ラウダの野望   作:山ウニ

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それで冷戦状態になるなら、金髪の孺子はスカートの中から出られない

 

 

 

「ラウダ、お前、シャディクの事を調べていたのか?」

 

僕の部屋に来た兄さんの唐突な質問に、答えはもちろんYES。兄さんにウソを吐くなんて出来ないからね。

それにしても、何があった?

 

「見せろ」

 

「こちらでございます」

 

何時になく真剣な表情に気圧されて、変な言葉遣いになってしまったよ。

だけど、怒っている可能性もあるし、ここは正座待機だ。

僕が調べたシャディクの過去と現在。それを見て何やら考え込んでいる。

 

「う~ん、そんな軽率には思えないんだがな」

 

「あの、何があったの?」

 

「ああ、シャディクに呼ばれて……って、なんで正座?」

 

「いや、兄さんが怒ってるかなと」

 

「怒ってはいない。調べたいなら事前に言ってくれとは思ったが……取りあえず椅子に座れ」

 

「うん」

 

「要するに、アイツが自分をジェタークの手の者が調べているのに気付いた。

 それで、俺を疑ったみたいだな」

 

「ごめん」

 

「いいさ。それに、アイツも怒っていなかった。むしろ、俺との接触の機会を伺っていた感じだな」

 

「兄さんと接触って、何を話したの?」

 

「何か、世の中への不平って感じだな。それを飄々としながら、何処か熱っぽく……違うな。本気で不満を抱いているが、それを隠そうとしながら喋っていた。それだ」

 

何か、1人で納得したよ。

 

「一番は戦争シェアリングへの不満を感じた。その構造を変えたがっている」

 

ジェターク社(ウチ)と同調したいってこと?」

 

それなら歓迎だ。プラントクエタの件を始め、個人的にシャディクは気に入らないが、それはそれ。

放置すれば、碌な事をしない可能性が高い危険人物だ。同調してくれるなら、それに越したことはない。

 

「いや、ジェターク社(ウチ)のやり方じゃ手緩いと思ってる感じだったな」

 

「他に手が?」

 

「多分、スペーシアンとアーシアンで、戦力バランスを調整して、冷戦構造を実現したがっている」

 

は?………………………………兄さん、酸素欠乏症に?

 

「そんな可哀想な人を見る眼で俺を見るな」

 

「いや、だってさ。冷戦構造って知ってる?」

 

「戦力の拮抗した2大勢力の睨み合いだろ?」

 

「半分だけ正解。いや、半分以下。それだけなら歴史上何度も見られた対立の構図でしかないよ。

 どちらかが倒れるまで、延々と戦い続けるしかない」

 

ガンダムシリーズだけで見ても、一年戦争もグリプス戦役も基本そうだし、SEEDもそうだね。

多少の戦力差があっても、ひっくり返せる目算があればやる。

それこそ、シスコンが皇帝になるスペースオペラなんて、帝国と同盟の戦力が拮抗した状態が長かった所為で、戦略目的すら無しに戦い続け、両方が疲弊している。

 

「冷戦で大事なのは、戦ったら共倒れになるので戦えないこと。核兵器とかね。

 別に戦力を互角にしなくても良い。ただ、戦力が互角なだけなら、それこそ戦術の競い合いになって、延々と戦い続ける。

 現状で言えば、スペーシアン側で可能な隕石落としに匹敵する攻撃方法を、アーシアンが持てばそれで良いんだよ。それで、シャディクはそれを持ってるの?」

 

「あれば大騒ぎだな。そもそも、隕石を落とそうなんて発想が、お前くらいなものだからな」

 

「その発想が出てこないのは、スペーシアンとアーシアンの格差が大きいからさ」

 

圧倒的に格下の相手だからこそ、戦い方なんか考えない。

いや、そもそもスペーシアンはアーシアンを戦う相手と認識していなかった。だから今までは考えていなかった。

でも、冷戦構造ともなれば話は変わる。相手を真剣に倒そうと考えれば、当たり前に思いつく手段だ。

 

「そもそも、何で冷戦構造なんて発想が出て来たの?

