ラウダの野望   作:山ウニ

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分かっているようで分かっていなかったので、叩いてやろう

 

 

「グエルはベネリットグループを乗っ取るつもり?」

 

「いや、少し違うね。ベネリットグループがグエルに付いて行けば、自然とグエルをトップに迎えるし、敵対すれば、新たなグループを立ち上げてベネリットグループは潰す。そんな感じで良いんだよな?」

 

エナオの疑問にシャディクが答える。兄さんの狙いが分かってるようで何よりだ。

 

「ああ、枠組みの名前には拘らない。

 方向的には、現在ジェターク社がやっている事の規模を拡大していくだけだからな。

 それにしても、よくそこまで気付いたな?」

 

「義父さんは、ジェタークの地球再生計画に注目していたからね。いや、ベネリットグループの全企業が大なり小なり気にしている。このままではグループの存続自体が怪しいからね。

 ただ、義父さんが他と違うのは、ヴィム・ジェターク(親父さん)と、古い付き合いで、彼の気質を知っていた事。とても、彼の思いつく発想では無かったことが不思議だったそうだ」

 

そうだね。父さんでは、と言うより、僕と言う異物の発想だからね。

 

「原因はコイツだ。まあ、その辺は置いておく。後でサビーナと一緒に話すよ。

 今は今後のプランを話したいからね。ジェタークの目的を確認させて欲しい。良いかい?」

 

「ああ、答え合わせと行こうか」

 

「まず、義父さんに戦争シェアリングのことは、神聖不可侵な存在だと思えと言われた。

 実際に言いえて妙だね。コイツを壊せば信徒が何をやらかすか知れたものでは無い」

 

神聖不可侵か。上手い表現だな。その恩恵を受けている者を信徒だと例えるのも。

戦争シェアリングをやらなければ平和になるかと言えば、決してそうでは無い。それ以前はコントロールもされていない戦国乱世みたいな状況だった。

その結果がベネリットグループの前身であるモビルスーツ開発評議会。複数の肥え太った軍需産業が互いに協力しようと集まった。

つまり、戦争のお蔭で飛ぶように兵器が売れていたが、売れ行きに幅が大きかったので、戦争シェアリングで安定供給可能な状態、要は安定した収入へと変えた。

 

分かりやすく言えば、戦国時代で情勢が複雑化するより、一部の相手、例えば上杉、武田、今川、北条、結城、織田が戦争中だと複雑だから、上杉と武田にだけ集中して兵器を売ってそこに戦争をさせる。

マシに見えるかもだが、上杉と武田以外は武器が無いから攻められたら終わりの状況。恐喝されただけで物資を渡すしかない。

しかも、性質が悪い事に勝敗が上杉有利になれば、上杉への販売を渋り、武田にだけ売って均衡を取る。延々と戦い続けるしかない。

 

もっと、イメージしやすくするなら、幕末の薩摩側にイギリスが兵器を売り、幕府側にフランスが兵器を売っていた状況に近い。幕府の総大将徳川慶喜が早々に尻尾を巻いたから悲劇は免れたが、慶喜が徹底抗戦を叫んでいたらと考えると、英仏はウハウハである。

こんな状況だと、元から良い感情を持っていないため、幕府も薩摩側も英仏を憎むようになるし、アーシアンがスペーシアンを憎むのも当然だろう。

かと言って、幕府と薩摩が手を組んで外国に立ち向かうかと言えば、答えはNO。まずは決着を付けるのが先だと戦い続けるが、それが販売量を英仏にコントロールされれば、地獄絵図の完成である。

 

つまり、今戦っているアーシアンは目の前の敵であるアーシアンを倒さずにはいられない。それをせずに手を組んでスペーシアンに立ち向かうなんて不可能なのだ。

ちなみに、幕末と言えば、巨大な敵に立ち向かうため、敵対していた薩摩と長州が手を組んだなんて言われていたが、現実の薩長同盟とは、あんな立派なものでは無い。その後の主導権を握っていたのは、西郷大久保の2人、桂(木戸)の霊圧が消えているということで、お察しくださいである。

 

