1年生から2年生へと上がる長期休みは、新入生は入学していないのに、最上級生が卒業していること。補習がある者などがいるので、地球行はなしになった。むしろ、少しは里帰りでゆっくりして来いと伝えているので、アスティカシア学園は補習などを受ける生徒以外はごく少数しか残っていないようだ。
ちなみに、地球寮の生徒は誰も里帰りをしないらしい。軌道エレベーターの料金が高いからね。それより、ジェタークやグラスレーに付いて行けば、その軌道エレベーター代が節約できる。
人によっては
そのため、何人かは、この時期にバイトをする者もいる。アリヤも僕の紹介したところで、勉強を兼ねたバイトをやっている。
でも、本当に何もせずに、ゆっくりするのも良いだろう。地球寮生が学園で、ジェターク寮生は実家でと、それぞれゆっくりと過ごしているはずだ。
だが、忙しい者は忙しい。兄さんは父さんと一緒に、あるいは単独で地球の各地へ訪問を行っている。
これはシャディクも同様だろう。ニュースでは時々、兄さんと一緒に行動しているのが報道されている。
そして、僕も学生の長期休みとは縁の無い生活を送っている。
ディランザのパーツ構成による評価や、それを元にした新しいパーツの開発を行ったり、ギャプランの評価テストも僕の担当だった。
新型フレームにしたことで、構成パーツは少なくても十分なパワーとスピードが出せるようにはなったが、この際だから、ディランザと違いカスタマイズを売りにせず、一点物の完成品でコストを下げる方向で進んでいる。
まあ、ぶっちゃけると、普通のMSになるわけだから、十分なテストを行い、これで良いという性能に仕上げる必要があった。
目の前のスクリーンには、そのテストを行っているギャプランが機動テストを行っている。
ギャプランのカラーリングは、量産機はジェターク定番の濃紺か、地上の空での運用をメインに考えてのロービジのグレーで、試作機は兄さんの専用機となった試作1号機が赤なだけで、あとはジェターク定番の試作機カラーである水色だった。僕がよく使っているのもこれになる。
だが、今テストを行っているのは、特別感を出したくて、濃いグリーンと薄いグリーンで構成されたZに登場するカラーリングだ。やはり良いな。
「よし、今回のテスト項目はこれまで、戻ってくるように伝えてくれ」
オペレーターに指示を出すと、今回の動きをチェックする。
少し、腕部のパワーを上げすぎたか? 振り回されている気がする。
「どう思う? もう少し下げた方が良くないか?」
そのことを隣にいるニカに相談すると、少し渋い顔をした。
「どうかな? 確かに振り回されている感はあるけど、慣れれば行けるんじゃないかな?
ただ、連日のテストで疲労がたまっているみたい」
「そうなのか? 今朝も元気そうに見えたが」
「精神的には元気そのもの。テストパイロットが楽しくて仕方がないって感じだし、いくらでも無理をしそうな勢い。でも、家に帰ると凄く眠そうにしてる」
「それは、良くないな。無理をするような状況ではないからな」
そう話していると、戻って来たギャプランのコクピットから小柄なパイロットが出てくる。
「お疲れ、フェルシー」
そう言いながら、ニカが無重力空間を飛んでフェルシーを抱きとめると、栄養ドリンクのストローを口に差す。
なるほど、今のフェルシーが疲れているのが良く分かる。普通なら自分の腕で持とうとするが、それも面倒でニカのなすがままになっている。無意識に力をセーブしようとしている状態だ。
「今日はここまでにしよう。明日は休みだし、ゆっくりすると良い」
中等部のMSパイロットの適正テストで、良い得点をたたき出した結果、アス高のパイロット科に推薦されたが、実際にMSを動かすのは、ここ最近の事だ。考えてみれば、まだ15歳で身体は出来ていない。
ちなみに、適正テストはMSシミュレーターで行うし、練習を希望しても、基本的に実機が与えられることはない。ゲーム感覚のシミュレーターかモビルクラフトの操縦くらいだ。
以前、ウマ娘は身体が小さかったから耐Gが強いかもと想像していたが、ついでにと今年のパイロット科の新入生を全員で試してみたら、フェルシーは予想を上回る数値をたたき出した。全員が平均的な値なのに、彼女は兄さんを上回る耐G数値を見せ、全員を驚愕させる。
ニカを掘り出し物と言った父さんの気持ちが分かったよ。思わずガッツポーズをしてしまった。
