ラウダの野望   作:山ウニ

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ミオリネの出身中学とか分からないので、グラスレー組とは同じ中学にしてます。



バタフライ効果って、バタフライナイフでブッ刺す行為じゃないからな

 

 

「送ってくれて助かる。これは土産のチーズだ」

 

バイト先の畜産プラントに迎えに行って、ギャプランにのったアリヤがチーズの入った箱を揺らす。

 

「会社と学園の間にあるからついでだ。そう気にするな」

 

「そうは言うが、礼は礼だ。ちなみに味は悪くない程度かな」

 

「アリヤの家で食べたのは美味かったからな。あれと比べたら、どうしても落ちるだろ」

 

「ああ、実際にバイトしてみて分かったが、飼育の環境は良くない。運動不足にストレスと言うか、無気力な感じがする。あれだと乳製品だけでなく肉質も良くないな」

 

「運動ね……放牧で育成は難しいな」

 

「いや、散歩をさせる程度でも変わると思う。実際、実家の家畜も走り回ったりはしないぞ。

 そこでだ。ヒツジを預かることになってな。私が言う適度な散歩がどれくらい影響するか試してみることになった」

 

「ますます地球寮がカオスになるな。ついでだからアリヤの実家からも送ってもらって、変化を見るか?

 費用は出すから祖父さんに連絡してくれないか? OKが出たら業者を手配する」

 

「面白いけど良いのか?」

 

「ああ、僕も興味がある。だが、ヒツジだと飲用でなくチーズを作ることになるんだろ?

 その設備を作るのか? 別に作っても良いが」

 

「いや、定期的に向こうから搾乳しに来ることになっている。普段はバターで使用するさ。食べに来い」

 

「そうさせてもらう」

 

「だが、今さら言うのもアレだが、私の件に構っている暇があるのか?」

 

「問題ないよ。パイロットの件だが、もったいぶるような話でもないし言ってしまうが、ニカに新型フレームのギャプランを担当させてるんだ。それと新入生でフェルシーという娘をテストパイロットにしている。

 その二人をセットで地球寮で面倒見てほしいと思っている」

 

「おい、ギャプランの新型フレームって高価なんじゃなかったか?」

 

「ああ、量産によるコスト削減の目途が立ってないからな。ただ、削減できたところで、ディランザより遥かに高額になる」

 

「そんなものを地球寮に預けるか?」

 

「ニカとセットだ。あいつ以外だとカミルでも無理だな。つまり、ジェターク寮でもニカの補佐しか出来ない」

 

3年が卒業したことで、メカニックの腕でカミルを上回る先輩がいなくなった。

カミルは腕は確かだが、発想などのセンスが高い訳ではない。決められた工程を誰よりも高く熟すタイプだ。

兄さんのディランザを任せる分にはニカより信用できるが、テスト機のギャプランを任せるには相性が悪い。

 

「ギャプランで無茶な機動が出来るのもフェルシーくらいだし、地球寮に断られてジェターク寮でやるにしても状況は変わらない。

 ただ、ニカのトラウマはまだ残っているから、その方が自然にそちらで過ごせる。それと運用テストで何か面白い使い道なんかを考えてくれると助かる。相変わらず、宇宙での使い道がない」

 

「普通はそれを考えて作らないか?」

 

「地球での運用を考えて作ったし、向こうでの評判は良い。だが、コスト面で割に合わないのがネックだ。

 一応は、現状で最も強いMSだし、そこを売りにしても良いんだがな」

 

「何だ? そんなに凄い機体なのか? これだよな?」

 

「ああ、いま乗っているMSだ。他の会社が、強力な試作機を作っていない限り、お前が知っているどのMSより高性能だ」

 

「何か緊張するな」

 

「今日の所は地球寮へ持ち帰って先輩たちに相談すれば良いさ。色よい返事を待っている」

 

「分かった……って、そうではなく、もう1つの案件だ。ホルダーが総裁の娘の婚約者になる方。そっちが重要だろ」

 

「気にする話じゃないよ。実に下らない」

 

「いや、グエルを取られそうだからって拗ねてる場合か?」

 

「取られるものか。本当に気にする必要が無いから、そう言っているだけだ」

 

「……なあ、そこは拗ねていないと言うところだぞ。

 まあ、良いさ。で、何故そう言い切れる?」

 

「調べたが、デリングとその娘は親子仲が悪い。実際に別の進路を希望し合格していたが、デリングがそちらへの入学を拒否して、アスティカシアへ無試験で入学させている。理由は言わずもがな。

 で、そんな状態で入学させられた娘が、どんな行動を取ると思う?」

 

そう。原作の再現だ。

ニカのバタフライ効果があったので、万が一ミオリネとデリングが仲良し父娘になっていたらと恐怖したが、そんなことは無かった。

だったら簡単。“俺”がやろうとしていたことをやれば良い。つまり、ミオリネに好きにさせて、こちらは被害者ムーブで良いのだ。

その辺りのことをマイルドに伝える。

 