「義父さんには、戦争シェアリングの構図を壊すだけでは意味がないって言われたよ。

 俺の計画が上手く行っても、急に増えた資金があったらそれの使い道なんて、隣国を攻めるための軍資金になるのが関の山。

 怒ったスペーシアンが、アスティカシア学園(ココ)を落とすなんて、随分と楽な死に方が出来ると皮肉られたよ。

 言ってみれば詐欺師に有り金を持って行かれた上に職を失う人間が多く出るんだ。議会連合にいる穏健派は鳴りを潜めて、過激派の声が大きくなる。もっと、徹底的に絞りつくして、最終的にはアーシアンは奴隷扱いになる可能性が高いって言われた」

 

おお、流石は商人。死の報復より利益を重んじるか。

でも、奴隷ともなると……って、考えてみれば、強化人士なんて普通に人身売買の類だな。不可能ではないな。

 

「そこで、ジェタークがやっている事だけど、分かりやすく、アダム・スミスの経済論を叫んで、労働力を重視してる態度だけど、実はかなりグレーゾーンだった。戦争シェアリングにケンカを売っていると思われても仕方がないことをしている」

 

「失礼な。僕たちは労働力に注目し、難民が多い地域を率先して手を出しているだけだ」

 

わざとらしく嘆いてみせる。意味はないかもだが、何処まで分かっているか、もう少し喋らせよう。

 

「ああ、そう言って、追及を免れているらしいね。

 エナオは、難民が多い地の特徴、いや、難民が発生する条件が何だか分かるかい?」

 

「戦争に巻き込まれたから……そうか、大量の難民が流れ込んで来たって事は、近くに戦争シェアリングの舞台になっている国がある」

 

「正解。基本的に戦争シェアリングの舞台に選ばれなかったくらいだ。国力が高いとは言い難い。

 でも、戦争で疲弊していっている国を尻目に発展していったら、どうなるだろうね?」

 

「そちらに矛先を……だからディランザ?」

 

日本人にイメージしやすく例えるなら、関東で屈指の力を持った東京都と神奈川県が戦争する。その結果、県境は荒れて難民はお互いの県境にある他県の山梨県に逃げる。

そこで力が弱かった山梨県に支援をして発展させる。

 

これを県ではなく国レベルで行っているのが、戦争シェアリングとジェターク社の地球再生計画。

元々、力があった大国が戦争をしているが、兵器の購入と戦争で国力は低下していく。

その間、元は力が無かった国が、大量の労働力で発展していく。戦争をしている大国にとっては面白くない。特に国民にとっては、厭戦気分が湧き上がるだろう。

 

ここで、問題になるのが大国の主戦派。目障りな小国に攻め込んで、厭戦気分の国民を黙らせると同時に、発展中の富を分捕ろうと画策しようと思うのが自然だろう。

だからこそのジェターク社とディランザ。開発用に販売しているディランザは、もし攻め込まれたら強化用パーツさえ用意されれば、現在のアドステラ世界で最強の量産型MSに変貌する。

しかも、小国に攻め込むのはジェターク社にケンカを売るのに等しいので、強化用パーツは格安、あるいは無料で供給されかねない上に、純粋な戦力も送り込まれる危険がある。

大国同士が手を組めば、勝てる目もあるだろうが、それが可能なら、とっくに戦争シェアリングから抜け出している。つまり、目の前に大敵を抱えながら、余力で攻撃するには、ジェターク社の後ろ盾は大きすぎるのだ。

 

もう一つ問題がある。このジェターク社の行為は、戦争シェアリングを神と崇める利権を得ている者にとっては裏切りと取られても不思議ではないことだ。

確かに、ディランザは開発用として売っているので、強化パーツは販売していない。だから、小国は決して戦力が充実している訳では無い。そのため、防衛用として戦略的に広範囲をカバーできる可変MSを欲しがる相手が続出である。

それを言い訳にしているが、ジェターク社が危ない橋を渡っているのは事実である。

 

「だから、ジェターク社は欲しているんだ。共犯者をね。

 ベネリットグループの王というのは、それくらいにならないとジェターク社の目的は達成できないからなんだ」

 

「その共犯者候補に、シャディクは目を付けられた?」

 

