「ビームランチャーはいらない。右肩もシールドにしてくれ。
それと、ビームパルチザンを使う」
「太刀じゃないのか?」
「ああ、何回か殺しておきたいからな」
物騒な物言いに、カミルを始め聞いていたメカニックが固まる。
「本気で殺すわけじゃないから安心しろ。それと、ビームライフルは準備してくれ。使わないだろうが、最初は持っておく」
今度の決闘に向けたミーティング。
慢心を諫めようという声は出なかった。現に使う予定がないビームライフルを用意させるのは、シャディクが何をしてこようが対処する気の表れだから。
でも、それよりも、前回以上の気の高ぶりが、周囲に異を唱えさせないでいる。
「それと、次の決闘だが、開始は朝からだが、終わりが何時になるかは分らん。
サポートメンバーは交代で待機してくれ」
「交代って、何のつもりだ?」
「心配しなくても朝日は見ない予定だ」
その言葉に愕然とするカミルの表情が可愛いね。
まあ、冗談はさておき、兄さんがほぼ飲まず食わずで数日持つことは、グエキャンを経験したジェターク寮生には周知の事実。
そんな兄さんが長丁場を予想させる発言をしたことで、素直に交代での待機シフトを作り始めた。
「それで、何をするつもり?」
ミーティングを終えて、部屋に戻る最中の兄さんを呼び止め確認しておく。
何となくは察しがついているんだけど、認めたくない自分がいる。
「お前の真似だよ」
その予想を裏切らない返事に、僕は溜息で応えるしか無かった。
危険だとは思うけど、それが兄さんの意志なら、僕は何も言わない。
逆に、兄さんの願いを叶えるために動くのが僕の役目。
「決闘委員会には連絡しておく。こちらは長期戦になった所で、大して仕事は無いから良いとして、問題はグラスレーだよね」
「向こうの寮長に、俺からの頼みだと言えば聞いてくれるはずだ」
「うん。わかった。決闘が終わる直前にはグラスレー寮に行く」
「頼む。それと、シャディクの周囲は?」
「2人。サビーナとエナオだけ」
「そうか、そいつらは」
「僕が処理する」
「裏でか?」
「まさか。そこまでの相手じゃないよ。
トラウマになる程度のお灸を与えれば十分さ。シャディクの始末を終えたら、決闘を申し込むよ」
「そうか。俺に出来る事は?」
「そうだね。無駄にプライドは高いから、兄さんを巻き込むかも」
「好きにしてくれていい。お前なら俺をどう使おうが任せられる」
「期待に応えられるよう努力する」
「ああ、それとだな……」
兄さんが何か言いかけて、言葉に詰まる。
やがて、困ったように苦笑しながら話を続けた。
「処理や始末。言葉が過激になっている。
思うところはあるだろうが、感情に流されるなよ」
「……分かった。そうだね。気を付ける」
危なかった。
内心では始末してしまった方が良いと思ってるから、表に出たのだろう。
でも、兄さんの目的は違う。その目的に僕も反対する理由はない。いや、感情の面を抜きにすれば最適解だ。
「兄さんに置いて行かれそうで怖いよ」
「それは困る。俺はお前が横にいる前提で物事を決めているからな。いなくなるなよ」
無茶振りだなぁ。
まあ、シャディクのこれからに比べればマシかな。うん。
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「酷いな。そう負けると決めつける事はないだろ」
グエルとの決闘を決めてからと言うものの、サビーナの苦言が酷い。
だが、あの場はああするしか無かった。
グエルは想像以上の、いや、想像の埒外の傑物だった。こちらの目的を予想し、それが不可能であることを告げてきた。
挙句に、地面を指差しながら、
アーシアン側がプラントに対して、同じような攻撃手段を所持していなければ、対等の緊張感は生まれないと。
その恐怖を想像し、慌てて計画の要とも言える両陣営のトップが抑えることを喋ってしまった。
ミオリネとの対峙を想像しながら考えて考え出した事だが、グエルに言わせれば抑え込むことなど不可能の一言。
