地球寮生の出身地は独自設定です。
マルタンとティルは白人だから欧州かなと。
アリヤはインドらしいけど、その中でも欧州の影響が強く、21世紀での女性への迫害が他に比べて低い州にしました。
時代が違いすぎますけどね。
「僕たちはこっちだ」
軌道エレベーターを降り、久しぶりの大地に立った。
僕は、ギャプランでシャディクと共に飛び立った兄さんを見送った後、残りの参加者と移動を開始する。
ちなみに、兄さんと一緒に乗るのは、シャディクと最初から決められていた。
今回の工事は、地元でも大きく取り上げられている。台風の対策に飲み水の確保に加え、水田の稲作とスイギュウの畜産で食糧の増加だ。更に事前にワクチンの接種も行ったので、前からあった疫病も減少している。
最初に来た時は罵声を浴びせてきた住民たちも、今では手のひらを返して歓迎ムード。
当初から地元のテレビ局が、来るときは撮影させて欲しいと打診が来ていた。
兄さんと並んでMSから降りる姿が放送されるのだ。悪いがマルタンには荷が重いし、女性だと変な勘繰りが入る。
そこで、兄さんと並んでも見劣りしないルックスの持ち主で、ジェターク社に匹敵するグラスレーの次期CEOのシャディクに、白羽の矢が立ったわけだ。テレビ局としては良い画が取れるだろう。
まあ、こちらの事情としても、父さんとサリウスの同盟というか、一緒に動くことになったことを、グループに知らせるのにも丁度良かった。
既に耳に入っているだろうが、父さんとサリウスより、兄さんとシャディクの方が、将来を見据えているという面で適している。
そんな訳で、兄さんはシャディクと一緒に行ったので、僕は参加者と一緒にトボトボと輸送機に向かっています。
今回の長期休暇では、三つの団体が参加。ジェタークと地球寮は全員、グラスレーも約8割が参加の大所帯。
ただ、全員が一斉に入っても手が余ってしまうので、前期と後期の2回に分けている。
1か月の休みなので、約4週間。最初の週を前期組。次の週は年を跨ぐので正月休みとし、その次の週を後期組。最後の週は予定を入れず、希望者は何時でも帰れるように手配する。
随分と優しい日程だと疑問を持たれたが、ちゃんとした理由がある。
作業をしている前期後期の週は、かなり厳しい作業が入っているので、休暇は必須だが、問題は休暇の取り方だ。
1か月以上の長期出張や数年の短い転勤を、経験した事がある人なら分かると思うが、休暇をどう過ごすかで、ストレスが大きく変わる。
海外だと尚更だ。ジェターク社で問題になっている事の1つに、休暇の過ごし方がある。
地球を楽しんでいる人と、そうで無い人では仕事の能率が大きく異なるのだ。
そこで、前期参加者は、年越しを地球で経験してもらい、後期参加者は最後の週を地球で過ごす。そんな予定を組んでいる。
中には、全てぶっ通しで参加を希望している強者もいるが、三団体の寮長ズ(ジェターク寮は元)は仲良く側近を連れて全て参加方向で、休みの予定も組んでいるが、それは希少例である。
「ラウダ、休みの予定は決まったのか?」
そんな希少例の1人アリヤが話しかけてきた。まあ、彼女の場合は料理担当で周囲が希望している所為なのだが。
仮に彼女が前後の片方しかいないとなったら、ほとんどが彼女のいる方を選択するだろうが。
「仕事だよ。年越しの時は地元の人と一緒だ。父さんと兄さんに任せたかったけど、逃げられなかった。
他にはシャディクと一緒にグラスレーが手を付ける候補地に行く」
僕たちに休日らしい休日は無い。地元の有力者、政治家やお偉いさんと会合が入っている。
それに、フォルドの夜明けと交渉するので、その間は僕が上空から警戒態勢という名の脅しをする予定だ。
それと、梯子を外されるのはフォルドの夜明けだけでなく、連絡役として来年アス高に入学予定のニカがいた。
彼女は用なしになるのだが、だからと言って梯子を外して終わりと言うのはよろしくないので、こちらで預かる予定だ。
「アリヤは一度は帰るんだろ?」
「ああ、マルタンやティルと比べたら近くだしな」
欧州から来ている2人と違い、アリヤはインドのベンガル地方、逆三角形の右上なので、東南アジアからは近い。
以前、家畜に受精させた事を引かれた話を聞いていた事もあり、アリヤの出身を聞いた時、僕は彼女の不自然さに気付いた。
