ラウダの野望   作:山ウニ

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軌道エレベーターの位置が不明なので赤道の中から勝手に決めました。
公式とは異なるかもしれませんが、ご了承ください。



魔女の館?

 

拳銃ヨシ。

予備弾倉(マガジン)ヨシ。

ナイフに止血道具ヨシ。

 

長期休みが始まり、地上へと降り立ったが、僕は兄さん達とは別行動だ。

ギャプランを飛行形態に変形させて地上へ着陸させ、自衛用の装備品をチェックする。

確認を終え地上へと降りると、赤ちゃんヤギとの別れを惜しんでいる集団の中心にいるアリヤの元へと向かった。

 

「お待たせ」

 

「ラウダ。アリヤと赤ちゃんをよろしく」

 

「分かってる」

 

「遅くなりすぎるなよ」

 

「遅れたら、迎えをよろしく」

 

「そこまで野暮じゃないさ」

 

「無理せず、泊まってきなさい」

 

みんなで笑い出すが、笑えないからな。

僕が拘束されてたらどうするのさ? これから向かうのは、ある意味、魔女の館だよ。

鬼が出るか蛇が出るか。

 

「じゃあ、行ってくるよ。兄さん」

 

「ああ。でも無理はするな。本当に遅くなるなら泊めてもらえ」

 

兄さんまで何言ってんの? 危ないでしょうが! いや、兄さんは僕を信用しているんだな。訓練の成果を見て、これなら多少の危険でも安心だと確信してくれているんだ。

でも、兄さんはアリヤが魔女だと気付いていないからな……いや、僕も兄さんを信じよう。多少の危険は自力で突破して見せる。

そんな事を考えてると、兄さんは困った表情で呟く。

 

「時差の事を忘れるなよ。それに高速飛行の許可も取っていない」

 

高速飛行は、いわゆる超音速のミサイルなどの飛翔体と間違えられる速度だ。通常飛行に比べると燃費も悪いし、何よりも、そんな速度で飛んでいたら、目視した途端に衝突なんてこともあるので、戦闘空域以外での使用は原則禁止されている。

昔、コンコルドがパリとニューヨーク間を飛んでいたが、それは飛行空域の治安が良かったからという前提がある。

身も蓋もない言い方をすれば、そんな速度で飛行していたら、良くてコイツやる気だなと思われ、基本は普通に迎撃ミサイルが飛んでくるので、自重しろという訳だ。

 

「忘れてないよ。ギリギリだけど大丈夫」

 

軌道エレベーターがあるボルネオ島から、今回の目的地である日本にはグラスレーの輸送機で約5時間のフライト、日本時間で17:00に到着予定だ。高速飛行でなくても、前世に比べると格段に速い。

そこから、各種施設の見学を行い、夕食に歓談を含めた明日からのミーティングを行うのが今日の予定になる。

 

一方アリヤの実家があるインド東部にはギャプランで3時間弱のフライトで正午くらいになる。スタート時間と変わらない。

ボルネオからだと日本もインドも距離的には大きく変わらないが、3時間の時差があるので、到着時間が大きく変わってしまう。

更に、インド東部から日本まで直行すると3時間かかる。

そして、日本のグラスレー支社だが、人員が十分ではないため、飛行場は深夜帯は基本は閉鎖するので、0:00までに到着しなくてはならない。

 

つまり、日本時間で21:00、アリヤの実家を18:00前に出発する必要がある。

でも、6時間もあれば、魔女の尻尾をつかむことは出来るだろう。

アリヤを推薦した会社、両親、そして実家がある場所。ヒントはいくらでもあるはず。

まあ、完全に魔女の勢力とやり合うことにでもなれば、それは緊急事態だ。高速飛行だろうが、深夜の緊急着陸だろうがやりたい放題やれば良い。

 

「じゃあ、乗って」

 

「分かった」

 

アリヤは、ヤギを入れたゲージというか、バッグを抱えてギャプランの前方シートに座ると、僕も後方シートに座って、シート部を上昇させる。

 

「この仕組みは楽で良いな」

 