他にも、情報は一方的に抑えられる。軌道エレベーターとマスドライバーの出口を封じる。マスドライバーを地上に向けて建造して射出する。散々恐怖を与えた上で、地上の勢力にスペーシアンに付けと裏切りを薦める。本当に出ればそれで良し。出なくても裏切ったと宣伝させて、互いに疑心暗鬼に陥らせる。
アーシアンの企業が、スペーシアンの企業と同レベルになるには、長い教育が必要だが、その手筈はあるか。
そして、その大きな技術力の差をやっとの思いで近づけることが出来たとしても、その前にパーメットを禁輸すると来た。
現在の文明を支え、素材だけでなく推進剤のような消耗品にまで混入されるパーメットは、地上にはなく月を抑えたスペーシアンの物だ。仮に月以外から輸入しようとしても、制空権を抑えたスペーシアンが、それを許すことはない。
そう、本気で戦争する事を考えれば、そもそも緊張感を持った対立どころか、相手にさえならない事を告げられた。
そして、本気で考えていない事を見透かされた。ただの破滅願望の自殺志願者と言われた。
否定したい。違うと叫んだが、我ながら言葉に力が無かった。多分そうなのだろう。
あれから冷静になって考えたが、自分の中から湧き上がる黒い衝動の正体は、この世界の理不尽への怒りというより、ただの破滅願望と言われた方が納得がいく。
ベネリットグループを解体すれば満足だった。それが出来れば死んでも構わない。その後は誰かに託せばいい。
だが、その後を真剣に考えれば、自分が生み出した地獄で苦しむ大切な人の顔が浮かんだ。
「シャディク、ジェタークが寮長と決闘委員会に妙な頼みをしてるって」
エナオが部屋に入って来て、不思議な事を言った。
グエルが自分を相手するのに、策を弄する必要があるとは思えなかったからだ。
返事を出来ずにいると、サビーナと話を始めた。
「寮長とは、グラスレーのか?」
「そう。内容は長期戦への備え」
「長期戦? 何を企んでいる?」
グエルがシャディクに苦戦するとは思えないし、それを警戒してるとも考えにくい。
嬲りものかな?
それくらいしか思いつかなかった。
「企むと言うより、戦闘が長引いて迷惑をかけるだろうから、サポートは交代で待機するよう、ラウダが頼んで来たみたい」
「ラウダ? 兄の使いっパシリか」
ラウダという名に、シャディクは違和感を持った。
サビーナの評価は当てにならない。以前の自分もだ。
グエルと話している最中に何度も出て来た単語が、ラウダと弟。別に使い分けではなく、その場のノリでどう呼ぶかの問題で、同じ意味を持つ単語にして人物。
シャディクを調べたのもラウダ。破滅願望を持っている事に気付いたのもラウダ。
いや、それ以前から、あの兄弟は互いを支え合って行動していたのだろう。
シャディクが考えた計画は、根っ子の部分では、ジェタークが行動する上での失敗例。急激に地球を発展させた場合に起こり得るスペーシアンがアーシアンへの憎悪を持った場合の危険予知の一部でしかないそうだ。
グエルの口調からは、そういったことを相談できる弟に対する親愛だけではない、誇らしさも感じられた。
どう考えても只者ではない。そんな男が全力で支える相手がグエルだ。
敵う訳が無い。そんな相手を、まるで対等の相手が出て来たと喜んでいた自分は、どれだけ滑稽だったのか。笑いしか出てこない。
ふと、自分の周囲を振り返ると、信頼できる相手がいない事に気付いた。
いや、自分以外を信用していないのだ。
自分の優秀さに自信を持っていた。それを証明し続けた。同世代でこれはと思えたのはミオリネだけ。
だが、ジェターク兄弟から見れば、粋がった子供にしか見えないだろうし、それを指摘する相手もいなかった。
どうしようもない孤独。さらに深まる自己嫌悪。なるほど、あんな愚かな目的を掲げるはずだ。
でも、今更どうしようもない。
むしろ今は1人になりたかった。
まだ、何かを話している2人に黙って、自分の部屋へと向かった。
途中で呼び止められたが、それも聞こえないふりをして。