来年から入学する生徒にも体験させるため、ランブルリングの作戦会議を始める。
実際に僕たちは事前にミーティングを済ませているが、新しい情報が増えている可能性もあるし、新入生の反応を確認するため、前日の夜になるこの時間に、経営戦略科のトップを司会進行役にして改めて開始する。
「では、ランブルリングの対策会議を始めます。一年生と来年から入学する生徒たちは、イベントの内容は知っていると思うが、疑問に思ったことは積極的に質問してください。質問をしない生徒は興味が無いと思われかねないので、逆に遠慮をしないように」
うんうん。社会人になると、この手の会議って面倒でただ聞いているだけってことが増えて、質問する奴は決まってくるんだよね。
でも、経営者の一族として、それは望ましくない傾向だ。同時に鋭い質問をする奴は将来有望だと目を付けることが出来る。
「まず、ルールはバトルロイヤル方式で、最後に勝ち残った者を勝者とするが、実際はチーム戦だと言っていい。
自分が所属する寮、または同盟者を勝たせるため、他の者がサポートするのが基本だ。我々の場合はグエルを優勝者にするために、全員が一丸となる。仮に何らかのアクシデントでグエルが脱落したら、次点のラウダを勝たせる。それが基本方針だ。
そして、昨年までの戦績だが、去年はグラスレーに譲ったが、その前は2年連続でジェタークのMSが勝利している。
そして、これが今朝までに判明しているオッズだ」
パワーポイントモドキで、これまでの戦績とその年のオッズ俵やパイロットのオッズランキング。そして、今回のオッズ俵とパイロットのオッズランキングが表示される。
ククク、圧倒的ではないか、
「この通り、ジェタークは大本命だ。それも圧倒的すぎて負ける理由はないと言って過言ではない」
個人のランキングの1位は兄さんで2位が僕。3位はグラスレーの寮長で4位がジェタークの元寮長。
それを見た来年の入学者が誇らしげに囁きあう。
「しかし、このランキングはオッズランキングでしかない。どれほど強いかを、正確に見切れる者も、そうで無い者もいるが、賭けの参加者の多くが後者だ。実際に全生徒によるトーナメントを実施したことも無く、まだ表に出ていない強者がいるかもしれない」
ちなみに、シャディクは8位で、サビーナとエナオはトップ10にも入っていない。ついでに決闘をしたことがないエランは圏外。つまり、このランキングは信用ならないってことだ。
それに、僕も兄さんも賭けには参加していない。仮に参加したら、僕たちの意見を参考にするだろうから、ランキングは大きく変わるだろう。
「そして、グエルたちの意見を参考にした実際の実力はこうなる。ちなみに現役の平均的なプロパイロットがAだと思ってくれ」
S+が兄さんで、僕はS-。シャディクがSでサビーナとエナオはA-。グラスレーの寮長やジェタークの元寮長はBで他はオッズランキングベスト10内でもC+以下。
僕の意見も参考にされているし、仮に今すぐにプロのパイロットになったと考えると、サビーナとエナオがきつめシゴキで即戦力になるくらいで、Bの寮長たちは見どころのある訓練兵で、Eになると使えるようになるか分からない訓練兵レベルでしかない。
そう考えても、この辺りが妥当だと思う。
「あの、オッズランキングで8位だったシャディクさんがラウダ先輩より強いんですか? それに圏外の2人が……」
パイロット科希望の生徒が、本当に聞いていいものか戸惑いながら質問するが、そう緊張しなくても良いよ。
というか、司会の視線を見た感じ、僕が言った方が良いのかな?
