ミオリネの事業を拡大するには、それを前提に輸送ルートの構築を進めなくてはな。
だが、それだと日本を贔屓にしているようで、角が立つのが問題か。
「暴れている相手のノーマルスーツを無理やり脱がすなんて出来るもんなの?」
「普通は無理」
そうなると他地域でも何か進めたいが……そうだ。アリヤに酪農を調べさせるか。
前世の感覚だと、チーズの種類なんて少ないし、バターの違いも分からなかったが、今生ではチーズでもバターでもヒツジから作ったものをよく食べている。
更に本来なら乳種に関わらず、世界には大量の種類のチーズやバターがある。それがどうなっているか?
『やだ! 助けて! お母さん! お母さん!』
『暴れるな! 脱がしにくい!』
「おい、グエル! 落ち着け! 落ち着くんだ!」
アリヤに事前調査をさせて、現地を確認する。
そうなると足が必要だな。フェルシーはミオリネ担当で外せないし、チュチュはオジェロとヌーノと組んで、ディランザを良い感じに進めているから、今から機種変更はなぁ。
そうなると、公共の交通網しかないか。
「グエル! いい加減にしないと、
『
「孕ませる気っすか?」
今度の長期休みで行動を開始したいんだが、でも、アリヤに公共の足を使わせると、何日も空ける事になるから、食事の問題で、全員の不満が高まり、僕の身に危険が及ぶ。
こうなると、足をするのは僕しかいないが、僕と一緒だと変な噂が……あれ? アリヤの場合は今更か。
「おい! ラウダは何を黙ってる! 止めろよ!」
「僕は現実逃避に忙しい! 邪魔をするな!」
くっ! 何が悲しくて、兄さんが水星女を襲う現実を直視しなくてはならないんだ。このヘタレチャラ男め。
僕は断固、現実を直視しないぞ!
そう言えば、ミオリネと話している時に、何か重大な件が中断されたような? 確かシャディクが関係していて……
「するな! 現実に戻れ! お前の兄貴が犯罪者になるぞ!」
五月蠅い! 思い出すのを邪魔するな!
『警告する! ただちに決闘を中止しなさい!』
「
「あ~あ、グエル先輩、捕まっちゃうかぁ」
『学籍番号LP041スレッタ・マーキュリー、その身柄とMSを拘束する」
「は?」
ああ、思い出した。確か原作でも来てたな。
だが妙だな? あの時って、ジャミングをかけて、学生に聞かれないようにしてから、ガンダムの使用嫌疑とか言ってなかったか?
それに、来るのが遅すぎる。
原作では瞬殺だったから、決闘が終わった後に来ても、ただちに決闘を中止しなさいが通じたが、今回は長時間戦闘をしていた。
それを今更やってきて何を言ってるんだ? どうやら、不自然な異変が起きている。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「フロント管理社だと?」
3機のデミギャリソンがゆっくりと舞い降りる。歩兵を乗せた輸送機も一緒だ。
デリングの使いだと考えて良い。グエルが警戒を高める。
だが、その警戒も空しく、いや正しくスレッタの拘束を告げられた。輸送機から銃を持った兵士が降りてくる。
彼女が拘束される理由など1つしかない。
デリングにガンダムの存在が知られてしまった。
ヴァナディース事変の二の舞ならスレッタは殺されてしまう。
どうする? 彼女を守りたくても、ディランザは戦闘続行は無理だ。
「下がってください」
銃を持った兵士が4人、こちらに近付いて来た。丁寧な口調だが威圧感がある。こちらを学生だと舐めているようだ。
だが、今は確認が先だ。どちらにせよ簡単に渡すつもりは無いが。
「スレッタにどんな容疑がかかっている?」
「総裁の指示です。内容は機密です」
やはりガンダムだ。
「理由が分からないのに渡す理由は無い。ここは学園だぞ」
「総裁の指示は絶対です。おい」
グエルを無視して、スレッタを強制的に連れて行く気だ。
スレッタと目が合う。怯えた表情。
「痛っ」
連行するためスレッタの腕を強引につかんだため、スレッタが小さな悲鳴を上げた。
その瞬間、身体が動いた。
「がぁっ!」
スレッタを連行しようとしていた男の腕を取り関節を決める。
残りの3人が銃を向けてくるが、関節を決めている男を盾にして動きを封じた。
「て、抵抗をしないように! 我々はデリング総裁の指示で動いています!
