ペア、タッグ、コンビ、ツーマンセル、エレメント、セクション、言い方は色々だが、2人1組での戦い方で最も効力を発揮したのが航空戦だろう。
それまで、空は最後の騎士の戦場と称され、3機を一小隊として出撃し、戦場では一騎打ちに洒落込んでいた。
陸や海と違い、高速で入り乱れる動きは単調になりやすく、陣形を組めるほどゆっくりとは動けない。
そんな中で登場したのが二機一組の戦術。
ドイツ空軍、ヴェルナー・メルダースが考案した長機を僚機がカバーするロッテ戦術。
アメリカ海軍、ジョン・S・サッチが考案したゼロ戦殺しの相互支援戦法、サッチウィーブ。
共に、どちらかを狙っている間に出来る隙を狙う事が共通している。
これは、現在でも通じている戦法であり、航空戦の基本となっている。
逆に言えば、高速で動いている戦闘で、二機一組の利点を生かすには、それ位しか無いという事だ。
グラスレーが集団戦を得意とするという事は、この原則を守ると言うこと。
僕がサビーナを狙っていれば、エナオは僕を背後から攻撃してくる事は予想できる。
だが、彼女らからすれば背後から攻撃をしかけようにも、下手に近付けば火力の違いから近付く前にやられる。
逃げるサビーナと違い、接近しなければならないエナオの危険は大きい。
よって、装備の差から来る射程の違いを、どう埋める戦い方をするかが要求されていた。
逆にそれを予測する事が僕の課題だった。同時に彼女らの判断を誤らせるため、ワイヤークローの使用は避け、ワザと狙いを甘くして、その慎重さを奪う戦術をとる。
だというのに、彼女らは交代で飛び上がるという失態を犯した。
地形を利用すると宣言してしまった。
罠の可能性もあるので、絶対では無いけど、相手の迎撃ポイントを予想する事は出来る。
地形は戦闘前に記憶しているので、どこで何をやるかの想像は出来る。
ここで姿が見えなかったら、先の十字路で構えているだろうと思いながら進めば、実際に見えないものだから失笑が漏れたよ。
追いかけながら、エナオの姿は時々確認できたし、どちらにいるかも予測できた。
だったら、エナオに向かってビルを倒壊させ、その混乱の隙を突いてサビーナを仕留める。
そうザックリと戦い方を決めると、倒壊させるビルの基部を撃ち抜き、即座に隣のビルへとワイヤークローを用いて移る。
移動した後は、爆破解体のようにビルが倒壊している最中なので、音も気にせずに上へと移動。予想外の上空からの奇襲&動揺させるための外部スピーカーを使っての戯言。
いや、別に戯言じゃないけどね。ただ、根本的な問題を後回しにしているので、上手く伝わらないはず。
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で、こうなると。
面白武器ランタンシールドを持った右腕を破壊した後は、左腕を銃剣で切り裂いて切断。
続けて細い腹部と腰部のつなぎ目を横一線で切断。うつ伏せに倒して背中に向かってガトリング砲でバックパックを破壊。
もう抵抗は不可能。もがいて自分でブレードアンテナを壊す事も無理だ。
ガトリング砲はもう必要ない。代わりにサビーナのハインドリーを持つ。軽いな。もう重量は半分以下だろ。
ここからの会話は外部には聞かせられない。接触回線で行う。
「さて、
『何をする気だ?』
「貴様が言ったのだろ? ジェタークの趣味さ。嬲りものだよ」
ワイヤークローとスラスターの併用で、戦場で最も高いビルの屋上へ移動する。
「ここからなら、お互いによく見えるだろう。
仲間がこんな目に合っているのに、大人しく見ていられるほどエナオは薄情なのか?」
『こんな事をして楽しいのか?』
「いや、むしろ不愉快だね。実に不愉快だ。僕は根っ子の部分は技術者なんだ。
壊すよりも、何かを生み出すことに喜びを感じる気質でね。可能ならメカニック科に入りたかった」
パイロット至上主義でなければ、そっちに行ってたよ。
『やってる事と言っている事が全く合ってないな』
「やりたくてやってる訳じゃないさ。これは単なる害獣退治だ」
『害獣だと? どこまでもアーシアンを見下すか』
「ん? アーシアン?……ああ、そうか」
そうだそうだ。決闘を決める際に挑発したんだったな。
「アレはウソだ。僕はアーシアンも孤児も見下してなんかいないさ。今では警戒してるけどね。
僕が見下しているのは、貴様のような望みは大きいくせに何もしない怠け者だ」
『何だと?』
「だって、そうじゃないか。シャディクは阿呆な事を考えていたが、その間、お前等は何をしていた?
