長期休暇が近付き、予定も組み上げたが、長期に地球行くと問題が発生する者もいる。
家の都合だったり、体調の関係だったりと理由は様々だが、強制はしないように注意している。この強制は同調圧力も含んでおり、最近の流れは少し危険があるので、注意が必要である。
ただ、中には原因を何とかしてでも参加して欲しい人物がいる。正確には、何とかしないと僕の身に危険が及ぶ。
「動物を世話する業者の手配は出来たぞ。ヒツジとウシを世話している人だけど大丈夫だと思う。
ヤギとヤクなんて珍しいと驚いていたが、明日に確認のため一度来るそうだ。話をしてくれるか?」
「助かるよ。ヒツジとウシの世話ができるなら問題は無いさ。
これで、ウチの子達も安心だ」
アリヤが嬉しそうに言うが、動物の世話があるので、彼女が地球に行けないという話を聞いた際のジェターク寮生の目は怖かった。何だろうね? あの、お前が何とかしろって空気はさ。
ちなみに、前回は地球寮が全員参加と思っていたが、3年の人が1人だけ抜けれない補習があったので、その間は世話をしてくれたらしい。
その世話が、掃除とエサやり、それと搾乳だ。結構な重労働である。二度と1人で見るのは御免だそうだ。
「むしろ、
正直に言って良いからな。断り辛いなら、僕が業者を手配できなかった事にしても良い」
「そんな事は無い。手伝ってくれるし楽しいくらいだぞ。それに、作った料理を美味しそうに食べてくれるのは嬉しいからな。
特に舌の肥えた者が多い分、張り切ってしまう」
見た感じ、無理している様子は無いな。
それなら良いが、例えば、本当は食事係が嫌で、断る理由に動物を使った可能性もあったので、最終確認をしておきたかった。
問題ないなら、これ以上は同じ話題を続けるのは良くない。別の話題にシフトしよう。
「ところで受精はしたのか?」
「ああ……ラウダは畜産に詳しいのか?」
困った表情で聞いてくるが、何か問題があるのか?
「ん? 業者を手配するついでに調べた。それと、業者の人とも少し話したからな」
ヤギだけでなく、代表的な牛も、搾乳をするには出産させなくてはならない。
家畜の場合は交尾でなく、人工授精で行うが、時期的には2か月前くらいらしい。
ちなみに、受精させないと発情期で面倒だし、当の動物が苦しむ。子ヤギは半年くらいで大人になるが、子ヤギが乳を求めている限りは出るので、搾乳の作業を続けると体がそう判断して1年以上は乳が出るそうだ。
「そうか、実は驚かれて、いや、正確には少し引かれたんだ」
アリヤは事前に地球寮生は金が無くて、食事が不味くて困ると聞いていたので、連れて来たらしいが、それで周囲から引かれるのは辛いだろう。
まあ、実際は地球寮で味覚が鋭いのは、当のアリヤ本人くらいで、合成食糧に慣れればそうでもなく、地球寮生の大半は困っていないのだが。
「そういうこともあるさ」
畜産に理解が無いと、すぐに動物が可哀想とか言い出すんだよね。
それを突き詰めて考えると、人間とは何か? 動物とは何か? 生きるとは何か? そんな哲学的な思想になる。
まあ、大抵は深く考えないか、感情論に突っ走るかだ。僕は哲学的な思想に行きつくのが面倒で、深く考えないようにした部類である。
「色々な意見はあるし、感情的な問題もあるだろうが、コイツは人間に怯えていない。それで良いだろ?」
ヤギを撫でながら、僕なりの結論を出す。
流石に人間を見て怯えるようになっていたら、扱いを改善するように注意を促すだろうが、その動物が人間を嫌っていない以上は、何も言わない。つーか、何も言えないよね? むしろ懐いてるくらいだし、共存で問題なしだ。
「そう言ってくれると安心だ」
「考えすぎだ。ちなみに、次の長期休暇は4月だが、その頃は出産してる予定だよな?」
「ああ。そこでも問題があって…」
だよね。産まれた子ヤギをどうするかだ。アニメではティコだけだったし、そもそもヤギ乳を飲んでるシーンあったか? 記憶にないし単なるペットで出産はさせなかったかもしれない。
