ラウダの野望   作:山ウニ

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誤字報告感謝します。


水田は恩恵が大きい

 

さあ、次の長期休暇の準備だ。

学園での授業より、長期休暇のイベントの方が、学生生活のメインになっている気がしないでもないが、例によって全員で地球へ行くことになっている。

ちなみに目的地は日本だ。少しばかり感慨深い気分になる。

 

しかも、今回はグラスレーが主催というか、旅費の面倒を見てくれることになった。

事前の準備を何もせずに、お客さん気分を満喫しても良かったが、この手のイベントを主催したことがないシャディクでは、単なる旅行レベルになりそうだったので、思わず口を出した結果、例によって計画書の作成を手伝いというか、事実上、僕がやることになった。次は自分でやれるよう教えるつもりだったが、シャディクは忙しく時間が取れない。

 

確かに、シャディクの立場は兄さんと一緒で、学園から出て人と会うことが多く、計画書作りなんぞに時間を取らせるわけにもいかない。

そこで、エナオを隣に座らせて、図書館で一緒にというより、鍛えながら作成していたんだが……

この前、ティルに言われたので、少し周囲を注視してみると、うん。周囲の目が何て言うかね。恐れ(僕に)と憐み(エナオに)が注がれていることに気付いたよ。

 

「気にならないか?」

 

「平気。それに、ニカへの対応も、ティルの助言は正しいと思う。ニカは学園での青春に憧れはあるけど、恋愛は含まれていない。勉強がメインだからラウダが虫よけになってくれるなら、その方が良い」

 

「だが、出会いとか逃すことにならないか?」

 

こいつ等が、好きな人が出来たから、虫よけ止めてと、お役御免になるのは良い。

だが、相手から好意を向けられて初めて意識する場合だってあるし、その機会が得られる邪魔にはならないのだろうか?

 

「……大丈夫。他の人と恋愛する気はないから平気」

 

何か思いつめたように言うが、コイツも僕と一緒で、恋愛は絶対しない勢? 

僕のような理由は無いと思うが、まあ、僕だって理由を聞かれたくないし、踏み込むのは止めておくか。

 

「わかった。詮索はしないが、何か問題があったら言ってくれ」

 

何か、安堵したような、がっかりしてるような、疲れた表情になっているがどうした?

いや、詮索しないと言ったばかりだ。気にしないようにしよう。

それより、仕事を進めるぞ。

 

「サリウス代表は、僕たちの父さんと違って、利益を出さなくても資金は出してくれそうだが、それでもメリットを提示しないと周囲が納得しないだろう」

 

ええでええで、みんなと遊んできなさい。とか言ってくれそう、でもないか?

とにかく、このイベントでは技能実習は最低ラインで、やるからには将来の展望のようなものを提示するべきだ。

本当なら、もっと早くに準備をしておくべきだったが、グラスレー社の底力を試させてもらおう。まあ、無理なら次回に回せば良い。

 

「難民だけが恩恵を受けるのはダメで、その地域に前からいた人も、グラスレーも利益を得る必要がある。

 そこで、目的は水の確保。あそこの難民キャンプは、水が不足している。現状で動いているダムの修復を手伝うのと並行して水田を作る」

 

そう言って、使われていない水田の跡を地図に表示し、作業する範囲を示す。

難民キャンプがある周辺だけではなく、広範囲にわたって水田を復活させる計画だ。

 

「広すぎない? 多く米を作っても商売にならないって言ってなかった?」

 

「米を作るのが目的ではない。水田は地下水を得るためだ。

 成果が出るまで多少の時間はかかるが、ダムの修復だけで当面の水源は確保できる。

 だけど、十分な地下水が確保できれば、農作業による食料の自給率を上げられるだけでなく、工場の設置を進めやすい。特に電子部品には浄化設備を通すにしても、元から奇麗な水の方が望ましいからな」

 

「ろ過装置の負荷だよね?」

 

「そうだ。それによって、難民と元からいた人へ職を回せる。

 だが、それだけではグラスレーの利益が少ない。実際に赤字になるだろう。だからこそ、例の奴、ジュネーズの実働データを取る必要がある」

 

Ⅴタイプは却下され、ジュネーズという名が与えられた小型モビルクラフトの実験がメインになる。

この辺りはシャディクと話していたが、どのようなテスト名目にするか、納得させる必要がある。

 