精々がパイロットとしての技量を上げた程度だ。それが何の役に立つ? まして、僕を相手にこの様だ。
お? エナオはこちらに気付いたぞ」
エナオ機が接近してくる。それを銃剣のビームで迎撃。
こちらから向かう前に、サビーナには言いたい事を言っておく。
「お前の望み、実質は今の世界に挑もうというのに、その実力は釣り合わないな。もっと死に物狂いで訓練しろ。
せめて、この学園のパイロット全てを1人で倒すくらいで無いとな。ここにいるのは単なる学生だぞ? その上位に位置してる程度で、世界を変えるとか笑い話にもならん」
少しは現実的な思考になって来たかな。
アス高上位は大したものだが、それが世界を変えるとなるとギャグでしかない。
「いいか、お前たちの望みは、弱者が強者に勝とうと言うものに他ならない。
そして、弱者が強者に勝つ方法は1つしか無い。何か分かるか?」
沈黙。おそらく色んな考えが頭を巡っているだろう。
だが、思いついたことは、おそらく全部間違いだ。
「弱者のままいるな。強者に勝つには、自身も強者になるしかない。
ライオンに挑むのに、イタチのまま向かってどうする? エサとしての価値の低さや、情けで生き残る事はあっても、それを勝ちだと勘違いするな。ライオンを喰いたければ虎になれ。
貴様は虎になる努力もせず、イタチのままライオンに勝てる方法を探す怠け者だ」
もう、エナオを無視できなくなってきた。
そろそろ切り上げるか。
「まあ、努力が嫌いで、イタチのまま勝つ方法を探したいなら好きにしろ。
だが、失敗した時のリスクは覚悟しておけ。今回は予習だ」
そう言い捨てて、エナオの元へ向かう。
そこで、見ておけ。失敗して死ぬのは幸せな結末だと実感しろ。
大切な仲間が、自分の失態を取り戻すため懸命になりながらも、何も出来ずに嬲られる様を目に焼き付けろ。
「死ぬかもしれないが、その時は好きに恨んでくれ。化けて出てきたら、茶くらいは出す」
エナオ機に接近して銃剣を叩きつける。
シールドで防がれたが、パワーで押し切りながら言葉を紡ぐ。
『何をするつもり?』
「意外と冷静だな。簡単な話だ。決闘用のプログラムではコクピットへの直接攻撃は出来ない。
だが、ダメージを与える方法はある。既に経験しただろ?」
エナオ機を押したままビルへと突っ込む。
「知っているかもしれないが、ジェタークではMSでの建築作業をしていてな。
お蔭で、実に勉強になる。何処をどうすればビルが倒壊するか、分かるものだぞ」
途中でワイヤークローを射出して、目当ての柱を掴むと、押し合いから離れて急速離脱。
離れながら基部が入っている柱をを射撃で破壊すると、クローで掴んでいた柱を切り裂いてビルから脱出。
途端に崩落し始めるビル。脱出しようとするエナオ機を攻撃して左足を破壊した。
倒れて、そのまま崩落に巻き込まれるエナオを見ながら位置を変える。
さて、エナオはどんな気分だろうか。それに、サビーナはどんな気持ちで見ているかな。
思ったより早く、エナオが這い出て来た。でも、運が悪い奴だな。僕に背中を見せる位置だぞ。
今度はワイヤークローを飛ばし、エナオ機の左腕を掴む。
「なあ、後学のため感想を聞かせてくれないか? 動けない状態で瓦礫に埋まる気分は?」
クローと、接触回線での声に反応し、こちらに振り向いて銃を向けようとするが、冷静さを失っているな。
今掴んでいるのは左腕だぞ。このように全力で引っ張れば左側がこちらに近付く。
今度はクローを破壊しようと、銃口を左腕に向ける。なるほど、随分と冷静さを失っているな。