「強いね。前までは技量で僕が上だったけど、反射神経なんかでシャディクが勝てるチャンスが僅かにあった。そんな感じだけど、今は全ての面で上回っているかな。
ちなみに、ABCの差は、まず上に勝ち目がないで、プラスとマイナスは可能性的に有利の差と考えてくれ」
シャディクは、兄さんとの決闘と、前の長期休暇での護身訓練の影響で完全に化けた。成長ってレベルじゃない。
見事にこちら側へようこそって感じだ。
ただ、シャディクが兄さんに勝てるかと言うと、先ず勝ち目はないから、兄さんはSSとかUで良い気がする。
「ありがとうラウダ。それで参考までにシャディク達が不当に低評価の理由なんだが、そこの2人がやらかした影響が尾を引いてるだけだ」
「やらかしって?」
「グエルがシャディクを。ラウダがサビーナとエナオ2人まとめてだが、なぶり殺しにした」
「「殺してない」」
失礼だな。ピンピンしているどころか、強化してやったんだ。
「まあ、何があったかは分からないが、それぞれの間で何かあったらしい。これに関しては当人たちが秘密にしてるから詮索は禁止だ」
「あの、ニュースで仲良くしてたけど喧嘩したんですか?」
「それの前の事だ。それとランブルリングと関係のない質問は流石に控えるように」
そう。そうなんだけどさ。軌道修正には、もう少し言い方を考えないとダメだな。
線引きが上手くいっていない相手に、関係のない質問をするなと言うと、これは聞いても良いのかとか自重してしまう。面倒だが聞いてほしくない質問は都度答えられないとして、聞いてほしい内容を促すようにしないと。
ホラ、質問が飛んでこなくなった。
さて、ここは僕でなく兄さんにフォローしてもらおう。兄さんの肘を突くと、分かってるとばかりに兄さんが立ち上がる。
「実際は見ての通りだが、周りにとっては、俺たちが勝って当たり前で負ければ恥って状況だ。
だが、他に賭けている奴がいることで分かると思うが、俺たちが負けることを期待している人間だっている」
唐突に兄さんが立ち上がって、喋り出した事で、驚きつつも注目する後輩たち。
うん。一言一句を聞く必要もないが、嫌でも状況は認識できるシンプルな現状把握をさせてから、注視する中で本題を切り出す。
「そして、俺たち以外に参加を表明している奴らだって、何かを求めて戦いに挑んでくる。
お前たちと一緒に入学してくる自分の寮の後輩たちに、少しでも良いところを見せようと思ってるだろう。
勝つところを見せたくて、弱い相手を狙う奴だっていれば、一発狙いで格上の相手、要は俺たちを狙う奴もいるかもしれない。
それでも、俺たちは負ければ恥って状況は変わらんし、俺たちは負けるわけにはいかない。その上で、どうやれば足元を掬われないかを考えれば、他が何をしてくるか予想する必要がある。
だから、考えてみてくれ。どうすれば、俺たちを倒せるか。これは、この先、お前らが格上と戦う際の経験にもなる」
流石兄さん、見事な軌道修正。
進行役も、慌てて参加を表明しているチームの大まかな能力俵を、各々のデバイスに送信して考えるように促す。
さて、僕も確認するが、こうして見ると、やはりジェタークが圧倒しているし、それにグラスレーが追随しているだけで、残りは大きく開いている。
やはり、グラスレーをどうするかがカギだよな。
「あの、予想ではこれだけの実力差ですし、ジェターク以外が一致団結してジェタークを潰しにかかるという作戦が考えられます」
ハイ来た。 最も考えられる可能性であり、実際は低い可能性に気付いたが、さあ、司会はどう返すのか?
おまけに最初の質問だ。先程のように、ぶった切るような返答をしたら、3年生だろうと進行役を降ろすからな。
「良く気付いた。実際にそれをやられたら、俺たちも負けると思う。
だが、そうなる可能性は低い。何故だと思う? 他の者も思いついたら発言してくれ」
良いね良いね。この会議は新入生にジェタークの考えを理解してもらうのが目的だ。成長を促すという意味で実に言い返しだ。進行役降ろすとか考えて御免なさいだよ。
「普段、競争している間柄ですし、手を組むのは難しいと思います」
「まとめる人材、例えばグエル先輩のような人が他にいないのではないでしょうか?」
でも、正解を導き出すのは難しいんじゃないかな?
みんな目先の事に注視して、見当違いな方向に進んでるし。
「うん。それらは確かにある。だが、組みたくても組めないではなく、根本的な問題によって、組む可能性が低いと見ている。
それを知るためには、このランブルリングの出場者が何を目指しているかを考えることだ。
仮に、ランブルリングで優勝したチームには、何としてでも手に入れたい景品が、しかも山分けが可能であれば、ジェタークだけに独占させないため、組む価値はある。
だが、ランブルリングで得られるのは名誉だけだ。優勝者は、後ろ盾の企業を含めて一目置かれるし、先ほどグエルが言ったように、後輩に良いところを見せたい、そんな形のないものを目指している。
それで、後見している企業やお前たちは、寄ってたかって、一人を潰そうとする先輩を尊敬できるか?」
ハッキリと口に出して尊敬は出来ないと言い難いけど、態度でわかる。
まあ、言ってしまえば、このランブルリングは見栄の張り合いで、見っともない姿は見せられないイベントだ。
「目的を見失うと同時に方向性を見失う。それは心に留めてほしい。我々も失敗した経緯がある」
全員が、苦笑したり、苦い顔をする。ちなみに因縁のダイゴウは不参加だ。
「ただ、そんな理屈は抜きにして、目的と手段を混同し、ただジェタークを倒したい。どんな手を使ってでも。
そう考える奴が出てこないとも限らない。実際に少しはいるだろう。
だが、他が全て手を組んだなら、グエルが一人でどこまでやれるか、暴れさせると決まっている」
「ひ、1人でですか?」
「ああ、負けて当然の展開で、何処まで倒せるか。むしろ、そうなったら面白いと思うがな」
「当然、全部ぶっ倒す」
実は兄さんも、その展開を望んでいたりする。ガンダム無双をガチでやる気だ。
でも、そうなる可能性は期待できない。流石にアス高と言えど、そこまで馬鹿の集まりではない。
「ですが、グラスレーが相手だと厳しいのでは?」
「グラスレーは、絶対に乗ってこない。あいつらは、目的と手段を混合するような甘い手合いではない。
むしろ、グエルを救助しようとするだろうから、他のパイロットは、グラスレーを止めるようになっている。
まあ、奴らは呆れつつも高みの見物を決めるだろうな。グエルがやられた時点で大将を失った我々は負けになるから、後はグラスレーに任せて今度はこちらが高みの見物をする」
「だから、全部倒すって」
「はいはい。グエルの活躍に期待してるよ。
だが、やはり可能性的にありえないと考えている。だから他の意見を」
「あの、先ほどのと似ているのですが、ジェタークとグラスレー対、他の連合というケースは?
