ラウダの野望   作:山ウニ

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他人のことは良くわかるものさ

 

「それで、生産は間に合うのか?」

 

「ああ、今回の休みで、テストに使う前提で生産を進めていたからね。そこも含めてラウダはグラスレーの力を確認したいんじゃないかな? かなり使い潰す気らしいけど、むしろ歓迎さ」

 

エナオがラウダの指導の下に作成した計画書を、シャディクと一緒に確認していた。

サビーナ自身としては、利益を求める考えには反発したいが、結果として上手くいきそうだとは認めざるをえない。

おまけにラウダには、その潔癖さは、極左に走りがちな金持ちの道楽ボランティア家と変わらないと嘲笑されたこともあり、出来るだけ客観視しようと努力もしていた。

その上で、今回の計画書にはケチの付けようがない。進展を感じにくいが、だからと言って、素早く進める方法もなければ、これに代わる代案も無い。

 

「悔しいが、この案で良いだろう」

 

「そうだね。でも、各自の報告書の提出に関しては、基本的なフォーマットが欲しいかな。

 ジェタークと違って報告書の提出には慣れていないんだ。自由意見の枠は大きく取るとして、作業に疲れた状態でも最低限の情報は取りたいからね」

 

最終的な報告書だけでなく、今回は作業後に必ず報告書を提出することになっている。だがグラスレーの寮生は伝えたいことを伝えきれない危険をシャディクは指摘した。

ジェタークでは、報告書のフォーマットを作成するのも各自で行う。

相手に伝えやすいフォーマットを作るのも能力の一環だと考えているし、そのための勉強会もしているようだ。

その辺りでもグラスレーは劣っていると認めざるを得ない。

 

しかし、シャディクはそれを卑下することなく、疲労した状態で作成したものより、最低限知りたいことを選択式にして明確にすることで、これらの作業の目的を意識させる方向で考えているようだ。

それに、基礎能力が高いグラスレー寮生は良いとして、今後のアーシアンが働く事も考えると、少しはハードルを下げたものを望んでいるらしい。

 

「それにしても、エナオは機嫌が良さそうだったね」

 

「趣味が悪い」

 

これを渡してきた時のエナオを思い出す。本人は隠しているつもりだし、関係の深い自分たち以外は気付かないだろうが、エナオはラウダと会った後は機嫌が良い。

先日のランブルリングの後で、ニカの件を切り出す役目は、本来はエナオの役目だったのに、ラウダの誤解を招く発言に動揺して、切り出せなかったばかりか、おそらくレネにまで気付かれただろう。

あれで、本人は隠し通せているつもりのようだ。

 

「サビーナは、まだラウダが嫌いかい?」

 

「これが相性という奴かな? 頭では認めても感情が否定したがる」

 

ラウダには、恩があると思っているし、感謝もしている。

だが、好きか嫌いかで言えば、嫌いだと断言する。

 

「どんなところが嫌いなんだ?」

 

「ハッキリ言って気持ちが悪い」

 

そう。あれは狂犬や狂人に見える珍獣だ。良くて怪物。

 

「酷いな。じゃあ、エナオを応援できない?」

 

「いや、エナオがラウダに惹かれるのは分かる。

 ラウダが言うには、恵まれた罪悪感に苛まれるのは、私のようなクソ真面目ほど酷いらしいからな。思い返せば、最もシャディクを追いつめていたのは私で、エナオは破滅に向かっている私たちを放っておけなかったのだろう。

 その意味では私もラウダに感謝しているし、お前には悪かったと思っている」

 

「そんな事はないさ。あれは俺が考えてやろうとしたことだ。他の誰でもなくね。

 仮に言葉だけだったり、力づくで強引に止めようとすれば、普通に反発していたさ。

 ただ、俺の相手はグエルだった。奴の存在が俺を狂わせた。こうなりたいと思ってしまった。

 ああ、そう考えれば、エナオにとってのラウダは、俺にとってのグエルなんだな」

 

「……それ、他の奴の前では言わないことだ。同性には引かれて、異性は黄色い声を上げるのが出てくる」

 

「ゴメン。だよな。自分で言って引く。一応、言っておくが、グエルに向ける感情は…」

 

「分かっている。とにかく、エナオは私たちに同調しながらも、一歩引いた目で見ていた気がする。

 怖かっただろうな。実際に覚悟は出来ていると言いつつ破滅に向かっていたのだ。

 それを止めてくれた。特にラウダは、その後もエナオを導き続けている」

 

惹かれるのも無理はないだろう。

周囲に噂されても、最初は困惑気味だったが、今は喜んでいる節がある。

 

「だが、応援するもしないも、無理だろう」

 

「何故?」

 

「出自が違いすぎる。私たちはアーシアンの孤児だ。それに比べて相手はジェタークの御曹司だぞ」

 

「あれ? ひょっとして、サビーナはグエルが……ごめん。睨むな」

 

「何故、そうなる?」

 

「だって、私たちはって……」

 

「グエルのことはラウダと違って、素直に尊敬できるし、好きか嫌いかで言えば好きだ。

 だが、断じて、そのような、感情では、ない」

 

何だか腹立たしかったので、睨みつけながら、丁寧に言って聞かせる。

それに、出自に関しては、自分とエナオの2人では無く、シャディクを含めた3人のことだ。

それを切り出そうとしたところで、シャディクが話を続ける。

 

