味がないだろうが……!」

 

 産科医とは言えども医者であった自分が生まれてきた意味がない。アクアはかつての日(天童寺さりな)のことを、そして宮崎のあの夜のことを思い出しながら、少年をこの世に呼び戻すことだけに集中する。

 

(僕はあの時君にアイを任された。なのに結局約束を果たせなかった……なら、今度は君を救ってみせる!)

 

 30回目、変化は見られない。一度取り止めて再び肺に空気を送る。少年の意識は戻らない。

 

 心肺停止状態に陥った場合のタイムリミットは凡そ5分。少年の意識が失われてから既に数分が経過している。加えて大量の出血。猶予は残されていなかった。もう一度一心不乱に胸を押す。

 

 ルビーはアイの側に立ってただ目の前の光景を見ている。突如起きた非日常に体が硬直し、泣きながら男の名をうわ言のように繰り返す母に寄り添うことしかできない。

 

「ママ……」

「ルビー……ごめんね……ママのせいでこんなことになって、本当にごめんね……」

「ううん、ママのせいじゃないよ……」

 

 あの母が、あのアイがこれほどまでに弱っている姿を誰が想像出来ただろうか。ファン全てに(うそ)を振りまくアイが、たった一人のために何もかもを捧げんとするのを誰が予想出来ただろうか。

 

 ルビーはアイの体にそっと手を触れる。震えていた。今この瞬間にも弟を完全に失うかもしれない恐怖に必死に耐え、いつもの完璧な笑顔は脆く崩れてしまっているがそれでも娘には不安を与えまいと表情を作っている。

 

 兄は懸命に心臓マッサージを続けている。失われつつある命をこの世に留めるために、あの重曹を舐める天才子役(有馬かな)にアイを貶された時と同等か、それ以上の感情を見せている。或いは、あの時のせんせと同じような──

 

(……良いなぁ……)

 

 場違いだと思う。それはルビーが一番分かっていた。それでも心の奥底に湧き上がる嫉妬にも似た欲望の感情を抑えられなかった。

 

 それはルビーの魂が天童寺さりなであるが故の渇望だった。さりなの最期はあっけないものだった。治療のためと遠く離れた宮崎の病院に移され、母親は見舞いに来たことはあれど仕事といって両親揃って病室を訪れたことなどただの一度もなかった。最期の瞬間でさえ両親は仕事で東京にいた。

 

 大好きなせんせが看取ってくれたものの、天童寺さりなは結局最期まで家族に愛されることなく死んだ。その悲しみ、やるせなさが今のルビーに悪感情を抱かせた。そして、()()()()()()()も。

 

 ルビーはどうしようもない嫉妬の炎を抱えてアイを支える。三者三様の思いが渦巻くこの血みどろの空間はアクアの通報を受けた救急隊の到着まで続いたのだった。

 

 

 

 

 ★

 

 

 

 

【B小町・アイ 自宅で何者かに襲われる】

 

 

 そんな文字列がテレビやネットニュースの速報で流れたのはそれから数時間後のこと。そのセンセーショナルな内容に誰もが食いつき、ツイッターでは関連ワードを含めすぐさまトレンドを独占した。

 

 記事には俺たち双子のことは書かれていなかったが、誰が見たのか、またはリークしたのか、彼のことは詳細に載っていた。ご丁寧に本名や年齢、住んでいる地域、これまでの経歴、アイとの関係さえも。

 

 結局、俺は間に合わせることが出来なかった。腹部大動脈を刺傷されたことが原因の出血多量による乏血性ショック。それが彼の死因。救急隊が駆けつけた時には既に致死量の失血をしていて、ICUに担ぎ込まれることもなく、搬送先の病院で死亡が宣告された。俺は彼を、カイトくんを、よりによってアイの目の前で死なせてしまった。後悔なんて言葉じゃ言い表せない程に自分の無力さに絶望してしまう。

 