コクピットのシートに着座するには、コンソールの類を踏まないように気を付けながら座るが、このシステムだと変に手足を伸ばさなければ、正しい位置に着座できる。

まあ、欠点としてどんなベテランの緊急の発進でさえ、ゆっくりとシートが登るのを待つしかないのだが。

そして、管制の指示にしたがい、飛行形態のまま速度を上げ、上空へと飛翔する。子ヤギが怯えているが、アリヤが上手く落ち着かせてくれた。

さて、そろそろ良いか。

 

「アリヤ、突然だが、昼食にお前を後見している企業の人と会食することになったから」

 

「え? な、なんで?」

 

動揺しているな。だが、理由を言えば、納得するしかあるまい。

ジェタークの威光を背負った僕たちは、入国の手続きで、政府から面会を求める声は必ずある。

現在のジェタークの行動を見れば、自国に工場の誘致などを勧めるのは、政治家としては当然だ。

だが、これは、大抵は断れる。こちらは一企業だ。取引先にお邪魔するだけだと言えば良い。

 

しかし、その取引先と会いたいと言われれば断る理由がない。

入国の理由に、ギャプランの飛行テストと、ついでに取引先の企業の娘を送るためだと伝えなければ、彼女の家に行く理由がなくなるからだ。そうなるとスパイ活動や、最悪テロ活動だと判断され、入国の許可が下りない。

ちなみに、アリヤを後見している企業とは直接の取引はない。あくまでベネリットグループ繋がりだけで、先方だって、アリヤと親しいのだろうと予想はしているだろうが、これを機に繋がりを強めたいと考えたのだろう。

 

そして、僕はその思惑に敢えて乗った。しかも、事前に裏工作が出来ないように出発まで伏せていた。

調べた限りでは、制御系やセンサーなどの前の世界でのITの発展形を強みにした会社で、GUND技術とは無関係だし規模も小さい。

魔女を支援しているというより、隠れ蓑に利用されていると見た方が正しいだろう。

その相手と会談し、アリヤの様子を見る。

 

「その、やはり会わなければならないのだろうか?」

 

「入国の許可を貰う際に、どうしてもと言われてな。何か不都合があるのか?」

 

「そういう訳ではないが、恥ずかしいというか……」

 

ほう、随分と簡単に馬脚を現しそうだな。

後見の企業とは、会食を行う予定だが、会って早々、「我々が推薦した娘ではない」とか言ってくれないかと期待してしまう。

そうなれば、楽に魔女を拘束して、尋問コースに突入できるので安全だ。

 

 

 

 

 

 

 

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「お会いできて光栄です」

 

……そうして、予定通りにアリヤを後見する会社に挨拶をし、会食の場であるホテルへ移動。

会食する相手である会社の役員が大勢いる。それも事前の情報通りの顔触れだったが、アリヤを見て驚く様子は無し。

この人数だし、偽物ってことは無いだろう。何より、お爺ちゃんばかりの役員で、事前に集めた情報と一致する顔触れとは異なる、恐縮した風な場違い間のある中年の夫婦もいる。

紹介によるとアリヤの両親で、顔だちも似ている。どう見ても役員の集まりに無理やり出席させられ困惑している様子だ。

アリヤに対して、何したコイツ的な視線を送っている。

 

「ジェターク寮生は、全員が彼女の料理の虜です。普段の会話や今回の別行動でも、彼女を丁寧にエスコートしろと厳命されましたよ。おまけに、最近はグラスレーも篭絡され始めました。宇宙に帰る頃には完全に堕ちているでしょうね」

 

親しくなった経緯を聞かれたので、ジェタークの目的であった地球寮との交友の始まりや、アリヤのアス高での様子などを適当に答えつつ、予想と異なる展開に困惑する。

アリヤの占いの話を言った際にも、役員連中は、そんな趣味があったん? てな反応だったが、両親は困った娘だというリアクションで、変な趣味を知られた親の反応でしかない。

 