「そう。一歩間違えれば、ジェターク社はベネリットグループの敵と認定される。それを避けるのに、グラスレーを同じ路線に引き込むのは、最も効果的な方法だと言える。正解で良いかな?」

 

悪くはない。僕にとっては正解と言っても良い。

だが、それでは満点とは言えない。

 

「ふ~ん、じゃあ、兄さんが言った、敵になれって何だと思う?」

 

「競合相手。最終的には他にも参加して欲しいから、企業として発展しなくてはならないからね。

 発展するには、独占より競争している方が、より発展する」

 

やはり、そうだったか。サリウスと言う大人と相談した所為か、理屈が先行してしまっている。

兄さんが何を求めているか分かっていないし、何より自分の事を自覚していない。

 

「ジェターク社の方向性は正解だ。でも、お前に望むことに関しては、少し訂正がある。その回答、サリウス代表と話しただけあって僕の考えに沿ったものだ。理屈の正しさだな。その方向でまとめて、父さんの説得を含めて兄さんの動きを支援する。それが今回の僕の役割。

 でも、僕としては、お前を手下にする方が良かった。それこそグラスレーは思いのままだからな。

 その上で、ジェタークと協調路線を歩ませる方が合理的だろ?」

 

「だが、俺は養子だ。ジェタークに尻尾を振っている事が知られたら終わりだろ?」

 

「その方が楽だから、そう思うだけだ。兄さんの下につくのは楽だ。そうしたいと今でも思っている。

 だが、考えてみろ。たかだか学園での決闘の結果が、そこまで拘束力があると思うな。その気になれば内から食い尽くす事だってできる。

 そもそもお前、サビーナとエナオを庇ったな? 自分だけが造反を考えただけで、彼女らが共犯だと言ってないだろ?」

 

「……何で分かった?」

 

最初は、アカデミー出身の生徒の危険性をサリウスと相談した時、てっきりエナオたちのことも言ってると勘違いしたけど、冷静に考えればサリウスが怒って、処分する危険はあったんだ。素直に話すには危険が伴う。

だから、今回の造反は自分だけが考えた事で、同時に話の流れで、同じように思う生徒がいるかもしれないと対策を話し合ったのだろう。

今回、わざと勘違いしそうな話し方をしたのは、エナオに庇われたと気付かせないため。

だから、肝心なところが抜けている。まだ、自分の怖さを分かっていない。

 

「もし、お前のバカな計画に同調している奴がいると知れば、サリウス代表は大喜びしているからだ。

 言っていれば、その前提で作戦を考えるのに、それがない」

 

「いや、何でさ?」

 

「本当は言いたくは無いが、凄く言いたくないが、兄さんはな、お前に憧れたんだ」

 

「……は? なに言ってるんだ? なんで俺なんかを?」

 

「兄さんは、手始めにこの学園の王になろうとしている。

 単なる支配者じゃない。誰もが憧れるような、付いて行きたいと思うような、手伝いたいと思いたくなるような、そんな存在に」

 

僕が兄さんに要求したこと。

だから、僕は気付かなかった。

だから、兄さんは気付いた。そのことを僕以上に重く受け止めていたから。

 

「お前は、その兄さんが目標としている姿を、小さく歪ながらも実現しているんだ。

 少なくともエナオとサビーナは、お前の情けない姿を見て、バカな考えを聞いて、それでもなお付いてきた。

 どうせ他にもいるんだろ?」

 

兄さんは多くの人を惹きつけているが、流石にバカな考えをしたら去って行くだろう。

それに比べ、シャディクは考えさせなかった。助けようと思わせた。

僕に言わせれば、頼りない末っ子気質のせいだと思うが、兄さんは純粋に凄いと思ったようだ。

 

「お前は自分の怖さを自覚しろ。兄さんが敵として求めたのは、本心から目指すに相応しい相手だと思われたからだ。

 さあ、感激しても感涙しても構わんぞ」

 

「勘弁してくれよ」

 

無理でぇす。そんな泣きそうな表情で項垂れたところで、事実は変わりませぇん。

己の生まれ持ったカリスマに苦しむが良いさ。ついでに兄さんに気に入られた事を呪え。マジで苦しめ。

 

