「貴様がチームリーダー? グエルでは無いのか?」
「不服か?」
今回の決闘では兄さんは実質見学のつもり。
だから、狙われやすいチームリーダーになんかするわけ無いだろ。
まあ、サビーナとしては、兄さんをどう倒そうかと考えていたのあろう。その前提に僕をアッサリと倒してしまうのは決定事項ってことだね。
舐めた態度だとは思わない。むしろ正しい理解力だ。
兄さんを倒そうと考えてるなら、僕程度に労力を費やすのはアウト。苦戦など以ての外。
しかし、理解力は正しくても、状況判断が正しい訳では無い。
決闘を決めた時は頭に血が上っていただろうが、今になっても何の変化もない。
決闘を避けようという考えも無ければ、要求を変えることも無い。
慢心している訳でもないのに、全く恐怖を感じていない。本当に図太すぎる。つーか無神経。
サビーナを見ていると、世界一恐れを知らない動物としてギネスブックに登録されている動物ラーテルを思い出す。
毒蛇にかまれても数時間で回復する免疫力や、背中の皮膚はライオンの牙も通さない頑丈さを持ち、獰猛な気性からライオンやハイエナ、ワニにまで立ち向かう。ネットでググると最強の動物なんて真面目に語っているものもある。
でもね、あれは食われなかっただけで、ライオンやハイエナに本気で勝てる訳が無いんだよ。ワニに至っては丸呑みするから関係なし。
だからこそ、恐れを知らない動物。立ち向かって勝てる目があれば、恐れを知らない動物としてギネス入りなんかしない。
おまけにコブラに嚙まれても数時間で回復すると言っても、その数時間の間に腹を減らした他の肉食獣に見つかったら、お持ち帰りされてソイツの胃袋に移動することになる。
絶対に勝てない相手に、無謀にも立ち向かっているからこそ、恐れ知らずなんだよね。
ラーテル最強とか言ってる人に、ライオンと同じ檻に入れて、共にエサを与えなければどうなるか聞いてみよう。
それでもラーテルがライオンを喰うなんて言う人はいないだろう。
当然のごとく、ライオンの腹の中に納まる未来しか見えない。
サビーナも同様だ。いや、テロリスト全般に言えることだが、怖いもの知らずのイタチに近い。面倒な相手ではある。遊んでやろうなんて気分で向かうと噛みつかれる可能性がある。
だが、イタチはそれで良くても、人間がそれでは困る。もう少し考えてくれないとね。
勝利の意味。敗北のリスク。喰えない相手と戦う無駄。言っても分からないだろうから、身体に叩き込ませてもらう。
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「秘匿回線は開いたままにするけど、カミル達に聞こえないように」
僕のテンションに気付いた兄さんは、何をやるのか不安になっている。
よって、僕が何をやっているのか、常に確認しておきたいそうだ。
『分かった。ヤバい会話もするって事だな』
兄さんは全然良いんだけど、流石にシャディクたちが企んでいた事を、ジェターク寮生はもちろん、グラスレー寮の連中にも聞かせる訳には行かない。
それに、追い込むつもりだから、ドン引きするような脅しも考えている。
そこで、集団戦で使うことが多い、傍受対策もしている通信を使う。おそらく、グラスレー側もこれを使っているだろう。
「じゃあ、行くね。KP013 ラウダ・ニール、ディランザ。出撃する」
『KP001 グエル・ジェターク、ディランザ。出るぞ』
オールレンジ対策のT型装備は外して、通常のディランザに、両肩のシールド。左右の腕にワイヤークロー。右手に銃剣。左手にガトリングガン。
なんか、怯えろ! 竦め! とか言いたくなるシチュエーションだ。いや、装備の外観で言えば、くたばれブリキ野郎と言った方が良いか。
学園での決闘は初めてだが、相手の実力は分かっている。
確かに操縦は上手い。操縦技術だけで見るなら、決してシャディクに引けを取らないだろう。
