ラウダの野望   作:山ウニ

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兄さんが僕を褒めている気配がする!?

 

 

 

足元のモニターに映るのは殆どが雲。

だが、時々見える隙間からは、確かに海が、そして大地が見える。

最初は、高所からの風景が怖かったが、慣れてくると懐かしい思いにとらわれる。

 

「落ち着いたみたいだな」

 

風景に見取れていたら、後方から声をかけられた。

言われてみて、先程までの恐怖に包まれていた感覚を思い出し、マルタンは恥じた。随分と醜態を晒していたはずだ。

だが、その事を指摘するでもなく、操縦しているグエルの、何処か気遣う響きを持った声音は限り無く優しかった。

 

「うん。ご迷惑おかけしました」

 

「気にすんな」

 

気さくに話しかけてくるが、同時に恐怖を感じていた原因の一つでもある。

本人の力量より、その背景の力がものを言うアスティカシア学園において、最大級の背景を持ち、同時に本人の力量も頭抜けている。どうしても、気後れを感じてしまう相手だ。

 

「慣れたら雲をズレるが良いか?」

 

その言葉に、怯える自分を気遣って、あえて雲の上を飛んでいた事に気付いた。

それ以外にも、発進から上昇中の滑らかさや、現在の安定した乗り心地。少し考えれば、彼の技量の高さが垣間見える。

そして、地球寮の寮長が笑いながら言っていた言葉を、改めて思い出す。

 

「化け物過ぎて、もう、なんも分んね」

 

あの、ジェタークの寮長の座を賭けた決闘は、多くの者が茶番だと断じた。だが、ジェターク寮生と、地球寮生のパイロット科とメカニック科は異なる見方をしているようだ。

地球寮の寮長は、パイロット科だが戦闘はあまり得意では無い。当然ながら、オッズランキングに載るような実力者ではない。

それでも、同じディランザを扱っているからこそ分かる事もある。

ホルダーこそ、グラスレーに譲っているものの、オッズランキングの半数以上をジェタークが占めているのは、ディランザの性能によるものが大きい。

そして、ディランザの良さはパイロットの技量に合わせた性能にカスタマイズ出来る事だ。

 

MSの性能が上がっても、それを扱うパイロットの技量が付いてこなければ、役に立たないどころかマイナスにしかならない。だからこそ、アスティカシア学園の生徒が使用しているディランザは、各パイロットが技量を上げるのに合わせて、性能をアップしている。

そして、グエルの専用機は、非常に高度なカスタマイズをされていると思えるが、あれに乗るくらいなら、古いデミトレーナーに乗った方がマシだという。

 

「やっぱり、ジェターク社の次期CEOだと、厳しい訓練とかあるの?」

 

ふと疑問に思った事が、つい言葉に出た。これまでの優しさに甘えたかもしれない。不快にさせないか心配したが、そんな素振りは一切見せずに答えが返ってくる。

 

「いや、他所は知らないが、ジェターク(ウチ)は、そんな感じは無かったな。

 そもそも、俺の最初の師匠は実質ラウダだし」

 

「え? ラウダって……あの?」

 

「え~と、最初に見たのが、あの姿だったから疑う気持ちは分かるがな。

 あれは珍しい貴重なシーンだから、別だと思ってくれ」

 

「い、いや、そうじゃなくて、アレはアレで凄かったけど、それは置いといて、ラウダは同じ歳だよね?」

 

「まあな。でも、アイツは天才だ。もう、最初に会った時なんて酷かったな。

 薄々、察してるとは思うけど、俺たち兄弟は特殊でな。アイツは父さんが愛人に産ませた子供だった。

 それで、色々あって、ウチは母さんが出て行ってな」

 

それは、嫌なパターンだ。言ってみれば、ラウダの存在はグエルの家族関係を破壊した象徴と言っても良い。

今は関係を良い方向に構築しているみたいだが、最初は荒れただろうと想像できる。

 

「で、向こうも母親が子供を置いて出て行ったみたいでな。ラウダは父さんが引き取ることになった」

 

予想より酷い話だった。家庭が壊れて直ぐに、破壊した象徴がやってくる。

それを想像するだけで、胃が痛くなってきた。

 

「そんな訳だからさ、アイツは母親から捨てられて辛いだろうし、俺が頑張って兄貴をやるしかないと身構えていたんだ」

 

「は?」

 

何故そうなる? 母親から捨てられたのはグエルも同じだ。

詳しい原因は分からないけど、ラウダの母親の存在が無関係だとは思えない。

 

