ラウダの野望   作:山ウニ

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アカデミーの設定は独自考察です







塩を送るだけで満足しない兄さんは、義将どころではない

 

 

 

完全に熟睡モードに入ったシャディクを乗せたストレッチャーを、グラスレー寮の人に任せて、僕は鋭い視線を送り続ける人物の元へ向かう。

まあ、怒りの視線を向けているのは、彼女だけでは無いけどね。明け方も近い深夜なのに、随分と人が多いな。グラスレー寮(ここ)は。

 

「嬲りものにするのが、ジェタークの趣味か?」

 

思わず失笑が漏れる。やはり、サビーナ辺りからだと、そうとしか見えないか。

兄さんとシャディクの戦いは、心や魂といった見えていない世界のぶつかり合いだ。

兄さんを信じているジェターク寮生でも、シャディクの技術の向上や、本性が現れた際の荒々しさしか気付かない。

ましてや、表面しか見えていない者には、あの戦いの本質は絶対に分からない。

 

「哀れすぎて面白かっただろ?」

 

だが、この女に事実を教える気は無い。

その怒りの炎に、盛大に油を注いでやろう。

 

「分不相応の立場になった身の程知らずには、お似合いの姿だったと思わないか?」

 

「貴様!」

 

良い感じに熱くなってるじゃないか。

こうも簡単に喰えそうだと、浮気したくなる。

いや、浮気は違うか? だが、本命が簡単すぎれば、他所の味を知りたくなるというもの。

 

「騒ぐなよ。貴様も不服そうだし、決闘と行こうじゃないか」

 

「決闘だと? 貴様とか?」

 

「サビーナ・ファルディン、エナオ・ジャズ。2人まとめて相手してやる。

 僕が勝ったら、この学園から出て行け」

 

流石に驚いてるか。だが、僕たちがシャディクの企みを知っていることくらい分かってるだろうに、無事で済むと思っていたのか?

まあ、証拠も無いし、妄想だと言って切り捨てれば良いんだけどね。

だけど、この決闘は受けて欲しいから、美味しそうなエサをぶら下げてやるよ。

 

「そうだな。君たちが勝ったら、僕たち兄弟が学園から出て行くなんてどうだ?」

 

「正気か?」

 

「おい、人を狂人みたいに言わないでくれ。そこは本気かと聞くところだろ?」

 

「狂ってるとしか思えん。我々2人を1人で相手にする無謀の上に、自分だけでなく、兄の進退も勝手に決めるとはな」

 

「兄弟仲が良いからね」

 

おいおい、これだけ、美味しそうなエサを前にしても迷ってるな。どれだけ疑い深いんだ?

それとも、プライドが邪魔するか。

 

「待って。質問」

 

ボルテージが上がって来たサビーナに冷水をかけるかのような冷静な声。

エナオか。僕にとっては、コイツの方が厄介かもしれないな。

 

「そこまでして、私たちを追い出すメリットが分からない」

 

そうだよねぇ。うん。僕にも分からない。だって、追い出したいとか微塵も思ってないからさ。

でもね、今は本命である君たちよりも、浮気相手(グラスレー寮生)の気持ちが気になるんだ。

 

「薄汚いアーシアンの孤児と同じ空気を吸いたくない。十分な理由だろ?」

 

僕の一言に周囲の空気が変わる。へぇ~、これは凄いな。

ある程度の予想はしていたけど、おそらく全然いないな。

 

「良いだろう。受けてやる。

 だが、相手は貴様だけでは不足だ。我々2人とグエルと貴様でだ」

 

やはり、そう来たか。周囲は何で?って反応だけど、まあ、予想の範囲内。

この女、真面目過ぎるというか……もう、堅物で良いや。

賭けの対象に兄さんの進退がある以上は、兄さんのいないところで決めるのは卑怯だとか思うんだろうな。

だが、それだと、周囲が止める。兄さんの実力はたった今、全員が見ているのだから。

 

「認めよう。決闘は明日……ではなく、既に今日だな。放課後を希望で良いかな? 