「ひとつは連続稼働による耐久性を試したい。幸いメカニック科まで操縦できる人間は多いからな。

 交代シフトを組んで、メンテ込みで24時間動かし続ける」

 

メンテナンスは、軽いものだけにして、壊れるまで回し続けたい。

 

「コアユニットは大丈夫だろうが、トップとボトムは途中で壊れるだろう。その場合に、何処に負荷がかかっているかを調べることが出来る。

 それに、雨が降っても作業を行う。この国は雨が多いから…」

 

「待って」

 

「どうした?」

 

「この国って、雨が多いの?」

 

「ああ、降るな。後半は豪雨の可能性もある」

 

時期的には、5月の後半から6月の頭だ。下手すれば梅雨入りで豪雨の可能性だってある。

 

「それなのに、何で水不足に?」

 

いや、そのためのダムと水田なんだが、雨への反応が気になった。

嫌がっているという感じではないが……ん?

周りに聞かれたくない話なので、耳元に口を寄せて質問する。

 

「お前、出身地は?」

 

こいつもアーシアンの孤児だったわけだが、ヨガのポーズを好む割に東洋系ではない。

 

「北欧」

 

同じように、耳元で返答する。

なるほど、納得だ。難民とか言うと、つい暑い地域を思い浮かべるが、欧州でも北欧の方はイギリスを除けば決して、裕福でも無ければ、宇宙開発に熱心だったわけでもないからな。

おまけに、北欧の多くが分不相応な福祉に力を入れすぎれた反動で経済が崩壊している。スペーシアンになった者は少ないだろう。

 

「こっちじゃなく、この辺?」

 

世界地図のスカンジナビア半島、その左側でなく右側を指すと頷かれた。

まあ、こっち側は降らないよな。おまけに温暖期による降雪の低下は、雪解け水の低下を招く。難民だったころは飲み水にも苦労しただろう。日本の1日2リットルなんて贅沢だと思っているかもしれない。

だが、日本の問題と共に、雨が降る基本的な条件を教えておくか。

 

「雨雲は風が運ぶわけだが、風と言うより、空気の流れだな。

 基本的に空気は温かい方に流れる。そして、地面に比べて、水、この場合は海になるが、温もり難く冷え難い。それと、雲は水蒸気が集まったものだが、高度は低いものだと千メートルもないくらいだ。つまり、それくらい高い山には多くが遮られる。そして、日本と言う地域は、山脈が海から突き出ているような地形で、海に近い場所は平地だけど、中央は山になっている。ここまでは良い?」

 

「うん」

 

「その結果、冬に向かうと、海より地面の方が先に冷える。そうなると、広い大地から広い海へと空気が動く。日本だと北から冷たい風が吹く。

 更に冷えた雲は高度が低いので、この国の中心にある山地で滞留して、日本海側では雪が降りやすい。

 逆に、冬から春になると、暖かくなるんだが、地面の方が先に温もり、海上から湿った空気が北へと向かう。

 こいつが途中で冷えて、そのまま雨雲となり降り注ぐ事もあれば、同じく山地で滞留してから雨になることもある」

 

日本の雨と雪は、広大な太平洋とユーラシア大陸間の空気の流れが起こす現象だ。

現在の地球が温暖期で雪が減ろうと、海と陸の温度差は絶対に現れる。雨が降らない理由はない。

 

「こっちも同じだな」

 

そう言って、スカンジナビア半島を指さす。ノルウェーとスウェーデンは、地図上だと不自然に見える細長い国境分けだが、国境線はスカンジナビア山脈になる。そして、大西洋側のノルウェーは降水量が多いのに対し、スウェーデンは非常に少ない。

 

「本当に水が無かった。水は大切」

 

過去を思い出しているのか、水が足りなくて、おそらく雨を望んでいたのだろう。

だが、雨が降れば良いというものでもない。更に、日本には寒くて乾燥している北欧には無い問題だってある。

 

「とにかく、大量に雨が降っても水が不足する原因だが、狭くて山地が多いため、そのままだと直ぐに川から海へと還る。

 それを少しでも留めようと、夏場にプールなんかに貯めていると、湿度と温度が高い影響で、寄生虫や細菌といった病原菌が発生してしまう」

 

