ラウダの野望   作:山ウニ

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本日の二話目です。


グエキャン、△はないよ 後篇

 

 

人間というのはタフだ。同時に怠けものでもある。

無ければ無いで、それを受け入れるし、自分の環境に不満を持っても、それを打開しようとする者は驚くほど少ない。

その不便さの中で生きていく。こんなものだと受け入れる。

そして、その境界線は非常に分かりにくい。個人間で差があるし、何を求めているかもバラバラだ。

 

ジェターク社(ウチ)がやっている事は、あくまでジェターク社(ウチ)の利己心から出た行動だ。

 そうでなくてはいけないし、それを忘れてはいけない。何かを″やってあげる”という考えは、傲慢でしかない。

 行き過ぎた共感は、何時の間にか、相手のためと言いつつ、与える自分に酔う、傲慢と言うおぞましい考えに変化する。自覚は無いか?」

 

僕が周囲を見渡すと、反論する者はいなかった。

経営戦略科だけではない。ここに参加している者は、少なからず″やってあげる”という傲慢さに酔っていた。

そう思われながら、一緒に行動する相手の事を、少しは考えるべきだね。

 

傲慢は7つの大罪の内、最大の悪徳だと自覚すべきだ。

ボランティアは金持ちの最高の道楽と言う皮肉がある。相手に与え、感謝される喜びは、中々に味わえない快楽だ。その快楽の根拠を一度見直すべきだろう。

ボランティア活動の全てを否定はしない。だが、それが何をもたらすかを考えて行うべきだと思う。

 

そして、傲慢は相手の怠惰を促す行為に繋がりかねない。

ガンプラで例えに出した転売ヤーが増えたのは、楽に稼げるからだ。怠惰に儲けたい。

これが、転売ヤーだけでなく、バンダイや店舗まで怠惰になれば、立ち上がるのは不可能だと言っても良い。

どうせ転売ヤーが買うからと、いや、転売ヤーと違い、善意で悪い商品でも買い続ける客が出てくれば、商品開発の努力を怠たる。それが常態化すれば、開発部門の人は解雇され、不良品が相次ぐ。

利己心で荒れた市場と異なり、商品の開発能力そのものが失われてしまう。

 

アダム・スミスが最も大切だと言った労働力を基本とする考えは間違ってはいないはずだが、現実は労働するより楽に稼ぐ方法があり、そうしない事を嘲笑う人間が少なくない。

アドステラも同様で、投資家の力がものを言うのが現実。

幸い、アダム・スミスの労働力に価値観を見る考えは、ジェターク社の性に合っている。父さんが地球開発で投資家を無視したのはそのためだ。

 

「古い考えだけど、ジェターク社(ウチ)は労働に価値を置き、ここにいる人に働いてほしいと思っているけど、それはこちらの都合だよ。

 まして、僕たちスペーシアンが、アーシアンに対して、何かをしてあげるで接しても、相手としてはうさん臭くて仕方がないさ。

 僕たちは僕たちの利己心から、地上の発展を願っている。相手も発展したいから、僕たちを利用する。それで良いし、それこそが対等の関係だ。感情的に突き進むには拗れすぎたからね」

 

「何だか、色々と考えてるんだね?」

 

ジェターク寮生が少し落ち込んでいるのを見て、空気を変えようと思ったのか、ティルが割り込んでくる。

うん。これ以上は言っても、反発を生みかねない。自分で考えるべきだよね。

ティルに乗らせてもらおう。

 

「色々と考えてもいるけど、僕は兄さんのためが最優先だよ。僕の利己は、兄さんが喜ぶことだから。

 今回も部隊を動かす訓練になると思ってたし……まあ、兄さんが直接率いるのは計算外だったけど」

 

「部隊って、経営戦略科を護衛している地上戦の特殊部隊だよね?」

 

「うん。今後は兄さんが出張ると、危険が伴うことが出て来る。前から地球で表立って行動してるから、一部ではスペーシアンとアーシアンの架け橋なんて言われ始めてるし、父さん以上に無防備に行動しそうだろ?

 スペーシアンが今更と、暗殺を狙う事だってあると予想されるから、傭兵を集めて作ったんだけどね……」

 

「何か問題が?」

 

「いや、兄さんって、あんな性格とノリだから、訓練を見て自分でやりたくなってさ。

 最初は、向こうも現実を見せてやろうとか、面白半分で御曹司を痛めつけてやろうなんて思ってたみたいだけど…………何か、気付いたら兄さんは、技術をマスターしてて、集めた傭兵が心酔してた」

 

「うん。普通は御曹司が何を、って言うだろうね。

 でも、そうなるだろうなと思った」

 

だよね。僕も普通に、ああ、そうなったかって思った。

ん? 端末に連絡が……そうか。

 

「向こうは終わったって。準備をしようか」

 

「任せろ。料理は得意だ」

 