 ざっと12時間後だ。それなら、決闘委員会での調整も間に合うだろう」

 

視線をグラスレー寮長に向けながら発言する。

これで、反対意見を言おうと思う奴も考えるはず。

今の兄さんは疲労の極みにあるはずと。それなら、決して無謀では無いと考えるだろう。

 

「分かった」

 

サビーナが何かを言う前に、エナオが了承する。

ある意味ハンデのある内容に、サビーナは不服そうだが、エナオは勝利を優先する。

 

「良いだろう。だが、場所はそちらに任せる」

 

サビーナが承知しながらも、せめてハンデを埋めよう、という感じかな。

でも、その条件は助かる。実に良い感じにまとまった。

 

「さて、後でゴタゴタしないように、決闘の内容は紙面で出す。そこに決闘委員のトップがいるからね」

 

そう言って、グラスレー寮長の元へと単独で向かう。

かなり困惑しているな。まあ、気持ちは分かる。

兄さんと僕とで、地球行きに関して何度か話しているし、シャディクとの決闘前にも話をした。

そんな僕が、あんな発言をしたことを信じられない気持ちでいるだろう。

 

「紙面の作成をお願いします」

 

周囲の刺さるような視線を受けながら別室へ移動する。

何か聞きたそうにしているので、早めに言っておくか。

 

「お願いがあります。彼女たちが勝った場合の条件はそのままで構いませんが、僕たちが勝った場合の条件ですが……」

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「寝てなかったんだ」

 

部屋に戻ると兄さんが、栄養ドリンクを飲みながら待っていた。

でも、疲労は隠せていないな。

 

「報告を聞いてからと思ってな」

 

「シャディクなら、自分で飲んだ。点滴もいらないね。本当に呆れるほど頑丈だよ」

 

「当然だ。アイツは取り繕ってはいるが、獣みたいな奴だからな。やり合ってて中身が見えだした時は笑いそうになった」

 

「実際に笑ったんじゃない?」

 

「どうかな? 決闘中は夢中だったが、笑ってたかもしれん。それで、後始末の方は?」

 

「うん。決闘を決めてきた。兄さんを巻き込むことになったけど」

 

「だろうな。サビーナみたいな奴だと、受けるなら俺抜きはないだろう。エナオは違うだろうが、主導権はサビーナが持ってそうだし」

 

「だね。予定は今日の授業が終わってから。ちなみに負けたら学園から追い出されるんでヨロシク」

 

「お前に任せているから構わんさ。

 それにしても、よく受けたな。エサは大きいのを用意したんだろうが、サビーナは食いつかないタイプと思っていた」

 

「いや、良い感じに温まっていたよ。簡単に釣れそうだったから、浮気したくらい」

 

「浮気?」

 

「要求として、薄汚いアーシアンの孤児と同じ空気を吸いたくないから出て行けって。大きい声で言ってやった」

 

流石の兄さんも硬直するか。

でも、それも一瞬で、すぐに苦笑を浮かべる。

 

「物騒な確認方法だな。それで、グラスレーの連中はどうだった?」

 

直ぐに気付くとは凄いね。まあ、兄さんも気になってたんだろうけど。

 

「その意見に同意する感覚はゼロ。多分だけどね。

 感じたのは、困惑と怒り。シャディクたちがアーシアンだと知っても、手のひらを反したりはしないね」

 

「アカデミーの影響は大きいな」

 

グラスレー寮は、グラスレー・ディフェンス・システムの社員の、子息や関係者が大半だが、3割近くはアカデミー出身者だ。

アニメでは、サビーナたちがアーシアン出身でありながら、アス高で蔑視されていないのが不思議だったので調べたが、何のことはない。誰も彼女らの出自を知らなかっただけ。同じグラスレーの寮生でさえもだ。

 

アカデミーは再教育施設というだけあってグラスレーにとっての将来の有望な人材を育てる場所だ。

アス高入学前から、必要なのは実力のみの学生生活。そんなところで生活していた連中だから、学園に入っても、各分野で上位になるので、発言力が高まる。

同時に、アカデミー内で、生まれを聞くことはタブーとされていて、出自を言うことも無い。サリウスにとってアーシアン蔑視は何の利益も無いのだろう。

これは、アカデミー外でも通用している感性であり、アカデミー出身だからと、アーシアンであるか否かも詮索されない。

 

