真っ直ぐに僕を見つめる目。
どうしよう? これから言う事が怖い。
でも、条件は成立したんだし、言うしかない。
「あ、あのね、先ずは僕の感想、あくまで、少しだけ、ちょっとだけ思った事ね」
「どうやら、かなりの毒を吐くみたいだな。覚悟は出来ている。言え」
「うん。あのね、あの時の兄さんだけど……凄く小物臭い。人間が小さすぎる。見てて情けないね」
あ、硬直した。プルプル震えてる。怒ってる? 怒ってるよね?
あ、今度は顔を伏せた。両手で頭を抱え込んで震えてる。
ど、どうしよう? 怒鳴られるかな? 殴られるかな? それくらいなら良いけど、嫌われるかな?
「……それだ」
「え?」
「それだよ。俺がイライラしていた原因」
顔を上げたら、真っ赤になって情けない表情。や、止めて、そんな表情されて、グエ虐に目覚めたらどうするのさ?
「俺は自分の行動が、途中で嫌になったんだ。それでも止められなくて、余計にイライラして、後は悪循環」
「凄いね。その事を指摘しようと思ったけど、自分で気付いちゃったんだ」
普通は拒絶する。自分を否定する言葉から入れば、普通はそうなる。
その辺りから回りくどく伝えようと思ったけど、これって楽なのか難しいのか分からなくなってきた。
兄さんって、地頭良いとは思ってたけど、良すぎるのも考え物だよ。
「それで、兄さんの今回の行動で、何が問題だったかって言うと、目的を見失って手段が目的になったこと」
「は? そんなもん…」
「兄さんの目的は何だったの?」
「そりゃあ、ダイゴウの連中を懲らしめようと」
「それは、手段。目的はマルタンへの嫌がらせがある状態を止めることだったはずだよ。
でも、その目的を果たす手段に、最適解を探さずに、『ざまぁ』を選んで優先した」
「ざまぁ? 何だよそれ?」
「良く言えば、因果応報、自業自得な目に合わせる。悪く言えば、それを理由に嫌がらせをしてスッキリ。
悪い事をした相手、今回はダイゴウの連中だけど、痛めつけて良い理由を、見つけたから痛めつけた。
基本、小物臭い言動になり果てるから、お勧めはしない」
追放ものとか、悪役令嬢ものとか流行ったけど、あれって基本的に自分が悪い。所属する組織や婚約者、相手の事を考えていないから起こる現象だ。自分の事しか考えていない。だから小物臭い。
兄さんには、小物になって欲しくない。
僕? 僕は小物の中の小物だから、大好きだし、絶対やるよ。
「小物と言われる人は、自分達の事しか考えない。特に酷い小物は自分の事しか考えない。
兄さんは酷い小物では無かった。でも、小物の発想になった」
「そう、小物小物と連呼するな。いい加減、俺だって傷つくぞ」
「ゴメン。でも、相手の事、ダイゴウの連中の事を考えなかったでしょ?
僕としては、結構、頑張ったと思うよ」
「何処がだよ? さっきは、アイツ等のダメさ加減を言ってたじゃないか」
「うん。それはそれ。僕たちから見ればそうだった。
でもね、相手の立場になって考えると、見方は変わって来る」
発端となったのは、ダイゴウの経営戦略科の一年坊主が、
これは、まあ、何ともフォローしようが無い。あえて言うなら、人が人を好きになり、その結果起きる事態であり、同時にアーシアンへの蔑視感情がある社会の所為でもある。
でも、この状況、怒れるジェターク寮を前にした、ダイゴウの連中の行動は、見るべきものがある。
「まず、仲間を差し出すような事はしなかった。悪いのはコイツと差し出さなかった」
これは、アス高の空気の数少ない長所ではあるけどね。
でも、絶対に仲間を裏切らないとかはありえないから。
「そして、勝つ努力をした。兄さんなんて、事前に何の準備も努力も、しなかったよね?」
「お、おう」
「でも、向こうは考えた。総力では勝ち目がない。だったら大将狙い。発想は悪くないよ。
今回の条件、提示した時点で、ジェタークが拒否して、別の条件にしても良かった。条件を飲めないと言った時点で、ジェタークは逃げた事になる。
その後なら負けても、ジェタークは大将が逃げたって汚点がつくから、向こうの傷は浅くなる。
そして、大将同士の一騎打ちなら勝とうが負けようが、傷は浅くなる。そう考えた」
「だ、だけど…」
「今回は相手が悪かった。そして、戦う相手を見誤っていた。
兄さんが八百長で寮長になったと信じた情報の不備。まあ、向こうの寮長の性格にも問題はあったみたいだけど、一番の間違いは情報収集が間違っていた事。
何時も言ってる、戦いは情報が一番重要だって事は、こんな時に現れる。
でもさ、兄さんも、他の連中も、何か情報収集した? 何か策があったかもしれないんだよ?」
それこそ、アニメでやったスプリンクラーを使用すれば、ビームライフルじゃどうしようもなかった。
まあ、その場合はビームトーチを使えば良かったけどね。
「俺たちは、傲慢だったって事か?」
「いや、反省は後で良いから、相手の立場で考えるの。
兄さんが、MSの操縦技術もダイゴウの寮長くらいで、ダイゴウの寮長になって、今回の事件に遭遇したって考えて」
長い沈黙。兄さんは言われた通りに、自分がダイゴウの寮長の立場で考えている。
僕は、それを邪魔しない。まず、彼等が置かれた、絶望的な状況に気付いてほしいから。
「凄いな……どうしようもない。それでも活路を見出した。間違ってはいたけど、そう思っても無理は無いし、間違えただけマシとも言える。俺では思いつきもしなかった。
それに、あの人の俺に対する態度も、理解できた気がする。悔しかったんだな」
「うん。向こうからしたら、圧倒的な強者から、理不尽な暴力を受けている気分だったろうね。
そこに光明が見えた。みんなで考えて、手が届きそうな相手が目の前に来た」
そう、向こうが『ざまぁ』を出来ると思った。
だからこそ、ダイゴウの連中は僕から見たら小物の集まりだった。
でも、それは
相手の気持ちを考えていない、独善的な行為。
「勘違いして欲しくないけど、だからと言って、相手の意志を、全て尊重することは無い。
今回の切っ掛け、ダイゴウの一年坊主の恋慕なんて無視しても構わないし、マルタンへの嫌がらせを止めるのは正しい」
「行き過ぎた共感か?」
「近いね。向こうの気持ちがわかるからと、ウチの娘が態度を変える方が変だよ。
自分に気がある奴の気持ちを汲んで、地球寮と距離を置く、実にバカげている」
「じゃあ、どうすれば良かった?」
「目的を見失わない事。戦略の事を教えたよね?」
「ああ、ざっくり言えば、最後の状態の事で、これが目的になる。作戦以降は手段に過ぎない」
「うん。そして、手段は行動だと言って良い。逆に目的は状態。安定した形に向かうために、動くって教えたことがあるよね?
