「では、入寮先ですが、ジェターク寮は御嬢さんを歓迎しま……」
「お待ちください」
グエルが気を取り直して、スレッタの受け入れ意思があることを伝えようとすると、ペイル社のCEOから声が上がる。
「シン・セー開発公社は、ジェターク社との縁があるようですが、先の決闘の結果がアレですから……
同じ女性として言いますが、彼と同じ屋根の下で過ごすのは抵抗があるでしょう」
今回の審問会が始まって直ぐに、先の決闘の映像は流されている。
そこには、当然ながらエアリアルの高性能と、そのパイロットの高い技量と共に、最後のグエルのやらかしも映っていた。
「お嫌でなければ、ペイル寮に来られては? 歓迎いたします」
悪い話では無い。理屈で考えれば正しいだろう。
だが、グエルの感情は否定していた。
スレッタをペイルに行かせたくないと思ってしまう。
先程見せた取り澄ました感じの所為か?
「それなら、グラスレーでも構いませんね。少なくともジェタークとは共同で行っている事業もあるし、縁で言えばこちらに近い。グラスレー寮も歓迎しますよ」
シャディクがプロスペラに語り掛ける。
だが、それを助け船とは感じなかった。
ああ、ただ、スレッタを余所に取られたくないようだ。
「それは光栄です。選ぶのは娘になるので、聞いてみようと思います。
ただ……」
そう言って、グエルを仮面をした目で真っ直ぐに見つめる。
「彼の行動は、娘の身体を思いやってのこと。
ああも、娘の事を気にかけてくださる相手の側にいれば、親としては安心できるのですが」
そう言われて安堵する。同時にプロスペラが娘の事を大事にしている事が伝わった。
「ありがとうございます。
それと遅くなりましたが、御嬢さんに、怖く恥ずかしい思いをさせたこと、本当に申し訳ありませんでした」
「それでは、娘を迎えに行きます」
そう言ってスレッタの元へと向かうプロスペラを見送る。
スレッタが何処を選ぶかは不明だが、謝罪の機会を与えるとして、グエルは父とシャディクとサリウスと共に待つことにした。
ペイル社は、その気があるならと連絡先だけ伝えて去っている。
改めてペイルには不穏な影を感じた。ラウダの読みだと今学園にいるエランは、本物のペイル社の後継者では無いとのことだが、ガンダムの技術を狙ってくる可能性はある。
それにペイルだけではない。今回の審問会では、何処か妙な感覚が付きまとっていた。
それが何かまでは分からない。それに関して悩んでいるとヴィムがサリウスに声をかける。
「アイツ等、組んでいるのか?」
「おそらくな。デリングめ、プロスペラと何か企んでいるぞ。
それに、あれはガンダムだろう。それと知って組んでいると見た方が良い」
その言葉で違和感が氷解した。
そうだ。デリングの反応が違う。何がとは上手く言葉に出来ないが、らしくない。そう感じていた。
自分と同じように感じながら、互いの親ほどデリングの違和感を感じきれなかったシャディクがサリウスに質問する。
「組んでいる? じゃあ、今回の審問会は茶番だったと?」
「少し違うな。おそらく、こちらが何もしなければ、調査はしたが問題なかったとでも言っただろうな。
決闘の後に介入したのは、ある意味、保護だったのだろうよ」
「あの様子だと、両方ともオックスアースの残滓とは無関係なようだが、グエルはどう感じた? プロスペラの直ぐ近くにいただろ」
「激しい怒りを感じました。デリングと同調しています。
魔女で間違いないでしょうが、出自としては、オックスアースでなく、ヴァナディース機関の方でしょう。
ただ、その前のオックスアースと組んだ件の反応では、後悔とは少し違う気がしたので断言は出来ません」
「ふむ。オックスアース社の出身でも、ヴァナディース機関に出向していた者は人体実験とは無関係だった可能性が高いし、親しい間柄の人間がいても不思議では無いが……」
「魔女を敵視している魔女か。
むしろ、地球での残滓をデリングが知っていたら、その対抗策に手を組んだと考えられたが」
「あの反応だと、知らなかったと見るべきでしょう」
「そう言えば、先程の介入のタイミングについて、ラウダが不審を持っていました。
ガンダムと疑った上での介入なら、戦闘中でも良かったと。まるで終わるのを見計らっていたかのようなタイミングで来た」
「確かにな。まさか、決闘するのが目的だったか……狙いはホルダー、ミオリネの件か?」
勝利するつもりだった。その後、改革派と交渉するつもりだったか?