「僕は食っても良いが、周囲には流石に引かれるから、しないで済む方法を取ろう」
ヒツジは
あの臭みが無いなら、むしろ食べてみたいくらいなんだが。
「業者を探すついでに、それなりに生態も調べたから問題も予測できる。
その頃には良い案を出しておくから」
ヤギは一度に2匹か3匹を出産する。
問題は成長速度と性欲だ。ヤギを悪魔と連想させるケースがあるが、それは性欲の強さと無関係ではない。
放っておくと近親相姦で体に異常がある個体が大量発生しかねない。
「感謝する。私に出来ることがあれば、何でも言ってくれ」
「気にするな。むしろ地球行きに参加してくれる礼だと思って良い。何なら、ヤクの方も受精させて良いぞ」
「本当か?」
「僕の手間は、そう変わらないから気にするな」
「優しいんだな、君は」
そんなわけはない。ヤクの乳なんて飲んだことはないので、兄さんは興味があるだろうと思っただけだ。
それに、シャディクからは、アリヤの情報は得られなかったので、魔女疑惑は晴れないままだ。
本当にシロなのか、単にシャディクとは接触しない、もしくはこれから接触する予定だったのか、調査するにも、警戒はされないに越したことはない。
「そんな君に、何であんな噂が流れているか不思議だよ。ちなみに私はラウダがそんなことをする訳がないと信じていたぞ」
「噂?」
「ああ、噂が広まっているんだが……」
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「で、心当たりはないか?」
目の前に座るエナオに聞いてみる。
あれから、エナオが幕末の歴史について質問をしてくるようになったので、こうして食堂を使って授業をしているのだが、振り返ってみれば周囲の視線が痛い。
「……うん。私はただ、こうしてラウダと一緒にいることが多くなった事を不思議がっている子に、ラウダの良さを伝えたつもりだった。
あの時のことは感謝しているし、新しい自分を発見できたし、恩を返したいつもりで、頑張って言ったつもりだった」
「それを、どう解釈したのか、僕が女の子を調教する変態野郎だと取られたのか」
うん。MSを使ってだが、散々に嬲ったあげくに、その嬲られた女の子が、新しい自分を見つけられて感謝していると言えば、そう解釈出来ない事もないか。おまけに口下手な彼女が必死になって言えば、調教の成果だと思えなくもない……ガッデム!
「ゴメン」
「良いさ。別に私生活には困っていない。だが、お前の事までは責任は負えんから、噂を消したければ自分で何とかしろ」
「私は大丈夫」
「そうか?」
僕としては、兄さんがダイゴウにやったことが霞むので悪くは無いが、彼女はそうはいかないと思うが?
「じゃあ、質問を良いかな?」
むしろ、機嫌が良さそうにタブレットで資料を開く。
そこには、幕末ではなく、第二次世界大戦の事が書かれていた。
「随分と飛んだな」
「今までの質問で、日本が列強国と肩を並べるまでに成長した事は理解した。
幕末の動乱は、攘夷云々は看板で、実際の根っ子は勢力争いでしかなかったこと。両陣営ともに、弱いまま吠えるより、強くなろうと考えた者が多くいた。そう思っていないのは、情報を持っていない階級層で、情報がある方は、当たり前に列強の力を手に入れる算段をしていた」
「そう。同じようにアーシアンがスペーシアンと肩を並べるには、スペーシアンが発展した理由を考えて、自分に足りないものを身に付けなくてはならない。
それこそ、何十年も先を見据えて行動する必要がある」
「うん。それは理解できるんだけど、結局はこうなった。
その理由を知っておかないと怖いというのがシャディクの考え。自分で調べようとしたから殴ったけど」
「それくらいは許してやれよ」
「シャディクは他にやることが多い。トップが優先順位を間違えて良いはずが無い」
そだね。極論、組織のトップの役割は決断する事だ。それ以外はする暇が無くなる。
その決断する内容には、優先順位があるので、そこを間違ったらトップ失格だ。