如何にも牧歌的な雰囲気で、地球寮の雰囲気も相まって騙されたが、畜産に詳しすぎる。
アーシアンと言っても、アス高に入学するくらいだ。兵器を作っているベネリットグループ関係者で、地球では富裕層が多い。例え孤児だとしても、グループの会社が経営する孤児院や学校に通い、その中で能力を認められた者。
彼女の出身地も、かつてイギリス領インド帝国の首都が置かれてた地で、前世でも世界有数のメガシティの一つに数えられる大都市。
つまり、地球寮生と言えど基本的に都会っ子である。畜産に詳しいのが変。
要するに彼女の存在は、不自然であり、怪しいのだ。
今まで白に近いグレーだったのが、黒に近いグレーになった。
「最後の週は? 予定はあるのか?」
「兄さんと一緒に行くところがある」
特殊部隊の訓練に参加することにした。兄さんは護身術の延長くらいにとらえているが冗談ではない。
戦闘訓練を兼ねた実戦での神経を擦り減らすような状況を想定した訓練だ。
腹が減っても喰えない。眠くても寝れない。何時、襲撃があるか分からない。そんな状況の訓練。
正直、何で生まれ変わってまで、あんな地獄染みた経験をしなくちゃならんのだと思うが、鈍った神経を研ぎ澄ますには、あれ以上に効果のある方法を知らない。
その決意をさせた相手であるアリヤを見る。
虎穴に入らずんば虎子を得ず。だが、危険は冒すが無謀はしない。
そのためにも訓練だ。次の長期休暇では、子ヤギを送る名目で、僕が彼女の“自称”実家まで行く。そろそろ地球の魔女の尻尾、掴ませてもらうぞ。
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「これもラウダが設計したのか。良いな。地形が良く見える」
シャディクはグエルが操縦するギャプランの前方席に座り、そこから見える景色に感心すると同時に、感動していた。
操縦に使用する機器を取り払っているため、目の前には何もない。ただモニターと風防から見える景色だけが広がっていた。
こんな素直な気持ちで地表を見るのは初めてかもしれない。
翼で揚力を得る設計で、メインの推力に熱核エンジンを使用しているので行動時間が長い。むしろ長すぎる航続距離は、運用を間違えるとパイロットの負担になりかねないくらいだ。
「あのモビルクラフトといい、ここまで来ると、的確な表現が見当たらないよ」
「凄いだろ。アイツって昔から思い付きが突拍子が無くてな」
「凄いって言葉で済むとは思えないね。よく兄貴を務められたな。俺なら怖くなる」
「そうか? それに、突拍子もない思い付きをする分、変な方向に勘違いする事もあって可愛いぞ」
「それ、面白いのかも知れないが、可愛いというのは違うんじゃないか?」
ラウダが可愛いという表現には、とても同意できそうにないが、こうでなくてはアレの兄など務まらないのだろう。
「話は変わるが、ヴィムCEOは時間を取ってくれるんだよな?」
「大丈夫だ。今回は主役を俺たちに譲ると言っても、実際は父さんが動かないと話にならないからな。
基本的に一緒にいることが多くなる」
ヴィム・ジェタークは、地球にいる時も彼方此方を行き来しているので、前回のジェターク寮と地球寮で行った最初の作業中は、1度しか学生の前には姿を現さなかったそうだ。
唐突に振られた共同開発については、もう少し詰める必要があるが、それを
今回は今までにない大事業であり、ジェタークとグラスレーが、共同路線を進むと宣言を行うようなものなので、ヴィムもかかりっきりになるという話だったが、それでも多忙には違いなかった。
「それに、お前が作った内容で問題ないと思うぞ。不安になる理由が分らん」
「そもそもの提案が、こちらに都合が良すぎて疑いたくなるレベルなんだよ」
地球再生計画により、ディランザの需要は右肩上がりだ。ジェターク社に新たな機体を作る余裕がないというのは理解できる。
だが、提案されたモビルクラフトは、そのディランザの手が届かない範囲をカバーできる。
これからの需要が大きく期待されるはずだ。
そんな機体が、共同開発と言っても、すでに設計段階を終えて実機を作っての問題の洗い出し寸前だった。
