ラウダの野望   作:山ウニ

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朱に交わる前に深紅に染めよう

 

ランブルリングも無事に終了し、オープンキャンパスの行事は全て終了。

アス高のターミナルは、そろそろ帰る見学者で賑わっていることだろう。

ジェターク寮では祝勝会(最初から勝つ気でいたし、負ければ内容によっては惨めなイベントになる地獄絵図を敢えて演出)をやった後に帰ることになっている。

 

だが、直ぐに始めるには、試合の後で疲れているというのもあり、落ち着いてからの開始になる。

その合間に、ニカを連れて地球寮に行こうと考えていたのだが、どうせだからと僕が引率として、後輩(予定)たちにも見学させることになった。

 

「地球で活動する際は、4人1部屋が普通だからな。地球寮はそんな感じだし、参考になる」

 

ついでにアーシアン蔑視思想がいないか、炙り出しを行う予定だが、見た感じだと、むしろ集団の部屋には前向きな興味がありそうだ。

まあ、若い子って好きだよね。それに、軍関係にでも入れば、軍艦の中など、二段ベッドどころか、三段も珍しくないし、これが受け入れられないなら、進路が狭くなる。

外で、1年生トリオが待っているが、見たことが無い奴には、それ以上に注目する相手がいた。

 

「何か、白いのが」

 

「動物?」

 

「ヤギだ。人懐っこいから危険はない」

 

ティコがいる。結構、お腹が膨らんできたな。

近付いて挨拶をすると、予想通りと言うか、ティコが見たことが無い人間に興味を示して近付いてきた。

おかげで、紹介どころか、挨拶すら出来ずに騒ぎ始める。

 

「うわ、毛、柔らかい」

 

「本当だ。サラサラ」

 

怯むことなく触り始めるウマ娘に、周囲も続く。

ウマとヤギって仲良くできるのか? 縄張り争いとかしない?

 

「ジェタークは大勢で羨ましいな」

 

「ん? 地球寮は新入生はなしか?」

 

「例年だが、地球寮は見学者は来ないよ。私もいきなり放り込まれた感じだ。

 ラウダは去年、どうだった?」

 

「僕も兄さんも来なかった。第一、肌に合わないとか言っても、僕たちに拒否権なんて存在すると思うか?」

 

「そんなこと関係なしに、君たちは周囲を自分色に染めてしまうじゃないか」

 

まあね。僕は何となくは知っていたし、兄さんも怯む性格ではない。

そもそも、アス高(ここ)はベネリットグループに就職するための学習機関だ。こちらと既に仕事に参加しているんだし、先輩だろうと所詮は学生。現場を知る僕たちの方が優位なのは明白だ。

しかし、それにしてもアイツ等、興奮状態でヤギに触りまくっているが大丈夫なのか?

 

「ところで、こんな集団で押しかけてきて本当に大丈夫だったか? 妊娠しているんだ。お腹の中の子供の負担は?」

 

「ああ、この程度は問題ないさ。でも、気遣いには感謝するよ」

 

「気遣いというほどのものではない。むしろ、何かあったら、こっちがダメージを受ける」

 

ヤギに流産とかあるのか? 分からんが負担は良くないだろう。

 

「大丈夫だって。それより、家に帰る時の方が気になるな。

 今回の地球での往復はギャプランを使ったんだろ? どうだった? 赤ちゃんの負担になりそうか?」

 

産まれて間もない子ヤギを連れての移動だ。丁寧な移動をしなくてはならない。

兄さんが自分が連れて行っても良いと言ってくれたが、兄さんをアリヤと2人にはしたくない。

 

「問題なかったよ。今度の連休では、最初に皆とは別行動でお前の家に行く。案内を頼む」

 

「分かった。よろしく頼む」

 

さて、どんな所に案内されるやら。

あれから調べたが、アリヤの親(書類上ではそうらしいが)の勤める企業がある場所は、地上でも都心といって良い場所だった。

やはり、ニワトリなら兎も角、ヤギを、ましてヤクを育てる環境では無かった。

 

ん? 騒ぎながらヤギを触っていた後輩たちが、固まった表情で僕たちを見ている。

警戒を表に出さないようにしていたが、気付かれたのか?

 

「アリヤ、誰の子供か、勘違いされてる」

 

「ん?……おお!」

 

ティルの言葉に、アリヤが手を叩く。

 

「良かったなティコ。お前が生んだ子供は、この人と私で、ちゃんと故郷に連れて行くから安心しろ」

 

アリヤが笑いながらティコに話しかけると、ティコがメーと鳴き、後輩たちが一斉に溜息を吐く。

どうした? 何があった? ティル?