 その後のアイの荒れ具合はとてもじゃないが見ていられなかった。安置室の彼の遺体に縋りついて一度も離れることなく、ただ只管に泣き続け、彼のことを呼んでいた。それはミヤコさんに支えられてなんとか場所を移した時でさえ、そして事件から数日が経った今でも。

 

 そんな状態でライブを敢行出来る筈もなく、また事件の影響の大きさや警察の捜査の関係もありドーム公演は急遽中止、同時にアイの無期限活動休止が発表された。

 

 世間からは概ね同情の声が挙がった。ストーカー化したファンに襲われたことに加え、そのファンに表向き唯一の家族を奪われたのだから当然と言えば当然だ。

 

 コアなファンにはアイに弟がいるということが既に認知されていて、それもあって彼には最大の称賛が送られた。姉に迫った脅威を身を挺して退けた英雄として。何も知らない愚か者たちによって、二人は悲劇の仲良し姉弟に祀り上げられた。

 

 犯人はその後自殺しているのが発見された。カイトくんの最期の言葉からして、中学校時代の上級生だったと思われるその男はどこにでも居る何の特殊なスキルも持たない普通の大学生だった。突然の悲劇を齎したこの男は世間から大いに非難され、ネット上では個人情報の特定などが横行し、軽い炎上状態になった。

 

 世の中の殆どがアイと彼の味方だった。それでもこの手の話題には悪意が付き纏うものだと思い知らされる。

 

 適当な情報を並べただけのPV稼ぎのためのまとめ記事、ありもしない噂話、何の根拠もない憶測、悪意ある中傷。そんなものがゴロゴロと出てくる。他人の不幸は蜜の味とはよく言ったもので、自分たちには何の関係もないワイドショー的コンテンツとして、彼の死はあっという間に消費されていった。

 

「何が英雄だよ……何が美しき姉弟愛だよ……クソっ」

 

 適当なことを書き連ねるネットユーザーに腹が立って仕方がない。あの二人が歩んできた道は辛くて、険しくて、決して楽なものではなかった。それが漸く一つに重なろうとしていた時に全てがバラバラになって途絶えてしまった。それを上辺だけの言葉で表す奴らをどうしても俺は許せなかった。

 

 その時、ルビーがアイの居る部屋から戻ってきた。

 

「お兄ちゃん、あんまりそういうの見ない方が良いんじゃない?」

「……アイの様子は?」

「うん、泣き止んだけどすごく落ち込んでる。ミヤコさんが付いてくれてるけど……」

「……そうか」

 

 もしかしたら、アイは二度と立ち直れないのかもしれない。アイが(雨宮吾郎)に語った内容からして、アイのアイドル活動の根底にあったのはカイトくんの存在だったのは間違いない。それを失った今、アイドルを続ける意味も理由もない。

 

 社長は身寄りのないアイを娘のように思っている。仮にこのまま引退ということになったとしても、少なくとも俺たちが路頭に迷うなんてことはない筈。どうなるにせよ、今はアイが落ち着くのを待つしかない。

 

「でもママならきっと大丈夫だよ」

 

 ルビーは俺たちに取り巻く重い空気を吹き飛ばすかのように明るく言った。

 

「ママなら絶対に復帰する。だって、ママはアイなんだよ?私たちの最強の推しなんだから」

「……どうだろうな。俺にはアイが今まで通りにステージに立てるなんて思えないけどな」

「へぇー自分の推しのことなのに信じられないんだ?」

「そんなんじゃねぇよ。ただ、アイが被った精神的なダメージから言って早期の活動再開は難しいだろうってだけだ」

「ふーん」

 

 つまらないことを聞いたという風に返事をしてルビーは隣に腰掛けた。それから暫くの間、俺たちは無言のままでいた。そういえばこいつとこんなにも黙ったままでいるのはなかなか珍しいということに気付いた。普段はアイのことでいつも騒いでいるか、ちょっとした喧嘩をするかで寝る時以外に静かになることはなかったからだ。

