【完結】ゲッターロボに愛されて死ぬことも出来ないアイドル 作:朱鷺野理桜
宇宙を往く。その名をエンペラー。
エンペラー壱號艦、エンペラー弐號艦、エンペラー参號艦。
数多のゲッター艦隊を引き連れ、無人の野を往くが如く。
「アンドロメダ流国も、もはや虫の息。昆虫野郎なだけにな」
エンペラー参號艦、その艦橋にて巴武蔵司令がそのようなことを呟いた。
それに対し、星野アイ副司令が無言で武蔵の鳩尾に肘を叩き込んだ。
「ぐえっ! お、おごご……せ、センパイ、ひでぇ……」
「いや、あまりにもつまらなくて……大丈夫?」
「心配には及びません。新しい武蔵司令官を起動させます」
「まだ死んでないが!?」
「いや、死んだら前任の武蔵の失敗はしないんでしょ? だから、もう2度とつまらないギャグ言わなくなるかなーって……」
「それだけで殺されてたらキリがないぞ!」
そんなしょうもない会話が為される中、突如として鳴り響く警報。
「なんだ! なにがあった!」
「ワームホールです! 艦隊前方にワームホールが出現! 巨大質量がワープしてきます!」
「アンドロメダ流国か!」
「依然、不明!」
艦橋が慌ただしく動き出し、やがて、開かれたワームホールより、それは現れる。
巨大な、顔。そのように表現される、明らかな人工物で構成された物体。
白亜の装甲を持つそれは、相対するエンペラーマシンにも伍するほどの巨躯を持ち。
そしてそれは、真紅と深蒼に輝く自身と同等の途方もない巨大さの物体を2つ、引き連れていた。
迸るエネルギーの波動が、宇宙空間を超え、エンペラー参號艦の装甲を叩く。
ただそこにあるだけで、超新星爆発にも匹敵し、惑星1つを壊滅させ得るだろうエネルギーの奔流。
そのエネルギーの鼓動を、巴武蔵はよく知っている。かつて、自身のオリジナルであったものを焼き尽くしたエネルギーの輝きを。
「俺の知らないゲッターだと!?」
疑いようもなく、それはゲッターエネルギーを放ち。
その深奥に、凶悪なまでのエネルギーを吐き出すゲッター線駆動のゲッター炉心を備えていた。
エンペラーの如何なる記憶を浚ったとても、その白亜のゲットマシンは記録になく。
「センパイ! センパイはなにか知らねぇか!」
「さぁ。ゲッターロボなのは間違いなさそうだけどね。代わろうか?」
「お断りだ!」
エンペラー参號艦には司令官が1人と副司令が2人存在する。
つまり、巴武蔵司令、星野アイ副司令、車弁慶副司令の3名だ。
巴武蔵が敗北した時、星野アイ、あるいは車弁慶が迅速に指揮を引き継ぐ。
早い者勝ちで好き勝手に指揮を執っているだけであるという説もある。
「武蔵司令! 敵ゲットマシンに動きあり!」
「ゲッター線シールドを展開して様子を見ろ! ゲッターロボである以上、大いなる意志の戦いについて無知なわけも……」
敵か、あるいは味方か。同じゲッターロボであるならば、味方の可能性は高い。
もしも味方であれば、エンペラーにも匹敵しようかと言う巨大なゲットマシンから、その戦力的価値の高さは途方もない。
ただ見掛け倒しである可能性もあるが、その機体から放たれるエネルギーの輝きは本物だ。
「う、ウオオオッ! ただポジションを移動しているだけで、凄まじいエネルギーの高まりが!」
「こ、これは! 目標ゲットマシンのゲッター線量が爆発的に増大! これはビッグバンを引き起こすほどの!」
「ゲッターチェンジか!?」
「ち、違います! 目標は仮称1号機を中心に、左右後方に展開しています! チェンジポジションではありません! ですがこのエネルギーの高まりは!」
「ウワアァァァ! エネルギーがさらに増大してゆくぅぅあああ! ゲッター線以外にも、我々には未知のエネルギーが観測されているぅぅう!」
星野アイ副司令が、彼方に見えるゲットマシンの姿を見やった。
白と、赤と、青。その3色のゲットマシンの姿に、そっと目を細めた。
「武蔵司令! 目標ゲットマシンより通信です!」
「聞いてやるとしよう! 繋げろ!」
「はい!」
そう武蔵が決断し、その直後に表示されたのは、少女の姿だった。
襟元にピンマイクをつけ、キラキラとした可愛らしい衣装に身を包んだ少女。