 

「大丈夫。解決したから気にしないで」

 

「そうか」

 

ティルが言うなら良いか。

さて、何時までもここで話していても仕方がない。

 

「ニカ」

 

ニカを呼ぶと、紹介される流れと察してるのか、正面でなく隣に並んでくれる。

 

「この子がメールで伝えたニカだ。あとはオマケで付いてきたんだが、部屋を見せてやってくれ」

 

「分かった。女子は私に付いてきてくれ。男子はそこのチョンマゲのお兄さんに」

 

「ティルだよ」

 

お願いしますと行儀良く挨拶して、寮と言うか、どう見ても倉庫の中に入っていく。

僕が付いていかない理由は、ある意味、性格診断をティルとアリヤに任せるためだ。

最近の流れや、昨日からのニカへの対応を見ても、アーシアン蔑視者はいないと思うが、念には念を入れてだ。

強引に矯正するのも無理だし、その場合は推薦を取り消して入学させない。

こちとら権力者だ。ジェターク社からの推薦をするかしないかを決める圧力くらいかけられる。僕の圧力を跳ね除けるには、余程父さんが強くプッシュするくらいしかない。

 

親が文句を言うだろうが、生憎とそんな爆弾を抱えては、グラスレーと渡り合えない。

あそこは、口には出していないが、全員がシャディクの出自に気付いている。それでアレだ。今回のランブルリングの内容で判断できるが、寮長を含めて完全にシャディクの下でまとまっている。

名実ともに政権交代をしたジェタークと違い、名は3年や寮長を立てつつ、実はシャディクがトップだ。

 

カリスマ面で兄さんが劣るとは思わないが、そんな連中を相手に、地球での活動の足手まといがいれば話は別。

現在の兄さんの立ち位置は、瞬く間にシャディクへと移るだろう。

そうならないためにも、僕たちが見ていない所での反応が気になる。

まあ、ティルとアリヤの報告は後のお楽しみにして、取り敢えず、見学の間は暇だし、マルタンと話すか。

 

「しかし、来年の入学者の情報がないと、計画が組めないんじゃないか?」

 

ジェタークみたいに大所帯だとまだ良いが、小規模な寮だと学科に偏りがあると計画が立てられない。

後見をしている企業だって、個人が学園で何を学びましたとかの報告書の提出は当然で、チームで行ったことも重要になる。というか、企業にとっては優秀な個人より、チームで何かを成し遂げられる人物の方が使いやすい。

 

「いや、情報自体は入ってるんだ。願書とかもあるし」

 

「だったら……問題ないと思うが、どうした? その表情は?」

 

凄く困った顔をしてるぞ。

どうした? 今は暇だし、少しくらいだったら相談に乗るぞ。

 

「現時点での情報だと、来年の入学者は、メカニック科が2人。それだけなんだ」

 

「へ~……ん? 今の2年、来年の3年生にパイロット科はいた?」

 

「いない。もしかすると、来年はパイロット科なしになるかも」

 

マジか。それだと、活動に制限が出来るな。

ジェターク寮(うち)だと、決闘も多いし、その際のセッティングを報告するだけでも十分な実績になる。

おまけに、地球での活動の軽量セッティングだって好評だ。まあ、この軽量セッティングは今年までの地球寮の十八番で、パイロット科の寮長を中心とした活動は、父さんを筆頭にジェターク社でも評判が良く、今年の卒業生は「いらないならジェターク社(我々)がもらう」と公言しているため、卒業後は安泰の立場になっている。

まあ、推薦した企業も、普通に優秀な上に、ジェタークとグラスレーにコネを持っているとなれば、いらないとは言わんわな。

 

「ま、まだ、諦める時期じゃないさ」

 

「そ、そうだね。希望を持つよ」

 

スマン。実は来ないんだ。チュチュ先輩は僕たちの2つ下で、水星女が来るまでパイロット科はチュチュ先輩だけだったからね。

他のメンバーは憶えていないが、シャディク達にボコられるだけの役割だったはず。

い、いや、僕の存在がニカの境遇を変えたように、地球寮に新メンバーが増えるかもしれない。

そんな現実逃避をしていると、ぞろぞろと見学を終えた後輩たちが戻ってくる。

 

「ダメそうな奴はいなかったみたいだな」

 

「ノリノリだったね」

 