で、相手を懲らしめるって、どっち?」
「……行動」
「何でそれを目的にしちゃうかな?」
恥ずかしそうに、うつむく兄さん。ヤバいって! 目覚めるから! グエ虐に目覚めちゃうから!
「でも、そうなる人って少なくないよ。目的を達成するため、手段が限られている場合とかね。
おまけに、その手段が難しかったり、大変だったりすると、それを目的だと勘違いする」
これ以上はヤバいので、僕からフォローする。実際に手段と目的って混じりやすいんだよね。
そもそも、昔は戦略と戦術しか無くて、戦略に行動が含まれていた。今は作戦が入ってマシになったけど、それでも曖昧な境界はある。
例えば、戦争シェアリングだって手段でしかない。目的は一応は安定した世界だ。それ以前のクソ以下の世界を、デリングがクソな世界にまで持って行った。
「今回の目的は、ざっくり言うとマルタンの平和だった。そこを見失わず、相手が何を考えていたか想像すれば、違う作戦があった」
つーか、僕に一声かけて欲しい。まあ、忙しかったから気を使ったんだろうけど。
とにかく、マルタンが平和に過ごせるには、お前、逆に嫌われるぞと、恋愛を拗らせた行動を注意して、地球寮の連中を見直せるようにすれば良かった。
「ただ、こればっかりは、口で言っても分からないよね。普通は相手を否定したら拒絶される。
最初に小物と言って、拒絶した後だったら、伝わりやすいと思ったけど、兄さんが素直だったし、どうかな?」
「ああ、正直、ムカついた。お前以外の奴に言われたら反発してたろうな」
それって、僕が特別って事だね。やだな~。照れるな~。
「そうだな。決闘の前は、地球寮の連中に、俺の専用機を任せても良かったか」
そうだな言われて喜んだじゃないか。
でも、ずっと考えてたんだね。どうすれば良かったかを。僕も真面目に応対しよう。
「それも良いけど、あの機体は難しいからね。地球寮のディランザを借りる方が現実的かな」
兄さんのバックアップを地球寮のメカニックに任せれば、負けた場合は悔しくても認めざるを得ない。
もし、認めない場合は、ハンデ付きで兄さんに負けたって事になるから、強く言えなくなる。
「あ~……謝るのは無しだよな」
「追加攻撃したいのなら止めないけど?」
今更、やり過ぎてゴメンナサイなんて言われたら、それこそ恥の上塗りだよ。
「まあ、今はダイゴウの連中、どん底だろうね。可哀想に。
八百長で寮長になった一年坊主に嬲りものって、可哀想になぁ~」
ちょっとだけ、グエ虐タイム。
「うるせえ!」
って、いきなり蹴られた!?
な、なんで?
「だいたい、俺がこんな風になったの、お前の所為だろうが!
流石に気付くぞ。自分の価値基準がおかしいって! お前と一緒にいたからだぞ!
自分で言うのもなんだが、普通なら、俺くらいの実力があればイキって当然なんだよ! そうなっても可笑しくねえ!」
うん。アニメでは今より弱い状態でイキってたからね。
で、何時まで蹴るの? 何か目覚めるよ? グエ虐とは違う、新たな扉を開いちゃうからね!
ダメだって! 開くから! 開いちゃうからっ!
「止めた。何か気持ち悪い」
「酷いよ」
「だが、お前のお蔭で、次にやることが決まった。
確かに、八百長で寮長になった一年坊主に負けたって思われるのは嫌だよな」
あ、散々に蹴られて、言葉の暴力を受けて、それでいて「お前のお蔭」とか優しい言葉をかけて、それって、どんなプレイ? DVを受けてもついて行く、バカな妻の気持ちが分かった気がする。
「ちょっと、ホルダー取って来る。グエル・ジェタークになら負けても仕方がない。そう思われるようにする」
気軽に学園最強になってくる。そう言える兄さんが頼もしい……なんてことは無い。
「ダメ。それじゃあ足りない」
改めて思ったよ。兄さんは凄い。これなら大丈夫だ。
今回のような騒動が起きないよう、しっかりとした目的を持ってもらう。
「この学園は今のベネリットグループの縮図だからね。
だからこそ、先ずは学園から始めようか」
兄さんを、この世界の王にするために。