ラウダの野望   作:山ウニ

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誰だよ、経済をガンプラで語るのは

 

 

地球に降りて3日目の夜。兄さんと、アス高生徒の監督役を務めるジェターク社の社員(スタッフ)と一緒に、アス高生から提出された日報と途中資料を見ていた。多くのスタッフが苦笑を浮かべている。

予想は出来ていたし、危ないと思っていた奴が、ほぼ想像通りの反応だったので、驚きはしない。早めの対応が出来そうで、僕としては安心だね。

兄さんは渋面を浮かべているけどね。まあ、兄さんは″経験者”だし、思うところはあるだろう。

 

「これなんかは、どちらか判断に迷うところです。内容は良いですけどね」

 

「どんな内容ですか? ああ、彼はアーシアンですし、変な意図は無いでしょう」

 

スタッフが感心した声を出してるので、資料を見せて貰うと、マルタンが出したものだった。

流通経路の不備があり、今後は更に問題化すると予想される……か。

本来は国が負うべき分野だが、その国に力が無いので、どう肩入れするかが問題になって来るな。

 

「パイロット科とメカニック科の方は問題ありませんね。今後も純粋に経験値を積むだけで、目標を達成できるでしょう」

 

「最終日には、異なる状況になる可能性もありますが、観察している限りは、特に異常は見当たりません」

 

「そちらは最初から、あまり心配していません。そう難しい作業もしていませんし、精神的な方は一緒に行動している時点で大丈夫みたいです」

 

問題になっていた作業面は、安全を優先したため、難易度が低めである。事故を起こしたら洒落にならんしね。

それでも、危険作業をして怒鳴られるシーンは多い。もっとKYをやらせるか検討しよう。

それと、精神面だけど、地球行きをポジティブに捉えていたし、地球寮生と一緒の行動を前提にしてるので、参加の時点で大丈夫だとは思っていた。

ただ、環境によるストレスは、三日程度では分からないので、そこは経過観測。

 

「やはり、経営戦略科が問題ですね」

 

「先程のは珍しいくらいで、ほとんどが、もっと投資を。待遇の改善を。ですからね」

 

「そこは逆に考えましょう。

 ″こども”が、この状況を見て、何も思わない方が問題です。そう捨てたものでは無い証拠です」

 

アーシアンを自然に見下す状況は、今のアス高では日常だ。ジェタークは戒めているとは言え、アス高生徒の一員である事に変わらないから、その空気に流されても不思議ではない。

だが、彼等は避難民だったアーシアンに共感を抱いているから、このような反応になる。

目標である利己心と共感のバランスを取ろうにも、共感が全くないなら話にならない。

 

経済学の父と言われているアダム・スミスは、人間の利己心を正しいものと定義している。

人が自分の利己を求めるからこそ、自身だけでなく、周囲も幸せになると言うのが基本的な考えだ。

これをガンプラで例えるとこうなる。

 

バンダイはガンプラを売って儲けたいという利己心がある。

その利己心を満たすために、造形や可動に優れた商品を開発し、更には販促のためアニメ制作の支援をする。

 

プラモデル屋さんも、ガンプラを売って儲けたいという利己心がある。

その利己心を満たすため、大型店舗は薄利多売で20%OFFにしたり、個人商店は展示に気を使ったり、常連客の確保をするためのサービスに力を入れる。

 

これらは、消費者の利己心、造形や可動に優れたガンプラを、少しでも安く、気分良く買いたいを考えるからこその行動だ。

消費者の利己心を認めているからこそ、品質に優れた商品を開発し、店舗はサービスに努める。

これを共感。利己心と共感の両輪が、アダム・スミスのいう正しい社会だ。

 

しかし、ここに利己心に目がくらみ、共感を蔑ろに行動する者が出てくると、社会は壊れる。

例えば転売ヤーだ。

商品を買い占め、市場から手に入らなくしてから多額で売る。

これが続くと、消費者が離れてしまう。そもそもガンプラなんて無くても生きていける。手に入らない状態が続くと、手に入らない状態に慣れ、必要性を失ってしまうのだ。

結果として、消費者のガンプラが欲しいという利己心を奪い、バンダイも店舗も売りたいという利己心を満たせなくなってしまうのだ。あとはお察しである。

 