それはゲッター艦隊のすべてが知る少女。星野アイ副司令、その人の姿であった。
『みんなー! ゲッターライブ特設会場へ、ようこそー!』
そんな、明るくて、元気で、可愛らしい声が、聞こえて来た。
ゲッター艦隊のすべての思考が停止した。
『今日はこの私、星野アイの新曲をお届けするよ! ぜひぜひ、名前だけに限らず、なにもかもぜーんぶ覚えていってねー!』
エンペラー壱號艦においては流竜馬の腹筋が崩壊した。
エンペラー弐號艦においても神隼人の腹筋が崩壊した。
『それから、今日はサポートしてくれる2人のことも紹介しようと思うの!』
映像に映るアイがそのように言葉を切り、カメラが遠ざかる。
すると、彼女の左右やや後方に立っていた少年と少女の姿が映った。
『見て見て! すっごく可愛いでしょ! この2人は、私の可愛い子供の星野アクアマリンと、星野ルビーって言うんだ!』
エンペラー壱號艦においては流竜馬の脳が粉々に破壊された。
エンペラー弐號艦においても神隼人の脳が粉々に破壊された。
エンペラー壱號艦に同乗していた早乙女博士の脳も破壊された。
『いま、アイドルの癖に子供なんか作って……って思ったでしょ? ぶっぶー、この2人は並行世界の私が産んだ子供だから、私が作ったわけじゃないんだよねー!』
なんだそう言うことか……ゲッター艦隊にそんな安堵の雰囲気が漂った。
同時に、欝々しい気持ちの中に妙に背徳的な興奮の芽生えを感じたものも、少なくはなかった。
『今日は2人が私のライブを盛り上げてくれるから、みんなぜひ楽しんで行ってね! 私の新曲『ゲッターアイドル』を!』
そして、超時空アイドルの独壇場が始まる。
エンプレスマシン1号機、エンプレス・アイドル。
その特徴的な構造は、平たく広範に広がる上面構造にある。
惑星質量の激突すらも容易に弾き返すゲッター線シールドは酸素及び圧力をも保ち、人間の生命を正しく保護する。
つまり、この上面構造において、アイドルライブを開催することも可能だということ。
せり上がり、その姿を現すステージ。
その中心に立つは、この宇宙全てを魅了したアイドル。
超時空アイドル、星野アイ。その人である。
『さぁ! 宇宙よ! ゲッター線よ! 私の歌を聞けぇー!!!!』
宇宙に、すべてを覆す歌声が響く。
エンプレス・アイドルに備わる数多のゲッターホロビジョンにより、巨大な立体映像が浮かび上がる。
ゲッターサーチライトが輝き、全宇宙を揺るがす宇宙開闢以来最大のアイドルライブが始まった。
『無敵の笑顔で荒らすメディア♪ 知りたいその秘密ミステリアス♪』
「行くぞルビー!」
「うん! お兄ちゃん!」
『ゲッターサイリウム!』
エンプレスマシン2号機、エンプレス・ルビー号。
エンプレスマシン3号機、エンプレス・アクアマリン号。
ゲットマシン形態においては、エンプレスマシン1号機エンプレス・アイドル号のサポートに特化した能力を持つ。
そう、すなわち、ゲッターライブ会場としての能力に特化したエンプレス・アイドルの盛り上げ役だ。
エンプレスマシン2号機、3号機から共に放たれるは、ゲッター線の輝き、緑の燐光を宿す夥しい数のサイリウム。
『抜けてるとこさえ彼女のエリア♪』
ゲッターエンペラーと共にある全人類。その両手に握られる分のサイリウム、予備も含めその総数にして200億を上回る。
エンペラー、エンプレスマシン双方にしてみれば鼻を突き合わせるに等しい距離と言えど、その距離は数値にして10天文単位に及ぶ。
しかし、ゲッターサイリウムはその10天文単位に及ぶ距離を一呼吸にも満たぬ時間でゼロとした。
数多のサイリウムが各エンペラーマシンのゲッター線シールドへと激突する。
『完璧で嘘つきな君は♪ 天才的なアイドル様♪』
「バカめ! そんなチンケな攻撃が通じるか!」
「いや、これはダメだね」
星野アイ副司令官がそう言った直後、ゲッター線シールドが突如としてその力を失った。
否、力を失ったのではない。それが、ゲッター線によって造られた無害なものであると判断し、シールドは防ぐ意義を見失ったのだ。
シールドを素通りしたゲッターサイリウムが次々とエンペラーマシンへと突き立ち、そのエンペラーゲッター装甲と同化し、侵入する。
