ラウダの野望   作:山ウニ

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大丈夫。まだ慌てる時間じゃない

 

な? は? へ? 推し? 違う、聞き間違いだ。そうに違いない。

 

「推し? 知らない間に、グエルはアイドルにでもなったのか?」

 

「ああ、アイドルというか……ミオリネの母親はアーシアンでな。私たちが 中等部に入学する頃から、グエルは表に出て活動をしていただろ?」

 

「ああ、そうだな」

 

「ここにいる連中は憶えているだろうが、最初の頃はスペーシアンにもアーシアンにも冷ややかな目で見られていたが、ミオリネは頑張っているだけでも偉いと応援していたんだ。

 それが、今やジェタークと言えば、アーシアンにとっては希望だし、スペーシアンにとっても利益を出して成長を続ける羨望の的だ。その表看板がグエルだ。

 まあ、あれだな。アイドルでも何でも良いが、私だけが良さを分かっていると言ってた存在が世界中で認められた。何と言うか分かるだろ?」

 

「ようやく世界が追いついた? みんな気付くの遅いなとマウント取ってる?」

 

「そんな感じだな」

 

は? 私だけが知ってる? 舐めるなよ。僕の方が知ってるんだよ。お前なんか僕の足元にも及ばないんだよ。いや、足元どころか地中の遥か下にいるんだよ。

って、シャディクが死にそうな顔をしてるのに、サビーナは気にしてやれよ。

 

「ジェタークが始めた地球再生計画の表看板をグエルはやっていた。

 この影響は大きい。同学年の私たちは上級生の感覚に近い。正直、こいつは何をやっていると思っていた。上級生ならこの小僧かな? 結果を出しているにも関わらず、妬みがあるのか、素直に認めにくい感覚が付きまとう。

 だが、下級生は違う。大人に混じって大事業を進める英雄として憧れを素直に受け止めている。中には反発するひねくれものもいるだろうが、その比率が今年度の入学生から大きく変動するだろう。

 オープンキャンパスで感じなかったか? 今年度の新入生のグエルに対する視線を」

 

……言われてみれば、一緒に歩けるだけで誇らしげというか、そうか、地球寮でのスペーシアンらしからぬ振る舞いも憧れの人(兄さん)を真似しているって事か。実際に兄さんがどうやってるかは知らない。でも、想像する。憧れの人がどう振舞っているかを。そのままでは無理がある。でも、今の自分たちの立ち位置から、正しいと思われる振る舞いをしている。

 

「ミオリネは、いわゆる売れていない頃からの古参のファンだが、今は増殖中だ。

 実際に、グラスレーでも多くがグエルには尊敬の視線を向けていた。特にイリーシャ…今度入学する私たちの“仲間”だったが、すっかりグエル推しだな」

 

イリーシャが誰かは思い出せないけど、仲間って事は、シャディク隊の1人だろうな。

だが、訂正することがある。最古参のファンは僕だ! 会員No.1は僕だから!

 

「すまない、話がずれたな。ミオリネの件に戻すが、言った通り地球そのものやグエルには好意的だ」

 

「まさか、その娘さんがグエルと地球に一緒に行きたいとか、最終的に結婚したくて、父親に頼んだ結果、今回の騒動になったのか?」

 

は? ちょっと待て? ミオリネがデリングに頼んだ?

「ダブスタクソ親父ぃ~私、グエル様と結婚した~い♪」

 

「良かろう。グエルはホルダーだから、ホルダーをお前の婿とするようにしよう」

 

「やったぁ~♪ ダブスタクソ親父だ~い好き♪」

頭大丈夫か? あの父娘?

 

「いや、それは無いな。ミオリネは父親と仲が悪い。嫌悪していると言って良い。

 そもそもが、父親への反発も、グエルへの好感も、アーシアンの母親の故郷である地球への憧れが根底にある。

 グエルに対しても、恋愛の対象としては、どう思っているか分からん。

 だが、これだけは断言する。ミオリネは地球へ行きたいなどの欲望や恋路のために人を、まして父親を利用するような女ではない。そんな浅ましい女に、このバカが惚れるものか」

 

「サビーナ的には高評価なんだな」

 

「ああ。デリングは気に喰わんから、その娘は避けたい気持ちがあったがな。会えば、普通に気に入ってしまった。彼女の欠点は父親がデリングというだけだ」

 

「あと、潔癖すぎるかな? その辺もサビーナに気に入られる要因で、才色兼備の見本にできる。これ写真」

 

カミルと地球寮組のテンションが上がってる。まあ、見た目は良いからな見た目は。

兄さんに反応は無いけど、流石に写真くらいは既に見てるか。

 