「精々、父親の顔に泥をなすり続ければ良いさ。こちらが相手にする必要はない」

 

「う~ん、そうかなぁ? 不安を感じるんだが」

 

「何だ? 何か気になることでも?」

 

「ああ、ラウダが自信満々なところが不安だ。何かポカをしそうな気がする」

 

「お前は僕を何だと思っている?」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

ジェターク寮のMSハンガーにギャプランを固定すると、カミルが出迎えてくれた。

 

「久しぶり、カミル。すまないな兄さんのディランザを見てもらって」

 

「気にするな。好きでやっている」

 

兄さんは時間が無い中でも、MSの操縦訓練を欠かさないようにしているので、今日のように時間が取れそうな時は操縦するようにしている。

そのため、カミルが2日前からメンテナンスを済ませてくれていた。

 

「帰りは送るよ」

 

「ん? 助かるが、アリヤは良いのか?」

 

「私のバイトは終わりだ。本当は一昨日までだったが、今日ならラウダが運んでくれる事になったから、一日長くいさせてもらっただけだよ」

 

「そうか、じゃあ、甘えさせてもらうが、グエルが無茶な使い方をすれば、また居残ることになるぞ」

 

「その時はその時さ。兄さんは、まだみたいだな」

 

「ああ、他は集まってるみたいだ。マルタンとティルは先にグラスレー寮に行っている」

 

「だったら、私は一足先に行く。マルタンとティルには、うちの子たちを面倒見てくれた礼を言いたいし」

 

そう言って、全員が集まる予定のグラスレー寮に単独で向かった。ジェターク寮の中にも随分と慣れたものだ。

 

「それにしても、妙なことになったな。グエルの様子は?」

 

「残念ながら、発表以後は会っていない。気にしていなければ良いんだが」

 

「気にするだろうよ。グエルがベネリットグループの総裁になるかもしれないって事だろ」

 

「下らない話だよ。気に掛ける価値など無いさ」

 

「そうはいか…」

 

「来たみたいだ」

 

デッキにMSが入ってくる合図が出た。MSで訓練をやっている学生もいないし、MS単機で宇宙空間を外部から移動してくるなど他にはいない。

待っていると、赤いギャプランがハンガーに入ってくる。

リフトを設置し、胸部まで上がると、コクピットを降りている兄さんと再会する。

 

「おう、ラウダもカミルも元気そうだな」

 

「うん」

 

何時もの覇気がない。兄さんを下らないことで憔悴させるとは……全部、ミオリネの所為だ。

少しでも兄さんが元気になるように、グラスレー寮へと行く道中、フェルシーの事を説明する。

 

「ああ、話は父さんから聞いていたが、それほどの腕か?」

 

「腕は……微妙かな」

 

「何だよそれは?」

 

「悪くはないよ。新入生の中では1番だし、現時点でもジェターク寮では真ん中より上って感じだね。ディランザだと」

 

そう。原作ではMSに乗らない、愉快なマスコットキャラかと思えたが、腕は悪くなかった。

だが、去年のサビーナとエナオの入学時点に比べても劣るだろう。今となっては雲泥の差がある。

仮に、同級生となるシャディクガールズの残り3人と、授業で使用するディランザやデミシリーズで競おうにも、彼女らが去年のエナオと互角だったらバカにされかねない実力でしかない。

 

「ディランザだとね……で?」

 

「ギャプランだと化ける。耐Gだけじゃない。あの高機動で反応するし、射撃の命中率も良い。

 何より頑張ってるよ。無理しすぎないよう、目を光らせる必要があるくらいにね」

 

「今度会ったら、褒めてやらないとな。それと無理をしないよう釘差しだな」

 

「うん。よろこぶよ。一度、対戦してあげると良い」

 

そのことを想像しだしたのか、覇気が戻ってくる。よくやったぞフェルシー。

あいつはペット枠として兄さんに近付くのを許可してやろう。

だが、うまぴょいを求めたら速攻で去勢してやる。あれ? あいつは牝馬だから去勢は出来んか。

 

グラスレー寮に到着する前に、ある程度は持ち直したみたいだ。

兄さんとカミルの3人で寮に入ると、シャディク達が待っている部屋へと案内される。

 

「すまん。待たせたな」

 

兄さんが声をかけながら入室すると、久しぶりの顔触れが並んでいた。

シャディクを中心にサビーナとエナオ。マルタンを中心にティルとアリヤ。

挨拶を交わしながら、僕たちもそれに倣って、兄さんを中心に座る。

あまり変わっていないように見えるが、シャディクにも覇気がない。

さて、早速だが情報を開示させてもらうか。

 

「みんな元気そうだな、と言いたいが、シャディクは元気が無さそうだな。

 どうした? 好きな女が婚約でもしたか?」

 

「ちょっ!」

 

明らかに動揺するシャディクを見て、兄さんとカミルに地球寮チームが驚く。

正直、僕も驚いた。てっきり、何のこと? と、無理にとぼけた態度を見せると思ったが。

原作に比べてガードが甘い?