コアで使用する主要機器や使用するエンジンの出力は、MSを作っていたメーカーからすれば容易に作れるレベルだし、画期的と言えるトップとボトムを接続するジョイントも、MSのバックパックの換装の技術の延長だ。
よほど、ラウダがデザインした設計から外れない限り、そのまま作ることが出来る。
「正直、グラスレーの重役の多くが、何か裏があると疑ったよ。今も疑ってるだろうな」
「理由は言っただろ? 簡単に言えば、作れないけど欲しい。無理に作っても、もっと良いものを他所が出すと」
「理屈はそうなんだけどさ、やはり美味しすぎなんだよ。
かと言って断る選択肢は無いし、少しでも手を組んで良かったと思えるようにしないとな」
ジェターク社の生産ラインに余裕は無いそうだ。
そのため、新たな工場をグラスレー社が、ジェターク社が開発している地域に作りたい。
基本的にジェターク社は、難民を受け入れた国に手を出している。方向性として難民に食料の生産を任せて、元からいた住民には工業化を進めている。
そこで、モビルクラフトのトップとボトムを制作する工場を建築できれば、ジェターク社としてもメリットが大きい。
だが、その地域に問題があれば、工場を作っても稼働しないし、他の問題が出るかもしれない。
地域ごとの民族性や知的水準がどの程度か、その辺りを話し合いたかった。
「そこは安心しろよ。
それより、一週間後の事が気になるし、父さんも興味があるそうだ」
「ジェタークのトップが、アーシアンのテロ組織に興味があるってのが怖いよ。何を考えてるんだか」
「正直、俺は興味本位が強いが、父さんは理由がある。ラウダも同じだ。
ラウダの場合は、最初からアーシアンの問題を解決する相手として、レジスタンス組織に興味を抱いていた。
それだけ、交渉の相手として重要視されているんだが、上手く行きそうか?」
「分からないさ正直。ただ、危険だからと無視して他から始めれば、それこそ含む所ありと判断するだろうね。
だから、最初に行く。上手く行けば御の字。拒否されたらそれでも良いさ。ただ、窓口は開けておく」
「そうだな……慌てない方が良いな。むしろ、見て判断してくれと言った方が良いか」
「ああ、そのつもりだ。口先だけでなく、結果を出せば向こうから何か言って来る。
そう思って気長にやるさ。ところで、ラウダがレジスタンスに興味を抱いた理由って?」
「アーシアンが、全てお前等みたいな奴なら問題無いんだが、現実はそうじゃないって事さ。
いや、お前等みたいな奴ばかりだと、それはそれで問題か」
「悪かったよ。考え無しでさ」
「いや、そうじゃ無くてだな、お前等って、自分の事より、アーシアン全ての事を考えていただろ?
でも、現実はそうじゃない連中の方が多い。
試しに避難民に、特別に自分だけ宇宙へ連れて行ってやると言えば、結構な確率で付いてくると思う。
友人や共に苦労した仲間がいるからと断るケースは、おそらく稀だろう」
「それは……」
かつての自分がそうだった。
「子供ではなく、大人の話だ。
貧困にあえいでいる状況じゃ仕方がないとも言えるが、アーシアン全体を考えるってことは利他的な人間って事だ。エナオに調べさせた歴史で知ったと思うが、あの国は利他的な人間が多かった。愛国心が強かった。
それが無ければ、発展はしない。やはり、その辺はラウダに聞いた方が良い。何十年も支援を受けながら発展しなかった例と、その理由を教えてくれる」
「ラウダって、本当に何なんだ?」
「機械好きの歴史マニアかな?」
「MSの操縦も高いレベルだぞ」
「そっちも機械好きの延長だ。アイツも護身のためにも身体の訓練をした方が良いのに、たまに義務的にやってはいるが、あまり熱心じゃない。
まあ、今回は珍しく自分からやりたいと言ってきたが」
「護身の訓練?」
「後期の作業の後、一週間ほどな。シャディクも、やることが無ければ、俺とラウダの訓練に付き合うか?」
「訓練? どんなことをするんだ?」
「俺の護衛として作った部隊と一緒に行動だ。
珍しくラウダがやる気になってな。アイツに合わせて、軽めでやることにした。お前もどうだ?」
「そうだな。付き合うよ」
気軽な誘いに反射的に答えてしまったが、肝心の内容を聞いていない。
だが、ラウダも参加するようだし、軽めと言うなら、そこまで変な訓練はしないだろう。