「実際に混乱してるみたいで、推しとの婚約の喜びより、勝手に進路を変えられた怒りの方が大きいって言ってた。

 中等部での卒業式の日にも、進路がアスティカシアになっているって知らなかったから」

 

「後輩情報?」

 

「そう。推し活仲間のイリーシャに聞いた。

 おまけに、婚約の件を発表後に聞いた時は、ミオリネは電話で連絡は出来るけど、実際に会うのは無理。事実上の監禁中。

 ちなみに、その電話も今は繋がらなくなってる。これは今日の情報」

 

その後輩に、集まる前に聞いておいたのだろう。

つまり、入学まで余計な行動をしないようにしている……脱走でも企んだか。

 

「穏やかではないな」

 

「彼女の性格は、かなりアグレッシブ。進路を勝手に変えられて黙っているはずが無い。

 実際に家出の相談をされているそうだから間違いない」

 

まあね、原作で最初の脱走計画を見ても、無鉄砲かつ行動力は高い。1ヶ月も準備期間があれば、どこぞへと消えてしまうだろう。

だが、発表されたのは1週間前で、学校も終わっているから外出する大義名分が無いので、ミオリネでもどうしようもない。

 

だが、そんな事より、エナオの追加情報で、グエ×ミオなんて有りえない事が証明された。

だよな、だよな、兄さんとミオリネが恋愛なんて無い無い。お? シャディクに元気が戻って来たぞ。

そもそもだよ、兄さんにあんな目つきが悪くて貧相で不健康な青白い小娘なんて似合わんのよ。

むしろ逆に愛嬌のある目で、グラマーで、健康的な…………落ちろ! 水星女ぁ! 妙な幻覚が浮かんだが気のせいだ。

 

「だったらデリングの独断だな。しかも、娘の意見は無視。何を考えてるのか」

 

いや、カミルくん、単に自分がいなくなっても娘を安心して任せられる相手を探してたそうよ。

バカだよね、親バカだ。可愛い娘だから他人に愛されるって疑っていない。

相手にだって選ぶ権利はあるんだよ。総裁の地位に興味はあっても、ミオリネに価値を見出してる奴なんてシャディクくらいだろ。

 

「ホルダーを婚約者にするって事は、実質グエルの婚約者にすると考えてるんだろうね。シャディクを卑下するわけじゃ無いけど、本命はグエルだろうし」

 

「ティル、そう気を使わなくて良いぞ。誰がどう見ても現時点でシャディクがグエルに勝つ予想をする者なんていないさ。普通にグエルを婚約者にすると思っていると見ていいだろう」

 

あのさサビーナ、なんか酷くないか? 最初はミオリネが推しだというのを躊躇っていたのに……って、シャディクも平然としてるか。ふ~ん、現時点ね。面白い。

 

「そうかな? 別にシャディクでも良いと考えてるかも?」

 

「マルタン? 流石にデリング総裁がシャディクの将来性に賭けてるということは…」

 

「そうじゃなくて、構図の方だよ。さっきサビーナが説明した通りなら……えっと、地球再生計画を進めているサイドを改革派、戦争シェアリングの継続を望んでいるサイドを保守派ってするけど、仮に本命のグエルが次期総裁になれば、改革が一気に進む」

 

「総裁が地球再生計画を認めたと?」

 

「そうも取れるけど、逆に保守派を焚きつけているのかもしれない。

 このままだと、改革派に実権を奪われるぞと」

 

おお、何かそれっぽい意見が出てきた。

ここで、真実はデリングが娘可愛さのあまりに、守ってくれる相手を探してるんだドーン! って感じで言ったら、白い目で見られる事間違いなしだ。

 

「デリングの本心は分からないけど、改革派を応援しているなら、グエルでもシャディクでも同じで、保守派を応援しているなら……やはりエランになるのかな」

 

「あいつの考えは読めないからな」

 

あーだこーだ話しているけど……うん。やはり僕は正しかった。

 

「アリヤ、チーズを出してくれ」

 

「は? 何だいきなり?」

 

「お前が土産にと持ってただろう? せっかく雑談に花が咲いているんだ。お茶受けに出そう」

 

「チーズをか? って、そうじゃなくて雑談じゃないだろ?」

 

「そうだ。流石に不謹慎だぞ」

 

サビーナが苛立ちを見せるが、鼻で笑って受け流す。

 

「あのさ、グラスレーは良いよ。やること決まっているし。でも、ジェタークは何も決まってないんだぞ。

 まあ、有益な情報もあったけど、それも雑談の中から拾ったものでしかない」

 