「これが、ジェターク(我が社)とグラスレーで共同開発したジュネーズになります。

トップとボトムは地上での生産を前提に考えていて、御社の制御系や各種センサーなど、必要になることも出るでしょう。グラスレーが前面に出ることになるでしょうが、その時は御協力のほどを」

 

やはりここは、共通している知識として、技術的な話題を中心にして、営業トークをしながら、怪しい反応をする奴がいないか調べて行こう。

それはそれとして、事前に調べて分かったことだが、持っている技術は悪くない。

ここは一つ本気で営業もしておく。

 

 

 

 

 

 

 

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そして、怪しい動きも見られないまま会食を終え、アリヤの家に向かうことになったのだが……

 

「なんだ! なんなんだ? あの営業スマイルは!? 私の知っているラウダを何処にやった!?」

 

「営業スマイルくらい、するに決まっているだろうが。それとも何か? 普段の不遜な態度で接するとでも思ってたか?」

 

「不遜だと自覚があるなら直せ!

 う~、だから嫌だったんだ! それなのに、何を歯の浮くような世辞をつらつらと」

 

「世辞って、まさか、あの場で、『ジェターク寮生の奴ら、この女に餌付けされやがって、僕に対して今回に限らず普段から丁寧に扱えとか五月蠅くてしかたがない。でも、最近はグラスレーもだし、シャディクに飛び火することを期待している』とか、言う訳にもいかないだろ」

 

「あ、何時ものラウダだ。今まで何処に行ってた?」

 

「ずっと僕だ」

 

「いや、冷静に考えたら、杜撰な扱いで安堵するとか、やはり普段の扱いがだな」

 

「何だ? 先程までの営業スマイルに戻して欲しいのか?」

 

「嫌だ」

 

……凄いご機嫌斜めである。

なんだか、自らの秘密を暴かれるのを恐れる魔女では無く、ただ、両親や知人に親しい異性と一緒の所を見られた真面目なJKみたいだ。

 

いや、そんな事より、会食後にアリヤのナビで家に向かっているんだが、移動にギャプランを使っている。

両親は通勤にMSを使っているのだろうか?……そんなはずは無い。

 

「ところで、アリヤの家って随分と遠くないか?

 こんな遠くだと、通勤が大変だろ?」

 

素直に魔女の館に連れて行くとは言わないだろうが、さて、どんな返事をするかな?

 

「ラウダらしくない質問だな。ヤギはともかく、ヤクをあんな暑い所で飼育すると思うか?

 これから行くのは祖父の家だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

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涼しい。先ほどまでの暑さとは比べ物にならない。

 

「随分と派手な乗り物での帰還だな」

 

「凄いだろ。変形するMSだぞ」

 

笑って出迎えた祖父に、ドヤ顔で自慢するアリヤ。

目の前にはヒマラヤ山脈が間近に見える。というか、麓なので標高が高く、沿岸部にある会社と違い、かなり涼しい。

その、のどかな大地に大量のヒツジやウシが放牧されている。よく見ると中にはヤクとヤギも混じっているな。

……うん。つまり、ここがアリヤの実家で、両親は就職で沿岸部の都会に出ているようだ。

 

「ようこそ、何もない所だが、お茶を出すから中へ」

 

促されて家の方へ進むと、大きい犬が吠えてくる。これってシェパード?

 

「こら、そんなに吠えるな。すまないラウダ。この子は牧羊犬でな、知らない人には懐かない。

 家畜泥棒もいるからな」

 

「いや、良い犬だな。しっかりと仕事をしてる」

 

さ、触りたい。でも、噛まれそうだから自重しよう。

そんな犬が、アリヤには甘えた仕草を見せるのだから、まごうことなくアリヤを家族認識している。

 

「お客さんを迎えるなんて久しぶりでねぇ」

 

嬉しそうにお茶を出す祖母ちゃんまで出てきて、アリヤの学校での様子を聞かれるので、直訳では無く営業トークの方向で答えつつ、アリヤの子供の頃の話を聞かされる。

結論。魔女じゃねえよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、ついにラウダの野望が明らかに。
1年生編のラストになります。
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