ため池はあった方が良いし、作る予定だが、あくまで水田に流すためのもので、飲料にはするべきではない。

 

「だからこそ、浄水機能を持ったダムの修復をすると共に、天然のろ過機能を持った水田を広げる。

 前回、行った後に、地質の調査を依頼して、それを元に復帰させる水田を選択した。その結果、こんな感じに」

 

先程、広すぎるといった開発地域を再び表示する。

 

「多くが埋もれて分からなくなっているが、水田がある以上は、必ず水路がある。

 小さいのは人の膝くらいの深さで幅も両足をそろえて入れるのが精々の大きさ。

 大きいのになると支流と変わらないサイズになる。これを掘り起こすと同時に、水門を作り直して水田に流れる水の量を調整する」

 

手探りで水路を探し当て、見つけたら一気に掘り起こす。

既存のMSや重機では不可能な、繊細さとパワーの両立。それがジュネーズには可能だ。

おまけに、MSの重量では踏み固めてしまうだけでなく、地下水が無くなって空洞になっているため、地盤の崩落の危険もあるが、それも気にせずに済む。

 

「この広大な範囲を一気に終わらせる事が出来るとは思っていない。おまけに、この地域が終わって上手くいくなら他でもやるかもしれない。

 だから、使い潰すつもりで作業する。潰れやすい箇所の洗い出しは最低条件で、途中からは、どうメンテすれば壊れにくくなるのか、それを洗い出す。

 目標はメンテナンスのマニュアル作成と、壊れやすい部品のリスト作成。それがあれば、グラスレーが引き継いで、部品を消耗品として登録し、定期的に交換することで、残りの作業は効率的に行える」

 

その方向性を提示した計画書を作成し、シャディクからサリウスに提出させればOKだ。

 

「それと、これは、今回の計画書とは別の話になるが、シャディクがこの地を中心に据えると希望しているなら、トップとボトムの試作機を作る方向を勧める。人口で見ても量産工場より、多様な地形を生かした試作機のテストと作成が向いているからな。

 こっちの方は生活圏もあるし、先に工場を作って、元からいた住民を味方につける手もありだ」

 

難民がいる近畿ではなく、普通に人がいる関西の方を指す。

地下水の確保が出来れば、日本は電子部品の生産工場にして、トップとボトムは現在、ジェタークが手を付けている地域、これからグラスレーが手を出す地域で製造工場を作るといい。

そうしてくれると、こちらも助かる。

 

「今日は遅いし、計画書の本作成は明日にしよう。何か疑問は?」

 

「水田を作ると蚊が発生するって聞いた。多いと問題だと思う」

 

「ワクチンは摂取するし、今後に向けて、防虫対策をしている企業に拡大を依頼する。すでに地球の企業でジェタークが取引しているところが何件かあるからな。工場を拡大させれば、地域も潤う。

 そこで、作った器具は当面は配るし、購買能力があるなら安く販売する。これも経済の循環だ。

 それと、蚊の存在は悪いことではない。幼虫は水を奇麗にしてくれる生物だ。蚊が全滅すれば地球上の水が汚れ切って人類も絶滅すると言われている」

 

「分かった。それと前に言っていた水産の方は?」

 

「延期。人がいない。ナジと袂を分かつ奴が出てくると思ってたんだがな……」

 

ナジが民間軍事会社を作っても、スペーシアンの下部組織あつかいして拒否する奴が出てくると予想してたんだが、その話をした時の、憔悴したシャディクへの同情心があったようで、拒否する奴が出てこなかった。

まあ、一応は朗報だ。ナジの会社が大きくなるのもそうだが、シャディクの末っ子気質の人たらし能力が確認されたと言える。もし、シャディクが難しい案件の交渉に行く際には、訓練でボロボロにしてから向かわせよう。

 

「少し残念。お魚に興味あった」

 

「僕もだよ」

 

タコが喰いたい。

 

「まあ、無理なものは無理だ。来年以降に期待しよう。

 それで、改めて聞くが、計画書の作成も、図書館(ここ)でやって良いのか?」

 

「うん。お願い」

 

人目が気になるなら、僕の部屋へ案内しようと思ったが、大丈夫らしい。

まあ、僕を虫よけに使う気なのかもしれないし、それなら敢えて人目に付いた方が良いだろう。

 

「分かった。明日もここで合流しよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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