「不用心だな。お蔭でマルタンを始末する羽目になったじゃないか。これでも友人だったんだぞ」
「な、なにを……」
息絶えたマルタンを見下ろしながら、何時もと変わらない穏やかな笑みを浮かべるアリヤ。
その姿を見て、ニカの身体は震えている。
アリヤは笑いながら、外で戦闘しているガンダムを指差す。
「あの子達と同類。そう言えば分かるかな?」
「地球の魔女?」
「この上、可愛い後輩まで処分させるなんてこと、させないでくれよ。ニカ」
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マルタンがあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
おいおいおい、待ってくれよ。
お前等、友達だったよな? それを手にかけて、何で何時もと同じ表情なんだよ? おまけに後輩まで脅してやがる。
盲点だった。まさか、アリヤが魔女の一人だったなんて。
いや、ヒントは合った。水星女への占い。最後に誕生日を聞けと念押ししていた。何のため?
決まってる。
地球の魔女としては、他のガンダムが邪魔だったに違いない。
何と言う策士。まさに呪いを操る魔女!
だが、僕の目は誤魔化せないからな。必ずマルタンの仇は取る。顔も覚えていないモブ扱いだった頃とは違う。今はそれなりに情はあるからね。草葉の陰で見守っていてくれよ。マルタ…………あれ? いや待って、マルタン生きてるから。落ち着け。
つーか、落ち着いたらアレだけど、魔女って、そういうのだっけ?
どっちかって言うと、ガンダムに乗れるパイロットか、GUNDを作る技術者だったような?
ち、違うのか? でも、一度疑ったせいか、アリヤの言動全てが怪しく思えてきた。
そもそも、モブにしては無駄に容姿が良い上に存在感がある。兄さんの闇落ち道具以外の使い道も、考えるべきだった。
け、経過観察だ。それに、地球の魔女だったら、シャディクと連絡を取り合うかもしれない。
アリヤも気になるが、シャディクもあれだ。色々と調べてみたが、奴の企みは分からないまま。
だが、自信を持って言えることがある。アイツ、絶対に碌な事は考えていない。想像以上に環境が悪い。最悪だ。おまけに、僕が知る限りでの展開と結末。酷い未来しか想像が出来ない。
兄さんが決闘に勝って、グラスレーの寮長を地球に連れて行くとき、シャディクも誘えれば何とかなるきもするが、取りあえずは兄さんに期待だな。
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深紅のディランザが宇宙をかける。
ホルダーを賭けた決戦を前に取り付けられた、白をメインに、金色にも見える黄色を一部に配した
「宇宙だと目立つな。狙われやすくないか?」
「スラスターの光に比べれば、大したことは無い」
鬣が付いた兄さんのディランザは、僕の目から見れば、悪目立ちし過ぎに見えるが、周囲には好評だった。
言われてみれば、高校生って、こういうの好きだよね。何と言うか、
ちなみに見た目はジェネシックな勇者王に近付いていって、ジェネしか合ってねえよ。
「ハインドリー、接近してくる」
現ホルダーが使用するグラスレー寮の標準機体。バランスが良いとは言われているが、遠距離用の装備に難がある。
その辺は周知のことで、実戦配備のハインドリー・シュトルムは、ライフルの大型化とバックパックにもビームキャノンを追加している。
それに比べ、このハインドリーは、ランタンシールドという面白武器のビームハンドガンがメインの射撃武器になるので、事実上の接近戦用のMSだ。
普通なら、遠距離からビームランチャーで攻撃するのが常道だが……
「グエルも行った!」
だよね。周囲に仕掛けが無いか、警戒はしていたが、それは無いようだ。
左右の腰に取り付けられた、
正面から倒すと、互いの意志が伝わってくる。
「向こう、グエルを甘く見ている?」
「それは無い。多分、意地だな」
流石に、現ホルダーともなれば、相手の実力を、大きく見誤ることも無いだろう。
特に、前回のダイゴウとの諍いでは、相手を嬲り者にしてしまった。
あれを見て親のコネだ何だと言えるほど、今回の相手は、脳みそを捨ててはいない。
でも、だからと言って、兄さんが苦戦する相手かと言えば否だ。
ビームガンの攻撃を避けつつ、接近すると、ランスでの攻撃を太刀で弾く。
次いで、左手に持ったビームサーベルの攻撃。カミル達は、何時の間にか左手で、サーベルを持っていた事に驚いたようだが、僕は接近を開始する前に持ったのに気付いていた。当然、兄さんだって気付いている。
そのサーベルを、剣道の小手打ちの要領で左腕を斬り落とす事で避け、返す刀でブレードアンテナを切り裂いた。
「遊びは無し。ただ、相手の攻撃を上回って見せる。意識したみたいだね」
「どういう事だ?」