「ゲッターサイリウム。かつて私が作ったオモチャと同種のものだね。ポリエチレンの筒にゲッターエネルギーを詰めただけの代物なんだけど」
「なぜシールドを無効化する!?」
「それ単体だと、ただのエネルギーだからね。要するに、降り注ぐゲッター線と同じ扱い。ゲッター炉心まで運ぶ方が益になるから」
なんら害のない、糧となるゲッターエネルギーであれば、ゲッターロボが受け入れぬ道理もない。
それ故に、ゲッターサイリウムはゲッターロボの糧として受け入れられ、シールドどころか装甲までもを無効化する。
『今日何食べた? 好きな本は? 遊びに行くならどこに行くの?』
要するにそれは、攻撃ではなく、支援の類として受け取られたのだ。
理解してみれば単純な話に武蔵が思わずうなる。
「ぬぅ、そう言うことか!」
「サイリウムにはたぶん……うん、やっぱりね。人類に向かって来るように指向性が与えてある」
装甲を貫き、自分めがけて柔らかな軌道で飛んで来たゲッターサイリウムを星野アイ副司令がキャッチする。
エンペラーのゲッター線シールドを無効化したという意味では、凄まじいと言えるだろう。
だが、ゲッターサイリウムに攻撃性などない。ただただ、推しを推していることを表現するための道具だ。
『何も食べてない♪ それはナイショ♪ 何を聞かれてものらりくらり♪』
「サイリウム握っちゃったら、推すしかないね。自分を推すって言うのも変な気分だけど、たまには推される側から推す側に回るのもいいね」
「センパイなにやってんだ!」
「邪魔をするな!」
「目がァァ――――!」
「耳だぁぁぁぁ――――!」
「ギャァアアア――――!」
『そう淡々と♪ だけど燦々と♪ 見えそうで見えない秘密は蜜の味♪』
「おっと、やりすぎちゃった?」
「心配には及びません。新しい武蔵司令官を起動させます」
「だ、だから、死んでねぇって……」
『あれもないないない♪ これもないないない♪』
「続けていくぞ、ルビー! コンビネーションだ!」
「うん! サイリウムだけじゃ足りてないもんね!」
「ゲッターファン!」
エンプレスマシン2号機と3号機、その双方はサポートに特化した能力を持つとは上記した通りだ。
アイドルライブのサポート。それも、ポジションとしては運営側のサポート役だ。
その立場において、用意して当然のものと言えば、もはや説明など不要だろう。
物販コーナーだ。
エンプレスマシン3号機から放たれるは数多のうちわ。
アイ無限恒久永遠推しうちわ、こっち見てうちわのセット、各100億、計200億。
この会場のほとんどが初心者であるから、基本的なグッズをわざわざ公式側で用意。
しかもタダで、全員分を、その手元にまでお届けするという至れり尽くせりっぷりだ。
サイリウムで両手が塞がってる? ファンなら腕くらい増やしてみせろ。
『好きなタイプは? 相手は? さぁ答えて♪』
そして続くはエンプレスマシン2号機。
「ゲッターコート!」
宇宙空間を覆い尽くさんばかりに、その白く輝く布地は飛翔する。
アイを大きく背中にプリントした、痛法被200億着が宇宙空間を飛翔する。
サイリウム、うちわと同数であるのは、ファンなら胴体の1つや2つ増やせる、あるいは分身が可能というルビーの自己判断による。
『「誰かを好きになること、なんて、私、わからなくてさ」』
アイの布教のためにグッズを存分にばらまき終え、エンプレスマシン2号機、3号機がフォーメーションを変更する。
エンプレスマシン1号機そのやや上方に位置し、エンプレスマシン2号機、3号機の上面が展開してゆく。
なんらかの攻撃の可能性。それを察知したエンペラー壱號艦、エンペラー弐號艦のゲッター線シールドが強まる。
星野アイ副司令に指揮が移行したエンペラー参號艦においては、オペレーターが全員推し活を邪魔された星野アイ副司令によって殴り倒されていた。
『嘘か本当か知り得ない♪』
そして、露わとなったもの、それは。
青く輝く、美しい星。それ以外にも数多の惑星が、エンプレスマシン内部より現れる。
「早乙女博士、ありゃなんだ?」