暗い顔をしてる者がいないし、大丈夫そうだなとは思ったが、そう言われて安堵する。

 

「ラウダ先輩。ここ良い」

 

ニカが嬉しそうに寄ってくる。

ちなみに、ウマ娘の教育の成果か、昨日までは呼び捨てだったのが、今朝からは先輩を付けるようになった。

急に礼儀とか厳しくないかとも思ったが、先輩呼びは憧れの学校生活らしさがあるらしく、気に入っているので問題ない。

だが、別の問題として、ウマ娘に教育されるって立場が逆だと突っ込みたい。新しいトレーナーとしての自覚が足りないと言わざるを得ない現状だ。

 

「気に入ったか?」

 

「うん。少し小奇麗すぎるけど」

 

「「「「え?」」」」

 

ニカの発言に、後輩たちがドン引きする。

まあ、ここを小奇麗とか言ったらなぁ。なお、爆弾を落とすだけ落としたニカは、女子チームの元に戻りティコで遊んでいる。

 

「え? 地球だと、もっと汚れてるんスか?」

 

「いや、多分、ニカの基準は難民キャンプだろうからね。

 僕たちが地球で活動する組み立て式の簡易住居は、新しいし清掃も簡単だし、ここより奇麗だよ」

 

「ビックリした。ここなら楽しそうと思ったから」

 

「ニカって凄い所で生活してたんだな」

 

「支援なしの難民だったらしいからね。ちなみに、ジェターク社が手を付けた難民施設は、ここより良いくらいだよ。家族で住める団地みたいで」

 

いつの間にか男子勢はティルに懐いてた。

生活の知恵関係を教わったらしい。

まあね。カミルたちも現地では世話になってるし、一足先に聞いておくのも良いだろう。

親元から離れて暮らす学生が知りたい知識が地球寮には多い。

 

「それに、就職したら、ジェターク社の地球の支社の住居は個室になるし」

 

「ああ、ニカがラウダ先輩と添い寝したっていう?」

 

余計なことは言わないように。ティル、不審人物を見る目は止めて。

 

「冗談。話は聞いてるから」

 

「あまり良い冗談ではない。

 僕は良いが、嫁入り前の娘に広まって良い噂ではない」

 

「ホント、ラウダって時々、お父さんになるよね」

 

だから、中身は違うんだって。

 

「でも、ニカの境遇を考えれば、ラウダのものって噂は悪いだけでもないよ。

 見た感じだと隙が多いし、絡んでくるバカが出てくる可能性は高い」

 

「ああ、言い忘れてたが、アイツの後見人は父さんだ。

 ジェターク寮内でもトップクラスの権力者になる」

 

後輩たちがウンウンと頷いてる。

それが、どれだけヤバいか十分に理解しているようだ。

 

「残念だけど、いくらジェターク社とCEOのバックアップがあっても、ここは学園で、大人の力を忘れる考えなしが出てくる環境だよ。

 だから、遠い大人の背景より、近くの学生の腕力がものを言う方が多い」

 

まあ、確かに高校生が悪さをする際に、相手の親や将来の進路を考えているかといえばNOだな。

これくらいで大人は出てこないと、少しやらかして、その少しが段々と大きくなる。

 

「その点、ラウダの個人的なお気に入りだったら、怖くて手を出せない。

 純粋に怖さで言えば、ラウダはグエル以上だからね」

 

「待て、流石にそれは無いだろ」

 

「サビーナとエナオに何したか忘れた?

 それなのに、傍から見ればエナオはラウダを慕っているように見えるからね。

 ラウダに逆らったら、心まで屈服させ支配するって怯えてる人は多いよ」

 

「冤罪だ。僕は決して……」

 

「外から見た話だから。話は戻るけど、ニカが地球寮を気に入って寝泊まりするのは問題ないけど、ラウダが目をかけていると、周りに分かりやすい態度で接した方が良い。

 下手したら、ジェターク寮に居辛くて追い出されたと誤解されかねない境遇だからね。まあ、無理には言わないけど」

 

「いや、忠告には感謝するよ。確かに、追い出されたと勘違いされたら、バカがちょっかいかけそうだ。

 出来れば、お前らも誤解されないようフォローを頼む」

 

僕は学園を離れることも多いから、ニカに別行動が増えても、壁を作らないよう、後輩たちにも頼んでおこう。

試してみたが、今年の新入生は性格的が良さそうだ。

ホント、こんな子たちが、アス高に染まると、何で変になるんだろう?

 

 

 

 

 

 

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