MSに限らず、兵器を強くする方法としては、追加機能を与える事が一般的だが、実際は、むしろ無駄を削ぐ方が重要である。
特に航空機でそれは顕著で、”俺”がいた世界でも、推力偏向ノズルが発展してくると、これで邪魔な水平尾翼や垂直尾翼を撤去できるはずだヒャッハー! って感じで尾翼を取っ払った試作機を開発している。
しかし、戦闘機の設計をする人に、一番邪魔なものをアンケートで取れば、おそらく一位を獲得するのはコクピットになるだろう。
コクピットは航空力学的に邪魔でしかなく、無駄に大きなスペースに、パイロットと言う部品を守るために、余計な機能を付けなければならない。
うん。本当に邪魔なんだよな。
「で、何処に付けるんだよ」
兄さんの呆れた口調に、我に返る。
いや、実は問題が発生したのだ。ギャプランを設計したのだが、最初のメッサーラとの比較シミュレーションでは、付け忘れた部品があった。もうお分かりだね? そうコクピットだよ。
そんなバカなと思うだろうね。僕も思ったさ。普通は無いよね。
でも、前回の演算内容って、ギャプランとメッサーラという他人様がデザインしたMSに羽を付けて、その影響で変化した装備もろもろ、それらの結果から導かれる空力適性や、戦闘力を調査しただけだからね。パクった罰だろバカって笑えば良いさ。
つーかコクピットなんか普通は問題ないって思うよね?
しかし、Ζガンダムに登場するギャプランだが、あれは全長25メートルという大型MSなんだが、僕が作ろうとしているギャプランは、ディランザのフレームを流用するので、一般的なサイズになる。
それでも、コクピットは入るから大丈夫だと思うだろうが、問題はギャプランの変形システム。
あいつ、手足は問題なく、胴体もちょっとだけ普通の可動範囲を超える程度でしかないんだがけどね。
そのちょっとの部分がさ、胸部と腹部のつなぎ目に、腹部と腰部のつなぎ目になる。
あと頭部。正確には顔ね。ギャプランの平べったい頭なら良かったけど、ディランザは顔があるんだ。そこにセンサーがいっぱい有ってね。
それで、変形システムがどうなるかというと、思いっきり下を向くことで、顔が胸部に収納されて、胸部だけで45度くらい前屈して、腹部も反対に同じくらいする。そうする事で、胸部前方と腰の長い前アーマーがくっついて腹部の関節を隠した本体が完成。そこまでいけば手足を反対に向ければ良いんだけど、分かってもらえたかな?
通常以上に、胴体の可動部を広げる関係上、接続のフレームが複雑かつ長くなって、コクピットのスペースが無くなった。
いや、基本的に。
まあ、胸部や腰部の前方に付けて装甲を薄くすれば入るだろうけど、そうなるとジェタークの矜持が許さない。
「まあ、候補はその上と下しか無いよね」
「上と下って……」
「頭の上と腰の下」
よく見ればディランザの頭ってレイズナーっぽくない? 上に風防付けてもいける感じ。いや、ちゃんと厚い装甲にするけどさ。
ちなみに下は股下になる。プラモで言うスタンドを差し込む部分。ちょっと広めになるけど、MSで内股になる機会なんて、天使の翼を広げてパサーとでもしない限り無いはず。
で、どちらを選ぶかだが、MSを作るのはコクピットからになるので、後で場所を変えることは出来ない。
でも、この際だから両方作る。試作機は基本何機か作って、色々と調査するのでちょうど良い。
まあ、コクピットが股下なんて抵抗があるし、普通に頭部だろうな。
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「やっぱり、地球の空は良いよな」
「そうだね。兄さん」
「軌道エレベーターで拘束されていたせいで、余計に開放感がある」
「でも、2時間程度だし、十分早いよ。それに座りっぱなしなのは変わらないって」
「気分が違う。全くな」
そう言って、ロールを行いながら、兄さんは嬉しそうに操縦する。
ギャプランで飛行しながら、青い空を眺める。高度1万メートル。航空機が最も安定する高度を飛行する。
この高度なら、熱核推進だけで進めるので、経済的である。
ちなみに、これ以下だと、気圧が高くて空気抵抗が強く、燃料を喰う上に速度が出ない。以上だと逆に空気が薄くて推進剤不足に陥る。
ギャプランの完成は、アスティカシア学園に入学する前に間に合った。むしろ、まだ半年くらい残っている。
兄さんは15歳。誕生日が遅い僕は14歳。試作1号機のコクピットの中で、軌道エレベーターから開発中の地域までの飛行を楽しんでいた。
複座式のギャプランは交代で操縦も出来るので、長距離移動にも向いている。
何で、複座式になったかと言うと、頭部、腰部、共に細長いスペースが得られることが分かったので、それならと複座式に変更した。
アドステラのMSは全周囲モニターなので、偵察時には、前方が観測員を務めることが出来るし、戦域が離れている場合は、戦闘用パイロットと移動用パイロットで分担できる。
かつて日本海軍が長距離移動に優れていたゼロ戦を作った結果、長距離移動攻撃を繰り返し、パイロットの消耗を招いたことを考えれば、自動操縦だけでは不安があったのだ。
それに、これまでのMSに比べて異質と言える可変MSだ。訓練時の事も考えると複座のメリットは大きい。
当然、単独で操縦も出来るので、その場合は後方に座り、前方に防御版を増やすことも出来る。
「やっぱり、天井をガラスにしたのは正解だったな。カメラ越しとは一味違う」
そう。僕たちが乗っているギャプランは、頭部を強化ガラスで覆っている。
コクピットの配置の結果? 満場一致で股間になりましたよ。
いや、宇宙でのテストを繰り返して、いざ、地球でと持ってきたら直ぐに分かったよ。頭部は高すぎて乗り降りが大変だったから。でも、一応は確認しようと、地上の警備会社の人に見て貰ったよ。
で、MS時は、頭部を収納する形にすれば、従来と変わらない。でも、変形後はどうやって降りるんだと総ツッコミが来たからね。無重力状態のときみたいにフワ~って言ったら、殴りたそうな目で見て来たよ。
股間の方はと言うと、こっちは元々下に向かって、シートが下がる方式を採用していたのが好評だった。
原理的には、股間のカバーを開いて、シートごと昇降するので、MS時には片膝を付けば、十分に地上まで届くし、変形時は更に低い位置にある。
おまけに、元々のギャプランの機首部分が股間を守るカバーとして安心できるし、変形後はビームライフルが付いてるので、防弾性能は高い。
ついでに、アス高出身者の抵抗が特に強かった。あの頭部のブレードアンテナを破壊する習性をもった生き物どもは、付近に座るなんて無理と、絶対拒否の構えだったよ。
そんな訳で、股間にコクピットを配置した試作2号機をベースに量産計画は進められることになった。この時点で僕はお払い箱さ。
ちなみに残された試作1号機は、バラして部品取りにするかと思ったが、別に要らないと放置されることになったので、兄さんの私物になった。
それで、戦闘しないならと、頭部の装甲を強化ガラスに変更して、兄さんの地上での足として、運用することに。
流石はジェタークの御曹司。フェラーリに乗るよりスケールが大きいよ。