「分かってて聞いとるじゃろ、竜馬。ありゃ太陽系の惑星じゃ。太陽はないようじゃが……まぁ、あのサイズのゲットマシンなら太陽系丸ごと入るわい」
「物理法則もあったもんじゃねえな」
「ぬふふ、しかし、忘れておったわ。昔の血が騒ぐ」
『そんな言葉にまた1人堕ちる♪ また好きにさせる♪』
「……おい、ジジイ。テメェ、どっからうちわ出しやがった? 拾ってなかったよな?」
「最初から持っておったわ。そう、アイくんに頼まれて引き取った、儂の義娘アイの応援うちわをな!」
「ジジイ! 歳考えやがれ! 法被まで着やがってふざけてやがんのか! 白衣はどうした!」
「推し活に年齢なぞ関係ないわ! 儂より先に儂の初孫を抱っこしたこの裏切り者めが!」
「うるせぇ! ついに耄碌しやがったかジジイ!」
「ええい! うるさいのはおまえじゃ! 見よ! 太陽に照らされて輝く地球の美しい姿を!」
「テメェが自分で太陽はねぇって言ったんじゃねえか!」
「馬鹿め! アイこそが太陽だということが分からんのか!」
「分かるわけねぇだろ! 俺に分かるように説明しやがれ!」
『誰もが目を奪われていく♪』
「フン、なるほど……」
「隼人くん、なにか分かったの?」
「ああ、ミチルさん。あの惑星……地球のみならず、火星や木星にまでも凄まじい数の生命が生きている」
「私たちの太陽系とは、違うということね」
「それのみならず……どうやら、ハチュウ人類も、百鬼帝国の鬼も無数にいるようだ」
「え? それって、どういうことなの? ハチュウ人類はゲッター線には……」
「さて……俺たちとは違い、共存共栄の道を見出したのか、あるいはまた別の何かか……」
『君は完璧で究極の――』
「分かることはそう多くはない。だが、ひとまずこの歌は、いい歌だ」
「そうね。心に沁みるというか……」
「この歌が、導いたのかもしれんな……あの星々を、ゲッター地獄ならぬ、ゲッター天国に」
「ゲッター天国……すべての命が、ゲッターと共に生きられる理想郷と言うこと?」
「それは分からん。だが、命のゆりかごたる星々をその体内に抱えるゲッターは……まるで母のようだ」
「……星を守護する、母なる神、ね」
『――ゲッター!』
突然曲調が変わった。ゲッター艦隊の誰もがついていけなかった。
だが、ついていけている者はいた。星々に住まう、無数の命たちが。
ゲッターと共にあり、ゲッターに守護され、宇宙を旅してきた命たち。
宇宙船人類希望号となったエンプレスマシンと言う揺籃に揺れる命のきらめきが。
『明日の希望を取り戻そうぜ!』
そこに、人類も、ハチュウ人類も、鬼も、インベーダーも、関係ない。
その歌に導かれ、時としてぶつかり合いながらも、宇宙を守護する機械の守護神に慈しまれ、分かり合ってきた。
あまりにも永き時を必要とした。いくつもの星の命が終わるほどの長い年月を経て。
時として争いながらも、母なるゲッターロボに窘められながら、融和を成し遂げて来た命たち。
『強く今を生きる
その命の全てが星野アイと言う超時空アイドルによって、脳味噌を芯までこんがり焼かれている。
そんなどうしようもないドルオタどもが、星野アイの無茶振りに応えないわけがないのだ。
『星のない夜の、静寂を引き裂き
「アイー! この帝王ゴールを見てくれー!」
「アイちゃぁぁぁん! ホッ、ホワァァァ! このブライ大帝こそ見てくれぇー!」
「ゴーラ殿、あなたの父だぞ。応援していないでなんとかしてくれ」
「十方鬼さんこそ、あなたの上司でしょ。あなたも応援していないでなんとかして」
『吹きあがるマグマ、時空さえ歪めて! 世界が燃える!』
「なんと素晴らしい歌なんだ……心が洗われていくようだね、スティンガーくん!」
「う、うん! オタ芸にもますます磨きがかかるよね、コーウェンくん!」
「君のオタ芸が僕のオタ芸に逆流してくる! これが進化! 進化ってスゴイ! ね、そう思うでしょ? スティンガーくん?」
「う、うん! それに、オタ芸ってすっごく気持ちいいよね! コーウェンくん!」
『怯え惑う人々の命、この手で!』
「アイ姉ちゃん可愛いぞー! こっち見てくれー!」
「これこれ、アイドルやっとる星野の嬢ちゃんを姉ちゃんと呼ぶのは無しじゃぞ、元気くん」
「あ、そうだったっけ」