 

「ねぇアクア」

「なんだよ」

 

 ルビーが静寂を破った。先ほどまでの生意気さは何処かに消えていた。

 

「私ね、ママが無事で本当に良かったって思ってるんだ」

「……それで?」

 

 何だか嫌な予感がする。俺たちにとって何か良くないことをルビーが言ってしまうような気がしたけど、俺はそのまま続きを促した。

 

「それでね、もしあの人がいなかったらママが刺されちゃってたかもしれないでしょ?」

 

 

 

「だから殺されたのがあの人で良かったって、そう思ってる」

 

 

 

 瞬間、俺は立ち上がってルビーの胸倉を掴んでいた。吐き気がする程に頭に血が登って目が眩む。それを無視して妹を睨みつけた。言っちゃいけない言葉だった。それだけは、決して口にしてはいけない言葉だった。

 

「お前!本気で言ってるのか!」

「…………」

「カイトくんが死んで!アイの目の前で殺されて!それで良かった!?巫山戯るのもいい加減にしろよ!!」

 

 ルビーは何も言わず俯いている。前髪に隠れて表情は見えない。

 

「今の、アイの前でも言えるのか!?弟を失って、ずっと泣いてたあの子の前でも言えるか!?」

 

 星野愛久愛海ではなく、雨宮吾郎としての言葉で紛れもない本音だった。産科医は良くも悪くもヒトの命に関わる職業だ。無事に生まれてくる命もあれば、そうでないこともある。母親の命が危ぶまれることもあれば、最悪の場合母子共々亡くなるケースだってある。望まれない命を消すという選択も。雨宮吾郎はそんな場面も見てきた。そして何より、あの高千穂の病院で一人ぼっちで死んでしまったあの子のことを思い出す。

 

「殺されても良い命なんかある訳ないだろ!死んで良かったなんてそんなのある訳がねぇんだよ!」

「……ってる」

「俺たちがそうだからか!?俺たちが転生したから、カイトくんもどこかで生まれ変われるって思ってるからか!?だから──」

「分かってるよ!!」

 

 ルビーが激昂して逆に俺の肩を押さえつけた。その様子に俺は頭に冷水をかけられたように思わず黙ってしまう。妹はかつてアイのアンチにレスバをしていた時以上に感情を剥き出しにしていた。

 

「分かってるよ!こんなこと思うなんて間違ってるって!そんなの分かり切ってる!」

「……なら」

「でもしょうがないじゃん!私はあの人のことなんか何にも知らない!どんな人なのか!どんなことが好きで何が嫌いなのか!全部知らない!だったらママの方が大事に決まってるじゃん!」

「だからって」

 

 やっぱり駄目だと諌めようとするけどルビーは構わずに激情を発していく。感情の制御が出来ていないのか、目尻には涙が浮かんでいた。

 

「寧ろ何でアクアはあの人のことそんなに大事に思えるの!?この前初めて会ったばかりの人に何であんなに必死になれたの!?分かんないよ!ママも!壱護さんも!ミヤコさんも!何で、あの人のことばっかり……」

 

 それは何も知らない幼子の癇癪だった。元々感情的で、前世では子供の頃に死んでしまったのだと幼稚園での会話から知っていた。だからルビーのことはバカだけど純粋なアイドルオタクだと思っていた。それがこんなにも暗い感情を持っていたなんて思いもしなかった。

 

 ルビーはズルズルとその場にへたり込み、静かに泣き出した。それに俺も何も言うことが出来ず、再び俺たちの間に沈黙が訪れる。

 

「……私ね、前世ではずっと入院してたんだ」

 

 ルビーが前世のことを静かに語りだした。罪を告白するかのように、静かに、ゆっくりと。

 

「田舎の病院で、ただ死んでいくのを待ってるだけだった。体が段々思うように動かなくなっていって、ずっと苦しかった」

 