御三家の後継者と言えっ……」
「俺をどうするって?」
流石はフロント管理社だと言って良い。
そこそこは鍛えているようだ。
だからこそ気付く。銃を持った4人でも、今の状況ではグエルに敵わないと。距離が近すぎる。
地球の、それもベネリットグループの坊ちゃんなんて、遊び甲斐のある良いオモチャくらいにしか思わない、品があるとは言い難い傭兵に鍛えられた。そして認められた。
そんなグエルにとっては、フロント管理社の兵士は上品すぎる。
『警告します! それ以上の抵抗は止めるように!』
MSからの警告。流石にMSが相手ではどうしようもない。
「警告か。だったら俺からも警告しておく。
デリングに伝えろ。もし、彼女を害して見ろ。俺がお前を殺すとな」
そう伝えると、盾にしていた兵士を放し、一歩下がる。
むき出しの殺気に戸惑ってはいるが、警戒しながらもスレッタを連行する。
先程と違い丁寧な扱いだ。
連れ去られるスレッタと目が合う。怯えた表情だ。
絶対にデリングから解放して見せる。
心の底から、そう思った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「それでは、お願いします」
父さんとの通話を切る。父さんとサリウスが同時に動けば、デリングも無視は出来ないだろう。
それにしても、困ったことになった。本音ではスレッタはデリングに処分して欲しい所だが、そうもいかなくなった。
兄さんの行動は好意的に見ても奇行。普通に見てアレである。
フロント管理社に連行されても不思議では無いけど、実質連行されたのは対戦相手のスレッタの方である。
おまけに、最後はデリングへの殺害予告だ。
これは誤魔化せない。どうやっても誤魔化しようがない。
こうなったら真実を知らせるしかない。
先ずはガンダムの件、ヴァナディース事変の詳細や、その後の地球での魔女の残滓に関しても、ジェターク寮生だけでなく、改革派の代表に教える。
GUND関係は、ミオリネは当然として、ニカを筆頭にダメージを受ける者もいるが、見えない敵に怯える状況でも無くなった。
姿が見えた以上は腹を括るしかないし、今の状況で目的を与えれば括れるはずだ。
グラスレー寮にはダメージを受ける者が多いだろうから、そこはシャディクに一任して、残りの改革派は僕が受け持つとしよう。
「シャディク、どうだった?」
「なんとか。後で説教は免れない雰囲気だったが、要望は聞いてくれた。
むしろ、すんなりと行ったくらいだな」
「そうか。お前は
すんなり行ったことにシャディクが違和感を抱いている。何か気になるな。
サリウスの反ガンダム思想に火が付いたのか? そんなことを考えながら、改革派の代表にジェターク寮へ来るよう一斉メールを送る。
「おそらく、ミオリネもこちらに来ると思うが……」
「お手柔らかに頼むよ。もし、イリーシャ達と一緒で、こっちに来たら腹を括る」
「分かった。それで……聞きたいか?」
こちらを見ているセセリアとロウジに問いかける。
エランはすでに退席している。興味が無いわけでは無いだろうが、ペイル社への連絡を優先したのか?