「相変わらず染み渡る歌じゃあ……わははは! 儂の死に様記念写真のコレクション鑑賞が捗るわい!」
『救うために許せない敵を! 倒せ!』
すべての命が、すべての星で、アイと言う太陽に照らされ、輝いている。
そして、エンプレスマシン1号機、エンプレス・アイドルの上部甲板が展開される。
太陽系の惑星全てを格納していたエンプレスマシン2号機、3号機。
エンプレスマシン1号機もまたそれと同じく、その内に輝ける星を宿している。
眩い光を放ち、この暗い宇宙を温める、燃ゆるたつ星。太陽。
太陽系の中枢に座し、全ての星々に等しく熱を注ぐ命の源たる星。
その輝きなくば、全てが凍り付き、命の輝きは喪われ往くだろう。
地球の存在した太陽系、その全てを飲み込まんばかりの超巨大赤色巨星が輝く。
『燃ゆる命の嵐を胸に!』
太陽系の全てを内包し、その全てを温める太陽までもを内包したエンプレスマシン。
それを駆るは、日輪の輝きを纏い、この宇宙の全てを温める超時空アイドル。
響き渡る歌声で、世界全てに魔法をかけて、とびっきりの嘘を本当にして見せる。
『戦う時だ、叫ぶぜ――アイドル!』
また曲調が変わる。決して交わらないようでいて、交わっていく歌。
ゲッターとアイドル、その輝くような夢が、この宇宙で交わっていく。
この宇宙にただ1人、誰よりも輝くゲッターアイドルがここにいる。
この宇宙を守護する機械の神を駆り、誰からも愛されるアイドルが。
『弱点なんて見当たらない♪』
誰も彼もを虜にしていく。全ての人々を魅了していく。
その輝きに、誰もが眼を晦ませていく。身を焦がされていく。
火に群がる蛾のように、自分が焼け落ちてしまうと分かっても止まれない。
この宇宙に生きる全てを魅了する、ゆえにこそ、超時空アイドルなのだから。
『一番星を宿してる♪』
「アイー! 可愛いよー! ……これ、自画自賛になっちゃうね。まぁ、可愛いんだけどね?」
「星野司令! 旗下の艦隊においてサボタージュが連続的に発生しています!」
「ああ、どうせアイを推してるんでしょ? 放置で。私は推し活で忙しいから」
「そ、そんな! ……ずるい! お、俺も推すぞ! うおおおお! 宇宙一可愛いよー!」
『弱いとこなんて見せちゃダメダメ♪』
「隼人司令官! エンペラー参號艦旗下の艦隊の54%が行動不能です! もはやあれは敵です!」
「敵と言えるのか? 歌っているだけなのに? 皆がいい歌に聞き惚れているだけだ」
「し、しかし! このままでは艦隊運動すらも!」
「少しくらいズレたところで構わん。ここに踏み込んで来れる敵なぞおらん」
「ですが! 隼人司令官! まず、そのサイリウムとうちわを降ろしてください!」
「邪魔すんじゃねえ! 目だ――――!」
「ぐわ!」
「耳だ――――!」
「ギャァァア!」
「鼻――――!」
『知りたくないとこは見せずに♪』
「ジジイ! どこからそのキーホルダーだののグッズを拾って来やがった!」
「物販が各艦に来ておるのよ! まったく、親子グッズなど出されては儂の財布が薄くなってしまうわ!」
「シールドがいつの間にか突破されてんじゃねえか!」
「ふん、儂が解除したのよ! 物販が来れぬではないか! 見よ! この親子写真を! なんと幸せな光景か!」
「ふざけんな!! って言うかなんで2つも3つも買ってやがんだ! 1つで十分だろうが!」
「竜馬! この馬鹿者めが! 保存用に加え、布教用は必須に決まっておろうが!」
「馬鹿なのかテメェは! 俺の分はあるんだろうな!?」
「ぬっふっふ、まったく素直じゃないやつ。ほれ、1枚くれてやろう」
「チッ! 礼は言っておいてやるぜジジイ!」
『唯一無二じゃなくちゃイヤイヤ♪』
各エンペラーマシン旗下、ゲッター艦隊が瓦解していく。
ロクな艦隊運動も取れずに落伍していき、そしてゲッターライブ会場を取り囲むように進み往く。
その魂を囚われ、アイに惹かれ、堕ちていく。
もはや、ゲッター艦隊は艦隊の体を為さず。
そこにいるのはただ、星野アイに心を奪われたドルオタだ。
2つのゲッターロボの旗下にある者たちが、1つのドルオタとなっていく。