「ママだけが唯一の生き甲斐だった。DVDでママの姿を目に焼き付けてる時だけは、全部忘れられた」

 

「前世のお母さんはお見舞いには来てくれたけど、ずっと仕事で殆ど会えなくて。私が死ぬ時もお母さんは東京にいたんだって」

 

 ルビーの話を聞いて俺は内心動揺した。妙な確信があって、それを悟られないように俯き気味に黙ったままでいた。

 

「愛してるって言ってくれたけど、それも本当なのか分からなかった。信じたかったけど、多分嘘だったんだと思う」

 

「結局私は親に愛されないまま死んじゃった。最期は大好きな病院のせんせが側に居てくれたから、それだけで満足だったんだけど」

 

「ママの娘に生まれ変わって毎日が幸せだった。前世からの推しだったのもあるけど、私のことを愛してくれてるって思えたから」

 

「だから私はママのことが大好きでしょうがない女の子を演じてた。そうすればママはもっと大きな愛を返してくれたから」

 

「けど、分かってたんだ。私は母親の愛だけを求めていたんだって。私はママのことを、アイをお母さんの代わりにしか見てないんだって」

 

「だからあの人のことをママから聞くのが嫌だった。あの人の話を嬉しそうに、愛おしいようにするママを見て、私はあの人の代わりにすぎないのかなって思っちゃったから」

 

「でもあの人はあの日までママと一度も会わなかった。一回も連絡しているのも見たことない。だからドーム公演が出来るまで上り詰めたママを利用しようとしてるだけなんだって思った」

 

「そんな人をママに近づけちゃ駄目だって思い込んで、ずっとママにくっついてた。あの人にママを渡したくなかった。私はあの人の代替品でしかなかったって、認めたくなかった」

 

「あの人が死んでママはずっと塞ぎ込んでる。ずっとあの人のことを思って泣いてる」

 

「なら私がしたことって何?私はママをただ悲しませるためにあんなことをしたの?」

 

「私はママにあんな顔をさせるために生まれてきたの?ママを不幸な目に遭わせるために生まれ変わったの?」

 

「なんで、私なんかが生まれ変わっちゃったの?」

 

「誰か、教えてよ……」

 

 全てを告白したルビーは、さりなちゃんは泣き続けていた。俺は何も知らなかった。さりなちゃんが抱いてきた思いも、アイの心の弱さも、何もかも知らなかった。俺は上辺しか見ていないネットの奴らと同じ穴のムジナにすぎなかったんだ。

 

 こんな俺が気安く慰めの言葉をかけるのは間違いだ。ましてや今前世のことをルビーに打ち明けるなんて以ての外だ。なら、今の俺が話すべきはただ一つだけだ。

 

「多分、この事件はまだ終わってない」

「……え?でも犯人はもう自殺したって……」

「俺たちがあのマンションに引っ越したのはつい最近だ。ならなんであのストーカーは新居に来れた?」

「それは、自力で探し出したとか、探偵を使ったとか」

「犯人はただの学生だった。そんなことを出来たとは到底思えない。探偵や興信所を雇うにしてもそれだけでも数十万は下らないし、ましてや相手はあのアイ。まともな所なら請ける訳がない。例え雇えたとしてもそれ以上に莫大な費用がかかる筈だ」

 

 そして、あいつは俺を殺した男と同一人物。アイの妊娠のことも、入院先のことも知っていた。

 

「情報提供者がいるんだ。それが単独なのか、複数人なのかは分からない。けど、アイに相当近い人間があの場所を漏らしたとしか考えられない」

 

 社長はまずあり得ない。自社の看板にそんなことをするメリットなんかまずないし、あれだけ自分の娘と同様に思っている人がストーカーに情報を与える動機もない。

 

