「あれは我が社が独自に開発した新型ドローン技術です。ガンダムではありません」
やはり、プロスペラはガンダムだと認めない方向のようだ。
予想通りの展開だった。
グエルはシャディクに目配せをすると、予定通りシャディクが発言する。
「なるほど、理解出来る話です。
仮にガンダムだったとしても、それがガンダムだとは分かりませんからね。
何しろ、GUNDフォーマットがどのようなものか、我々には分からないのだから」
「総裁が存在ごと技術も消し去ってくれたお陰でね。
ラウダも自分が作ってしまう可能性があるとは言っていた」
流れを作る。審問会だが、可能ならば名目通りのシン・セーの糾弾は早々に切り上げたい。
もし、本当にヴァナディースやオックスアースの生き残りだったとしても、その目的を聞くのは今ではない。
だから、この場では有耶無耶にしてでも、スレッタを保護する事を優先する。
「先の決闘では、あの外観からガンダムであることを疑い、記録を取っていましたが、確かにパーメット流入値が基準を大きく超えていました。
ですが、データストームは検出されていません。これはGUNDフォーマットとは異なるのでは?
私とラウダは判断しました」
「だが、お前たちも外観でガンダムだと思ったのだろ? 特にグエル・ジェターク、貴様と弟のラウダは明らかに対ガンダムを意識した装備で戦闘しているな。ヴァナディース事変の事を昔から調べていたようだしな。まあ、それは良い。
その貴様らがガンダムだと思った。そう思わざるを得ない見た目をしている。
レディ・プロスペラ、それに関してはどうだ?」
エアリアルはガンダムでは無い。その流れを作る最中にデリングが横槍を入れる。
そして、案の定だが、自分たちが対ガンダムを想定していることを見抜かれていた。
だが、今はプロスペラに対する問いだ。黙ってプロスペラの返答を待つ。
「先ほども申し上げましたが、我が社はヴァナディース機関とは関係ありません。
ですが、私個人としてはヴァナディース機関とは多少の縁があります」
何を言い出す気だ? そうグエルが警戒すると、プロスペラは上着を脱ぎ、右の袖をまくると金属の腕が露わになる。
更にそれを外して生身ではないということを見せつける。
「この腕も、この仮面の下も、水星の磁場に持って行かれました。
まだ、ヴァナディース機関があった頃の話です」
「その腕、GUND技術か?」
「ええ、水星の過酷な環境で傷ついた私を救ってくれました。
エアリアルは、彼らが製作していたMSの外見を参考にしたのです」
恩義か? 意趣返しか? どうとでも取られかねない発言にグエルの足が動く。
唐突なグエルの行動に、全員の注目が集まり、追及の発言が止まった。
そのまま、プロスペラの元へ行くと、その外した腕を取る。
「これが、GUND技術か……レディ・プロスペラ、製作は可能で?」
「……いえ、多少のメンテナンスは出来ますが」
「残念。だが、このサイズなら十分に……」
「何か?」
不審そうなプロスペラに答えず、デリングに視線を送る。
「総裁、俺たちがヴァナディースに関心があるのは、この技術に興味があるからだ」
「貴様ら、ガンダムを作りたいというのか?」
「まさか。パイロットを死なせる特攻兵器に興味はない。
それに、パイロットの負担を無くせたと仮定し、戦争シェアリングの継続を望むにしても、今後は高性能より低予算が求められるんだ。売れないさ。
まして、俺たちが継続を望んでいないことは公言している通り。
だから、この技術は兵器として欲しいわけではない」
「では、どうしたい? まさか、医療技術などと言いだすほど目出度い男ではあるまい」
「いや。医療技術として進めていたヴァナディース機関の末路は知っている。
利益を出せなかった理由も当然だと思っているよ。
身体の部位欠損を前提とした技術であり、レディ・プロスペラが言ったように、水星の過酷な環境では必要だろうが、普通ならそのような過酷な環境は避ける」
そこまで言って、プロスペラの反応を読もうとするが、仮面の上から読み取れるようなリアクションは無い。
「パーメットが水星以外では発掘されない前提だとしても、中世で言う金や石油を求めていた一攫千金狙いか、他に仕事が無い人間。人類の未来を考えていた層もいないとは言わないが、それはほんの一握りだろう。
まして、月で発掘されるとなれば、この時点でGUNDの開発は、凍結が妥当だとも思う」
「では、なぜ興味を持つ?」
「服だ。部位欠損ではなく、身体全体を覆うもの。
理想は服の下に着れるくらい薄い方が良いが、これを見た限りだと望みは薄い。
だが体積的に見て、素材の面をクリアすればノーマルスーツなら不可能ではないと思える」
少しプロスペラから反応があった。わずかな揺らぎで、すぐ側に居なければ気付かなかっただろう。
その揺らぎを指摘することなく、サリウスに視線を向ける。
「現在、宇宙で生活する上での低重力環境の影響から、筋力や骨密度の低下による運動障害が問題になっている。
そこで、GUND技術によるノーマルスーツを車椅子の代わりにする。
先に言ったように課題は素材になる。よってマテリアル系の企業と提携して開発を進めることが出来た。
ヴァナディース機関の経営陣は提携相手を間違えたな」
プロスペラの揺らぎの幅が大きくなっている。
困惑、驚愕、怒り、確かに揺れている。
その正体が、自身が道を誤ったからか、自身の恩人、または親しい者の助言できなかったからかは分からない。
いや、少し違う気がする。あるいは、プロスペラはオックスアースの人間で、彼女がヴァナディース機関との提携を勧めたか?