でも、技術だけだ。僕がシャディクを警戒するのは、奴が天才だから。兄さんと同様、技量で優る相手を喰いかねない反射神経や咄嗟の判断力が奴には有る。
それが無い、凡人同士の戦いなら、単純に技量は大きい。
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「単機で突っ込んでくるとはな」
グエルは動かず。チームリーダーのラウダが単機で進んで来た。
元々、1人で相手にするとは言っていたが、この期に及んで、未だにそんな姿勢でいる。
屈辱だ。先の戦闘でのグエルと言い、相手を舐めるにも程がある。
正にスペーシアンだ。傲慢そのもの。
「左右から挟み込む」
僚機のエナオに指示を出し、進路を変更する。
自分達の実力は決してシャディクに劣るものでは無いし、集団戦には自信が有った。
おまけに、地の利もある。巨大なビルが並ぶ廃墟では、重量級でホバー走行のディランザより、短時間なら飛行も可能なハインドリーの方が、立体的な機動が可能なため優位な戦いが出来る。
ここなら例えグエルを相手にしても、2人でやれば勝機はある。
いや、グエルを倒したい。弟のラウダ如きは倒さずに無力化して、目の前で兄のグエルを倒せば…
『確実に倒そう。あの2人を追い出せば、私たちの事も公表できないし、シャディクの傷は少なくて済む』
冷静なエナオの声に、余計な事を考えた自分を諫める。
そうだ。ここで勝てば、ラウダが自分達の出自に関して叫ぼうにも、負け犬の遠吠えになり、誰も信じはしなくなる。
逆に負けは絶対に許されない。エナオは何処かラウダを警戒している。
彼女の勘は不思議と当たるので、ラウダを甘く見るのは間違いだと考え直した。
ラウダが右手に持った大剣の切っ先を向けてきた。
切っ先?
『回避!』
危険を感じて、エナオの警告より速く回避に移る。
その直後、左肩を近くをビームの線条が貫いた。
「奇妙な武器を」
大剣に見えたアレは、ビームライフルだった。しかも、射程がある。
いや、剣としても機能するのだろう。頑丈そうだが、大きすぎて取り回しが難しそうだし、複合武器としてはどうなのかと思う。
だが、難なく片手で振り回しているし、パワーのあるディランザなら問題はないようだ。
「だが、こちらの射程に入れば関係ない」
ハインドリーのランタンシールドも複合武器だ。
シールドも付いているが、射撃武器としても格闘武器としても、ラウダが持つ銃剣に比べて威力は劣るだろう。
だが、決闘ではブレードアンテナさえ壊せれば良いのだ。だったら射程に入れば関係は無い。
そして、ラウダの銃剣より、ランタンシールドの方が取り回しが良く、連射性もある。
この距離なら有利。そう思ってビームガンを撃とうと右手を上げると同時に、ラウダのディランザが左手を上げて、ガトリング砲を撃ってきた。
ビームガンを圧倒するガトリング砲で作るビームの雨。
「面倒な装備だが、狙いは甘いな」
吐き捨てながら回避に専念する。
そして、ビルの影に入ると、スラスターを解放し、ビルの上まで飛び上がった。
こちらが上空に上がったタイミングで、エナオ機がラウダへ牽制の射撃を加えてくれる。
上空から地形を確認して、瞬時に周囲の配置を頭に入れる。
「交代だ」
エナオに指示を出して地上に降りると、今度はエナオが飛び上がる。
エナオを攻撃されないよう牽制の射撃を与えて、エナオが地形の確認を終えるのを待つ。
『確認終了』
「よし、私が囮を務める」
単純に挟み込んでも、相手の火力の方が上だ。
だったら、その自慢の火力を振り回してやりたくなるように仕向ける。
『逆が良くない?』
「いや、奴の狙いは私の方だ」
元々、リーダーであるサビーナの方が狙われやすい。
現にラウダは最初からサビーナ機を狙って攻撃をしている。
『気を付けて』
「分かってる」
全神経を集中して、ラウダ機に接近する。ここからは、一瞬の油断が命取りだ。