だが、各自で見当は付けており、同時にアーシアンだからと言って卑下することも無い。

何故なら、これまでの秘匿が効果を発揮し、アーシアンを蔑視する理由が無くなるからだ。

おそらく、彼等の中では、アーシアン蔑視をするアス高生は、″俺”の世界でのナンセンスな差別主義者として、逆にバカにされる存在になるだろう。

 

「グラスレーは、ジェターク(ウチ)が目指している世界を半ば達成している。

 そして、シャディクも、歪ながら兄さんが目指す姿を達成していた。そこに兄さんの修正が入ったんだ。

 シャディクが戻ったら、かなり凄い相手になるよ」

 

「だから良いんだろうが」

 

「そう言うと思ったよ」

 

やっぱり確信犯だよ。シャディク個人でも厄介なのに、その背景まで含めると、実はかなりヤバい。

地球に関しては、表面ではジェタークが先行しているが、内面、心理的な部分になると、グラスレーはジェタークより何歩も先を行っている。

だから、手下にすれば良かったのに。

 

「後は補佐だな。やり合って気付いたが、アイツは心に弱さがある。

 尻を叩く人間が何人か居れば万全だ。お前、前もって良く気付いたな?」

 

いや、アニメを見てればシャディクがヘタレなんて常識だよ。

 

「まあ、あの状況に追い込まれた時点で、弱さがあるのは見当がつくからね。それに追い込む人間もいたし」

 

「追い込んだソイツ等も変えて、この騒動は終了だな。

 報酬内容の変更は上手くやってるんだろうな?」

 

寮長に頼んだこちらの要求。学園から出て行けは当然ながらウソ。

実際は、シャディクに従うのを止めること。そして、今後は支えること。

格好つけて従うとか言いながら、指示をボーと待ってても碌な事にはならない。むしろプレッシャーでしかない。

間違ってても自分の意見をハッキリと言うべきだ。そうする事でシャディクの頭も活性化する。

それに、あの連中が遠慮せずにシャディクの尻を叩けば、シャディクのヘタレもマシになるだろう。

 

「向こうの寮長が思いっきり疑っていたからね。内容は紙面で発行をさせて、こちらの報酬だけコッソリ変更するよう頼んだら、喜んで受け入れてくれた。あ、ちなみに、あの人もアーシアンだと思う」

 

サビーナたちと同じく、アカデミー出身者だとは分かっていたけど、その反応から、彼もアーシアンだろう。

何か、地球行きを内心で喜んでいたし、前から怪しいとは思っていた。

 

「随分と借りを作ったな。シャディクの奴、あの人の卒業までに間に合うかな?」

 

「それは高望みだよ。アイツが自分の出自を公言して、グラスレーをまとめるには、もっと時間がかかる。

 アイツが卒業までに間に合えば上等だよ」

 

「確かにな。グラスレーだけの問題じゃないし仕方がない。

 さて、俺は寝るぞ。明日の決闘まで休むつもりだが、コンディションは整えた方が良いか?」

 

「決闘自体は僕だけで良いから、兄さんは後ろで寝てても良いよ」

 

「分かった。俺が決闘している間は休んでいなかったんだ。お前も少しは休めよ。

 だが、言うまでも無いが寝すぎるな。弛んで負けたなど洒落にならん」

 

負ける? 僕にとってアイツ等はライオンに向かうラーテルみたいなものなんだけどね。

その無謀さから過大評価される傾向にあるが、所詮はイタチ。飢えたライオンの前に立てる生き物じゃないさ。

 

「大丈夫。朝まで仮眠は取るけど、授業に出るよ」

 

「流石に高ぶり過ぎないか?」

 

「少し、残酷な戦い方をしたいからね。自分を追い込んでおきたい」

 

「そうか。まあ、やり過ぎたら止めてやる」

 

「よろしく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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