そのまま、中等部を卒業して、アス高へ入学するまでの間は、テストパイロットとしてバイトをさせる運びとなったのだが……
「いえ、まだ大丈夫です」
口調が堅い。気合が入りすぎているな。
去年の入学の際には、兄さんと僕は専用のディランザを持ち込んだが、当然ながら特例中の特例だ。普通は会社が用意した寮にあるMSに乗る。
だが、彼女は、その特例中の特例に選ばれた。ギャプランのテストで優秀な成績を収め続けたので、このまま彼女に入学してもテストを続けてもらうよう、僕が手配し、父さんの承諾も得ている。
おまけに、試作機を専用機として特別な色にしたものだから、余計に気合も入るというものだ。
気持ちは分かるが、無茶はさせられない。
「すまないが、僕に都合があるんだ。明日の準備に必要なものを思い出してね」
疲れているだろうと指摘しても、今の状態では素直に頷いてくれないだろう。強引にテストを打ち切ることは出来るが、そうなると体力のない自分を責めて、帰ってから無茶なトレーニングをやりかねない。
ニカに目配せをしながら伝えると、ニカも分かっているとばかりに頷く。
ニカも半年の間に成長した。未だにニカ姉でなくニカ妹の状態だが、しっかりとウマ娘の面倒を見れるようになっている。トレーナーさんとしての自覚が出てきたようで何よりだ。
「ああ、学園で会議やるんすよね?」
どこかホッとしたような感じで答える。やはり疲れを気合で押し切っていたのだろう。
最初から明日は休みの予定だったから、今日1日は気合で乗り切ろうとしていたか。
「そうだ。その際に例の件を切り出すが、本当に良いのか?」
明日は地球寮に行って、相談を受けるという体だが、すでに内容は把握している。
つまり、来年は地球寮にパイロットがいないので、どうしようという話だ。
同じディランザを使用しているんだし、交代でパイロットを貸し出すというのが妥当だろうが、せっかくだからフェルシーとニカをセットで、ギャプランを渡してみようと考えてる。
正直、ギャプランは僕とニカ以外では、メカニック科の学生には手に余る代物だし、ニカを中心にしたチームを構成させる。
そうなると、ジェターク寮だろうと地球寮だろうと関係が無い。
ただ地球寮でやれば、地球でそこそこ名が知られているジェターク社の最新鋭MSに関わったことで、地球寮生は推薦した企業にも覚えが良いし、ニカは地球寮に泊まりやすいしで好都合だ。
フェルシーは地球寮に泊まっても良いが、パイロットは操縦を終えたら一足先に離脱できるので、ジェターク寮にも戻りやすい。
「もちろんす。ニカも良いよな?」
「うん。私もフェルシーが一緒だと嬉しいな」
「分かった。じゃあ、僕は準備があるから行かせてもらう。兄さんにはフェルシーの頑張りを伝えておくよ」
「あ、ありがとうございます!」
良い返事だ。兄さんを崇拝するという殊勝な心の持ち主だ。いずれは同志として迎え入れてもいいかもしれない。
さて、とは言ったものの、これから何をやるか。準備することなど何もないんだがな。
地球寮の件は、ギャプランの事を伝えて、おそらく直ぐには返事も出来ないだろうから、返答待ちになるだけだし、もう一つの件、集まる原因になった件は、全く気にする必要のない実に下らない話だからね。
兄さんも、明日に地球から直行だから、会うのは無理。カミルもいるし、先にアス高へ行って待ちたい気もするが、アリヤをバイト先へ迎えに行かなくてはならない。
彼女は共にグエル歴を祝った同志だからな。あまり無下には出来ない。
あの後、妙に落ち込んだり、不機嫌になっていたが、秘密の共有というプレッシャーがあったのだろう。
暇だし、ダリルバルデの設計を進める? いや、新型フレームを採用したディランザ以上のMSというコンセプトはあるものの、決定されている学習AIを使用したドローン兵器を組み込む以外は、まだ何も決まっていない。それでも十分にディランザ以上の性能にはなるんだろうが、それだけだと不満だ。
だって、兄さんは史上最大の英雄になるんだよ。つまり、過去の英雄を召喚するゲームにだって登場するんだ。
そこで、ライダーとしてMSを呼び出すにしても、相当のインパクトが必要になる。
やはり、考える時間が欲しいし、旧フレームとの比較データが取れるギャプランのテストを終えた後にしたいな。
だったら……あれ? 僕って何もせずにゆっくり出来ない人間になってる?