「う~ん、出自に関しては、問題ないと思うけどな。

 ジェタークの現状から考えても、ヴィム代表からすれば、婚姻による強化を望んでいないだろうし、むしろデメリットの方が大きい気がする。

 そんなことより、一番避けたいのはジェーターク内部での派閥争いだからね」

 

「ヴィム・ジェタークが、そんな人間か?」

 

「意外と話せる人だよ。それにさ、ラウダがエナオを好きになって結婚すると宣言したら、ヴィム代表でも止められないって。

 グエルなら止められるだろうけど、グエルは止めるどころか応援するだろうし、そうなると益々ヴィム代表では手が付けられない。多分、それくらいヴィム代表も気付いてるさ」

 

シャディクはヴィムと時々会っているようだが、その度に評価が上昇しているようだ。

何でも、現在進行形で成長していると、サリウスも評価している。

 

「だが、出自が関係ないとすれば、逆に厄介なライバルが増えるな」

 

「あっちはどうなんだ? 付き合いがないのもあるけど、ラウダをどう思っているのか、エナオ以上に分かりにくい。

 今度、彼女の実家にラウダが行くって噂になってたけど、実態はヤギの搬送だし」

 

「さあな。少なくとも、彼女がグエルに近づこうとするのを強引に止めるのを何人もが見ているらしい」

 

「それって、単に番犬してるだけじゃ? 僕の兄さんに近づくなってやつ」

 

「だが、あのラウダが、ヤギの搬送を進んでやると思うか? その予定自体はグエルがいないところで決まった事で間違いがない」

 

「そうなのか? 俺はてっきりグエルが親切から運ぶと言い出して、ラウダが出しゃばったと思ってたが」

 

「いや、本人から、ラウダが言ってくれたと。私もグエルのお節介が起点と思って確認したからな。

 ヤギの預かり先の業者のことを説明する際で、グエルはいなかったそうだ。一緒にいたエナオが周りに気付かれないようにへこんでいたから、はっきりと憶えている」

 

「それだと……エナオには厳しいか。ラウダの奴、絶対にエナオの気持ちには気付いていないしな」

 

「同性から見ても、アリヤは素敵な女性だ。男だってそうだろ?」

 

「まあね。料理上手で家庭的な雰囲気で……厳しいね。

 でも、結婚だけが男女の関係じゃないさ。それに彼女だって出自を気にするかもしれないし、そもそも、ラウダの事をどう思っているかも分からないんだろ? そうなればエナオだってチャンスが」

 

「そうだな。それにしても随分と慧眼じゃないか」

 

「え? なに? サビーナの目が怖いんだけど、俺が他人の恋愛の興味を持つことが、そんなにおかしい?」

 

「いや別に。ただ、先ほどの話を蒸し返すようで悪いが、私たちと言った出自を気にするのは私自身では無く、もう1人いてな。

 そいつも自分の出自を理由に、自分は彼女に相応しくないと言い出す、今の状況から見ると実に滑稽で愚かな発言をしてたわけだが、そこのところはどうなんだ? シャディク・ゼネリ」

 

今の立場をハッキリと分かる呼び名をした。

愚かな激情に突き動かされていたころとは違う。養子ではあるが、グラスレーの後継者として、誰もが認める立場になりつつある。

 

「い、いや、まだ早いかなって。ホラ、路線を変更したばかりだし」

 

「ほう、分かりやすく反応したな。前までは、今のエナオみたいに取り繕った表情で話していたのに」

 

「それは……まあ」

 

「なるほどな」

 

思わず呟いてしまったが、以前のシャディクと今のエナオに共通するのは諦観だろう。本当に好きだからこそ失うのが怖い。傷つくのが嫌で、自分は相応しくないと言って遠ざける。

ラウダがエナオを意識するなら良いが、そうでないなら、シャディクの予想を語って、出自は関係ないと言っても今までと変わらないだろう。

同時に、シャディク自身が、以前と異なる気持ちで、彼女を思っているのが分かった。

 

「あまりグズグズしていると、別の男を作りかねんぞ」

 

そう言うと、明らかに動揺しているのが見て取れた。

だが、ここで容赦をするつもりはない。

 

「何しろ、将来の夢は植生エンジニアだからな。進路もそちらを選ぶだろうし、そうなると高等部は別。

 確か、植生エンジニアは男性が多かったな。当然、進学先には男性も多いだろうし、気が合う相手も出てくるだろう」

 

「いや、進学先はどうなんだろう? もしかしたら、総裁の娘なんだし、アスティカシアに来ることだって…」

 

「その総裁を嫌っているだろうが。それに、メイジーから聞いたが、やはり植生関係を調べていたはずだ。彼女の頭脳なら、どこを選ぼうと落ちることはないだろうしな」

 

才色兼備の見本のような少女を思い浮かべながら、何処にでも行けると判断する。

目に見えて気落ちするシャディクを見て、これ以上は拙いと矛を収め、一応のフォローを試みる。

 

「だが、今のシャディクを見れば、彼女も悪くは思わないだろう。何しろ母親はアーシアンで、ジェタークの行動にも好意的な言葉を発していたそうだ。

 特にグエルの事は尊敬して……ん? 仮にこの学園に来ることにでもなれば、エナオにとってのアリヤ以上の強敵になるわけか」

 

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