まあ、分かりやすく転売ヤーを最初に共感を蔑ろにした存在として出したが、本当に最初にやらかしたのはバンダイである。

箱売りと言われる行動で、店舗が注文した商品以外を押し売る手法だ。

バンダイからの出荷は、複数のガンプラが入った段ボールで出荷されるのだが、店舗がザクを注文すると、ザクが入っている段ボールが出荷される。中にはザクだけでなくジムとゲルググも入っている段ボールだ。当然サービスではなく注文品として出荷し、金を取る外道行為である。

これがジムもゲルググも両方とも在庫がある場合は、余分な在庫を抱えてしまうのだ。

小型店舗は売れない在庫に苦しみ、大型店舗は投げ売りを実施する。かつて種死のカオスガンダムが50円で投げ売りされていた記録がある。

 

そして、ここに一つの光明に見えて、実は負の連鎖の始まりが参入する。

アマゾンである。通販が流行したことで、それまでの在庫を、安く出すが、投げ売りまではいかない値段で在庫を捌けるようになった。

しかし、それが常態化すると、アマゾンのガンプラコーナーを見ると、ほとんどが30%から50%OFFで販売されている状態が続く。こうなると定価で購入する者はいなくなる。

元々、転売ヤーの始まりはここである。商品を30%から50%OFFで購入し、ほぼ定価で売っていた。

しかし、転売ヤーが増えてきたため、商品を定価で購入し、高額で売る手法が常態化した。

 

これが続けば続くほど、消費者は減る。従来の店舗で商品を見て、購買意欲を狩り立てることでゲットする新規顧客は当然なしで、従来の顧客も減る一方。

バンダイも店舗も商品自体は転売ヤーが購入するので売り上げはマイナスになっていないが、転売ヤーが売れないと悟り去った後は、焼け野原のような惨状が残されるだろう。

 

それが、今のガンプラの現状だ。共感より、利己心を増加させたことで起きた現象は、荒れ果てた市場が出る事を予測させる。

それを予測しているからこそ、バンダイも店舗も転売ヤー対策をしている。

だが、利己心の肥大化による悲劇はまだ良い方だ。先を予想できなかったとしても、売れなくなれば修正して行ける。成功する保証は無いが、立ち上がってチャレンジできるから。

 

アダム・スミスの考えの欠点は少なくないが、人間が想像以上に欲深く、利己心を追求する生き物である事を見落としていただけではない。

人間の欠点は他にもある。それは、何故、転売で儲けようとする者が出て来たかを考えればいい。

 

「では、明日から…」

 

「そっちは俺が行く。パイロット科とメカニック科の監督はラウダがやってくれ」

 

「兄さん? あまり肩入れのし過ぎは」

 

「違う、とは言えないか。だが、俺の方が気持ちがわかるから、俺が適任だ」

 

「分かったよ。兄さんが決めたのなら従う」

 

実際に部隊を率いるなら兄さんが適任だしね。

 

「キャンプには経営戦略科は全員が参加で?」

 

「3年生は止めといた方が良いと思うけど? 追試が増えるのも問題だし」

 

3年にもなると、追試が増えるだけでも大変だし、追試に落ちて補習とか洒落にならない。

逆に1,2年なら、補習を頑張れと言えるしね。

 

「そうだな。3年は今までと同じで良いか」

 

「ああ、それなんだけど、せっかくだから、これで利益を出す方法を考えさせようかと思う。

 自分以外の者が出した資料を見せてね」

 

今まで提出された資料を指差しながら提案する。

ジェターク社を背負う経営戦略科が出した資料だ。さぞ膨大な利益を生むだろう。

 

「……性格悪いぞ」

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

地球でのジェターク主催の研修旅行4日目。唐突にキャンプをすると言って、ジャングルの真ん中に連れて行かれた。

この時点で、何故かマルタンは嫌な予感が止まらなかった。

何時でも飲めるようにと、飲料水が入った巨大なタンクを見て、安心より不安が増した。

5日目。持ち込んだ食糧以外の木の実を取って食べるグエルを見て、頼もしく思った。その彼にジェターク寮生の1年生の女子が熱心に投資するべきだと語っていた。

6日目。アスティカシア学園に帰る日だ。グエルが朝から飴や携帯食を配っていた。嫌な予感が増す。

例の1年生女子や他数名が配られた飴や携帯食料を、現地の子供にあげると言いながら迎えを待っていた。

そして、何時の間にかグエルが消えた。

8日目。水はあるが、食糧は6日目に食べ尽くしている。ポケットには飴が残ってはいるが。

そして、まだ迎えは来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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