 B小町のメンバーもそうだ。今やアイと他メンバーとの仲は良くない。この数年間仕事以外で一緒に居るところを少なくとも俺は見たこともないし、俺たちは社長の子供として紹介されていた。アイの妊娠のことも知らないままだった。となれば可能性があるのは。

 

「容疑者候補は俺たちの父親。そして行方不明のアイの母親だと思う」

「でもあの時ママ言ってたよね、父親に会うつもりはないって」

「だから候補だ。誰が父親なのか聞き出せれば早いかもしれないが、絶対にアイを巻き込む訳にはいかない。仮にそうだったとして、それを知ってしまったらアイは」

「……耐えられない。そういうこと?」

「間違いない。それはアイの母親の方もそうだ」

 

 だからこれは俺一人だけで動く必要がある。何年かかるかも分からない。もしかしたら何十年もかかってしまうかもしれない。だけど、俺はそうしなければならない。そうしなければ、彼を救えなかった罪を精算することは出来ない。

 

「アイの交友関係の狭さから相手は同業者の可能性が高い。幸い俺には監督の伝手がある。芸能界に潜り込んで、父親を捜し出す。そして、必ず罪を償わせる。母親の方も、まあ同時にやっていくしかないだろ」

「……私は?そんなの聞かされて、何もしませんなんて言えないよ。何したら良いの?」

 

 ルビーがこちらを縋り付くような目で見ている。多分こいつも贖罪をしたいのだと思った。アイに対する罪滅ぼしをしたいんだと。だけど、ルビーまで動いてしまってはアイに勘付かれる可能性が高まってしまう。

 

「お前はアイの側にいてやれ。んで思いっきり愛してやれよ」

「でもそれじゃあ!」

「いや、それこそがお前にとっての罪滅ぼしだ。今度こそ、アイを母親と認めて、そして愛することが何よりの償いになるんじゃないか?」

「……でも」

「それにお前一人でも居てやれば、どんな真相であれアイを支えることが出来る。俺も真犯人を見つけ出すまでは死ぬ訳にもいかねぇけど、一応な」

「…………」

 

 そう言うとルビーは再び俯いた。正直、これがルビーにとっての贖罪になるかなんて俺にも分からない。でもこれが最善なのだと思った。

 

 俺は死ぬ訳にはいかない。アイを襲いカイトくんを殺した犯人を必ず見つけ出して、罪を償わせるまでは。俺自身の罪を精算して、きちんとルビー(さりなちゃん)と向き合うまでは。

 

「……お兄ちゃん」

 

 ルビーが何かを決心した声で俺を呼んだ。

 

「決めた。私アイドルになる」

「……アイの跡を継ぐってことか?」

「跡を継ぐとかじゃなくて。アイドルになって、ドームに立てるくらい立派になってみせる。ママにとっての自慢の娘になれるように」

「……そうか」

「だからお兄ちゃんは早く犯人を見つけるように!あんまり遅くなったら私も引退しちゃってるかもしれないし」

 

 そう言ったルビーの両目にはアイのそれに似た輝きがあった。きっとこいつならアイと同レベルのアイドルになれるんじゃないか、そう思わされる輝きだった。

 

 この日、俺たち兄妹は共犯者になった。過去との決着のために。そして、いつか訪れる未来のために。

 




基本ストックありません。

書き終わった後即見直し、即予約投稿なのでヨロ!(重曹感)


★星野アクア
 救えなかったマン。
 犯人捜しの覚悟完了をする。
 この後滅茶苦茶監督に弟子入りした。

☆星野ルビー
 嫉妬ガール。
 原作の病み具合を織り交ぜてたらこんなことになってしまった。
 この後滅茶苦茶社長にレッスンをさせるよう強請った。

★星野アイ
 病みウーマン。
 立ち直れない。
 無期限活動休止なので苺プロ在籍なのは変わらない。
 月日が経つにつれ、消えた芸能人扱いされていく。

☆弟くん
 間に合わなかった。
 IF展開があるならここが分かれ道。
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