僕としては安心して右腕を狙える。左腕を傷つけずにクローだけを壊そうとしたのだろう。撃つのが遅くなったエナオより、僕の方が早く撃った。
「次の質問、というより確認かな。サビーナとの通信は秘匿で開いたままか?」
『なんのつもり?』
「今のサビーナをあそこから落としたらどうなると思う?」
この戦場で最も高いビルの屋上。そこから推進も手足も失ったMSが落下したらどうなるか非常に興味がある。
言うまでも無く、MSのコクピットは頑丈だ。どうせ敵の攻撃を受ければ壊れるのだから、無理に頑丈にしなくても良いと思うだろう。
だが、そうはいかない。何故なら外からの攻撃よりも中からの攻撃、気圧で吹き飛ばないようにするためだ。
この気圧の破壊力は想像以上に大きく、これが原因で起きた事故に、単独の航空機では、史上最大の520人の犠牲者を出した日本航空123便墜落事故がある。
あの事故は圧力隔壁の破損により漏れ出た圧力で、垂直尾翼が吹き飛んだのだ。
航空機でも戦闘機では、気圧による破損を最小限に食い止めるため、コクピットを与圧せず、パイロットが防毒マスクのようなアレを付けて、酸素を体内に取り込むことで気圧低下による人体への悪影響を防いでいる。
だが、旅客機で客にマスクを着けさせるわけにもいかないし、個人差で気圧の低下に耐えられない者もいる。
そして、MSのように地上から宇宙まで使用可能な機体では、コクピット内の与圧に耐えられる設計をしている。
でも、そうなると衝撃テストとかしたくなるよね。
「安全確認に興味は無いか?」
『ま、待って』
『ラウダ、私を落としたいなら好きにしろ。もう、終わらせろ』
やはり、通信は開いたままだったな。だったら話は早い。
「断る。僕は、貴様が嫌いな、傲慢で残酷で冷酷なスペーシアンだぞ。そんな血も涙もない相手に慈悲を請うな。挑む以上は破滅を覚悟しろ。実際にしているつもりだっただろ?」
沈黙。破滅を覚悟している。そうは言っても、実際に疑似体験すると人は揺らぐ。
「そんな事より、コクピットの耐久テストがやるぞ。
今からそこに行くから、サビーナをそこから落とすか、エナオが代わりに落ちるか、どちらが良いか相談して決めろ」
それだけ言うと、サビーナの元へ移動開始。
エナオも追って来るが、手足を片方欠損しただけでなく、瓦礫の崩落によるダメージで、機体の損害が激しい。
サーベルは予備をスカートに付けていたようだが、飛び道具が無い。バックパックもやられて、推力が落ちているようだ。とても、僕には追い付けない。
「決まったか?」
サビーナ機を踏みつけて、接触回線を開く。
『だから、私を落とせ』
『ダメ! 私を…』
エナオが追い着いた。満身創痍ながらも、目の前でビームサーベルを構える。
「今はサビーナと会話中だ。これから許可なくエナオが会話に割り込めば、即座にサビーナを落とす」
予想通り、お互いに自分が犠牲になるという美しい自己犠牲精神を発揮しているようだ。
良い感じに仕上がって来たな。
「理由は? エナオではなく、リーダーであるサビーナが落ちる理由だ」
『もう、勝ち目はないからだ。悔しいが完敗だ』
「答えになっていない。それなら、エナオを落とした後、お前を落とせば良いじゃないか。
それこそ、僕にとっては完全勝利だ。それに勝る利点を示せ」
『……エナオは、まだ戦える。エナオと戦って万が一を考えれば…』
「舐めているのか? まだ、エナオが何か出来ると本気で思っているのか?
