三か月も学園で生活をしていれば、授業やその他で、周囲の実力と言うものが分かって来る。
エランとシャディクは強い。僕が絶対に勝てるとは言えないのは、この2人のみ。
だが、言ってみれば、この2人でさえ、その程度だ。
ディランザを発表した時の、兄さんと僕の差である。
僕が兄さんの立場。大事な事だから、もう一度言うけど、僕が兄さんと同じ。僕と兄さんは一緒。
で、エランやシャディクが僕の立ち位置だ。
それまで負ける事が多かった兄さんは、僕を過大に評価していたけど、ほぼ、兄さんが勝っていた。
あれから、僕の実力も少しは上がっているけど、兄さんは少しではない。
今となっては、僕は兄さんに手も足も出ない。
それほど、兄さんは強くなってしまった。いや、強くなり過ぎた。
だから、兄さんは学園での決闘に興味を示さない。高校生のプロボクサーが、学校のボクシング部に興味を示さないのと同じようなもの。
そんな兄さんが決闘だなんて、何事かと思うのは当然だ。
思い返せば、最近はジェターク寮の寮生と一緒の時間が減っていた。シャディクの事が気になって、調べものや考え事をする時間が増えたし、新たに開発されたMSの新型フレームの相談。更に次の長期休暇も地球に行く事になり、そのスケジュールを現地の
で、聞いてみれば、地球寮が関わっているとの事。
冷汗が出たよ。てっきりアリヤを庇ってとか、そんなのを想像したからね。
これ以上、奴とのフラグを立てたら、兄さんが隕石を落としてしまう。
大勢のアーシアンの方々を守るためにも、あの2人のフラグはバキバキに折らせてもらうからね。
だけど、今回はマルタンが原因、というより、
とっても楽しいグエキャンに参加して、心を折られかけた娘だ。
あの企画は、良く言えば性格が良い、悪く言えば世間知らずな者ほどダメージを受ける素敵仕様。
その少女も御多分に漏れず、性格の捻じ曲がった者が大半のアス高生徒らしくない、純朴な子だった。おまけに容姿も良い。まあ、ぶっちゃけモテてたようだ。
特に高校生くらいの男子が好きなタイプである。
そんな子が、マルタンに懐いた。兄さんが事前に入れ知恵とまではいかないが、警戒を促す発言をしていた事もあり、グエキャンでは終始(内心はともかく)落ち着いていたし、終了の切っ掛けを作ったのも彼。
彼女から見れば、優しくて頼りになる少年だろう。
恋愛感情までは行かないようだが、会えば親しく声をかけるし、他の奴と話すよりも笑顔が増えるのも無理はない。
で、それを快く思わない者が出る。あるダイゴウ寮の生徒が、マルタンに嫌がらせを開始した。こちらは、実にアス高らしい生徒だね。
それを見て、ジェターク寮生が憤慨。まあ、そうなるよね。
苦楽を共にすれば情は沸く。だが、団結心を高めたければ、楽より苦を多めにする事だ。
同期の絆とは言うが、絆が強いのは楽しいサークル活動よりも過酷な部活動。ただ球技はレギュラー争いなどの欠点があるが、自衛隊の訓練などは、レギュラー枠もなく、全員が一丸とならなければ達成できない事が多い。
でも、その分、絆が深まる。
僕が作った計画書は自衛隊式。
研修では自由時間など少なく、パイロット科もメカニック科も、安全は優先したが、ノルマ自体は厳しい目標を設定していた。
ただ、遊ぶ時は遊ぶ。その結果、元から強かった団結力が、より高まっている。仲間を傷つける奴には制裁を。それが、今のジェターク寮生である。
予定ではここまでにはならなかった。誰が、こんな風にしたか? うん、兄さんだ。僕が作った計画書に、兄さん成分が入ったのだ。そうなるわなって、納得したでしょ?
