ラウダの野望   作:山ウニ

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ディランザ計画(下)

 

「うおっ」

 

スラスターをふかし過ぎた。態勢が崩れて回転を続けると、やがて上下が分からなくなった。

MSを操縦して、初めての宇宙での移動。昨日までの重力下とは異なる世界に、グエルは動揺する。

今はどうなっている? 周囲の目印になるものを急いで探す。

 

『慌てることは無い。ゆっくりと深呼吸をしろ』

 

通信で父の声。その言葉に従い、ゆっくりと呼吸する。

周りが見える。スラスターでなく、身体の反動を使って姿勢を整えた。

 

『良いぞ。それで良い。戻って来い。スラスターはゆっくりとだ』

 

今度はゆっくりとスラスターの出力を上げる。少しずつしか進まない事に苛立ちを感じるが、今は慌てない事だ。

そう自分に言い聞かせながら、グエルは父の言いつけ通りに移動を続けた。

 

『上出来だ! 流石は俺の息子だ』

 

「ありがとうございます」

 

そう返答するが、グエルは物足りなさを感じていた。

父は満足しているが、お前はどうだ? この程度で満足するのか? なあ、ラウダ。

弟は普通ではない。このMSディランザのコンセプトを父に提出したのは、3年近く前。それがどれだけ異常か、あの頃は分かっていなかった。

弟と言っても、学年は同じ。学業の成績だって弟が上。父の後継ぎは、弟のラウダの方が相応しいと何度も思った。

一緒にモビルクラフトの訓練をしている際にも感じていた。何処か誘導されているような感覚。

訓練をされている。弟は競っていない。本気を出していないと。

 

だが、そんな弟から期待に満ちた目で見られる。

兄さんなら、やれると信じて疑わない眼差し。

だったら応えるしかない。自分は兄なのだ。兄として、弟が期待する事には応えなければならない。

 

グエル・ジェターク、もうすぐ13歳になる少年は、新型MSディランザのテストパイロットに選ばれた。

後継者として圧しかかる期待。それでも、兄と言う矜持を胸に、弱音も泣き言も捨てる。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

訓練で地上、宇宙と、最初に出た様子や、そこから慣れていく様子を、MSの外からと、内蔵した兄さんの表情をカメラで記録した映像。

どうプロモーションビデオに編集していくか、その会議が行われていた。

映像自体は、実に素晴らしい出来栄えだ。兄さんが少しずつ成長する様子を撮影したプロモーションビデオだと思えば、御飯何杯も行けるね。

 

だが、僕個人の嗜好は別にすると、少し問題が出て来る。

実際に誰も口を利かない。父さんも、怒る理由は無いが、素直に喜んで良いのか悩んでいるのだろう。

父さん以外は、父さんの顔色をうかがって、何も言えないでいる。

僕と一緒に参加している兄さんにいたっては、周囲の空気に不穏な気配を感じ、不安な表情。

これは、僕くらいしか口火を切ることは出来ないだろう。

 

「これ、どっちが主役か分からないね」

 

参加者が一斉に首肯する。

 

「ど、どういうことだ?」

 

助けを求めるように兄さんが聞いてくる。周囲に気を使っての小声での問い掛けだが、僕は敢えて声を大きめに返答する。だって、そうしないと会議が進まないし。

 

「え~と、作戦ミス。今回は一石二鳥を狙ったんだけど、それが裏目に出たんだ。

 ディランザのコンセプト、初心者の訓練にも適したセッティングが出来るって面を主張して、次期CEOである兄さんにやってもらったけど……」

 

僕は手元の端末を操作して、ある映像を流す。

そこには、デスルターを撃破する赤いディランザの姿。

 

「……兄さん、強すぎ」

 

デルスターのパイロットプロだよ! 軍人のパイロットだよ! 何でガチ勝負で兄さんが勝ってんのさ。

確かにMSの性能差はある。機体を交換したら、兄さんは勝てないだろうけどさ。

 

