あの後、進行役が頑張って皆の気持ちを引き締め、何とか対グラスレー対策を考える方向に導いた。えらいぞ。
まあ、基本的にこちらが有利なのは変わらない。
突出した戦力、つまり、兄さんと僕。シャディク、サビーナ、エナオを除けば、互角か、やや有利の状況だから、自然と兄さんと僕にどう対処するかが争点となる。
普通に兄さんにシャディク、僕にサビーナとエナオを当てれば、僕たちが勝つだろうから、組み合わせを変えて兄さんを相手にサビーナとエナオを当てて時間を稼ぎ、その間にシャディクが僕を倒す案がやはりと言うか出たが、この場合は僕がやられるより先に、兄さんが2人を倒す方が早い。逃げようにも兄さんのディランザには強力なブースターがあるから、下手したら瞬殺される。
かと言って、サビーナもエナオも1人で僕を相手に時間稼ぎは出来ない。それどころか、シャディクにどちらかが付いても、足手まといとまでは言わないが、兄さんに勝てるとは思えない。
まあ、シャディクと対峙している最中に後ろから不意打ちをすれば、ワンチャン行けるかもしれないが、僕がそれを許さない。
つまり、シャディクはバトルロイヤルという状況を利用して、他と対峙中に奇襲をしてくる可能性が高い。
まあ、そんな奇襲で勝てたとしても、あまり誇れないが、そこは兄さんだからアッサリとやられるわけがないと変な信用をしているのだろう。だが、態勢を崩された状態で戦えば、いくら兄さんでも、シャディク相手だと厳しいものがある。
結局、対策はグラスレー、正確にはシャディクの存在を常に意識することに決まったんだが……
『チョロチョロと!』
アイツ! 開幕早々に単身で奇襲しかけてきて、おまけに他所の戦闘中のフィールドに逃げやがった!
奇襲は兄さんが反応して避けることが出来た。でも、そんな事はシャディクも織り込み済みだったんだろう。
反撃しようとする兄さんを誘導しながら、他のMS同士が戦っている場所へ行くと、そいつらを盾にして戦い始めた。
兄さんは、他所の連中を障害物扱いでバッサバッサと切り伏せながらシャディクを追うが、障害物はまだまだ尽きない。やったね兄さん、リアルガンダム無双だよ……じゃなくて、
「そろそろ出てくるだろうグラスレーのMSに警戒しつつ、前方の敵を叩け!」
咄嗟に僕が指揮を執り、周囲を叩いていく。
絶対に仲間の所に誘導してるんだろうなぁとは思ってたが、出てきた出てきた。まるで、昭和ライダーの戦闘員のように襲ってきた。
数の上で互角だし、ジェタークとグラスレーが正面から衝突する。
こうなると僕の担当はサビーナとエナオなんだが……兄さんのディランザに後方から迫るハインドリー。あの動き、あれがサビーナか!
速度を上げ、サビーナ機に銃剣のビームライフルを向ける。よし、兄さんに届く前に落とせる……けど待てよ? サビーナが単機? エナオは?
そもそも兄さん相手に、そんな奇襲が通じると思っているのか?
シャディクと切り結んでいる最中なら別だが、今の兄さんは逃げるシャディクを追うと同時に周囲の敵を片付けている。
当然、後方だって意識しているし、集団戦というルールだ。事前に作戦をある程度は立てている。混戦と言うには早い状況。
兄さんの力を誰より分かっているシャディクが、そんな作戦を取るか?