それを表わすかのように、ゲッターを表わす力強い曲と、アイドルを謳う愛らしい歌がマッシュアップしていく。
『それこそ本物のアイ♪』
曲と歌が融合し、混合し、融和していく。
ゲッターロボとアイドル、その2つが融合し、エンプレスマシンが生まれたように。
本来、交わらないものを交わらせて来たアイが歌うからこそ。
エンペラー旗下の人類までもを、魅了していく。
『燃ゆる命の嵐を胸に戦う時だ!』
宇宙が揺れ動いていた。
超時空アイドル星野アイのライブに、全ての命が叫んでいる。
誰もが皆、その魂を奪われていく。
だというのに、そのことに誰も後悔をしない。
エンペラー旗下の、魂を奪われた者を止めようとした者まで堕ちていく。
誰もが信じ、崇めている。それはまさに最強で無敵のアイドル。
『叫ぶぜゲッター!』
「いつつ……センパイ、俺にもサイリウムとうちわをくれねぇか」
「しょうがないなぁ。ほら」
「へへ、どうもどうも。実は、センパイの歌は俺もよく聞いてたんだぜ?」
「子供向け番組のやつを、でしょ」
「まーな。でもよ、こういう歌も、いいな!」
「でっしょー!」
『夢と平和を奪い返すぜ!』
「隼人くん、大変! ツーショットチェキ券が早乙女研究所関係者限定で販売してるわ!」
「なんだと!? 今すぐ行かねばならん! ミチルさん、ここは任せた!」
「馬鹿言わないでちょうだい! 私だって欲しいわ!」
「なら艦橋なんぞどうでもいい! 行くぞ!」
「ええ!」
『たったひとつきりの青い
「ジジイ! プライベートツーショット写真は汚ぇんじゃねえか!」
「黙れ竜馬! 貴様こそ、アイくんとハートマークを2人で作っている写真を持っておるとは何事だ!」
「うるせぇ! あいつがどうしてもやれって言ったんだ!」
「ぬぅぅぅ! 貴様、もはや許せん! そこに直れ!」
「上等だジジイ! 次のジジイにしてやらぁ!」
『よーし、みんな! いっくよー!』
長い間奏に入るや放たれたアイの号令に、全ての者たちが動きを止めた。
物販に向かおうとした隼人とミチルも。
リアルファイトを始めようとした竜馬と早乙女博士も。
エンプレスマシンが抱く太陽系の命、全ても。
『ゲッタァァァァ――――!』
「そうか! そう言うことだったのか……!」
「いったいどういうこと!? 説明して隼人くん!」
「なぜ向こうのゲッターがゲットマシン形態なのか! ライブ会場に都合がいいからとだけ思っていたが!」
「そんな、まさか! ここ一番に来て、合体をするつもりなの!?」
「おそらくは!」
「興奮のし過ぎで死人が出るわよ!」
『チェェェ――――ンジ!』
「ウオオオオオ! ゲッター線指数がどんどん上がっていく! エンペラーのシールドでも危険です!」
「合体フォーメーションに入っただけでこれってか! ゲッターエネルギーがビリビリ来やがる! エンペラー並みなのは間違いなさそうじゃねえか!」
「さすがは元祖ゲッターチーム、と言ったところか! 伊達じゃない!」
「へんっ、ジジイ、あっちが合体するってんならよ! こっちもやってやろうじゃねえか!」
「そうか! そうじゃな! こちらも伊達ではないというところを見せつけてやれい竜馬! 武蔵とアイくんは役に立たんようじゃから、弁慶を呼び出せ!」
「おうよ! 隼人ォ! 弁慶ェ! 俺と合体しろォ――――!」
『エンプレスチェンジだよ! 2人とも、いっくよー!』
「合体だと!? そうか! 相手が合体するって言うなら、こちらもか!」
「隼人くん! アイちゃんに情けない姿を見せるわけにはいかないわ!」
「了解だミチルさん! 行くぞ竜馬! エンペラー1だ!」
『了解! いつでもいけるぞアイ!』
「あっ、ちょっ、弁慶! 合体するなら私に譲って!」
「いや、俺だ! 俺にやらせろ! 弁慶!」
「やめんかセンパイども! 最初から真面目にやってりゃよかったんだ!」
「自分もサイリウム振ってたくせになに言ってんの!?」
「その法被を脱いでから真面目ぶったこと言いやがれ!」
『オッケーママ! 超銀河アイドルの姿、魅せつけてやって!』
「こっちもエンペラーチェンジだ! 往くぞ隼人! 弁慶!」
「おうよ! やってやれ竜馬ぁ!」
「素人のガキ2人連れたアイに遅れを取るなよ竜馬!」