嫌がらせの中心は、経営戦略科の生徒なので、本人は決闘なんかできない。
しかし、火の付いたジェターク寮生は、身代わりにダイゴウ寮のパイロット科、全員を血祭りに上げる勢いで、準備を始めた。
うん。怖いよね。なにしろジェターク寮のパイロット科は強い。オッズランキングのトップ10の過半数を占め、そうで無い者も上位になる。勝てる訳がない。
彼等は考えた。そして、思い出した。ジェターク寮の寮長は、親の権力で八百長をして寮長になった一年坊主だと。
窮地から逆転の策。寮長同士の一騎打ちを申し込んだ。
向こうの要求は、ジェターク寮生は、今後、ダイゴウ寮に決闘を申し込まないこと。
そうすれば、ジェタークの前で多少のヤンチャは可能になり、何よりジェタークに勝ったという結果が残る。
ダイゴウ側が、寮長同士の一騎打ちを申し込んだ際の、ジェターク寮生の態度は唖然としたものだった。
その態度に、ダイゴウ側は、我が策成れりと、喜んだみたいだね。
まあ、分かってると思うけど、ジェターク寮生の反応の意味は、「オイオイ、コイツ死んだわ」というものである。
いや、兄さんなら、適当にお灸をすえて終わりだよ。
パイロットも大したことは無いし、ダイゴウ社のMSは、3機がかりでエランに敗れたクリバーリ。
砲撃戦を得意、というより、それしか出来ないよな、お前。と突っ込みたくなるMSだ。
パッと接近して、サクッと角を切り取ってやれば終わりである。
…………そのはずなんだよな。
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まあね。開始前から不穏な空気はあった。
ディランザの装備に、ビームパルチザンを選ばなかったどころか、得意とするカタナも持たない。
代わりに、ビームライフルを、しかも銃剣も付けられない低威力のタイプを選んだ事。
そして、兄さんが勝った場合の条件が、「口頭でも本当のMSでの戦い方を教えて欲しい」と言うもの。
それだけだと、謙虚な一年坊主に思えるが、ダイゴウの寮長は、兄さんが学べる相手では当然ない。
何でも、決闘委員会での相手への要求を口にする前に、「本当のMSでの戦い方を教えてやる」とか言われたそうだけどさ……
『さあ、泣いてないで教えてくれよ。本当のMSでの戦い方をさ。せ~ん~ぱ~い~』
結果は無残なものだった。重装甲で砲撃戦専用と言ってもいいMSを相手に、ディランザで近接戦を封印して、しかも、威力の低いビームライフルでの攻撃のみ。
それなのに、兄さんのディランザにはキズ一つ付かず、クリバーリはジワジワと装備と装甲を削られる。
分かるものは最初から、そうで無い者も途中から、決着が付く前に見ている者は全員が気付いた。
ワザとブレードアンテナに当てないようにしていると。あえて、さらし者にしてなぶっていると。
最後はダルマにされた。いや、途中からは無抵抗だった。ブレードアンテナは折られていないが、心は折られていた。
止めに、足で顔を踏みつけながら、アンテナを折った。
終了後、クリバーリのコクピットが開くと、泣いているダイゴウの寮長の姿が。
兄さんは、それでも容赦せず「指導をお願いします」の一言。
いや、なに言えば良いんよ?
そういや、アニメでは虫の言葉での謝罪を要求してたね。
それに、気付くべきだった。憤慨していたジェターク寮生に兄さんも混じっていた事を
強固な団結力は、時には排他的な力になる事を。
仲間を愛する気持ちが強いほど、仲間を傷つけられた時の怒りは強いと。
大人と過ごす時間が長かったけど、今は周囲に子供しかいない事を。
兄さんは16歳。周囲に影響されやすい年頃だと。
その周囲が
僕の周りでは、ジェターク寮生の歓声が響いている。
気分いいよね。まあ、僕も少し気分が良かった。
だって、因果応報は人が普通に求めるものだ。砕けて言うと「ざまぁ」って楽しいんだよ。
もしかしてシャディクも、今はシャディクのことはいい。
大事なのは兄さんだ。どんな態度で迎えれば良いんだろう?
別に、このままでも良いじゃないか。そんな気もする。兄さんは若いんだし、今回のは相手の自業自得だから……