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「デリングが何を考えてるか、まだ続報はありませんか?」
最初に、父から話を聞いた時は、訳が分からないことを言い出すものだと、他人事のように感じた。
だが、他人事では無いことに気付き、困惑しながらも数日を過ごした。
ラウダとシャディクにメールで相談したが、ラウダの提案でアスティカシア学園に集まって相談しようという事になった。明日、その日がやってくる。少しでも情報を集めておこうと父に相談したが、反応は相変わらずのもの。
「ないな。発表の場には俺もいたし、同じく共にいたサリウスが意図を聞いたが、何とも奴らしい返答だよ」
「力が全て、強い者がベネリットグループの次期総裁に相応しい。よって、その時点のホルダーを、今度アスティカシア学園に入学する自分の娘の婚約者とし、彼女の17歳の誕生日の時点で正式な婚約者とする、ですよね。
改めて、正気かと疑いますよ。それで、父さんの考えは?」
「考えも何も、お前と一緒だよ。困惑しているだけだ。
お前が総裁になるメリットは感じられんが、かと言って他所にくれてやるのも気に食わん。そんなところだな。
まあ、俺ではなく、お前たちの世代の話だ。任せる」
「そんな……」
「情けない顔をするな。ラウダと相談するのだろ? 奴なら面白い意見を聞かせてくれると期待しろ」
「あいつに恋愛の件は無理です」
子供のころから、ラウダとはその手の話は避けていた気がする。互いの母の件があるので、切り出しにくいのだ。
それは今も変わらない。どんな事でも相談できる半身とも言える存在だが、異性関係の話だけは避けていた。
グエル自身が異性を意識しないようにしていたのもある。多分、どこかで心に傷を抱えているのだろう。
自分の感覚に自信が無い。最近もラウダはアリヤを意識している。そう思っていた。
アリヤは自分にも物怖じしない好ましい存在だ。だが、親しく話そうとするとラウダが邪魔をする。そう思うのも無理はないだろう。
2人でアリヤの実家に行くときは、背中を押したつもりだった。弟に先を越されることに思うところもあったが、それでもラウダが幸せになることを優先したかった。
その結果、アリヤに話さないように約束していた計画を漏らしたことを謝られたが、何故か同志を得たという話になった。
話を聞いてグエルは痛感した。こと恋愛において、ラウダは俺よりダメな奴だと。
アリヤに謝った方が良いかと考えたが、逆に傷つけると踏み止まった。
何も聞いていないふり。これが最善の選択だ。
これぞデリカシーだ。自分にあって、ラウダには無い能力を新たに発見したが、あまり誇れない。
流石に父にこのことを話すわけにはいかないが、ラウダに恋愛相談は無理だという事は言っておきたかった。
そう思いながら父を見ると、愉快そうに見ていることに気付いた。
「な、なんです?」
「ん? 我が長男は可愛いなと思ってな」
「何言ってるんです」
「今回の件を恋愛と言うのがな。うん。良い奴だよお前は。
だが、ラウダは違うだろうな。奴は政治の話だとしか思わんだろうよ」
「そうですかね」
そのような気もするが、なにか違う反応をしそうな気もする。
「まあ、たまには兄弟で好きな女の話をすれば良いさ」
「……誰のせいで、こうなったと思ってるんですか。何の情報もないなら俺は寝ます」
そう言って、事の元凶に背を向ける。
後ろで何か言っているが無視して部屋を出る。
だが、その図々しさが少し羨ましくもあった。