いや。それは違う。それなら後悔か自責になるが、その反応ではない。
その反応に悩みながらも表に出すことなくデリングに視線を向ける。
「そろそろ、総裁にこそ必要になるのでは?
何時までも健康ではいられないでしょうに」
始めてデリングと直接に対面したのは10年前。あの頃は元軍人だと言われれば、それ以外は無いと思える男だった。
だが、大半を地球で過ごしている父親のヴィム・ジェタークが、10年前より若返ってる気がするのに比べ、明らかに老化が進んでいる。
「なるほど。確かに、そうなっていれば、我々がヴァナディース機関に攻め込むことは無かっただろうな。
そして、有益な商品が開発されていた可能性を否定はしない。
だが、ヴァナディース機関が提携したのは、服の素材を研究するマテリアル系の企業ではなく、MSを開発するオックスアース社だった。
そしてガンダムが生み出された。だから抹殺した。それが事実だ」
「そのガンダムを抹殺したという認識だが…」
そこに割って入ったのがヴィムだった。
父が例の件を言い出すのは予想が付いたので沈黙する。
「残念ながら、抹殺とは程遠い状況だ。
地球では残党が蠢いている。しかも、我々が支援して立ち上げた民間軍事会社が、難民からはぐれた子供を保護しているのだが、それを買いたいと抜かしてきた奴がいる。
そこを追って潰したら、オックスアース社の残党だった。
要するに子供を使った人体実験が続いている」
「それで?」
冷静を装いながらも質問するデリングから殺気を、いや明確な殺意を感じる。
だが、それ以上にプロスペラから、激しい怒りを感じた。
「俺たちが潰したのは、トカゲの尻尾切りにあった末端だったよ。
残された設備から見て、かなりの資金が投入されていたはずだが、その出資元に届かない。
俺と、サリウスと、その民間軍事会社のトップは、かなり裏の事情に精通している奴だが、その目を搔い潜った。かなりの大物が絡んでいるぞ」
デリングから激しい怒りを感じる。その大物に心当たりがあるのだろう。
同時に黙って聞いているペイル社のCEOに違和感も持った。何だ? 怒りや困惑は感じない。
だったら……いや。何もない。だからこそ不自然だ。取り澄ましている。まるで、何かを悟られないようにしている。
「そんな状況です。今回は明らかにオックスアースの残党でしたが、その技術に関しては部分部分が継ぎ接ぎになりながらも広がっている可能性があります」
そんな怒りが渦巻いている場に、シャディクが冷静に語り掛ける。
この場を収めるために、まとめに入りだした。
「明確な定義が無い以上は、これから困ります。
総裁がGUND技術を隠ぺいしているのではない限り、ガンダムには何らかの明確な定義を設けるべきです」
これでよし。この定義を決める会議が始まれば、こちらの意向、つまりエアリアルはガンダムでは無いと定義付けすれば良い。
データストームが発生していないことを前面に出せば、スレッタを救い出せる。
「いや、ガンダムの定義なら決まっている」
だが、デリングは煩わしそうに宣言する。そこには異論は許さないとの自負が見えた。
「へえ、その定義とは?」
「グエル、貴様は気に入らないようだが、我々がガンダムを禁止した理由を知らんとは言うまいな?
