ラウダの野望   作:山ウニ

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僕は弟と言うよりね、もっと、こう大きな存在なんだよ

 

 

「というわけで、以上がヴァナディース事変の全容……いや、僕が知る限りの事実。

 これに、備えるため、兄さんは動いています。ベネリットグループの罪と向かい合うため」

 

当然、2年後にはエアリアルが来ることや、その周辺の話は言っていない。

だが、全体に嫌な話を聞いてしまった感が漂っている。

 

地球寮で食事を振舞われた後、予定通り、ヴァナディース事変の資料を使っての説明会。

ジェターク寮での、高価な食材を使用した料理と違い、安い食材を腕でカバーした料理は、異なる趣で美味しかったが、その余韻を吹き飛ばすのに十分な威力を持った話に、地球寮生の顔色は悪い。

 

「あまり、のめり込み過ぎない事をお勧めする。これは、何処に視点を置くかで、かなり印象が異なる事件だから」

 

アーシアンとしては、デリングの非道を糾弾したいだろうが、切っ掛けになったのは、地球の企業であるオックスアースが行っていた人体実験だ。

その影響で水星では、非道な虐殺が行われた。

 

「ラウダ、質問良いかな?」

 

地球寮の寮長の発言に肯定の意を込めて頷く。

 

「事情は分かった。何も起きないかもしれないが、起きる可能性を無視するのは愚かだよな。グエルとラウダが対策に訓練を始めた。理解するよ。

 そこの2人にだけ説明しても、抱え込むことになるから、俺たちも巻き込んだ……と、言うと嫌な言い方だけど、抱え込まれる方が嫌だからな。グエルが全員に聞かせろと言った判断も、正しいし、実にアイツらしいと思う。

 それで、グエルは、俺たちに何を望んでいる?」

 

「特には」

 

「言い方を変える。俺たちに何が出来る?」

 

困ったな。本当に、特に何かをして欲しいってことは無い。

だって、地球寮(ココ)では、既に目的を達成してるからね。

兄さんの目的は、アスティカシア学園の全員を、この状態に持っていく事。

つまり、兄さんが何かをする時に、味方に付く、可能な限りの力を貸す。そう思ってくれる事。

すでに地球寮は、寮長だけでなく、全員が脳焼き済み。現に、今も兄さんを手伝いたいと考えてくれる。

 

「本当に至急の用件はありません。話を聞いて分ったでしょうが、これは″事態に備える”くらいしか出来ません。

 その余裕があるのは、御三家クラスの力を持ち、その中に突出した戦力と求心力を中に抱いた存在、つまり、グエル・ジェタークのいるジェターク寮のみが可能だと考えています」

 

他に可能だとしたら、シャディクのいるグラスレー。ペイルは信用の面でマイナス。エランは寮内でも人望があるとは言い難い。

でも、だからといって、お前たちは見ているだけで良いと言ってはならない。

人が動く基本は、承認欲求を、お前を頼っていると伝え、満たす事。やりがいのある職場とは、それが与えられる職場の事だ。

 

「ですが、同時にそれに手を着けることで、ジェターク(ウチ)にも、余裕がなくなった。

 今回の頼みは、その典型です。まあ、今回の件は拒否しても、そう問題では無かったですが、これからもそうとか限らない。

 そういった意味でも、頼れる相手がいる事が、どれほど心強く助かるか、実感しました。あらためて感謝します」

 

一度、大きく頭を下げる。

困った時に頼れる相手がいる。それは非常に大きい。本当に感謝だよ。

 

「そして、今後も同じように、頼ることが出てくると思う。

 その時になって、ジェターク寮は何をやっているのかと疑惑を抱くことで、良好な関係を壊したくない」

 

「アリヤが何をしてるんだって言ったからね」

 

「いや、それはだな」

 

ナイスだティル。そう、全てが隣で慌てふためいているアリヤの所為だ。

このままアリ虐に移行しても良いが、目的は地球寮が今後も快くフォローをしてくれることだからな。これ以上は勘弁してやろう。

 

「それと、備えると言っても、何処に魔女は潜伏しているのか、本当に復讐を考えているのか、それも分かっていません。

 ですから、ここにいる人たちは、学園にいる間だけでなく、卒業してからも、心に留めていて欲しい」

 

実際に、地球に魔女はいる。2年後に、兄さんにケリを入れるという大罪を犯す奴が……絶対に許さんからな。

 

「確かに、地球に潜伏してる可能性は高いな」

 

「オックスアースだっけ?」

 

「他にもいるかもな。GUNDって名前じゃなくても、中身は同じなんて事もありえるし」

 

「うん。むしろ、卒業してからの方が、情報を集めやすい」

 

お? 良い感じにまとまったか。

思ったより良い方向で、まとめることが出来た。

今後も協力し合う事を約束し、解散する……おっと、重要な要件を忘れていた。今の内に言っておこう。

 

「それと、兄さんがホルダーに挑戦する事は聞いてると思うが…」

 

一旦言葉を切って周囲を見渡すと、全員が知っていると無言の肯定で応えて来る。

まあ、ジェターク寮(ウチ)からも伝えているし、決闘委員会で受理されたから、知ってて当然。

だが、兄さんが何を要求したかは、広まっていないようだし、無関係では無いので伝えよう。

 