「それならペイル社に入寮するな。エランと組めばグエルにも勝ち目があると思うが?」
「1対1でなく? いや、ラウダをそこまで甘くは見てないでしょう。即席のコンビより、グエルとラウダのコンビの方が脅威です」
「ふむ。判断材料が少ないな」
「今は警戒するしかないか……こうなると、水星ちゃんが何処を選ぶか怖くもありますね」
「そうだな。ジェタークに入寮して、ラウダをどうにかしてからペイルにという選択もある」
ラウダが標的と聞かされると不安になる。
本当にスレッタがそんなことをするのだろうか? それに、今更ホルダーを狙って、そこまで大掛かりな?
いや。それより、ラウダの名が出た際に、何か引っかかりがあった。今、ラウダはここにいない。その理由は……
「ラウダを拒否した理由……技術的な面か?」
「グエル?」
「デリングとプロスペラが組む理由だが、むしろ技術的な面での利害の一致の方が説得力がある。
だが、ハッキリ言って、エアリアルが量産できたとしても、それほど必要とはされないだろう。
むしろ、特攻兵器のままの方が、悪い意味での士気向上が可能なくらいだ。今の情勢では単に高性能なMSを必要とするとは考えられない。
まして、デリングがそれを望むことは無いだろう。
だから、全く別のアプローチからの画期的な技術が……」
「それに感づきそうなラウダを拒絶したと?」
今回の審問会では、ヴィムはラウダの出席を望んだが拒否されている。
そして、デリングとプロスペラが組んでいる。
その理由としてラウダなら気付きそうな、GUNDの新しい使用方法があるのかもしれない。
「なるほどな。学園以外でも警戒するに越したことはないな。
だが、今は謝罪することを優先しよう。警戒しながらでは謝罪も何もあったものではない。特にお前は素直すぎるからな」
「はい」
ヴィムの正論に心を落ち着けるよう努める。
そうだ。今は余計なことは考えず、スレッタの気持ちだけを優先するべきだ。
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スレッタは閉じ込められた一室でヒザを抱えていた。
自分が閉じ込められた理由は名言こそされていないがガンダムの使用嫌疑らしい。
エアリアルが、ベネリットグループで禁止されているガンダムだったと言われた。
使用したパイロットを殺す非人道的なMS。
そんな事は無い。エアリアルに乗って身体がおかしくなったことは無い。
だが、そんな訴えは全て無視された。
最初は服を脱ぐよう命じられ、複数の医者らしき人物に身体中を見られた。
痣の確認らしいが、薄暗い部屋でライトを当てられる。部位によっては羞恥に泣きそうになった。
そんな精神的にダメージを負ったところに、大声での尋問。全く身に覚えの無いことを、さも隠している前提で問い詰められる。その内、そんなことがあったかもしれないと思うようになってくる。
たった1日のことだが、すでに憔悴していた。
明日も尋問を続けると言われ、何時呼び出しが来るかと震えながら待っている。
帰りたい。水星に帰りたい。
そう思っているとドアノブが動いた。恐怖に身を竦める。
「あら?」
だが、予想に反して現れたのは、母のプロスペラだった。
スレッタは泣きながら抱き着いた。
年甲斐もなくとか、そんな余裕はなかった。ただ母の温もりに甘える。
「お母さん、お母さん」
「怖い思いをさせちゃったわね」
どれくらい時間が経ったのだろう、落ち着いてくると、母が来た理由が気になった。
「お母さんは、どうして?」
「ええ、エアリアルがガンダムだって疑われちゃったから、その誤解を解きに。