「まあ、言ったように歪すぎるからな。兄さんが性根を叩き直したし、エナオとサビーナにも考える重要さを教育した。少しは支えてくれるだろう。

 ちなみに世の中は理屈だけで動いてはくれないぞ。彼女らの感情論も十分に参考になるはずだ。喜べ。

 あとは期待に応えてくれるよう頑張ってくれ」

 

「ま、待て。冗談だよな?」

 

「残念ながら冗談ではない。兄さんは本気でお前を高評価している。裏切るなよ」

 

その期待を裏切ったらどうなるか分かってるだろうな?

何より許せないことがある。お前、兄さんと並び称されるを弟分で良いやとか思ってただろ? 言葉の端々にジェターク社の後追いを頑張るって感情が見えてたんだよ。

言葉にはしないが、弟分(ソレ)は不要だ。実弟(本物)がいるからな。お呼びじゃないんだよ。

 

「目が怖いよ。なあ、俺としては利用されるつもりだったし、状況を知るため方向的には良いと思って、次の地球行きに便乗させてもらおうとか思ってたんだけど?」

 

ああ、グラスレーが同調するには、先行しているジェターク社の現状を知りたいのは譲れないが、本気でライバル認定されているなら、それは情けないと思われるかもしれないな。

だが、兄さん相手にその考えは甘い。というか、兄さんはそんな細かい事は気にしない。

 

「別に気にしない。媚びなければ大丈夫だ。

 だが、お前の気分を考えるなら、この言葉を送ろう。

 彼を知り己を知れば百戦殆からず。昔の偉大な兵法家の言葉だ」

 

「それ採用。今回は敵情視察だ。そう言っておいてくれ」

 

決断早いな。それも長所だぞ。マジでムカつく。

まあ、兄さんが望む以上は、手伝ってやるがな。

 

「精々、グラスレー寮の人間に呆れられないようにしながら、地球行きの人員を募れ。どれだけ増えようが受け入れ態勢を整えてやる」

 

「助かる。だが参ったな。想像以上に厄介な状況な気がしてきた」

 

「諦めろ。たかが、お前如きの軽い命を贄にして、楽に世界を変えようと思った罰だ。世界とはそんな軽いものでは無いぞ」

 

「分かってるよ。ああ、本当に楽な方法を選ぼうとしてたんだな」

 

「まあ、今後も助言くらいはしてやる。取りあえず西暦の19世紀頃の日本と言う極東の国の歴史を調べろ。

 刀を振り回して、鉄鋼船を持つ国を追い払おうとしたテロリストが成功した珍しいケースがある」

 

「日本?……」

 

何だか、日本と言う国を知っているのか、考え込む表情をしている。

あれ? まさか、フォルドの夜明けの本拠地って、マジで日本? そんな話もあったが、ゴツイ外人さんしかいなかったし、違うと思っていた……そうだ。重要な事を言い忘れていた。

 

「今日の所は引き上げるよ。サビーナとも話さなくてはいけないし、頭を整理しなくては、お前はともかくグエルの前にはとても立てないんでね」

 

「正しい認識だ。それと、梯子を外された人間の事も考えておけよ。暴発されたらたまったものではない」

 

すでに、シャディクガールズの残りや、アーシアンのテロ組織とは連絡を取り合っているはずだ。

もしかすると、地球の魔女のバックとも繋がりがあるかも知れない。

ソイツ等に上手く説明しないと、シャディクは裏切り者と思われ、最悪、開発中の地区がテロの標的になりかねない。

 

「そうだな……もしかしたら、頼ることが出るかもしれない」

 

「その時は遠慮するな。梯子を外された奴の暴走は、許容できないぞ」

 

「ああ。分かっている。じゃあな」

 

1人残された僕は、深呼吸して日本の事を考える。

元が日本人だったので、それなりに愛着はある。いや、かつての職業柄、それなりどころではない。

不自然にならないよう、あえて日本を視界に入れないようにしていたが、シャディクが手を出すようなら本気で手伝っても良いか。

 

 

 

 

 

 

 

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