政治的な理由からも、こちらは可能性的に低くないかと」
地球再生計画を進めるジェタークと、それに組むと決めたグラスレーを、これまでの既得権益、つまり戦争シェアリングを神聖不可侵と考える勢力の争いとなれば、確かにありえそうな展開だ。なるほど、質問したのは経営戦略科の希望者か。ニュースなんかをよく見ているみたいだ。
「その場合は、こちらが優勢だな。実はジェタークだけでも、グラスレーを除く今回の参加チームを倒せる可能性は高い。このケースは普通に組んで戦って、勝った後に決着を付ければ良い。この場合だと損害によってはグラスレーに勝ちを譲ることになっても、名誉を得るという目的には適っている。
ちなみに、グエル1人で戦わせる案は、可能性が低いからこその遊びだ。やるなら普通にグラスレーとセットだからな。バカをやってきたから、バカをやり返すというだけの話だ」
「それで、仮に俺が勝とうが負けようが、常識外れの戦いを見せれば笑って済ませるしな」
絶対に避けたいのは、後を引く対立だ。仮にそうなればシャディクにも乗ってもらって笑えるような戦いをして欲しい。
後輩たちが感心したように、兄さんに尊敬の眼差しを向ける。気持ちは分かるとも。
「だとすると、やはり最大の敵はグラスレーですか」
「そうだ。俺たちにとって、最大の味方であると同時に、最強の敵となる」
「あの、ペイルとダイゴウの資料が見当たらないんだけど、もしかして不参加?」
全員がグラスレーを意識している中、唐突にニカが質問する。
ペイルは普通に不参加。理由はやる気不足。最近は兄さんとシャディクでエランを巻き込めないか声をかけているが、『指示は受けていない』というやる気のない返答しか貰えていない。
そして、ダイゴウは精神的なダメージから回復していない。戦うことに恐怖しているようだ。南無南無。
「あ、ああ、ペイル社もダイゴウも今回は不参加だが、何か気になることでも?」
御三家であるペイルを気にするのは分かる。
だが、ダイゴウを気にする理由が分からなくて戸惑っているようだ。僕に「アレ言ったの?」って感じの視線を送ってくるが、当然ながら言ってない。
まあね、僕も不参加チームの危険性なんて口にはしない。ニカは気付いたのか?
「うん。この競技ルールから言って、上空を支配できれば自然に有利だし。
それに、長距離砲撃での狙撃に成功すれば、グエルにラウダに、シャディクもか。本来なら勝てない相手に対し、ジャイアントキリングを狙えるでしょ?
ダイゴウは元から砲撃戦特化のMSなんだし、他所と戦っている最中に不意打ちの狙撃をしても、卑怯とは言われないと思うけど?」
そうなんだよね。ペイルは警戒してても、ダイゴウを気にする奴はいなかった。いや、目をそらしていたか?
元々、あそこのMSは、他と併用して輝くMSなんだけど、アス高の制度からダイゴウだけで戦うルールに縛られていた。
言ってみれば、ガンタンクでザクと
でも、本来はザク2体より、ザクとガンタンクのセットが良いよねといようなコンセプトの会社だ。
「参加しているチームだと……制空も狙撃も、そう警戒しなくて良さそうかな……」
良く気付きました。このルールで警戒するのはそれですよ。
でも、ニカさん、いくら正しいことを言っても、周囲は引くからね。
普通は、入学前の中学生が、何処の会社がどんなMSを作っているとか知らないからね。
頑張れ進行役。この空気をなんとかしろ。先輩なら大丈夫さ。