「ディランザの性能、それも訓練に適した能力あってこその結果でしょうが……」

 

「それでも、御曹司以外の者では、半年の訓練でこの結果は出ませんよ」

 

「御曹司の才能を誇るべきでしょうが、そうなると、ディランザの性能が……」

 

「いや、ディランザは優秀と見るべきでしょうが、これは少し何と言いますか」

 

次々と参加者が口を開く。

だが、兄さんは、まだ分かっていないようだ。

 

「最初の目的はディランザの性能アピールだったんだ。これが普通の、言い換えれば凡庸なパイロットの成長記録なら、ディランザの訓練のしやすさがアピールできるけど、兄さんが凄すぎて、MSじゃなくパイロットが優秀だって言われる。

 逆に、これが純粋に、次期CEOの、兄さんの紹介だったら、単純に天才パイロットで済むけど、そうなるとMSの性能のお蔭だと突っ込まれる」

 

そう。主役が分からなくなった。

両方とも凄いで済めば良いけど、どっちが凄いのかと疑問が出てくるだろう。

 

「そんな訳あるか! 俺はお前に勝っていないぞ!」

 

「いや、兄さんが勝ってるよ」

 

「ウソ吐け、お前が手加減してることくらいバレてるんだよ!」

 

「いつの話だよ」

 

最初は明らかに加減してたよ。でも、最近はそうでも無い。普通に負けることが多くなってきた。

それにね兄さん、それが分かる時点でおかしいんだよ。

ちなみに、僕の訓練も撮影したけど、プロの軍人曰く『見た目と中身が一致しない。不自然だと思われる』だそうです。

そう、僕の場合は、操縦が子供のそれじゃないと、見る人が見れば分かるそうだ。

僕と兄さんが訓練を開始したのは同時期だけど、中身が大人の僕と、純粋な子供である兄さんとでは違いが出て来る。

初めての手習いの類では、普通に大人の方が物覚えが良い。子供の脳の吸収は凄いが、大抵はそれまでの経験が生きるからだ。

 

例えば、MSの操縦はゲームの操縦に似てはいるが、そこまで単純では無いので、覚えることが多い。

そして、何よりも戦闘の知識が異なる。言い方は悪いが、戦争も格闘技もケンカも、嫌がらせが上手い方が強い。

だから、本気でやれば、僕は兄さんに勝てると思う。現時点では。

 

でも、僕の利点は、兄さんより嫌がらせが得意なだけで、他は兄さんが上。

特に反射神経と、とっさの判断力は天才だと断言できる。

いや、そもそも、13歳で現役の軍人から認められるって、グエル・ジェタークって、ここまで強かったか?

確かに、5年後のグエルは強かったけど、いくら何でも、ここまで天才って感じはしなかったんだけどな……って僕に勝つため?

 

「今更、どうしようもない」

 

唐突に父さんが口を開く。

その表情は、すでに決定したようだ。相変わらずのワンマンだね。

 

「グエルの訓練の様子は、途中までで良い。調子に乗って本格的な訓練をしてしまったが、ディランザを重装甲に変える前の映像で十分だろう。

 重装甲のディランザは、テストパイロットの映像のみを使う」

 

重装甲とは、アニメでのディランザと同じ外見。他に軽量型の装甲も用意してあるし、訓練や作業用の安価番もある。

駆動パーツが少ない、つーか入らない安価番の状態での映像だけで済ませるようだけど……

 

「それだと不自然では?」

 

初期の映像のみ。見る人が見れば、兄さんに重装甲のディランザを操縦させないのは不自然だと思うだろう。

 

「それに気付いた人間だけが知れば良いことだ。それでグエルのアピールは十分だろう。

 今回の主役は、やはりディランザだからな。

 だが、インキュベーション・パーティには2人とも出席してもらう。今回は10年目で盛大にやるそうだからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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