「俺には父さんがいたけど、アイツは母子家庭みたいなもんだったからな。

 それに、単純に弟が出来るのも嬉しかったし」

 

言葉には出さなかったが、自分が思った事を他の誰かに聞かれた事があったのだろう。

慣れた様子で説明をするが、やはり理解しにくい心境だ。

 

「俺としては寂しそうな子供を想像してたのに、アイツって全く堪えた様子が無くてな。平然としてた。

 最初は無理してると思って、構ってやってたんだけどな。その内、アイツの凄さを見せつけられてな。

 頭は良いし、何でも出来る。モビルクラフトの操縦も知ってたし、こっちは兄貴だから負ける訳にはいかないだろ? 必死だったぞ」

 

「それって、ラウダを嫌いにならなかったの?」

 

「何でだ? 弟が優秀だったら自慢だし、こっちも頑張ろってしかならないだろ?」

 

おかしいのはコッチかと、思いかけたが、やはり、変なのはグエルの方だと思う。

自分の家庭(世界)を破壊した怪物が、その能力まで怪物だった。よくも受け入れられたものだ。

 

「ラウダって、とにかく凄くてな。このギャプランは、ラウダが13歳、いや、アイツは誕生日が遅いから12だな。そん時に、一から設計開発した機体だ。

 それに、ディランザの基本コンセプトは、アイツが10歳で提出してるし、今のジェターク社が地球でやってることも、その頃にアイツが言い出した事だ」

 

「冗談だよね?」

 

「いや、本当。みんな信じないがな」

 

信じられなかった。明らかに異常だ。天才で済ますには異常すぎる。

何で、そんな恐ろしい奴の事を嬉しそうに話すのか。

 

「俺はアイツと違って、MSの設計は出来ないし、政治や経済の事も大したことは無い。

 でも、そんな俺をアイツは兄と慕ってくれる。期待してくれる。

 だったら、俺は、そんな奴の兄貴として情けないところを見せられない。

 幸いというか、ラウダが、俺にはMSの操縦は才能があるから、直ぐに自分を超えるって言ってくれてな。

 元から興味があったし、のめり込んだ。アイツが手加減してると怒ったな。本気のアイツに勝つと必死だったよ。今ではラウダより上だと自信を持てる数少ないものの一つだ」

 

何でもないように語っているが、自分に置き換えて考えると、とても常人に耐えられる環境ではないと思う。

天才で済ますには異常すぎる弟に慕われ、期待されている。

おそらく、グエルの人生は、潰れるか、覚醒するか、その2択しか無かった。

 

「何にせよ、アイツの期待に応えてみせる。それが、俺の生き方だ。それで、多分だが大丈夫だと思ってる。

 そして、アイツは俺の注文に応えてくれる。今回の俺の思いつきも、アイツが実現させてくれた」

 

本来なら自分を食い殺しかねない怪物に愛され、その力を行使する。

まるで、おとぎ話の存在。彼のような人を、英雄や勇者と呼ぶのだろう。

その思い付きに気恥ずかしくなり、話を逸らす。いや、異常な世界から日常へと戻りたくなった。

 

「それは感謝してるよ。だって、パイロットとメカニック科の内容は納得だけど、僕たち経営戦略科まで誘ってもらえたし」

 

課題に出された現状の問題点と解決策など、そう簡単ではない。誘う辻褄合わせでしかないとしか思えなかった。

 

「ああ~、それなんだが、マルタンはアダム・スミスは知ってるか?」

 

「大昔の人物だよね、経済学の父の?」

 

「そう。ラウダに言わせれば、人の営みなんてアダム・スミスが登場した時から基本は変らない。

 だが、今のベネリット・グループはその基本を破っている。これは訂正されるべきだとね。その考えを原則としてジェターク社(ウチ)は動いている。

 そして、今も崩れたバランスを取り戻そうとしている」

 

アダム・スミスの経済学は国の力を、金銀ではなく労働力にあるとし、基礎として食糧生産による労働力の確保。更に食糧の余った力で工業商業が発展し、より発展するための分業化などがあるが、グエルが言っているのは、多分、今の世界を覆う、共感の欠如と利己心の肥大化を言っているのだろう。

 

「これ、お前は大丈夫そうだし、本当はズルだけど今の内に教えておく。

 利己心の追及は問題だが、共感だけを高めても今までのマイナスを取り返すことは出来ない。大事なのはバランスだ。そして、共感の肥大化はもっと危険だ。気を付けろよ」

 

 

 

 

 

 

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