 まさか、シャディクが一緒にやろうって、言ったって事は無いよね?」

 

内容が内容だけに、正直に言うとは思えない。

もし、言ったとしたらトラップだろう。何かの企みに巻き込もうとしていると考えた方が良い。

 

「いや、アイツの言ったことを拾い集めて、この資料を読んで推察した。

 特に印象的だったのが、戦争シェアリングの構造が共倒れの未来に繋がる事を意識していたし、過去の冷戦構造が軍需産業にとっては最も良い時代だった事も主張していた。

 それとジェターク社(ウチ)のやりかたでは時間がかかり過ぎて、その間に死ぬ子供の数とかな」

 

うん。何気にそれが出来る兄さんは、わりとトンでもない領域に達しているんだけど、今回のはね……

 

「で、お前は何を考えてシャディクを調べた? それで、アイツが何を考えてると思う?」

 

「うん。アイツが養子だって事は聞いていたし、グラスレーが運営しているアカデミーには、アーシアンの孤児も多いって聞いたから。

 グラスレーの後継者が、賛同してくれるなら、ジェターク社(ウチ)の計画も捗るし」

 

別にウソではない。本当にシャディクが賛同してくれたら助かる。

いや、このまま放置は出来ない相手だ。

 

「ただ、アイツを信じて良いか不安になった。アーシアンの孤児で、その事を卑下していなければ、地球寮と接触しそうなものなのに、全く無いからね。だから調べた」

 

「なるほど。それで、お前はどう考えた? 賛同してくれると思ったか?」

 

兄さんは、シャディクを誘ったのだろうが、はぐらかされたか、断られたかしたのだろう。

それで、何か嫌な予感がしたのかもしれない。

 

「僕の予想では、賛同はしない」

 

少し前までの僕なら……シャディクが自分の出自を嫌悪していて、アーシアンの弾圧を狙っていると想像していた頃なら、奴が冷戦構造を狙っていると聞いても、案外と納得しただろう。

だって、その方が、戦争シェアリング(現状)とは比較にならないほど、多数のアーシアンを殺せるから。

でも、今は違う。前提となる条件の変更に、兄さんの話を聞いて、その可能性は高まった。

 

「多分だけど、シャディクの狙いは、ベネリットグループの破壊。

 まあ、ベネリットグループは最有力候補で、破壊対象は議会連合とか他にあるかもだけど……って、そんな可哀想な奴を見る目で見ないで欲しいな」

 

「いや、お前、シャディクを何だと思ってるんだ? そもそも、破壊って何だよ? 手段だぞ」

 

「最近、僕の知り合いに、目的と手段を履き違えた人がいて…」

 

「悪かった」

 

「いや、あれがヒントになったんだ。手段を目的と勘違いして暴走するのって、普通だなって思うと、違う見方が出来るって」

 

そう。シャディクを過大評価とは言わないが、常識的な思考を持っている前提で、奴の考えを推測していたけど、奴が常識を持ったままだと思うのが間違いじゃないかと考え直した。

 

「そう思って見直すと、コイツの育ってきた環境、想像以上に酷かった」

 

「酷い? よくいる、とまでは言わないが、アーシアンの孤児としては、特別珍しい環境じゃ無いだろ?」

 

「孤児としてじゃないよ。アカデミーに行ってからさ」

 

「ん? そこでは優遇されてそうだが」

 

そう言って、再び資料に目を通す。そこには、優秀な成績と才覚を買われ、サリウスの養子になった経緯が書かれている。

 

「そう、問題はその優遇。どん底から一気に優雅な生活になった」

 

仮に、イエル・オグルがペイル社に拾われ、エラン・ケレス(強化人士)になっていたら、世の中を憂う余裕などない。

自らの死に怯え、諦めるか、ただ生にしがみ付くか、やっても八つ当たりの破壊衝動。

 

だが、イエル・オグルはグラスレーに拾われ、シャディク・ゼネリ(グラスレーの後継者)になった。

それまでに比べ、あまりにも恵まれた生活を送ることになった。

 