これは、お母さんにも悪い所があるんだけど」
そう言って説明をしてくれる。
エアリアルは、母が昔世話になった人たちが開発していたガンダムの外見を参考にしていること。
エスカッシャンも、そのガンダムが目指していた技術を、独自の技術で獲得したこと。
だが、その所為でエアリアルをガンダムだと思った人が出てきた。
「ジェターク社のグエルさんも、その1人ね。
ただ、彼の場合はGUND技術も頭ごなしに否定はしていないみたい。私のことも疑っていたみたいだけど、先ずは交渉を考えていたみたいね。
彼の決闘の条件。憶えてる?」
「えと……お、お母さんに会わせろって…」
そう言う事だったらしい。
「え? でも、エアリアルを壊したいって。それに私の事を……」
「お母さんの返答次第って事でしょうね。
彼の目から見れば、お母さんはベネリットグループへ復讐しに来たって思えるでしょうから、それを止めさせてから、彼の望む方向にGUND技術を使いたかったのでしょうね。
それを拒否すれば、復讐の道具であるエアリアルを壊すってこと。
返答次第って言ってなかった?」
「い、言ってた気もする」
あの時は、そんな冷静に言葉の意味を吟味する余裕などなかった。
自分の勘違いに、恥ずかしさから顔が熱い。
「でも、彼はスレッタの身体の心配が第一で、他は可能ならって感じみたいだけどね。
ところで、そのグエルさんが謝りたいって言ってるんだけど?」
「謝る? でも、勘違いしたのは私の方だし……」
正直言って反応に困る。
「そうじゃなくて、カメラが回っている状況でノーマルスーツを脱がせたことなのだけど?」
「あ……えっと」
言われてみればそうだ。確かに恥ずかしかった。
それに怖かった。腕力はある方だと思っていたが、そんな自分がグエルの前では非力な存在だった。
年齢の近い相手がいなかった。周囲には年寄りばかりだったから……違う。思い返せば銃を持った軍人が怖がっていた。普通にグエルがおかしいだけだ。
でも、言われるまでは、グエルの名を聞いても、あの時の怖さは直ぐに思い付かなかった。
むしろ、理由を聞いて納得したくらいだ。
何故だろうと考えていると、決闘が終わった直後に見た最初の表情を思い出す。
心配する表情。そして、安心した表情は、何処か幼さを感じた。
そうだ。乱暴にノーマルスーツを脱がしていた時も、痛い思いはしなかった。
ずっと心配してくれていたらしい。自分の事を思いやっていたのだ。
あの時は気付かなかったが、ここに来ての検査で、厳しい表情で見られた時とは大きく違う。
それに、こうなると予想していたからスレッタを連れて行こうとする相手に怒りを見せていた。
「会うのが怖い?」
「ううん」
怖いかもしれないけど、大丈夫だと思う。
「それと、スレッタが学園生活で暮らす場所なんだけど、グエルさんはジェターク寮で歓迎するそうよ。
他にグエルさんが怖いというなら、友人のシャディクさんが、グラスレー寮でも歓迎するって。
他にペイル社も言ってきてるけど……」
母の口ぶりだとペイルは嫌そうだ。
何か気に入らない事でもあったのか?
「お母さんは何処が良いともう?」
「お母さんからすれば、スレッタの事を案じてくれる相手が良いし、グエルさんのところが安心かな?
でも、決めるのはスレッタだし、これから会ってみて、怖くないか確認してからで、良いんじゃないかしら?」
確かにそうだ。
グエル以上に怖いというより、嫌な目にあわせられたから、感覚がマヒしている可能性もあるが、今ならグエルの近くの方が安心できそうな気がする。
先ずは会ってみよう。