まさか、アーシアンが開発したMSが高性能だから禁止したとでも?」
「そんな訳あるか。パーメットの流入でパイロットに甚大な負荷がかかり、使用したパイロットを死に至らしめるからだ。
そして、そのようなMSが誕生すれば、死ぬことを覚悟すれば強力な力を得られると思う奴が出る。
死を覚悟しての戦闘。一見、美談に思えそうだが、道具を使用した常態になれば、より悲惨な戦争を招く」
兵士に使用する麻薬であり、特攻兵器でもある。
勇敢な兵に続こうとする狂信が生まれ、仮に恐怖しても使用を促す同調圧力。更に使用した者の家族や友人の怒り。心を壊す兵に、行き場を求める憎悪を抱えた者。
それを他責、敵の所為にして怒りと憎しみが生み出され、戦争は過激になって行くだろう。
「その通り。つまり、ガンダムはパイロットが死ぬからガンダムなのだ。
そして、エアリアルを使用したスレッタ・マーキュリーは死んでいない。しかも、身体検査を実施しているが、至って健康そのもの……」
デリングの話は気になるが、スレッタが無事だと知って安堵する。
「……よって、エアリアルはガンダムでは無い」
拍子抜け。そうとしか言えない結末に呆然とする。
「確かに、その外観と能力から、ガンダムであるとの疑惑が浮上した。それでパイロットを拘束し、MSを捕獲した。
そこに、ジェターク社とグラスレー社の両社から、拘束の件で強い問い詰めがあった。
よって、今回の審問会を開いだが、すでに結論は出ている。あれはガンダムでは無い。
シン・セー開発公社は見事なMSを作った。外観に関しては、私に多少の含むところがありそうだが、それに関しては可愛いものだろう」
お前に比べては。そう言いたげな視線にグエルは何も言い返せない。
確かに、自分の過去の言動に比べれば、外観を真似した抗議など実に可愛らしい。
「ソ、ソウデスネ」
「我が社のMSを認めていただいただけでなく、お褒めの言葉を賜り感謝いたします」
居たたまれない空気を破ってくれたのはプロスペラだった。
父や
「それでは娘を解放していただけるので?」
「ああ。そして、アスティカシア学園への転入も問題ない」
「それは良かったです。
ですが、娘の状況について、間接的に聞いたのですが、転入してから行く当てもなく、MSで寝泊まりしていたとのことですが、そのところはどうなっているので?」
「中規模以上の企業は寮を所有しているし、そうでない場合は関係する企業に世話になる。
代々、そうなっているが何か問題でも?」
ジェタークのような大身なら単独で、更に傘下企業も加わることが出来るし、地球の企業の地球寮のように近いものでの寄せ集めといった具合に、横の繋がりで所属する寮が決まる。
「我が社は辺境にある上に、何処かの傘下という訳でも無いのです。それどころか、寮に所属しなければならないというのも初耳でした」
思い返してみれば、入学案内には記載されていない。
そもそも、入学案内といっても、所属する企業あってのアスティカシア学園だ。その辺りのルールは校則より上の企業規則に近いものがある。
「……なるほど。確かにこちらの不首尾だな」
理事長としては、痛いところを突かれた気分だろう。
「改善を約束するとしよう。
だが、シン・セー開発公社の場合は、ジェターク社との繋がりがあっただろう。事前に連絡をしたのか?」
今度はプロスペラが気まずそうに沈黙する番だった。
代わりに答えたのは父だった。
「何の連絡も受けていないな」
「ふむ。もし、連絡をしていれば、今回の決闘騒動は無かったのではないか?」
確かにそうだ。事前にシン・セー開発公社の令嬢が転入すると聞いていれば、ジェタークで受け入れ態勢を整えていた。
そこでエアリアルを見ていれば、表に出さずに裏でプロスペラに連絡を取って、デリングに知られること無くGUND技術について聞くことが出来たかもしれない。
「報・連・相って、大切ですね」
「……そうだな」
笑って誤魔化そうとするプロスペラと呆れるデリングを見ながら、今回の騒動は何だったんだとグエルは頭を抱えるしかなかった。