「へっ! 誰に物言ってやがんだ!」
『チェェェェンジ! ゲッターエンプレス1!』
『チェェェェンジ! ゲッターエンペラー1!』
そして、白亜のゲッターエンプレスと、深紅のゲッターエンペラーが並び立った。
迸るゲッター線が、ゲッターエネルギーが激突し、時空にまでも穴を穿ち。
どこまでもどこまでも、並び立つ深紅の皇帝と白亜の女帝が進化を遂げて行く。
「うおおおおお! 凄まじいゲッター線指数じゃ! これは新たなる進化を促すほどの!」
「エンペラーが! いや、エンプレスまでもが進化を遂げていく! ウオオオオ! どこまで行くんだ! どれほどまでに強大になっていくんだ! ゲッター!」
「この星系全てでもまるで足らぬ! このまま銀河を超えて! ゲッターロボは進化してゆく! この宇宙を飲み込むほどに!」
「なんてこった! エンペラーが、エンプレスが! さっきまでの5倍はでかくなりやがった! 見ろ、エンプレスから出て来た太陽が芥子粒みてぇだ!」
「いや! まだだ! まだ大きくなっている! アイドルとは、これほどまでの!」
『さぁみんな! 盛り上がっていこう! ゲッターマイク!』
ゲッターエンプレス、その肩部から飛び出すのはトマホークではなく、マイク。
スタンドマイクの形をしたそれを手に取るや、ゲッターエンプレスの全身からサウンドブースターが姿を現した。
緑の燐光を発して煌めく粒子が輝き、銀河系をも囲う超巨大サイコシャードの円環が作り上げられ、エンプレス頭頂を覆う。
それはまるで、この世に降臨した天使がごとき姿であると言えるだろう。
エンプレスに込められた数多の技術が、想いが、技が、力が。
今この瞬間、最高のライブを創り上げるために、輝きを放っていく。
『いつかきっと全部手に入れる♪』
想いが宇宙を震わせる。アイドルの輝きが、宇宙を照らしていく。
「そうか、俺たちは……!」
「そうだ、この進化を遂げた果てで、超時空アイドルの歌を聞くために」
「こっから先に、人類、いや、全ての命で行けるってのかよ……!」
『私はそう、欲張りな――ゲッター!』
サイコシャードが、サウンドブースターが、アイの歌を響かせるために煌めく。
この全宇宙、いいや、この宇宙をも超え、全次元を貫き、全並行世界、過去未来に渡って。
ここに響く音色を束ねて歌とし、その全てに魔法をかけて魅せる。
『明日の希望を取り戻そうぜ!』
宇宙を消滅させる機械の化け物だって、星々を喰う魔物だって。
その全てを虜にしてみせる、全て堕として見せる。
だって、そう、彼女は欲張りなアイドルなのだから。
『強く今を生きる同胞の腕に!』
輝く未来に、全ての命で進んでいけると言う希望を齎すために、歌う。
みんなで手を取り合って、みんなで仲良く生きていけると信じて。
その先に進んでいって、その先にいるものとだって、手を取り合えると信じて。
この宇宙の外側にいるだろう何者かだって。きっと、虜にして見せる。
『赤き血潮が激しくうねる!』
「凄いよ……凄すぎるよママ! 星が、銀河が! ううん、宇宙が! みんなママの虜になっていく!」
「凄い……! あまりにも凄すぎるアイドル! アイはどこまでアイドルになってゆくんだ!」
「見てみたい! この先が! ママがどこから来て、どこまで行くのか!」
「俺も、見てみたい! アイと共に往けば……きっと、すごいものを発見する!」
「いっしょにいけるんだ! このままずっと、ママといっしょに!」
『正義の
「へへ、これがアイドルの力かよ、大したもんじゃねえか……」
「なんてことだ! ゲッターの進化は止まらない! 加速する!」
「これ以上に進化してしまうと、俺たちは真ゲッターエンペラーになっちまう!」
『等身大でみんなのこと♪ ちゃんと愛したいから♪』
果てなき進化を遂げて、行き詰ろうとしていた進化などなかったかのように。
エンペラーが、エンプレスが、無限大に、無尽蔵に進化していく。この宇宙を飲み込まんばかりに。
お互いが存在を求めていた。自身に並び立つものを。それをなんと呼ぶのか、ゲッターは未だ知らない。
『今日も嘘をつくの♪』
「わはははは! そうか! これが! これがゲッター線の求めていた進化!」
