ラウダの野望   作:山ウニ

20 / 98
グエキャン、△はないよ 前篇

 

 

「今日あたりが限界だと思う」

 

研修8日目。とっくに学園は再開しているので、3年生は強制的に帰した。

パイロット科とメカニック科の1,2年生は、自由選択だったが、全員が残る事を選択。

経営戦略科の仲間を置いて、帰れないと熱弁されたよ。強制的に帰した3年生も同じだったけど、こちらは無理やり学園へと。

帰り際まで、アイツ等のことを頼むぞ! とか、熱い熱い。こういうジェターク寮生のノリって好きだよ。

 

「何も食べずに三日だろ? 大丈夫か?」

 

アリヤが心配そうにしているが、何も食べなくても三日くらいは大丈夫だよ。

だから、そうならないようにしている。

 

「兄さんが飴や携帯食料も渡してるから」

 

「悪辣」

 

ティルの冷たい視線が痛い。鋭いねコイツ。

勘の良い子供は……好きだよ。誤解してくれるからね。

 

「良く気付いたね。うん。渡したのは、もちろん温情じゃない」

 

「どういう事だ?」

 

「空腹で自分が食べ尽くした状態で、他の子が食べていたら?」

 

その時の状況を想像したのだろうね。アリヤだけでなく、他にも数名が睨んでくる。

仲の良かった学生同士で食糧の奪い合いとか洒落にならないよね。

 

「いや、そこまではならないって」

 

「そうだね。ならないと思う。でも、今″疑った”だろ?」

 

カミルが、しまったという表情を浮かべる。

ティルも、さっき睨んでいた数名も、他にもいるだろう。経営戦略科の仲間が食糧をめぐって争うんじゃないかってね。

カミルは、仲間を信じようという空気を作りたかったんだろうね。良い奴だよ。

でも、そうはさせない。今は授業中だ。

 

「今頃は、空腹で苦しんでいるアイツ等も、仲間だった者を疑いの目で見ている。たった数日の苦難でね。

 これが、何か月も、あるいは年単位で続けば、一緒に行動しているからってだけで、硬い絆で結ばれた仲間だと思うのは早計だよ」

 

「難民だった人達の事か?」

 

「そう。ずっと、一括りにしてただろ? 同じ苦難を味わって、ここまで逃げ出した悲劇の同志とか。

 僕が、あの人たちだって色々いるからって言っても、おそらく分かっても、実感はしなかったと思う。

 でもね、本当に色んな人たちがいる。恨みをぶつける相手も異なる。

 そして、内部での争いもある」

 

「あんなに酷い状況でもか?」

 

「酷い状況だからこそさ。団結すれば、なんて言うけど、事は簡単じゃない。

 抜け駆けしたり、怠けたり、色々いる。

 でも、それが人間だからね。そして、それは悪い事ばかりじゃない」

 

抜け駆けと言うと悪く聞こえるけど、それは競争心があるからだ。

今の生活を良くしたいと、そう思ってくれないと、ジェターク社(こちら)としても困る。

 

「そもそも僕たちはボランティアじゃない。今回、タダ働きをしているけど、それは将来の投資だからね。

 利益にならない事をやるのは、お互いにとって良くないことだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

(やばいな)

 

何時迎えにくるか分からない不安に、空腹と言う絶望が重なり、周囲の空気が重い。

食糧を食べ尽くした者が、残していた食糧を食べている者を見る目。何かの切っ掛けがあれば、暴れ出しかねない雰囲気だった。

すすり泣く声に反応する。現地の子に食料をあげると言っていた娘だ。

あげるどころか、すでに食べてしまっている。それでも足りない。そんな状態に耐えられないのだろう。座って、自分のヒザに顔をうずめていた。

 

(もう、無理じゃないかな)

 

もしかしたら、このまま迎えに来ないのでは? そう思っていそうな者もいるように感じた。

だが、マルタンは不思議と不安は無かった。

いや、不思議ではない。グエルが見捨てるはずが無いと信じ切っている。

そして、グエルが何を考えているのか、薄々だけど察していた。

同時に、限界である。自分は耐えられるが、そうでない者が出そうだ。何より、空腹は思考を奪う。カロリーを最も消費する器官が脳だ。栄養不足は考える力を奪う。そうなってはグエルの思惑は叶わない。

それならと立ち上がる。

 

「グエル! もう良いだろ!? ただ、与えられるだけの人間の無力さ! もう分かったよ!」

 

きっと、それを分からせるために、こうやって無力さを噛み締めさせている。

グエルは見ているはずだ。きっと何処かにカメラがある。

周囲を見渡しながら、何処かで見ているはずのグエルに声をかけ続けた。

 

「みんな限界だ! これ以上は考える事も出来なくなる!」

 

大声を上げた事で鳥が飛び立つ音が聞こえた。だが、返事は無い。

いるはずだ。多分、いたら良いな。きっと、カメラはあるがマイクは無い。

だから今頃は、ここへ向かっていると信じたい。来てるよね?

そんな弱気がマルタンを支配し始めた。

 

周囲から視線を感じる。これで来なかったら道化だ。恥ずかしいなんてものでは無い。

だが、ここで弱気になったら、余計に恥ずかしい。

空腹でフラつくが、毅然と立って、見っとも無い姿を見せないように、グエルが来るのを信じる。

 

「そうだな。満点とはいかないが合格にしとくか」

 

声、後ろから聞こえた。振り向くと茂みが動いた。いや、茂みが、枝を生やした人間が向かって来る。

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁ――――!」

 

情けない姿を見せないという思惑はあっさりと崩れた。

悲鳴を上げて尻もちをつく。

 

「作戦終了。監視体制を終了する」

 

「「「「了解です! 御曹司!」」」」

 

一斉に茂みが動き、それが人の形を取って動き出した。

周囲からも悲鳴が聞こえる。自分だけじゃない事に安堵していると、グエルの声を出す物体が頭にかぶったもの。おそらく、帽子ではなく頭巾と呼ばれる顔以外を覆う布を取ると、見慣れた前部だけをピンクに染めた髪の毛が出て来た。

 

「グ、グエル?」

 

「おう。意外と元気そうだな。マルタンは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後編も本日中に
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。