サビーナを撃つ前に咄嗟に後ろを振り向くと、僕に迫るエナオ機に向かって引き金を引いた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「なんだよアイツ等、怖えよ」
「ねえ、シャディクって、あんな方向に狂ってたっけ?」
「正気、とは言い難いけど、方向は…違うかな?」
レネの呟きと言うには大きすぎる独り言に反応したメイジーが、こちらを見ながら言ったので、イリーシャは正直に返答した。
シャディクが搭乗する白く塗装したハインドリーは、単身でグエルに奇襲を仕掛けて、それが失敗すると、動揺も見せずに逃走を開始した。
ただ、その逃走先が問題で、戦場の真ん中を突っ切るというものだ。
それだけでも、正気では無いが、絶妙なコースを取り、道中にあるMSを盾にするように進んでいる。
凄まじいシャディクの技量に、「性悪、アレは無え」と言ったレネに同感だった。
あんな事をされたら、嫌でも途中のMSと戦わざるを得ない。そして、戦っているグエルを倒せば良い。そのはずだった。
だが、そのグエルは道中のMSを全て一刀で切り伏せている。避けることも、受けることもさせずに、ブレードアンテナを切り飛ばすか、叩き伏せて後方から追ってくる味方に処理を任せている。
戦わざるを得ないはずだった。戦っている最中に攻撃すれば良いはずだった。
しかし、現実は戦いであって戦いになっていない。
あれがグエル・ジェターク。シャディクを変えた人。
元々、イリーシャには政治信念など無かった。シャディクの考えに乗ったのは、胸のモヤモヤ――自分だけが恵まれた罪悪感らしい――をどうにかしたかったのと、それ以上にメイジーたち自分を気にかけている友人を助けたかっただけだ。いや、一緒にいたかっただけかもしれない。
だからか、計画が変更になったと聞いた時は、何処か安堵にも似た気持ちがあった。
そして、そうなった原因を作ったグエルには感謝していた。
それに、これからの目標を聞けば、前の計画より余程いいと素直に思う。それは、レネとメイジーも同じようだった。
そのグエルに興味があったが、怖い。でも目が離せなかった。
シャディクの呆れるような軌道よりも、グエルの剣さばきから目が離せない。
怖いけど美しい。力強いけど優美。なんだアレは? そう言えばシャディクが言っていた。グエルは存在自体が意味不明だと。
「いやぁ、合流したけど、どうするコレ? 横やり入れる?」
「無理。あの2人に近付くなんてバカだろ」
「うん」
普段は合うことが少ないレネに心底同意だった。
「でも、バカはいるみたい」
「あれサビーナか? あいつバカだったん?」
今度も同意だった。グエルに後方からとは言え、サビーナの攻撃が当たるとは思えない。
その時、青いディランザが速度を上げ、サビーナに狙いを付けた。
青い機体は、弟のラウダだったはず。なるほど、グエルが相手するまでもないという事か。
だが、ラウダの機体を狙うようにエナオが動く。背後を捉えた! と、思った瞬間、振り返って、エナオを撃墜する。
「え~と、あれ何なん?」
「多分、元から弟さんを狙って罠に誘ったんだけど、読み切られた……かな?」
いつも笑顔で、どんな時でも動じないメイジーだが、周囲からは分からないだろうけど動揺している。
良く分からないけど、結局、サビーナは予想通りにグエルに返り討ちに合い、シャディクもグエルと戦闘が始まり有利とは言えない状況の中、グラスレーの寮長が別のディランザに破れるとグラスレーが一気に崩れ始める。
あとは、シャディクがどれだけ耐えられるかの勝負となった。
「ねえ、ジェターク、ヤバくね?」
「そうよ。強いし、怖いし、頼もしいし、そんでもってヤバい」
レネに答えたのは、3年のメカニック科の先輩だった。
オープンキャンパスに来たイリーシャたちの正体に気付いているかは不明だが、地球寮の同級生と話し込むところを見たし、アーシアンに偏見はなさそうだ。
「だけど、次期CEOの決定でね。そいつらと協力しつつも、競うことになったから。君たちには期待しているね」
「マジ?」
無茶振りが過ぎないだろうか?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ランブルリングで優勝を勝ち取り、興奮した様子の後輩たちと一緒に通路を進んでいると、グラスレー寮のメンバーとバッタリ出会った。
「おい、シャディク! なに変な作戦考えてんだよ! 無茶苦茶な動きしやがって」
「それ、お前が言う? 普通無いって、少しは手こずれよ。何、全部一撃で終わらせてんだよ」
「少しでも手こずったら、お前にやられるだろうが」
「だから、それを狙ってたんだよ! だが、今回はラウダが悪い。お前、それでもブラコンか?
俺はグエルが狙われたら、ブラコンのお前が、我を忘れて突っ込んでくると信じてたんだぞ。
なに、サビーナをグエルに任せてるんだよ」
お前、ブラコンブラコンと連呼しおって、そんな見え透いたお世辞が通じると思ったか?
だけど気分が良いから、失敗した理由を教えてやる。
「今回のは、作戦ミスというより、人選ミスだな。サビーナを囮に僕を落としてから、お前とエナオで兄さんを相手にするつもりだったんだろう?