「相手、つまりグラスレーの寮長にも、今度の連休での地球行きに、参加してもらうことを要求する」

 

 

「で、何か用があるのか?」

 

話が終わり、ジェターク寮へ戻ろうとしたら、アリヤが入口まで送ると付いてきた。

このだだっ広い倉庫みたいな寮で、どう迷えと言うのかと突っ込みたいが、別の用件がある事くらいは察せる。

 

「いや、面倒をかけてしまったからな。その礼を言いたかった」

 

「構わない。何時かは伝えなくてはならなかっただろうし、兄さんも良い機会だと思ったように、僕もそう思ったからな」

 

本当に良い切っ掛けだった。今回は収穫が大きい。

地球寮との協力関係の継続に、次回の地球行きの、同行者に関しても、先に伝えることが出来た。

考えてみれば、決まった後に伝えるのは、あまりにも地球寮に不義理だ。

実際に、大丈夫かと抵抗を示す者もいたし、そう思うのも当然だ。

ジェタークと地球寮は、先輩たちの考えで、3年間の空白期間を設けてから、関係を再構築して今の関係になったが、ダイゴウの件でも分かるように、アーシアン蔑視の風潮は、未だに健在だ。

 

だが、今回はジェタークと地球寮コンビがホームで、グラスレーはアウェーになる。

仮に、グラスレー寮の全員が参加したとしても、主導権はこちらにあり、こちらの空気に染めやすい。

そして、グラスレーから参加する人員は決めていない。寮長は強制で、他は自由意志になるので、そう多くは無いだろうし、参加者も、寮長個人を慕い、アウェーから守ろうとする騎士(ナイト)気取りか、普通に行ってみたいかだ。対処しやすい。

 

そう説明すると、理解してくれたし、兄さんの進もうとしている王道には、必要な事だとも納得してくれた。

そんな事を説明しながら歩いていると、出入り口に到着。逆ならともかく、女性であるアリヤに、この先まで送ってもらう訳には行かない。

ふと、アリヤを見ると、何か悩んでいるような素振り。だが、決意したかのように顔を上げる。

 

「よし、思い切って聞くぞ」

 

待て! 兄さんに彼女がいるかなんて聞いたら、殴るからな。

 

「君は、何者なんだ?」

 

「……どういう意味だ?」

 

「うん。唐突かつ抽象的すぎる質問で混乱させたな。すまない。

 前に、地球でみんなを占っていた時、グエルも占った事を憶えているか?」

 

「ああ、訳が分らんと困惑してたな」

 

前回の地球寮での研修中、まだ、グエキャン前で、親睦を深めている段階。

余興も兼ねて、アリヤが占いをしてみせた。最初は女子が参加し、その的中率に大騒ぎしていた。

そして、興味を持った兄さんを占ってみせたが、結果は困惑するような内容だったみたいだ。

 

「彼の運勢は、何と言うか、あまりにも波乱に満ちていた。ゴチャゴチャで、とんでもない方へ進むとか、それを大きな力というか、修正する力が側にいる。とても説明できないし、言っても信じられないようなものだ」

 

まあ、兄さんは偉大な存在だからな。凡人には理解でき……あれ? アニメ版の兄さんの動向の事?

 

「後になって、君たち家族の関係の事を聞いた。他意は無かったが耳に入ったのでな。

 それだと、納得する部分はあった。大きな父。多分、存在とか影響力だ。逆に母親の存在は見えなかった。

 それなのに、兄弟はいないと出た」

 

なるほど、占いの結果を見て、困惑するのも無理はない。

グエル・ジェタークの側には、何時も忠実に従う弟がいる。すでに学園中に知れ渡った常識だ。

 

「……参考までに聞くが、他には何と出た?」

 

「ああ、えっと、近い将来、生涯の敵みたいな存在と、運命の人が出て来ると」

 

「近い将来? しかも、敵みたいとか、曖昧だな」

 

「良く分からなかったからな。それと、直ぐではない。多分、1年以上先だと思う」

 

運命の人? 1年以上先なら、来年の新入生ではない……水星女か? ふざけるな。

それに、敵みたいって、どう判断すればいい?

 

「なるほど、当てにならないな。そもそも、兄さんに弟がいないと出る時点で、その占いは外れだ。

 ラウダ・ニールは、グエル・ジェタークの弟だ」

 

「そうだな。そうだよな。うん。変なことを聞いて悪かった。

 もしかしたら、側にいる修正する力が、ラウダではないかと思ってな。ハッキリ言って、人間では、あんな出方はしないから、妖怪の類かと思ってな」

 

「人を妖怪扱いするな。と言いたいが、まあ良いさ。では、帰る」

 

「ああ、気を付けてな」

 

最後は何時も通りの表情に戻ったし、変な勘繰りはされないと思うが。

それにしても占いか……そう言えば、水星女の事を当ててたはず。占いなんて、ペテンの類と思っていたが、アリヤの場合は本物の魔法みたいで怖いな。

 

 

あれ? アリヤが魔女の一人だったなんてオチはないよな? 

 

 

 

 

 

 

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