「それで、誰を乗せるかだが……」
軌道エレベーターの中で、その事件は起こった。
兄さんのギャプランを大気圏内装備に換装して持ち込んだんだけど、普通なら一緒に乗るのは僕だ。兄さんの隣は僕だからね。コクピットの中では前になるけどさ。
それなのに、引率が必要なため、僕は他のみんなと一緒に移動した方が良いとの意見が。
「やはり、3年の先輩かな?」
「先輩たちに、お前と2人きりになれと? いい加減に自覚しろよ、この野生の御曹司は。
最近、ようやく普通に話しかけられるようになったって言ってるんだからな」
兄さんの優しい気遣いに何て言い草だ。と言いたいが、カミルの言う事は間違ってはいない。
アス高の生徒では、どうしても、兄さんの背後にいる父さんの影を意識してしまう。
兄さんと親のしがらみがない頃からの付き合いがあるのは、カミルの他に数人がいるが、全員1年生だ。
その中でも、最も父さんの影を恐れる必要が無いのは、誰か分かるよね?
「地球寮の奴からが良くないか? イメージ的に」
「確かに、最初に到着するだろうから、そこがジェタークだけと、地球寮と一緒では印象が違うな」
「そっちも上級生は接点が無かったから、1年になるだろうけど、まあ、俺たちから選ぶよりは良いか」
カミル達、兄さんと親しい連中が真面目に意見を出してるけど、もう、誰でも良いよ。
そして、地球寮メンバーに声をかけに行くと、一緒に来たのは1年生3人組。やはり、上級生は拒否の構えのようだ。
「ある程度は聞いたと思うが、軌道エレベーターを降りた後は、俺だけMSで飛んで行く。今回の訓練とメンテでも使用するMSだ。
こいつは2人乗りだから、誰か一緒に乗らないか?」
「MSで飛んで行くって?」
「それ、ギャプランのこと?」
言ってる事が分からなかったマルタンに対し、ジェターク社の作った可変MSの事を知っていたティルが反応し、それをマルタンに説明する。
配備が始まったばかりだし、詳しい奴じゃないと知らないのも無理はない。
「それで、どうする?」
「僕はちょっと」
マルタンが拒絶の構え。まあ、MSに乗ること自体が不慣れだろうし、これは仕方がない。
「私は乗ってみたいな」
アリヤ!? さぁせるかぁっ!
「待ってくれ。マルタンは経営戦略だから、実習では乗らないだろ?
だったら、今の内に乗るべきだと思うよ。ティルとアリヤは実習でメンテと搭乗する時間があるからね」
活動計画書を作ったの僕だからね。ちゃんと把握済みさ。
パイロットとメカニック科の生徒は、主に地球でMSを使っての実習になる。メインは開拓用装備のディランザを使用しての活動。国とも話し合って、開墾と建築、川の流れを調整する治水作業を準備している。
パイロット科は細かい動きの訓練になるし、メカニック科は学園でやる戦闘後とは違う、損壊より汚れによる機体のダメージを実感してもらう。
だけど、ギャプランを使用しての偵察任務もするから、ウソじゃないよ。
一方の経営戦略の生徒は、現地での新たなビジネスモデルの開拓。
という建前で色々見て貰うんだけど、裏がある。
まあ、何と言うか、人の業は悪意だけに、気を付ければいいという話ではないことを実感してもらう。
「で、でも」
「マルタンだけ経験しないのも変な話だからね」
いや、
「確かにそうだな。マルタン、君に譲ろう」
うん。物わかりの良いお嬢さんは嫌いじゃないよ。
だけど、この女は兄さんを前にしても緊張しないし、遠慮せずに言って来るので、兄さんとしては好ましい存在だろう。だが、そこが危険だ。兄さんの幸せのために、闇落ちする芽は摘まなくてはならない。
まあ、マルタンが少しだけ挙動不審だけど、なんの問題もない。
―――――――――――――――――――――――――
「おお、これが……」
ギャプランを見て、アリヤが感嘆の声を上げる。
存在は知っていても、実物を見る機会なんて、そうそうないからね。
ちなみに、兄さんとマルタンは既にコクピットの中。
「コクピットが頭部って、危険じゃないの? おまけにガラスだし」
その発想。ティルも立派な
「設計段階では、学園での決闘は考慮していないからね。
でも、正式採用の機体は、コクピットが股下になるし、そちらなら決闘にも使える。
ちなみに、これは試作1号機。今や兄さんの私物だ」
「MSが私物って、流石と言うか、スケールが大きいな」
『それじゃあ、俺は先に行くぞ。後は任せる』
兄さんが、ギャプランの中から声をかける。
軌道エレベーターの拘束から抜け出せたのが嬉しいのか、声が弾んでいる。
「了解、マルタンは慣れていないんだし、発進は柔らかくね」
『分かってるって、じゃあな』
それだけ言うと、ギャプランの脚部スラスターを使って、ホバー走行を開始する。
そのまま、脚部を残して変形させ、背部のスラスターを解放して速度を上げると、機体が上昇を始める。
展開した主翼と、脚部のスラスターの両方が揚力を生み出しているので、見る見る高度は上がっているが、中にいるパイロットには、その感覚は低いだろう。
「凄いな。あれ難しくないか」
飛んで行くギャプランを見ながら、パイロット科の上級生が呟く。
僕への意図した質問では無いだろうけど、良く気付いた御褒美と、不安を払しょくさせるために答えておく。
「あの離陸方法は、普段は使いません。兄さんは変形をマニュアルで一つずつ行っていましたが、普通はオートで一気に変形します。
通常の離陸は、飛行形態の場合は脛と腰にランディングギアが内蔵されているので、滑走からの離陸になりますし、MSの場合は跳躍で高度を稼いでからの変形になります。
でも、この場合は変形時に高度がガクッと下がるので、同乗者に優しくないんですよ」
兄さんの操縦技術と優しさをアピールする。
さあ、兄さんを崇めろ。
「なあ、ランディングギアも腰にあるのか? でも、正式採用機には、コックピットもあるんだろ? どうなってるんだ?」
みんなが感心する中、空気を読まずに質問するとは、本当にいい度胸だな偽ララァ女め。
だが、無視する訳にもいかないので、ちゃんと説明してやろう。感謝しろ。
「コクピットは腰パーツの下になる。ランディングギアは後ろだ。
飛行形態では、少し角度があるが、腰の配置は仰向けに寝そべる状態になる。
コクピットブロックは、独立しているから、変形時は後方を軸に角度を変えている」
「なるほど、配置的には、コクピットは足で挟んで、ランディングギアは尻で挟んでいるということか」
「……無理に人体で例えるな」
やはり、コイツは兄さんに相応しくない。
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この兄弟、マジで会話してなかったんやな。色々と知ったから、ブチギレた思ってました。
ごめんなさい。ここのラウダ。偉大なるフェルシー様を馬娘扱いしてます。