「その手の人物はね、自分を嫌いになるんだ。

 裕福で恵まれた環境にいながら世の中を憂いていれば、自分の優雅な生活を許せなくなる。

 その結果、強烈な自己嫌悪に陥って、醜いと思い込んでいる自分を責め、その身代わりを攻撃する」

 

先人の言葉に、革命は何時もインテリが始めるなんてあるけど、綺麗なサロンで紅茶を啜りながら世直しを考えれば、自己嫌悪に陥って過激な行動にも出たくなる。

そう、恵まれた境遇の我が身に比べ、今も悲惨な生活を送っている者の事を考え続ければ、正しい心を持っているほど歪みもする。

 

「兄さんの戦争シェアリングを変えたがっていると聞いたことで確信したよ。

 戦争シェアリングで得している相手が許せない。それはグラスレーの後継者(自分自身)だからね。

 だから、ベネリットグループが最有力候補。それを壊すと言いつつ、やることは自殺だよ」

 

何かを成そうと本気で考えているなら、グラスレーの正式なCEOになってからやる。

その方が、あくまで後継者であるシャディクより、手が長くも広くもなるから、やれることが多くなる。

しかし、シャディクはグラスレーのCEOの地位、いや、CEOシャディク自身が嫌悪の対象なのだろう。

 

もっと薄情な人間なら、破壊対象はグラスレーだけで済んだ。だが、シャディクにとって、グラスレー単体は憎み切れないはず。そうなると、やはりサリウスまで汚れさせたベネリットグループがターゲットになる。

まあ、そう思うのも、ミオリネへのヘタレっぷりや、プラントクエタでデリングとジェタークCEO(父さん)を一気に始末しようとした結末を知ってるからだけどね。

 

「多分、死ぬ気になっている。何らかの未来図はあるかも知れないけど、それは適当に考えた構図で、本来の目的は自分の分身を攻撃する事での自殺。先の事を真面目に考えてないよ」

 

恵まれた生活が逆に不安になって学生運動をしていた革命家気取りが、絵空事の未来しか考えていなかったように。

ただ、気に入らないからを優先しているはずだ。

 

「……なあ、その適当に考えた未来の構図が、冷戦構造ってことはないか?」

 

「…………………………………………え?」

 

いや、いくら何でも適当過ぎん? 冷戦舐めてないか?

 

「兄さん、宇宙議会連合の意見を統一できる?」

 

「無理だな。民主的と言えば聞こえが良いが、必ず跳ね返りが出る」

 

「兄さん、地上を統一できる?」

 

「前も言われたな。地上で覇王になるなら手伝うよって。あれって自殺に付き合うよってニュアンスだったよな」

 

「うん。絶対に無理だから。でも、やるなら一緒に死ぬよ」

 

「いらねえ」

 

「でも、地上を統一するなんて、全地球圏を統一するくらいの能力ないと無理だからね」

 

戦争シェアリング真っ最中の地上ですよ。殺り合っている方々が多数です。

別に、円形闘技場(コロッセオ)の奴隷剣士みたいに、無理やり戦わされている訳では無いので、アーシアン同士でバリバリにいがみ合ってる状態ですよ。

そんなの統一しようなんて、戦国時代の天下統一を世界規模でやるって事だよ。

おまけに、利権目当てのスペーシアンの横やり付きで、更に難易度アップ。

 

仮に出来たとしても、そんな人たちを、反スペーシアンで意思統一しようとしたら、口先だけでは済まない。

だったら、それこそ行動に出るしかないよね?

そして、そんな行動に出たらスペーシアンもキレるよね?

それの何処が緊張感のある対立なんだ?

 

「やっぱ、違わない?」

 

「……俺も自信が無くなってきた」

 

兄さんが、改めてシャディクと話す事を決め、今回の相談はお開きになった。

 

 

兄さんがシャディクと決闘する事を約束してきた。

何でだ?

 

 

 

 

 

 

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