アリヤが笑って動き始めると、彼女を中心に準備を手伝い始める。

アーシアン、スペーシアン抜きに料理の腕は一番のようだ。というか、ジェターク寮生のお嬢様たちの料理スキルが低いとも言う。お坊ちゃま? 論外だよ。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「も、もしかして、ずっといた?」

 

「当たり前だろ。一応は周囲の危険は排除したが、獣なんかは何処から寄って来るか分からないからな。

 何かあった時、近くにいないと、万が一の状況に対応できないだろ」

 

見慣れた頭だが、顔は迷彩用のドーランで染められており、その表情が分かりにくい。

だけど、その言葉の内容と、何よりも声音で、こちらを心配し続けていた事が分かった。

 

「それと、今回の内容だけど、無力さを分からせるだけじゃない。

 人間は無力さを受け入れる事が出来るって事も、それでも生きていけるって事も分かって欲しかった。

 それに……」

 

ゆっくりと歩を進め、すすり泣いていた娘の前でしゃがむ。

 

「みんな、色々と考えただろ。周りを疑ったり、やましい事だって考える。

 それは、あの人たちだって、大人も子供も同じだ。だからって悪い事だと思うか?」

 

「……思わない」

 

「だったら、自分も許せ。恥じるな」

 

「うん」

 

「それに、俺たちは子供だ。与えられるのが当然だって思うのは自然だよ。

 でも、本当は、自分で得るための能力を獲得する時間なんだ。

 そして、それはアイツ等も同じだからさ」

 

避難民だった人達。その生活を見て、苦しそうだと同情した。それは間違っていないとグエルは言う。

同時に、今は彼等が新たな生活する基盤を得ている最中で、学んでいる最中でもあることを自覚すべきだった。

そこでは、贅沢な生活は出来ない。贅沢したいなら、抜きんでた何かを獲得しなければならないはずだ。そうでなく、ただ与えられるものを待つだけに慣れると、彼等自身がダメになり、与える側が力尽きれば共倒れになる。

 

「それに、付き合っていく中で色々と思うところが出るさ。

 だからって、全てを肯定するのも、否定するのも間違っている。その事を忘れるな……迎えが来た」

 

グエルの視線を追って空を見上げると、輸送機が降りてきて、それに乗り込む。

安堵や空腹、そして疲労が重なり、誰も喋らない静かな時間が過ぎ、やがて着陸すると懐かしい、それほど経過していないのに、確かに懐かしいと思える顔ぶれが迎えてくれた。

 

「おかえり。ゆっくり食べてね」

 

そう言いながら深めの器に入ったスープを差し出してくる。

 

「ティル、学園は?」

 

「サボり」

 

周囲を見渡すと、地球寮だけでなく、ジェタークも3年生以外は残っているようだ。

アリヤが鍋の前でスープを注ぎ続けているし、隣にいるグエルには、ラウダがスープを差し出していた。

 

「兄さん、学園に戻ってから、最初の休みは、みんなでバーベキューをする事にしたから」

 

「今すぐしようぜ」

 

「ダメだよ。今、重いもの食べたら、いくら兄さんでも吐くよ」

 

その会話で、グエルも何も食べていなかった事に気付いた。

ずっと、自分達を見守っていたのだ。睡眠も水分の補給もままならなかったかもしれない。

思い返せば、撤収の際はマルタンたちが使っていたテントは回収していたが、グエルや彼が率いていた部隊の人はそんなものを用意していなかった。

迷彩用のドーランを塗ったままの顔からは、表情も疲労も読み取れないが、ドーランの下は自分達より酷いことになってる気がした。

 

「お? 凄い顔だな」

 

スープを注ぎ終わって余裕が出たのか、アリヤがグエルの顔を見て笑い出す。

こちらの気も知らずにと思うが、言ってはグエルの気持ちを踏みにじるような気がした。

それに、ラウダの表情も、不快さが浮かんだような気がしたが、何も言い返すことは無かったので、正しい判断のはずだ。

 

「今度、塗ってやろうか?」

 

「遠慮する。それより、ゆっくりと味わってくれ」

 

「ああ。美味いよ」

 

やはり、グエルも不快さどころか、嬉しそうに応対している。

そんなグエルに習って、スープを味わう。

ジェタークの寮生が、ここの住民は、こんな食事で可哀想だと憤慨していた、芋と豆が中心のスープ。

 

「美味しい」

 

思わず声が出た。マルタンも普段なら憤慨はしなくても、貧相だと思うはずだ。

それでも美味しい。空腹は最高のスパイスというが、それだけでは無いだろう。

小さく刻まれた芋と野菜。塩気が強く、ミルクの香りもする。

長い空腹や疲労した相手の事を考えつくした料理方法だろう。

ふと、これも行き過ぎた共感にならないかと不安になった。

 

「これも、共感になるのかな?」

 

思わず出した声に、グエルとラウダが、こちらを見る。

 

「何を言ってるんだ? バカか?」

 

「そんなもの仲間内では適用外に決まってるだろ」

 

「そ、そうだね」

 

バカと言われたことより、ただ、仲間という言葉が嬉しくて、頬が緩むのを抑えられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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