ああ、本当にイタチだな。噛みつけば何とかなると思ってる。
もう良い。エナオにしよう。侮辱されて僕の心は傷ついた」
エナオ機を左腕のワイヤークローで捕らえて引き寄せる。
エナオがワイヤーを斬ろうと、ビームサーベルを振りかぶったところで、サーベルごと残った腕を銃剣の射撃で吹き飛ばす。
続けて残った足を切り飛ばす。
『待て!』
「ちなみに、エナオを先に落とせば、お前にとっての利点がある。聞きたいか?」
答えは無い。まあ、当然だな。多少の利点があろうが、目の前で仲間が落とされるのは見たくないだろう。
「予行練習だ。お前達は、自分がしようとしたことで、何が起きるのか考えていないだろ?
教えてやるよ。アカデミーの生徒は、全員、シャディクやお前等と同罪だ。罪に問われる」
『何を馬鹿な。他は無関係だ』
「それを証明できない。実際にシャディクの仲間は一部だろうが、そんな事は関係ない。
良いか。お前等は自分達の立場、あるいはアーシアンの立場からしか、ものを見ていないから、スペーシアンの考え方なんて思いつきもしないだろう。
でもな、スペーシアンから見れば、お前等は本来なら
それがサリウスに拾われ、飢えとは無縁。勉強もやり放題。放課後は優雅にティータイムだ。
シャディクに至っては養子だぞ。そこまで恩を受けながら、仇で返そうとしている。僕からしたらアーシアンは施せば施すほど強い恨みを抱く忘恩の徒だ! お前等がそれを証明した!』
イキリターイムってキッツイ。何か性格的にも合わない。説教するくらいなら、敵だったら成長の糧を与えない。味方にしたいなら自分で気付かせる方法を選ぶ。
いや、本当は分かってんのよ。お前等は拗らせたんだろうなって。
でもね、傍から見ればそう言うことなんよ。気付け。
「すでに、ジェタークでは、地球に作っていた避難民向けの学校の閉鎖が決まった。
下手に学ばせれば、テロリストの卵に余計に知恵を与えるだけだからな。
ある意味感謝している。アーシアンとスペーシアンが手を取り合うなど不可能だと、お前等が教えてくれた。感謝しよう。その礼に、これからグラスレーで行われるアカデミーにいる生徒、すでに出た生徒の弾圧に耐えられるよう予行練習をしてやろう」
ちなみに閉鎖なんかしない。そんなことしたら兄さんが怒る。
実際に、あの中からコイツ等みたいなのは出ないはず。すでに兄さんが精神的に掌握済みだから。
『……何を言っている? 我々が企んでいた事など、全てお前等の想像でしかない』
ああ、やっと言ったか。それを言わせたかった。今まで、何度もそれを言って誤魔化す機会はあったが、彼女らは口にしなかった。何故なら自分を正しいと思い込んでいるから。
今まで、覚悟ガンギマリみたいな態度でいたからね。何を言っても、覚悟は出来ている。で、自分を誤魔化せた。
死を覚悟しているから許される。そんな勘違いをしていた。
でも、もう終わり。自分の死は受け入れられても、自分の所為で大切な物が傷つくリアルを想像した。
これで言葉が届く。
考えることの重要さを実感しただろう。そして、決断する怖さを。
でも、彼女らの道を決めるのは僕ではない。
それはシャディクの役目だ。おそらくシャディクは考えを変える。あの男なら、イタチのまま兄さんに挑むなんてことは二度としない。
だが、自分を正しいと思い込んだままの彼女らには、シャディクが考えを変えれば裏切りにしか見えないだろう。
だから、心を砕いた。僕の役目はそこまで。
心の修復は、シャディクとすれば良い。
無言でサビーナ機のブレードアンテナを斬り落とす。
その時点で、決着を告げるコールが鳴った。
『何のつもりだ?』
不安げなサビーナを無視する。
学園から出ていく事を考えているだろうが、戻れば要求の内容が変わっている事に愕然とするだろう。
僕は何も言わない。悩めばいい。苦しめばいい。
まあ、サビーナ機とは離れたし接触回線は切れているから、大丈夫だよね。
「落とした方が良かった?」
『ダメに決まってるだろ!』
僕が落とした場合を危惧して、兄さんが下で待機していた。
いや、流石に落とさないよ。多分だけど。