特にシャディクは、色んな分野に優れている分、四方八方に手を出しかねない。だが、時間は誰にとっても平等だ。
この件は、アイツが調べるより、エナオに調べさせて、調べた内容を確認する方が、シャディクの時間は奪われないのでエナオが正しい。
組織において、トップの補佐をする人間は、簡潔にまとめた資料を準備する能力が秀でている事が望ましい。
政治家や企業に置いての秘書や、軍隊における副官の任務がそれだ。エナオはその分野を伸ばそうとしている。
「まあ、今回は時間も無いしな。だが、判断材料を増やすためにも、今はシャディクに失敗も含めて色々な経験をさせる時期だぞ。お前のソレは過保護と紙一重だ気を付けろ」
まだ若いんだから、色々な経験をするべきだ。兄さんだって間違った判断をするし、間違った場合のリカバリーも立派な経験だ。
「ラウダって、たまにオジサン臭いね」
「まあな。中身はオッサンだと思って良いぞ。
それで、自分でも調べたんだろ? 何が引っ掛かった?」
「調べた限り、軍部の暴走って言うけど、そこが引っ掛かる。
本当の暴走なら、クーデターで政権を奪っているはず。実際にクーデター染みた行動を起こしてるけど、鎮圧されている」
「前提となる社会情勢、世界恐慌のことは?」
「知っている。影響を受けて、国が貧しかった。だから何とかしたいと上から下までは考えていた。
でも、軍部が暴走するのはパーツが足りない」
「そうだな。理由はいくつかあるが、民主主義、政党政治の欠点がもろに出た。
その前の藩閥政治が良いと言う訳では無いが、物事には長所と短所がある。ただ、この時点では藩閥政治の方がマシだったかもしれない。理由は分かるか?」
「藩閥政治の長所が不明。良いところがあるとは思えないけど?」
「横の繋がり。相談や根回しがしやすい」
藩閥政治に限らず、横の繋がりが強いと、なあなあの関係になるので、本来は勧められない。
だが、全く無いのは問題だ。物事を進めるのに、事前の根回しが有ると無しでは大きく異なる。
「対して、政党政治の欠点だが、政党でトップになるような人間は、優れた政策を出す人間では無く、票を集めるのが上手い人間だ。
そして、票を集めるのに、最も簡単な方法は敵対者を貶めること。言ってみれば、民主主義で優れた政治家というのは、他人の足を引っ張るのが上手い奴だ。
これが最悪の形で現れた。国の大事を決める案件で、足を引っ張るために最悪の手段を使った。
総帥権干犯で調べると良い。その後の政権の流れを見ると、そうなるなと思うぞ」
「うん……他には?」
メモを取ると他にないかと聞いてくる。
「そうだな。答えとして、民衆が頭が良いなんて思うな。民主的に選ばれた政治家は人の足を引っ張りたがる習性があると思え。
正しければ何時かは分かってくれるなんてことはない。分かって欲しい相手には根気よく話せ。これは結果論だな。先の総帥権干犯問題とそこから来る流れを調べたら、そう思うはずだから」
「分かった」
「それと、目的は最低でも10年先まで持っていろ。その頃、どうなっているのかイメージするんだ。それで何が必要か、今の内に出来る事を考えておく。
この国はロシアの南下に備えていたが、戦争に勝利した後、明確な目標を持てなかった事も問題だ」
「10年後のイメージ……難しいね。ラウダはあるの?」
「当然だろ。今ある地域の発展。それが進むことで発生する問題の予測と対策。それに関連して、優先して追加すべき地域を発展させる。そこで問題になって来る世界の動き。
それだけでなく、千年後の未来もね。既に兄さんは決断している」
「千年? 百年後なら分からなくも無いけど、そんな未来を想像してどうするの?
それに、何で不機嫌? まさかグエルが変な決断したとか?」
「別に不機嫌では無いし、兄さんの決断は何の問題も無い」
そうだとも。何の問題も無い。流石だよ兄さんと言いたいさ。
ただね、何かさ、特大のフラグと言うか、タヌキが喜びそうなエサと言うかさ……こう、モヤモヤするだけだ。