「どういう意味だ?」

 

「そうだな。僕の考えでは、ホルダーの地位と引き換えで、デリングの娘と総裁の地位がセットで付いてくる。

 でも、僕は両方とも興味は無い。だったら……」

 

シャディクを見ながら、挑発的な笑みを浮かべる。

 

「……いくらで売れると思う? なあ、シャディクなら、いくら出す? 頭を下げて頼めば安くするぞ」

 

シャディクの顔に笑みが広がる。ガチギレしてやがる。そりゃあ、本気で惚れた女が金銭でやり取り可能なんて、男なら怒るよな。

 

「微塵も払う気はないね。力づくで奪う。グエルを倒して手に入れて見せる」

 

「良い返事だ……と言いたいが、『倒して』と『手に入れて』の間に『ミオリネを』を入れろよ、このヘタレが」

 

「本当にそれ」

 

「締まらん男だ」

 

「お前らどっちの味方!?」

 

エナオとサビーナに貶されて泣きそうな顔になっているが、その半端さがダメなんよ。なんでミオリネが絡むと、こうもダメ男になってしまうんだろ?

でも、サビーナにも分かったようだ。グラスレーが何をすべきか。一方のジェタークが動きようがないってことも。

 

「だが、ラウダが言いたいことは分かったよ。確かにグラスレー(私たち)の方針は決まっている。

 この情けない男を、本物の男にする。グエルに勝てるよう支援する。

 デリングの意思? 知るかそんなもの、勝手に言ってろ。余計な事を考えていようが、シャディクの恋路の邪魔はさせん」

 

サ、サビーナさん、何このおっぱいと太ももの大きいイケメンは?

確かに僕が言いたかったのは、そう言う事だけどさ。こいつにホルダー狙わせた方が良くない?

 

「まだ期間は1年以上あるから……やれることは多くあるし、逆に慌てるような事でもない。

 シャディクの訓練はサビーナに任せるから、私は余計な邪魔が入らないように情報収集かな?

 ラウダにも協力して欲しい。そっちも必要なはず」

 

「ああ、僕の方は既に他の会社がどう動いているかを調べさせている。それに学園が始まったらジェターク寮(うち)の経営戦略科には、各寮の動きを調べさせる。とりあえずは1週間を目途かな。最初は動きが見えやすい」

 

「短すぎない? 最初の方はガードが堅いと思うけど?」

 

「ガードを固めているってことは、何かを企んでいるってことだ。詳細は分からなくていい。方向だけが見えれば十分だ」

 

「だが、そうだな。ラウダなら売るか。多くの者にとって価値があるのは間違いが無いし、悪党ぶった男らしい物言いだ。

 それで、グエル・ジェタークならどうするのだ?」

 

サビーナが失笑しつつ、真っ直ぐに兄さんを見つめる。

つまらない返答だと、ただでは済まさないと目が語っている。

 

「……分からん」

 

「おい……」

 

「そう言われてもな。デリングの娘に対して何の感情もないから、欲しいとも思わなければ、嫌だと拒否する気持ちも起きない。

 デリングの娘を手に入れるメリットとデメリットの計算は出来るが、それって何か違う気がするし、父さんにも任せるとしか言われていないんだ。期待していたラウダもこの感じだ」

 

困惑した表情のままで、愚痴のように返答する。

う~ん、そう言えば原作でも何でミオリネを手に入れようとしてたん? と問われればパパの指示だからだし、政治的な理由が無ければ、本気でどうでも良いと思ってるんだろうな。

あれ? 考えてみれば、兄さんって水星女に会う前の女性の好みとかあるん?

 

「決めるのは兄さんだよ。それがどんな決断だとしても、僕はそれを肯定する。

 それに、決断を焦る必要は無い。別に、このまま婚約騒動なんて、どうでも良いと無視するのも手だからね」

 

でも、兄さんは勘違いをしてるよ。この件は本当に気にする必要がない、どうでもいい話なんだ。

今の兄さんの困惑を止める方法は、自分を軸にしてたら気付かない。

そして、僕は教えない。本気でどうでもいいと思っているから。

いいや、この方が都合がいい。僕はミオリネが嫌いだ。苦しんでくれるなら大歓迎だよ。

 

このまま、勝手に婚約者にされて困惑して迷惑ですという被害者ムーブを推奨する。原作でミオリネがやってたことだからね。

多分、それがミオリネにとって一番のダメージになるだろう。

計算通りだ。だからアリヤ、そんな最初に言ってたことと違うじゃねーかという視線は止めろ。

 

 

 

 

 

 

 




それでは良いお年を。
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