 

「それって、まさか総裁の娘さん?」

 

「え? シャディク、お前、デリングの娘に惚れてたのか?」

 

「い、いや、そいうわけでは……」

 

マルタンと兄さんの追及に動揺するシャディクに呆れた視線を送りながら、サビーナが溜息を吐くと僕の方を見る。

 

「調べたのか?」

 

不思議そうにたずねるサビーナに肩をすくめる。

原作で知っていたと言う訳にもいかないし、最初から用意していた答えを返す。

 

「まさかだろ。そんなものをどうやって調べると言うんだ。

 普段のシャディクなら、兄さんの顔を見るなり婚約おめでとうとでも茶化すのに、それがない。

 だったら、怒ってるか悲しんでいるか、今回の件をどう思っているのか、相手が相手だ。本音を引き出すために突ついたら、予想外の反応が見れて、こっちが驚いたよ」

 

「情報の引き出し方?」

 

「こうも隙だらけだと参考にもならん。忘れろ」

 

エナオが前に教えた情報の引き出し方かと思ったようだが、これは酷すぎて参考にならない。

もう少し突く必要があると思っていたが、感情的になっているのかな?

 

「なるほどな。まあ、バレバレだが、このバカはミオリネに惚れている。

 ただ、想いを伝えるという真似はしていない。理由は察せるだろ?」

 

「ああ、兄さんとの決闘前だと言えないだろうな。おまけに、最近は会っていなかったみたいだな」

 

「まったく、貴様と言う奴は察しが良すぎるだろ。それが何で自分の事だと鈍感なのだ?」

 

「何の話だ?」

 

「何でもない。それで、どうするんだ? 何か考えがあって集めたのだろ?」

 

「どうもしないよ。相手にする必要なんてない。今日、集まってもらったのは地球寮の件だ」

 

「え? こっちはついでだと思ってたけど」

 

「本命だ。デリングの娘はついででしかない。どう思っているか、聞ければ良いだけだ。

 それで、ジェタークからの提案として、メインのメカニックとパイロットをセットでギャプランを預けたい。

 ただ、パイロットのフェルシーは、アーシアンへの蔑視は無いが生粋のスペーシアンだし、ずっと地球寮だと妙なストレスを抱える危険はある。そうなると、ジェターク(うち)としても、フェルシーの精神状態を優先するから、そちらの作業がスムーズにいかないリスクがある」

 

詳細を説明すると、話が大きすぎるので、持ち帰って先輩とも相談するとの返答。妥当な判断だな。

 

「グラスレーはジュネーズをやってみてはどうかと考えている。あれはMSでは無いから学習報告としてグラスレー寮で扱わないことになった。

 ジェタークの提案に比べると、パイロット科でなくとも扱えるメリットがある。だが、結果を出すのは難しいだろう。と言うのも、ラウダの提案通り日本でテストタイプを作り始めているから、向こうの方が環境も人員も優れている。

 前の地球寮生のディランザが好評だったのは聞いているが、こちらは地球で部品の製作を行いながら、アーシアンの作業者にテストをさせているからな。正直言って勝負にならない」

 

アス高でディランザのテストをする際は、地球よりパーツが手に入りやすく、しかも無料で貸し出しを行っていたので、ある意味やりたい放題だった。その学生間でのカスタマイズを公表して、それを参考に地球の購入者が組み立てる方法が取られている。

だが、ジュネーズは全てを日本でやっているので、そこと張り合うのは無理がある。

 

「まあ、やらないよりマシと言う提案だな。ジェターク案を蹴るなら言ってくれ」

 

ジェターク案はハイリスクハイリターンで、グラスレー案はローリスクローリターンというわけだな。

まだ、新学期までは時間があるから話し合って決めれば良い。

 

「それで、ラウダはミオリネのことは、どう考えている?」

 

「だから言っただろ。どうもしない。勝手にやっていろとしか思わないよ」

 

「ラ、ラウダ……」

 

ちょっと兄さん、そんな見捨てられたような目で見ないでくれるかな。

別に兄さんに勝手にやってろって思ってるわけじゃないよ。

 

「なあ、質問を良いかな?」

 

兄さんへのフォローを言おうとしたところで、アリヤが割って質問をしてきた。

 

「その、デリングの娘は、今回の件をどう思っているんだ? お前らは知り合いとかいるんだろ?」

 

「ああ、中等部は同じだからな。後輩から聞いてはいるが……」

 

「言い難いことか?」

 

「困惑してるみたい。ただ、グエルには憧れているらしいし…」

 

「憧れ?」

 

へ? 憧れ? なに言ってんだコイツ。ミオリネだぞ。兄さんのことは嫌っているに決まってるじゃないか。

サビーナが言い難そうにして、シャディクを横目で見ていると、そんな空気は知らんとばかりにエナオが口を開いた。

 

「端的に言ってファン」

 

……………………………………………………ファン?

 

「ミオリネの中では、いま一番の推しがグエルみたい」

はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!???

 

 

 

 

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