対戦前に調べた相手の特技は、剣道ともフェンシングとも言えるような、MSでの剣術。
その技術を、ただ上回って見せた。
「王者の戦い方」
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「見事なものだ」
シャディクは、グエルの戦闘結果を見て、感嘆の声を漏らした。
結果は分かり切ってはいたが、今回の戦いは、それまでの2戦と比べて内容が異なる。
最初のジェターク寮の寮長を賭けた戦いでは、早期に両腕を奪い、相手に何もさせない戦い。
これは、単純に相手と周囲に実力を示すと同時に、最大限、優しく仕留めようという考えが見て取れた。結局、中途半端な印象がある。
次のダイゴウとの戦闘では、一転して嬲り者である。如何にも、アスティカシア学園の生徒、そして御三家らしい、傲慢さが窺えた。
「相手の特技を上回ってみせる。王者に相応しい振舞だね」
「そうか? 逆にバカにしているように見えるが?」
その考えを否定したサビーナだった。何故、そのように考えたのか、見当は付くが確認だけはする。
「何でそう思う?」
「私だったら、己の特技ではなく、自分の特技で戦われたら良い気はしない。
全力を尽くすなら、己の得意とする分野で勝負するべきだ」
「なるほどね。だけど、グエルほどの圧倒的な力があれば、得意であろうと、なかろうと結果は変わらない。
それこそ、先のダイゴウのようにね。
前回と今回の差は、正にそこさ。相手を調べ尽くした。グエルなら、そんな事をしなくても勝てるよ。でもね、相手を警戒し、その実力を調べた。
その上で上回る。相手への敬意が無ければ、ワザワザそんな真似はしないだろ? 傲慢だが、不遜ではない。通じない奴には通じないだろうけどね。ウチの寮長なら、それが通じるよ。今頃は笑ってるさ。完全にしてやられたと。今度はお前が行けとか、言われるかも」
「それで、まさか言われたら行くのか?」
「勘弁してほしいな。見ただろ? 俺に勝ち目なんか無いよ」
腕に自信はあった。
グエルがジェタークの寮長の座を賭けて決闘すると聞いた時は、グラスレー寮もするかという、寮長の冗談を真剣に検討もした。
だが、グエルの戦闘を見て、その考えを変えた。多くが茶番だと断じた決闘で、シャディクを始め、グラスレーの者はグエルの実力を正しく評価した。
決闘での戦績こそジェタークに劣っているが、その原因はMSの性能差。純粋なパイロットの技量はグラスレーが上だと自負している。
その上で、今後もグエルと比較される事が多いであろうシャディクを、正面に立たせないというのが、グラスレー全体の結論だ。
「それで、結局どうするか決めたのか?」
「ん? 寮長の地球行きに同行するかってこと?」
「ふざけるな。例の密偵まがいの件だ」
「うん。正直、グエルが俺に興味を持ってくれているってのが、意外でもあり、嬉しくもある」
シャディクの周囲を嗅ぎまわっている存在に気付き、ソイツを調べることで雇い主を逆に調査した。
そして、その相手はジェタークだった。相手が相手だ。騒ぎには出来ないが、どうするかは検討する必要がある。
「アイツは地球の惨状を見ている。そして、どうにかしようと動いているのは明らかだ。
だから、直接話そうと思う」
「危険では?」
シャディクは、グエルに直接会って話そうとしている。
サビーナは、それを危険だと考える。
だが、その2人の考えに異を挟んだのは、ここにいる3人目の人物エナオだった。
「調べているのがグエルだとは限らない。分かっているのはジェタークの手の者というだけ」
「ヴィム・ジェタークか? それは無いな。奴は小人だ」
「サビーナ、小人は言いすぎだよ。彼も最近は地球で過ごして、少しはマトモになったみたいだからね。
だからと言って、俺を調べるなんてことはしないだろう。彼のいる場所では、俺との繋がりを察することは出来ない」
シャディクには、何か所かの地球との連絡場所があり、そこからシャディクの存在に感付かれる危険はある。
だが、ジェタークが手を着けている地域は、そこから離れているので、気付かれる心配は無い。
「ラウダは?」
「弟の方か? それこそ無いな。あれは兄の言いなりに過ぎない犬だ」
「おいおい、言い過ぎだぞ。仮にも学友じゃないか。
でも、俺も無いと思うよ。犬は言い過ぎでも、ブラコンは否定できない。自発的に動くタイプじゃないさ」
「そうかな?」
「もし、ラウダだったとしても、それはグエルの指示だろう。
今回の決闘で気付いたけど、ジェタークは経営戦略科に諜報の真似事をやらせていた。
俺を調べているのも、その一環だろう」
「それで、会ってどうする? まさか全部話すのか?」
「流石にそれは無いよ。でも、アイツがこの世界をどう思っているのか知りたい。
それに、俺の考えを少しだけ漏らす。その時の反応で見極めたい。
いや、期待しているのかな? アイツこそが俺の求めていた人材だと。
グエルは、ミオリネ以上に適任なんだよ」