予想通りのガトリング砲での攻撃を避けながら、十字路を左に曲がりビルとビルの間に入る。
ビルの外壁が破壊されるが、こちらを見失っているので攻撃は止む。
次の十字路でビームガンを構えて待つ。
「所詮は力任せか」
予想通りのタイミングで現れたので、ビームガンを撃つ。
ラウダは慌てて盾で防御して、すぐさまビームライフルを撃って来るが、先程も思ったように狙いが甘い。
銃剣での射撃は、当たる気がしないが、厄介なのはガトリング砲だ。あれなら素人が撃ってもいずれは当たる。
ビルの隙間に入り砲撃を避ける。次の角で待ち構える。
その繰り返し。迷路のように入り組んだビル群での戦闘は、立体的な機動が不可能なディランザのようなMSでは、いくらでも隠れることが出来て、簡単には当たらない。
「個人装備の欠点だ」
乱射を繰り返すラウダを見て、苦笑しながら呟く。
グラスレーの決闘仕様MSハインドリーは、ランタンシールドという複合武器のみ。
器用貧乏を地で行くような、突出した能力が何一つない武器は、単なる欠点にしか思えないが、この武器だと相手の得意とする戦闘スタイルの判別が難しい。
カスタマイズを身上とするディランザの対極にあり、純粋に操縦者の技量がものを言うMS。
ラウダ機のように重く巨大な装備は派手に見えるが、その戦闘スタイルが判明しやすい。
だから、こうして罠にかかる。
「エナオ、終わらせるぞ」
これまでエサは撒いてきた。ラウダも頭に血が上っているのだろう、現れた瞬間にガトリングを乱射してくるようになった。こちらが待ち構えていると思っている。
だが、次は違う。十字路を曲がった先にサビーナの姿は見えない。
『COPY』
エオナの返答を聞くと、次の十字路を曲がる。今までは少し進んで、次の十字路で待っていたが、更に曲がって進む。
そして、振り向くと十字路を挟んで反対の道路にはエナオ機の姿。
上空から観察して、いくつかの迎撃ポイントを定めた。あとは流れでどのポイントで仕留めるか決めるだけ。
真っ直ぐに進めば左右から、どちらかに入ろうにも前後からの攻撃を受ける必殺のポイント。
もう直ぐ現れる。どのように対処しようとも倒して見せる。
……来ない?
そう思った瞬間、エナオが構える道路に立つビルが崩壊し、瓦礫がエナオ機を圧し潰す。
「エナオ!」
『瓦礫に潰されて中のパイロットが死んだら、グラスレーの名折れだな』
外部スピーカーで聞こえる冷たい声。
これがラウダの声か? 背筋が震える。
怒りでも侮蔑でもない、もっと深い闇から聞こえるような声。
『減点その1。戦場くらい事前に把握しておけ。交代で高く飛びあがるなど、地形を利用した罠にかけようとする準備だと丸分かりだ』
つまり、罠に嵌めるつもりが、逆に嵌められた?
苦々しく思いながら声の出所を探す。倒壊したビルの近くにいるはずだが、姿が見えない。
まさか、ディランザの頑丈さを信じて、一緒に瓦礫に埋まったか?
『減点その2。敵機をよく見ろ。知らない装備があれば何が可能か考えろ。形状から何も思いつかなければ自分の勉強不足を恥じろ』
何かが壊れる音? 上から?
見上げると、ビルの外壁を突き破って落下してくる青いディランザ。
何でディランザが上に?
そう思いながらも反射的にビームガンを撃つ。自由落下中では避けられないはずだ。
「な!」
ラウダ機の両腕に装備されていた小型の盾に見えるものから、かぎ爪が射出され、ビルの反対側を掴むと、そちらに向かってディランザが動く。
かぎ爪にワイヤーを繋いだもの。その巻取りの力とスラスターを利用して、立体的な機動を行っている。
『減点その3。相手の力量を見極める目が育っていない。特に見たいものしか見ない傾向がある。証拠として、まず右腕』
右手の銃剣で撃ったビームが、正確にサビーナ機の右腕を吹き飛ばす。
ラウダの射撃。狙いが甘いと思ったのが間違いだった。
『だから、お前等はイタチなんだよ』