「聞かせてくれるんスか?」
「是非。彼女が使用していたMS、該当するデータはありませんでしたが、似たMSがありました」
「オックスアース製か?」
「はい。すべて破棄されたと聞いていましたが……」
「アレが何かは現状では分からない。ただ、可能性はある。いや、高い。
僕たちはそれに備えてきた。そうするだけの情報を持っていたからな」
「それを知りたいです」
「分かった。着いて来い。知らせるべきと判断した者はジェターク寮に集まるようにしている。
そこで説明を一緒に聞くと良い」
移動を開始する。
父さんとサリウスには、決闘への横槍の説明を盾に、デリングに会合を申し込んでいるから、その返答が来るまでには説明を終わらせたい。
「あああああああああぁぁぁ!」
ジェターク寮の講堂に入ると、兄さんの悲痛な叫びが出迎えた。
「に、兄さん?」
そちらを見ると、頭を抱えた兄さんの正面には、タブレットを見せつけるようにしているペトラの姿。
「ほら、見てくださいよ♪ スレッタってスタイル良いですね。羨ましいです。
そして、こんな姿を全学園生に披露してくれたグエル先輩には、感謝してもしきれない男子生徒が大勢いるでしょうね♪
ちなみに、大抵の女の子は、いくらスタイルに自信があっても、他人には見せたくない格好ですね♪」
「ち、違う! 違うんだ! お、俺はぁ! 俺は何てことを!」
「グエル先輩の大胆さには感服です。
いきなりプロポーズしたかと思えば、決闘後は無理やり……それで拒否権って知ってます?」
「プロ……何のことだ?」
「へえ? では一連の流れを最初から」
に、兄さんを助けたいが……怖い! 僕が恐怖に竦んでいる!
「カ、カミル、何であのドSを解き放った」
「状況の説明を引き受けてくれたから甘えた。
グエルは反省する必要があるし、どちらにせよ、今の有様は見せた方が良いだろ?」
そう言うカミルの視線を追うと、改革派の代表がやってくる。
その中にはマルタンに引き連れられたニカとフェルシーの姿も。
「帰っていたのか?」
「うん。ただいま。
でも、びっくりしたよ。戻ったらグエル先輩が決闘してるって言うし、しかも、その相手がシン・セー開発公社のプロスペラCEOの娘だって言うし。
それで見てたら無茶苦茶強くて、挙句に最後のアレ」
困惑した表情でニカが帰還の挨拶もそこそこに、説明をして欲しそうな様子だ。
説明はするが、今は何を言おうかと考えてると、デバイスに着信が入った。エナオだ。
「どうした?」
『ゴメン。レネ達を取り押さえるのに失敗した。
多分、グエルの所に向かっている』
「なるほど。達ってことは、レネだけじゃないか?」
『メイジーとイリーシャも』
「3人ともか、困ったな……」
「も、もしかしてスレッタが怯えた目をしていたのは俺に対して?」
「少なくとも、私の知り合いには、人前で服を脱がす人に怯えない子はいませんが?
スレッタにとっては、フロント管理社は救世主に見えたかもしれませんね」
ああ、また兄さんの叫び声が聞こえる。
思考が定まらない状況に硬直していると、マルタンが通話の相手を聞いてくる。
「相手はサビーナ?」
「エナオだ。レネ達3人が脱走したそうだ。多分、こちらへ来る」
「少し代わってもらえる」
「ああ」
「マルタンだけど……うん。レネ達にはこちらで説明するよ。
そっちの方が大変だろうから、ティルとアリヤにはグラスレー寮に行ってもらってる。
……大丈夫。あの子たちはグエルの側の方が安心だろうし。じゃあ、ラウダに代わるね」
「代わった。何となく話は察したが、そちらは大丈夫そうか?」
『うん。レネ達の事はお願い』
「ああ。それじゃあ」
この後の状況が想像できるので、正直に言えば、お願いはされたくないんだが……
「なあ、あれって何だよ! アタシには何もしてくれないのに!」
……こうなるからな。
兄さんに詰め寄るどころか、抱き着いてやがる。
引き離したいが、これからの話を聞けば、兄さんが精神安定剤として必要になるしな。
「ラウダ、ガンダムの説明は僕がするよ」
マルタンがそう言いながら、そっとニカの背を押す。
「レネ達にグエルが一緒にいる方が良いように、ニカにはラウダが一緒にいた方が良い。
だから説明は僕がする」
「すまん。助かる」
随分とマルタン達には借りを作ることになるが、今は甘えるしかない。