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作業開始から一週間。ひたすら穴を掘り続けていた前期の参加者は、休日を前にして最後の夕食を楽しんでいた。
大人の作業者も一緒に食べているが、今では慣れてしまい、雑談も交わすようになっている。
「今日のも美味いな」
米粉を使用したタコスっぽい食べ物を食べて、父さんが満足そうに言う。
この地域では米を主食にしているが、日本米では無くパサパサしたやつだ。
それを粉にしてデンプンと混ぜて生地を作り、それにスイギュウの挽肉と刻んだトマトで作ったソースを挟んで食べる。
「現地の食材で作る苦労をさせるつもりだったが、道理で不満が出なかった訳だ」
ジェターク寮生には、前回の一週間(3年生以外は10日)の地球行きの後に報告書を提出させ、作業環境や生活環境での不満も書かせているが、提出された報告書には、食事には一切の不満が無かった。
ベッドの質や自然の匂いを異臭と捉えての不満があったので、父さんや重役も遠慮してる訳ではないとは気付いていたようだが、ついに謎が解けたようで何より。
いや、最初はみんな不味いと思ったようだが、2日目にアリヤが厨房に立ってからは状況が一変。
当番でも無いのに、アドバイスを受けるという名目で、アリヤを厨房に引っ張り込み、最初は素直にアドバイスを受けていたのだが、何時の間にか彼女は厨房の主に昇格していた。
そのため、何処か後ろめたく、ジェターク寮生が黙っている中、興味を抱いたシャディクが口を開く。
「やはり、地球の料理は口に合いませんか?」
「料理もだが、食材が珍しい。腹と栄養を満たすだけの合成食糧なら良いが、どう料理すれば良いのか分らんものが多い。
シャディクは、ここに来て何種類の豆を食べたか憶えているか?」
「……言われてみれば、かなりの種類ですよね。一桁で収まらないとしか言えません」
「そうだろ? ちなみにプラントで手に入る豆類より確実に多いぞ。
豆類だけでもそれだけ豊富だ。それに他の野菜も含めると膨大な種類になる。美味いと思って栽培しているものもあるが、中には土地の改善や生育が良いから等の理由で仕方がなく作っている面もあるやつもある」
プラントで手に入る豆類は、合成食糧の素材にもなるメジャーな豆類ばかりで、地球の、それも一部地域で好まれているような珍しい豆はない。
「しかも、単体で食べると、甘かったり、苦みが有ったり、硬かったり、柔かったりと、どう手を付けるか分らん。
地元の人に習って、同じものを作るくらいしか無いが、あまり美味くは無いな」
基本的に金持ちになるほど味が濃いものを好む。
これは、単に甘い辛いと言ったものでは無く、素材の質まで含めたもので、外食産業などが集客のために味に一手間加える、素材のランクを上げる、ソースに入れる材料を増やすなどするためだ。
要は舌が贅沢になり濃厚なものを求めるようになる。
これを人の自然な流れと思うか、浅ましいと思うかは人ぞれぞれ。
だが、シャディクの興味を引いたのは別の事だった。
「土地の改善で作物を作るとはどういう事です?」
「土と言うのは意外と面倒でな。プラントで使わない理由が、嫌というほど分かる」
アニメで、兄さんが土いじりをアーシアンの真似と言ったように、スペーシアンがプラントで栽培する作物は、全て水耕栽培になる。
土ではなく、スポンジ等に養分の混ざった水を含ませて根を張らせ、日光代わりにその植物の特性に合わせた波長の光を当て、温度や湿度を管理する事で育成する。
技術的には僕の前世でも可能だった。コストの問題で研究段階止まりが多かったが、この世界では主流になっている。
元々、コストの問題さえ解決できれば、連作障害などの土起因の問題や、水質の問題などが解決できるので、地球でも都会では、屋内で水耕栽培をしている地域が多い。
逆に言えば、今でも土壌での栽培をしている地域では、その問題を抱えていることになる。
「都心部で水耕栽培が主流になったからな。土の問題は農業学ではなく、土地の者の経験則になっている。
水質に至っては、まともに分析する技術者もいないから、有害物質を使っている事もあった」
「有害物質は昔の汚染水の排水なんかで?」
「それもあるが、普通に地中に埋まっている天然元素もある。
それが自然に、あるいは人為的な原因で地下水に混ざってしまう。
ヒ素のように直ぐに分かればマシだが、水銀のように体内に蓄積されてから害が出るものもあるからな。
だから、ラウダに言われた事もあり、必ず使用する水は分析をしている。間違っても住民の目の前で井戸を掘って、喜びを分かち合うなんてするなよ」
「ラウダが?」
「たまたま、古い資料を見て、そんな事件があったことを知ったからな。
良かれと思った行動でも、予測もしない悲劇に襲われるケースがある」
前世で、井戸を掘って水が出た途端に喜びあう映像を見たことがあった。
素直に素晴らしい光景だと思ったが、同じように思っただけでなく、実際にやった日本人大学生がいた。
その結果、井戸水を飲んだ住民が体調不良を訴える者が現れ、やがて死者が出た。
原因は地下水に含まれていたヒ素。善意が悲劇を招いた。
だが、父さんが言ったようにヒ素はマシな方だ。水銀やカドミウムだったら直ぐには分からないし、イタイイタイ病はカドミウムが混ざった水で栽培された米が原因だったと言えば、その地獄絵図が想像できるだろう。
「人が善意でやらかした事は少なくない。
生活に苦しんでいる人の事を思って、食糧や衣服を寄付することも、計画性が無ければ、その地の発展を邪魔してしまう」
途上国が発展するには、第一に食料の自給率アップ。それが海外からの寄付に頼っては、自国の農業が何時までも発達しない。
更に衣服。明治時代や戦後の日本もそうだし、中国が世界の工場として発展した時も、最初は縫製工場がメインだった。
ベトナムやバングラデシュ等の東南アジアがそれに続いているが、それ以前から支援を受けているアフリカが発展しない理由は、衣類も寄付に頼っているからだ。
いや、そう言うと寄付に甘えていると思われるのでアフリカの人に悪いな。正確には寄付という名の廃棄物を押し付けられていると言った方が良い。
衣類は人類の必要なものとして、必ず需要があるものなので、アフリカの国々も衣類産業に参加はした。が、毎年のように送られてくる寄付による衣服は膨大な量であり、半数以上は廃棄されている。
残りは安く売られているが、あまりにも安いので自国で作っても売れない。その結果、自国の衣類産業が発展しないという悪循環。
子供の頃、学校や地域の活動として、着なくなった服を持って行った事がある者は少なくないだろう。
だが、その善意は無計画な活動家の手で、悲劇を生む要因となっていることを自覚するべきだ。
「他にも学校だったな。
ストリートチルドレンが可哀想だ。学校を作ってやろうだったな」
それも日本人ボランティアね。
ちなみに、発展途上国で学校を作るのは簡単だ。建物自体は日本で家を建てるより安い。何なら車を買う方が高くつく。
後は政府に許可を得れば良いだけで、その許可も簡単に降りる。政府としても学校を作ってくれるなんて大歓迎だからね。
でも、学校と言うのは作るだけなら簡単だが、維持をするのは簡単ではない。
教員の確保に、教材の準備。そもそも何を学ばせるのか? 学ばせてどうするのか?