「エンペラーは、エンプレスを求めていたのね」
「そうだろうとも。この広い宇宙に、独りぼっちでは寂しいものなぁ」
『この言葉が、いつか本当になる日を願って♪』
「おお……! ゲッターが、どこまでも突き進んでいく! この宇宙を突き破らんばかりに!」
「これが、ハチュウ人類の……いや! 宇宙船人類希望号の船員たちの、未来!」
「われわれ鬼たちの未来もまた、ここに……!」
「すべての命が、共に往ける!」
『それでもまだ♪』
「人類と人類が手を取り合える日が、いつか来るのか?」
「さぁな、分からん。だが、エンペラーとエンプレスが並び立つ限りは……」
「そうだな。それがいつになるかは分からん。俺たちの代では無理かもしれんが」
「それでも、いつかきっと、辿り着けるのだろうな」
「この宇宙をあらゆる敵から守る機械の守護神と」
「この宇宙を脅かす敵を滅ぼす機械の破壊神がいるのだから」
『君と君にだけは言えずにいたけど♪』
「とんでもねぇな、星野さんはよ」
「超時空アイドルだからな」
「しかも美人で可愛い」
「その上、俺らの大先輩だってんだから」
「50過ぎても20代に見える妖怪だ」
「これくらいできちまっても、おかしかねぇか! 悪いことじゃねえんだ!」
『ああ、やっと言えた』
「この未来も見えてたのかよ」
「いいえ。でも、ワクワクしていますよ。こんなこともあるのだと知れて」
「おもしろい人生ってやつが、ちっとは分かったんじゃねえか」
「ええ。何も分からない、だからこそ面白い。こんなことがあるとは知りませんでした」
『これは絶対嘘じゃない、愛してる♪』
「凄いアイドルになっちゃったね」
「うん。自分でもびっくり」
「私は愛を知りたかっただけなんだけどね」
「私はゲッター線にヤキを入れたかっただけなんだけど」
「でも、私たちはさ」
「うん、欲張りだから」
「どっちも欲しいし」
「もっと欲しいんだ」
「うん、だからこそ」
「そう、だからこそ」
『みんな、愛してるよー!』
人類史上、否、宇宙開闢以来最大で、究極で、空前絶後の。
そして、いずれ通過点となり、過去となるアイドルライブが終わった。
白亜のゲッターエンプレス。
深紅のゲッターエンペラー。
その2体が相対し、そして、どちらかともなく腕を持ち上げ、拳と拳を合わせた。
「ねぇ、竜馬」
『おう』
「久し振りに、喧嘩しよっか」
『理由はなんだ?』
「エンペラーをボコボコにして、ゲッター線に詫びを入れさせてやるためだよ」
『へっ! いい度胸じゃねえか! こっちこそ、おまえ1人で死んだ件についちゃ許してねぇんだ! 死ぬときゃ一緒だろうがよ!』
「そりゃ竜馬が寝ぼけてたからでしょ!」
『関係あるか! 負けた方が謝る! それでいいんだよ!』
「負けた方がジュース奢りだからね!」
『上等だァ! 百年分奢らせてやらぁ!』
「なら私は千年分奢らせてあげるよ!」
ゲッターエンペラーとゲッターエンプレスの拳が激突し、その余波でビッグバンにも匹敵する衝撃が発生する。
ヒビのひとつも入らないお互いの拳に、エンペラーを駆る竜馬が、エンプレスを駆るアイが笑う。
「アクア! ルビー! 3つの心を、1つにするんだ! ゲッターを信じて!」
「うん! ママといっしょに! 私も、ママと踊るんだ!」
「ああ! やってやろう、アイ! 俺たちみんなで、魅せつけてやろう!」
「隼人ォ! 弁慶ェ! 気合入れろォ! マジのアイとやり合うなら油断してられねぇぞ!」
「フッ、百も承知だ竜馬! おまえこそヘマするなよ!」
「親子の絆と、俺たちゲッターチームの絆……どっちが強いか勝負ってところか!」
ゲッターエンペラーが、ゲッターエンプレスが、天井知らずに出力を上げて行く。
戦うために。今に至るまで、あまりに強大過ぎるがゆえに、出すまでもなかった真の力が。
奥底に眠るゲッター炉心が目覚め、貪欲に力を求め、輝きを放っていく。
『出たね! ゲッターチーム!』
『出たな! ゲッターアイドル!』
西暦5278年
ゲッターエンペラー、ゲッターエンプレスとの史上最大の喧嘩を始める!
これよりゲッターアイドルとゲッターチームの喧嘩、1000年に及ぶ!
そして!!
完