でも、僕がエナオの事を気にしないはずないじゃないか」
サビーナが単機で向かったら、エナオの動向を気にするに決まっている。
やるんだったら、2人セットで兄さんに向かわせて、寮長辺りに背後から僕を撃たせるべきだった。
流石に兄さんでも一瞬で2人を倒せないし、上手くいけば、僕が落ちて、シャディク、サビーナ、エナオの3人で兄さんと戦えたのに。
「エ、エナオ、そういう仲?」
「違う。ラウダはああやって誤解を招く発言が多いけど、何もないから。
こちらが思い切り無防備でも、何もしてこない人だから」
「無防備って、お前、何やってんだよ?」
どうした? エナオは誰と話して……おお! シャディク隊の残り3人じゃないか。
うむ。すでにウマ娘から進化したようなメスガキになっているな。となりには儚げちゃんと地味子ちゃんもいる。
エナオを呆れたように見て、溜息を吐いたサビーナが前に出てくる。
「また、完敗だよ。ところで、ラウダが昨日、誰かと見間違うほどに優しく女の子をエスコートしていたと聞いたが?」
ん? おお、そうだった。何と言うか、茶番を済ましておかないとな。
後ろに隠れていたニカを引っ張り出して紹介する。
「こいつだ。ニカ・ナナウラという。見覚えがあるかもしれないが、お前らと一緒に行った難民キャンプにいた娘だ。
そこで、僕が昔使っていたタブレットを落としたらしくてな。それを拾って届けてくれたんだ」
僕のタブレットにはパスワードか掛かっていて、それを解かないと持ち主が分からない状態になっていたこと、それを解くには生半可ではないセンスが必要な事。それら、サビーナ達が知っていることを皆が聞こえるように話す。ついでに難民グループから取り残された過去と、現状のトラウマなど、アイツ等が知らないかもしれない事も。
「父さんが話してみて、随分と気に入ってね。自ら後見人になって、晴れて来年からジェターク寮の一員だ。
よろしく頼む」
「お、お願いします」
「代表が後見? そうか、良かったな。前に会ってるだろうが、俺はシャディクだ。よろしく頼む」
シャディクにとっても、父さんの後見人は予定外だったので、そこは流石に驚いたようだ。
でも、嬉しそうに微笑んで挨拶を返す。
これで儀式は終わりだ。シャディク達との関係は、あのキャンプ地で会っただけの関係。それだけだ。
おっと、そうだ。ついでにシャディクに伝えておくか。
「そうだ。シャディク、ニカを見て、父さんが味を占めてな。
お前も知っているはずの民間軍事会社をやっているナジに、ギャプランをもっと渡すから、難民グループからはぐれた子供を見つけたら拾ってこいと依頼した。ナジも、アイツの部下も、あの性格だ。喜んで拾ってくるだろうが、名分がな」
「ああ、国の上空を飛ぶなら……開発地域の調査って事か? 分かった。
こちらも、調査は必要だからな。ついでにやってくれって依頼する。数は?」
「多い方が良い。向こうのキャパは気にしないで、依頼を出してくれ。何処に行くかは任せる事になっている」
分かったと返事するシャディクに、今度は兄さんが話しかける。
「それとだ。昨夜ラウダと話したんだが、拾うことは止めないが、本来ならあっていい事じゃない。
そこで、子供を拾った場所は、開発を忌避すると噂を流すことにした」
「なるほどね。難民にも少し上品に振舞ってもらおうって事か。良いね。どのみち自己中が過ぎる連中だと上手くいかないか。
それに、ナジに決定権があるような誤解が生まれかねない状況だし、ジェタークとグラスレーが、両方でそんな考えだと噂を広めた方が良いな……サビーナ、別のルートでも噂を流しておいてくれ」
「了解した」
シャディクの持つ裏ルートも使ってくれるようだ。助かるけど、改めてコイツの強みは大きいな。
「じゃあな。今回は俺たちが勝ったんだから、今度、何か奢れ」
「へいへい。でも来年は憶えておけよ。何と言っても豊作だからな。来年はうちが貰う」
「こっちも豊作だって」
いや、兄さん。向こうはシャディクガールが勢ぞろいで、マジの豊作なんだよ。エナオ級が3人追加だよ。
それに対して、こっちはウマ娘と新旧のトレーナーさんだぞ。どう考えても不利だ。
そう思いながら未来の後輩君たちを見ると、何かキラキラした目で僕たちを見てる。どしたんお前ら?