それ無しに作った学校がどうなったかはお察しだろう。ボランティアは去って、学ぶことも出来ない建物だけが残される。いや、日銭を稼ぐ事も出来なくなった生活リズムの狂った子供も残された。
「現地の人と相談してから何をするか決めろという事ですね?」
「そうだが、それが難しい事でもある。
ディランザで開墾の手伝いは出来るが、何を植えるか、どう決めれば良い?
一応は主食となるものを中心にしているが、需要の計算に、どんな作物が育ちやすいか? 先にも言った地質や水質の調査をやるにはやっているが、現状ではそのデータも上手く活かせん。
その辺りを学校で学ばせたいが、そもそも教師がいない」
「プラントの農園ではダメなのですよね?」
「ダメだな。打診はしたが、無理だと言われたよ。教師なら出来るというが、水耕栽培を教えられてもな」
「植生エンジニアでは……」
植生エンジニアは、その土地に合わせて植物を改造する人だ。品種改良や遺伝子組み換えになる。まあ、やれば赤字確定ですよ。
でも、いま欲しているのは、その土地にあった植物が何か分かって、それをどう育てていくか連作障害や需要を含めたローテーションのモデルケースが作れる人だ。
「論外だな。役に立たんとは言わないが、そこまで追い込まれてはいない。明らかに赤字は勘弁だな。
分かりやすく言えば、これを作ったアリヤみたいなのが欲しい」
「ふごっ?」
丁度、食事を口に入れた瞬間に名前を呼ばれて、アリヤが挙動不審になるが、父さんは気付いていないので、僕が手を振って気にしないよう伝える。
彼女としては、ジェタークのCEOに名前を覚えられていて驚いたのだろうが、こんなのは人心掌握の初歩だ。
平社員からすれば、社長に名前を覚えられていれば、喜びこそすれ、不快には思わない。少なくとも、「お前、誰だっけ?」なんて言う奴の下で働きたいと思う人間はいないだろう。
だから、ジェタークの人間としては、人の名前と顔を一致させるのは、初歩中の初歩だ。
「珍しい食材だろうが、どう組み合わせれば美味さを引き出せるかを知っている。
俺は毎日では無いが、聞く限り失敗が無い。美味いか、そこそこ美味いか。凄く美味いか。
しかも、この量だ。普通なら失敗しても不思議ではない」
100人はいる部屋全体を示すように指先を回す。確かに家庭料理が得意でも、大人数を用意すると話が変わる。
飲み会でも10人前は良いが、100人前となると限られてくる。
自衛隊での食事作りも、大人数に合わせて普通とは異なる手段で作ることが多い。
「これは才能だな。真似しろと言っても無理な類だ。ただレシピは作れる。
その要領で、農地のデータから何を作れば良いのかを計算できる人間が欲しいが、そんな奴が見つかれば苦労はしない。
現にラウダでも無理だった」
はい、注目しない! そんな、お前が負けただと? みたいな表情をするな。
あのな、ノーフォーク農法みたいに単純にはいかんのよ。それこそ穀物だけでも米や麦、トウモロコシがあって、芋類から豆類から、根野菜に葉野菜。
それを現地のニーズに合わせて、しかも争いの火種にならないよう、周囲にも気を配らなきゃならない。
言っておくが、ノーフォーク農法で穀物の価格が下がった結果、潰れた農家もあるんだからな。
「そもそも現地の人と言っても、そいつが何を考えているのか、何を望んでいるのか。
明日からは、何人かの地元の有力者や、政府の人間に会うから、お前も付き合え。色んな奴がいる。言っておくが憤慨しないように気を付けろよ」
「シャディクは大丈夫ですよ。その辺は俺たちより上手くやれます」
兄さん、友人を上げる風に言うのは良いけど、父さんの視線は僕たちに向いてたよ。
「知ってるさ。ベネリットグループの会合で何度も会ってるからな。今のはシャディクにかこつけて、お前等に注意したんだ。
グエルは感情が出すぎだし、ラウダは無表情すぎる。少しは見習え」
無理です。
最終回後のスレッタって、どれだけ金が余ってたんだろ?